タイムリープミステリー『ルインと人生図書館』

ふるなゆ☆

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1章~新透明人間事件~

新透明人間⑦

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《6》

 依頼人が帰宅した。
 急いで探し人の情報を探る。そして、そこから職場の連絡先を入手した。アポを取る。無茶言って、今日にも面会時間を設けてくれるみたいだ。『うさぎの箱庭』様々だ。
 車を走らせていく。
 その中で、今までの軌跡をしっかりと共有する。もちろん、虎之助についても伝えた。
 一時停車させる。
 シャッターの降りた店。看板には色気のある女性達の写真が並んでいる。その建物の前に店長が立っていた。「ルイン君、後は頼んだよ」と助手席から降りていく。
 彼を置いて車を発進させた。
 豊田市に向けて走っていく。平日のお陰で高速道路は思ったより空いていた。制限速度にプラス十ぐらいの速度で進んでいく。
 思ったより混み始める豊田市付近。特に、降りる道は混んでいる。
 コンビニでまだ喧嘩していてくれ、と祈りながら渋滞の列に加わった。
 何とか渋滞を抜けて、下道を走らせる。
 幾つか信号に足止めされながらも、事件の現場付近へとやってこれた。
 左折すれば例のアパート。少し進んで右折するとコンビニがある。最初にコンビニへと向かった。
 数字の書かれた看板がよく目立つ。そのコンビニで言い争いが止まない。そんな雰囲気の悪いコンビニに車を置いた。
 近寄り難い。
 ひとまず喧嘩の場面に向けてスマホのカメラを向け、パシャリと写真を撮った。それをラインのグループで共有した。
 どう切り込んでいこうか考えながら運転していたが、ここまで何一つ浮かばなかった。やはり、当たって砕けろの精神で行くしかないのかと考え、無理やり胸を撫で下ろす仕草をする。
 緑の制服の店員と赤の私服の虎之助。今にも手が出そうだ。そこに困った顔の青の制服の警察官がいる。
 警察官がこちら側に気付く。
 喧嘩する二人を置いて向かってくる。
「やあ、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、喧嘩を止めなくていいんですか。」
「いいんだよ。それよりも何しにここに来たのかな。ここにいちゃ危ないよ。」
「実はアソコで起きた事件の犯人が分かりましてね。」山の方を指さした。
「その犯人がいるかどうかを確認しに来たんです。」
「なるほど。それでそれからどう行動するんだ?」
「そこにいる警部に話をしようと思います。」
「分かった。俺も着いていこう。すぐそこだ。何も問題ないだろ。」
 二人はモタロー探偵事務所の車に乗った。
 助手席にいる彼は「ようやく修羅場から抜け出した」と安堵している。
 ドライブに変え、ロックを外して、アクセルを踏む。それと同時に気になったことを呟く。
「もしかして君、プレイヤーXかい?」
 それに対して頷いて「正解だ」と言う。
 窓を挟んだ景色を見ながら、
「お前が来て良かった。あそこから抜け出したかったんだよ。全く」と愚痴を零す。
「逃げ出せなかったんですか?」と聞く。
「出来るならそうしてるわ。俺には歴史を変える力がねぇんだ。テメェさんが近くにこなけりゃ、永遠に歴史の歯車から脱せねぇんだよ。ほんとにうぜぇ。」
 思いっきり窓を叩いた。
「壊さないでくれ。窓を。」
 すぐに目的地に着く。
 車を降りて立ち入り禁止テープの前へときた。歴史の歯車通りなのか見慣れた歩き方で警部がやってきた。一方で、助手席に乗っていた人物は外に出てうろつきながら煙草を吸っていた。
 男が「俺はこういうものだ」と言いながら手帳を取り出した。
「ここは立ち入り禁止なんだが。」
「えぇ。ご存知です。我々こういうものなんですが――」名刺を渡す。
「探偵か。まっ、帰った帰った。ここは遊びじゃないんだ。探偵ごっこする場所じゃない。」
「警部さん。一ついいですかな?」 
「まあいい。なんだ?」
「我々、彦根瑚子さんという人の素性について調べていたんですが、そこでここに住む彦根住吉さんとの繋がりを知り、ここまで来たのです。」
「そうか。残念だが、その方はいない。……どこにもな。残念ながら、今朝、亡くなられたよ。」
「それも存じています。」
「はあ? なんで知ってるんだ。」
「それも犯人も特定できてます。」
「どういうことだ。犯人って誰なんだ?」
「そのために一度、我々と一緒に下のコンビニに着いてきてくれませんか。」
 彼は「分かったが少し待っててくれ」といい、現場に戻っていった。暫くするとこちら側へとやって来た。
 二人は車で下のコンビニへと向かった。
 風を切って進んでいく。

 
 相変わらず喧嘩している二人。いや、警察官が抜け出したことで余計悪化した感じを与える。
 警部は飛び出して、その喧嘩を止めに行った。
 強い口調で制止する。
「いい大人が何やってるんだが。」
 ため息を吐く。
「さて、そこの探偵とやら。教えてくれないか。」
 二人は息を荒げながらも落ち着こうとしていた。そして、それぞれの持ち場へと戻ろうとする。一人はコンビニの中へ。一人は大きめの黒い車に向かって。
「まず結論から言いますよ。そこの男はこの彦根住吉殺害の実行犯なんですよ。」
 男は進行方向を変えて、ズガズガと近づき、思いっきり胸ぐらを掴む。「何言ってやがんだ、てめぇ、殺されてぇのか。」
 それよりも強い力で思いっきり握る腕。男は警部によって引き離された。
「急にそんなこと言うこいつが悪いが、手を出したら終わりだ。お前はもう大人だろ?」
 落ち着いた声に力強いオーラ。
 もう一人は怒りで我を忘れかけているが、何とか保っている。
 スマホを目線の位置に向けた。液晶画面越しからモタローの声が響いていく。
『さて、自己紹介を致しましょう。わたくしは探偵の森太郎。モタローとお呼びください。そして、貴方がたの前にいるのは助手のルインです。以後お見知り置きを。』
 歪んだ空気を吹き飛ばすかのように風が優しく吹いた。葉っぱがゆっくりと舞った。
『まず、実行犯の名前を言いましょうか。実行犯の名は大河虎之助。貴方ですよね。』
「なんで俺の名前を知ってるんだ。」
 それは怒りではなく、驚きが大半を占めていたのだと感じられる。
『まず彼の足元を見てください。』
 そこにいた二人の目線が一人の男の下に向く。見られている一人は少し片足を後ろにした。
「だいぶ汚れていますね。しかし、履いている靴は何故か新品だ。つまり、元の靴は別にあったのではないでしょうか。」
『例えば、血が着いた靴は山奥に捨てた……とかね。』
 この時には怒りの空気は風に消されていた。
『さて、警部さん。捜査をアパート内だけでなく現場付近の山奥に広げては如何でしょう。警察犬で血を辿った山林の中に、犯人が使用した靴や縄、釣り糸テグスなどが見つかるかも知れませんよ。』
 警部は「分かった」と頷いた。
『ひとまず彼の名前と顔は覚えておいてください。そして、消えないように見張っていてください。今はまだ、ただの容疑者ですが、すぐに確信に変わりますから。』
「しかし、妙な自信だな。そもそも動機が分からん。」
「ああ、そうだ。俺はその殺された男とは何の関係はねぇよ。」
『えぇ、存じ上げていますよ。』
「余計、動機が分からんな。」
『簡単ですよ。先程、助手のルインに彼の写真を撮って貰ったのですよ。そして、確認も終えました。さて、俺はどこにいるでしょうか。』
 この空気感を知らない彼の陽気な声が木霊する。「知らねぇよ」と投げ捨てられる。
『正解はキャバクラでしたぁ。』
「はぁ? ふざけてんのか、あぁん。」
『ピンとこないのですかい。キャバクラの名前は"うさぎの箱庭"ですよ。』
 男は目を見開いた。
『そこの女の子に聞いたら、彦根瑚子さんが彼氏さんを連れて来たことがあったと聞きましたよ。その顔と貴方が一致するとも言ってましたね。』
「なんで、そこまで知っているんだよ。」
 自身げに答えていく。
「カンニングをしたからさ――」
 その真意はそこにいる誰にも伝わらなかった。 
『さて、彼が捕まるのは時間の問題でしょう。その仕事は警察の仕事ですから我々は身を引きましょう。もし犯人等が分かっても事件の謎が解けない場合は、名刺の電話番号におかけ下さい。』
 通信は終わった。
 取り残された三人に風は知らん顔で吹いていった。
「俺は知らねぇよ。悪いのは全部あの女のせいなんだよ。俺が悪いんじゃねぇ。」
 その場で崩れ出す男。
「事件について何か知っていそうだな。安心しろ、俺はお前を犯人とは一ミリも思っちゃいねぇから。お前はまだ単なる容疑者だ。だから安心して知ってることを教えてくれ。」
 警部は優しい口調で吐いた。
 その見つめる先は、あの怒りに満ち溢れたような赤いオーラなどはそこにはなく、悲壮感に溢れた虚しい色に変わっていた。
 その姿を背景に車へと戻っていく。
「きっと未来は変わったはずだ」と一人呟く。
 帰り道に黄色のコンビニに寄って、その場で作られるアイスを食べて帰ろう。そう考えながらその場を後にした。
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