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1章~新透明人間事件~
新透明人間⑧
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ポッドのボタンを押してお湯を入れる。
薄黒く艶やかな色味のコーヒーが茶色の湯気を出しながら佇んでいる。
乱雑に置かれた荷物が子汚さを演出している。
窓から射す太陽の光が美しい。
探偵事務所は美しい景色に包まれている。
シュガーとミルクを入れて混ぜる。そして、コップに口をつける。一口。ほろ苦い味が流れ込んでいく。
どこか爽やかな日常が進んでいた。
その日常は未だに途切れていない。
「こんな爽やかな日にはクラシックでも流したいね。」
カーテンの向こう側にある居間へと向かった。
そこは客室となっており、風なイメージのためにクラシック的なイメージにしてある。その一つとしてレコード機器が置かれてあるのだ。
機械を通して放たれる声が聞こえてくる。
そっと耳を済ました。
アイハヴァペン。アイハヴァアッポー。ウーンッ。アッポーペーン。
思ってたものと違う。
金ピカの芸人の声が風潮な雰囲気を掻き消していく。
「全く。せっかくの優雅な時間が台無しだよ。」
その着信音にしたのは誰だよ、なんてツッコミは誰もしなかった。
数分間、耳にスマホを当てている。
その後、スマホをしまうと否や口を開いた。
「ここに面白い来賓が来ることになったよ。」
「面白い来賓? 誰ですか?」
「鬼怒川警部だよ。」
*
今日ばかしは制服ではなく私服のようだ。
茶色を基調とした服装はどこか古めかしい探偵のようなイメージを与える。
どっしりとソファに腰掛けた。
「コーヒーか紅茶。どちらがよろしいですか。」
「紅茶を貰おうか。」
インスタントの紅茶パックにお湯を注いだ。透明な明るい色が揺らいでいる。紅茶を警部の前に出した。
「アドバイス通りに警察犬を出動させたら、血の着いた靴や手袋、釣り糸が絡みついた縄の入った袋が見つかった。血液が被害者のものと一致したため、それで大河虎之助は逮捕に至った。彼は彦根瑚子が共犯したと供述しているが、どのように関わったのか全く分からないんだ。どのようにあの事件が行われたのか。犯行時には誰も家には居ないんだ。」
「そこについては供述されなかったんですねぇ。」
「全くだよ。」
紅茶を啜る。
そんな時に指パッチンをするモタロー。
「では、我々の考えをお教えしましょう。」パチン。
「お願いする。」
「まず反抗理由は単純に死亡保険金目当てだろうね。彼が死ぬことで瑚子に多額なお金が入ることになる。しかし、自殺では通らないし、他殺でも自らが捕まったら意味がない。そこで未解決事件とすることで、捕まらずに死亡させ保険金を得ようとしたのだろうね。」
なるほど、と頷いている。
「さあ、犯行時の矛盾を解いてくれ。」
「まず瑚子が大量の睡眠薬を飲ませた。その間に縄で手や足を拘束した。ここからが簡単な仕掛けの始まりさ。」
「トリック……だと?」
「麻縄の先端を丸く結び、反対の端を輪っかに入れれば引っ張るだけで首が絞まるようになる。それを首にかけたんだよ。その先端に釣り糸を外れないように巻いてくっつけた。縄は家に垂らし、テグス――ま、釣り糸だけを窓の外に垂らしたのさ。」
「釣り糸の目撃情報はなかったはずだが。」
「それもそうさ。釣り糸は透明だよ。」
「なるほどな。その日、裏の畑にいたのは確か隣に住む牛林さんという方だったな。あの人、老眼が進んで見にくくなっているって言ってたな。だから、気づけなかったのか。」独り言を呟く。
「その後、瑚子は裏庭へと行って、釣り糸をレンガや何やらに巻き付けたのだろう。そうすることで、被害者の住吉が目を覚ましても、動けば首が絞まるため動けなくなる。その作業も巻き付けるだけだから、すぐ終わるはずだよ。それさえ終われば瑚子はアリバイのために、遊びに行ってしまえばいい。ここまでは昼の部さ。」
「昼の部?」
「ここからが夜の部さ。虎之助が暗躍する。まず防犯カメラに映らないように、防犯カメラのない草原の道を通ってアパートの裏庭へと向かった。」
「そんなことしてりゃ容疑者候補に浮上しにくいな。お前さんらがいなきゃ候補すらなってなかったかもな。」
「例の場所に行き、レンガから糸を解し、その糸を手繰り寄せる。それと同時に縄は絞まる。下から引っ張るとすると、壁から窓へと行く間に相当な力で引っ張られたと考えられるね。つまるところ、強く首が絞まったってことだね。」
「引っ張っていけば遺体は落下する。そういうことか。」
「想像通りさ。落下した遺体から首の縄だけ取って袋に入れる。後はそこから離れて山林に行き、袋を捨てればいい。その時に血の着いた靴も入れたのだろうね。そのせいで彼は汚れることになった。」
警部は紅茶を飲み干した。
「しかし、防犯カメラの件で車を近くには停められない。そこでコンビニに長く停めていたのだろうね。そして戻ってきたら、車に張り紙が貼ってある。人を殺したんだ。彼は気が気では無い状況だと思われる。だから、あんな喧嘩が起きたんじゃないかなぁ。」
「ようやく腑に落ちたよ。」
彼は優しく微笑んだ。
力強く、そして優しく。
入り口の付近まで行き、後ろ向きのまま手を挙げた。
「感謝するよ。」
彼がそこから去っていく時に入ってきた風はとても爽やかなものだった。
*
来客だ。その男は瑚子を探していた依頼人であった。
彼は客席に座ると、さっぱりとした態度で本題へと入った。お金の話だった。
モタローは彼に瑚子の居場所を伝えていた。それによって彼は彼女を見つけることができたのだ。つまり、探偵の仕事は確りとこなしたことになる。
雰囲気を読むと、あまり彼に触れない方が良いと分かる。
短時間で彼はさっといなくなった。
モタローが机に置かれた飲まれなかったコーヒーをシンクに流しながら、
「そう言えば、虎之助と瑚子はそれぞれ起訴されたみたいだよ。」と教えてくれた。
それは、この事件の華々しい終わりを示していた。
ゆっくりと背筋を伸ばす。
力が抜けていくと同時に、意識が段々と遠のいていく。
乗っ取られていた体から乗っ取った存在が消えた。乗っ取った存在は再び未来にある死後の世界へと身を落とした。
薄黒く艶やかな色味のコーヒーが茶色の湯気を出しながら佇んでいる。
乱雑に置かれた荷物が子汚さを演出している。
窓から射す太陽の光が美しい。
探偵事務所は美しい景色に包まれている。
シュガーとミルクを入れて混ぜる。そして、コップに口をつける。一口。ほろ苦い味が流れ込んでいく。
どこか爽やかな日常が進んでいた。
その日常は未だに途切れていない。
「こんな爽やかな日にはクラシックでも流したいね。」
カーテンの向こう側にある居間へと向かった。
そこは客室となっており、風なイメージのためにクラシック的なイメージにしてある。その一つとしてレコード機器が置かれてあるのだ。
機械を通して放たれる声が聞こえてくる。
そっと耳を済ました。
アイハヴァペン。アイハヴァアッポー。ウーンッ。アッポーペーン。
思ってたものと違う。
金ピカの芸人の声が風潮な雰囲気を掻き消していく。
「全く。せっかくの優雅な時間が台無しだよ。」
その着信音にしたのは誰だよ、なんてツッコミは誰もしなかった。
数分間、耳にスマホを当てている。
その後、スマホをしまうと否や口を開いた。
「ここに面白い来賓が来ることになったよ。」
「面白い来賓? 誰ですか?」
「鬼怒川警部だよ。」
*
今日ばかしは制服ではなく私服のようだ。
茶色を基調とした服装はどこか古めかしい探偵のようなイメージを与える。
どっしりとソファに腰掛けた。
「コーヒーか紅茶。どちらがよろしいですか。」
「紅茶を貰おうか。」
インスタントの紅茶パックにお湯を注いだ。透明な明るい色が揺らいでいる。紅茶を警部の前に出した。
「アドバイス通りに警察犬を出動させたら、血の着いた靴や手袋、釣り糸が絡みついた縄の入った袋が見つかった。血液が被害者のものと一致したため、それで大河虎之助は逮捕に至った。彼は彦根瑚子が共犯したと供述しているが、どのように関わったのか全く分からないんだ。どのようにあの事件が行われたのか。犯行時には誰も家には居ないんだ。」
「そこについては供述されなかったんですねぇ。」
「全くだよ。」
紅茶を啜る。
そんな時に指パッチンをするモタロー。
「では、我々の考えをお教えしましょう。」パチン。
「お願いする。」
「まず反抗理由は単純に死亡保険金目当てだろうね。彼が死ぬことで瑚子に多額なお金が入ることになる。しかし、自殺では通らないし、他殺でも自らが捕まったら意味がない。そこで未解決事件とすることで、捕まらずに死亡させ保険金を得ようとしたのだろうね。」
なるほど、と頷いている。
「さあ、犯行時の矛盾を解いてくれ。」
「まず瑚子が大量の睡眠薬を飲ませた。その間に縄で手や足を拘束した。ここからが簡単な仕掛けの始まりさ。」
「トリック……だと?」
「麻縄の先端を丸く結び、反対の端を輪っかに入れれば引っ張るだけで首が絞まるようになる。それを首にかけたんだよ。その先端に釣り糸を外れないように巻いてくっつけた。縄は家に垂らし、テグス――ま、釣り糸だけを窓の外に垂らしたのさ。」
「釣り糸の目撃情報はなかったはずだが。」
「それもそうさ。釣り糸は透明だよ。」
「なるほどな。その日、裏の畑にいたのは確か隣に住む牛林さんという方だったな。あの人、老眼が進んで見にくくなっているって言ってたな。だから、気づけなかったのか。」独り言を呟く。
「その後、瑚子は裏庭へと行って、釣り糸をレンガや何やらに巻き付けたのだろう。そうすることで、被害者の住吉が目を覚ましても、動けば首が絞まるため動けなくなる。その作業も巻き付けるだけだから、すぐ終わるはずだよ。それさえ終われば瑚子はアリバイのために、遊びに行ってしまえばいい。ここまでは昼の部さ。」
「昼の部?」
「ここからが夜の部さ。虎之助が暗躍する。まず防犯カメラに映らないように、防犯カメラのない草原の道を通ってアパートの裏庭へと向かった。」
「そんなことしてりゃ容疑者候補に浮上しにくいな。お前さんらがいなきゃ候補すらなってなかったかもな。」
「例の場所に行き、レンガから糸を解し、その糸を手繰り寄せる。それと同時に縄は絞まる。下から引っ張るとすると、壁から窓へと行く間に相当な力で引っ張られたと考えられるね。つまるところ、強く首が絞まったってことだね。」
「引っ張っていけば遺体は落下する。そういうことか。」
「想像通りさ。落下した遺体から首の縄だけ取って袋に入れる。後はそこから離れて山林に行き、袋を捨てればいい。その時に血の着いた靴も入れたのだろうね。そのせいで彼は汚れることになった。」
警部は紅茶を飲み干した。
「しかし、防犯カメラの件で車を近くには停められない。そこでコンビニに長く停めていたのだろうね。そして戻ってきたら、車に張り紙が貼ってある。人を殺したんだ。彼は気が気では無い状況だと思われる。だから、あんな喧嘩が起きたんじゃないかなぁ。」
「ようやく腑に落ちたよ。」
彼は優しく微笑んだ。
力強く、そして優しく。
入り口の付近まで行き、後ろ向きのまま手を挙げた。
「感謝するよ。」
彼がそこから去っていく時に入ってきた風はとても爽やかなものだった。
*
来客だ。その男は瑚子を探していた依頼人であった。
彼は客席に座ると、さっぱりとした態度で本題へと入った。お金の話だった。
モタローは彼に瑚子の居場所を伝えていた。それによって彼は彼女を見つけることができたのだ。つまり、探偵の仕事は確りとこなしたことになる。
雰囲気を読むと、あまり彼に触れない方が良いと分かる。
短時間で彼はさっといなくなった。
モタローが机に置かれた飲まれなかったコーヒーをシンクに流しながら、
「そう言えば、虎之助と瑚子はそれぞれ起訴されたみたいだよ。」と教えてくれた。
それは、この事件の華々しい終わりを示していた。
ゆっくりと背筋を伸ばす。
力が抜けていくと同時に、意識が段々と遠のいていく。
乗っ取られていた体から乗っ取った存在が消えた。乗っ取った存在は再び未来にある死後の世界へと身を落とした。
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