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3章~幻の摩天楼事件~
幻の摩天楼⑧
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扉を開けて、中に置いてあるジュースを何本かカゴに入れた。どれもジュースだった。
モタローはそのジュースと袋を購入した。
袋を掲げて店から出る瞬間、一人の男性とすれ違う。
「あれま。そこにおられるのは、もしやもしや鬼怒川警部ではありませんか~。」
「何故、お前らがいるんだ?」
「隣の村で行方不明となった少年を探して欲しいと依頼されましてねぇ。今も捜索中っていう訳なんだよ。」
「俺らと同じ感じか。」
「それはつまり?」
「県警に頻発してる行方不明事件の被害者達の捜索の増援だよ。人員増加に加えて、事件性も鑑みて俺も出動要請を受けただけだ。ところで、お前らは何か知ってんのか?」
「もちろん。その全貌を確認し終えた後ですよ。」
「なんだと。少し話を聞かせてくれ。ここで話すのもアレだしな――。」「それなら、いい所知っていますよ。」
三人は場所を移した。
そこは世界で最もポピュラーなハンバーガー屋さんからすぐ近くの公園だった。
澄んだ空気が空の星々を美しく輝かせる。
「それで、だ。行方不明事件の真相をお前らの見解でいいから聞かせてくれないか。」
「では、ルイン君。説明をお願いするよ。」
「はい。今回の行方不明事件は画家のウルソン・ベルナール氏が伐採され禿山となった一体に描いた超巨大なアート郡が原因です。詳しく言うと、その絵の幾つかがトリックアートになっており、そこに来た人の視覚を惑わして奈落へと落下させることが行方不明者を増やす原因になったのです。」
「……ということは行方不明者は既に――」「山から足を滑らせ亡くなっている筋が高いと思われます。」
「なるほどな。その話からすると、そのアートがある山の麓に行けば、行方不明者は見つかるんだな。」
「ええ。殆ど死体となっていると思いますけどね。」
安堵のため息が聞こえる。
警部からだった。
「助かった。行く前から変な噂が立っていてな。急に現れたり消えたりする摩天楼があるって噂が流れててな。神の仕業だとか稀代の大怪盗エーワンが盗まれたことを隠すために仕掛けたトリックが原因だとか、意味わからない噂がこちらの耳に入ってきて、杞憂してたんだ。」
「急に現れたり消えたりする摩天楼の噂は正しいですよ。」
「なぬっ。本当なのか。」驚きすぎたのか手に持っていたコーヒーを零しそうになっていた。
「まあ、その種も仕掛けも解明しましたけどね。」
「それもトリックアートの一種だったんです。」
モタローがスマホを見せた。アートが描かれていた山場を撮った写真だ。できるだけ目一杯にアートを映しこんでいる。二本指でスクロールをして画像を遠ざけていく。すると新たな絵が浮かび出てきた。
「なんだ、この絵は?」
「モザイクアートです。」
警部はモザイクアートというアートを分かっていなさそうだった。
「有名な物だと、一枚一枚違う顔写真を並べていって、遠くから見ると文字とか絵が浮かび上がるみたいな絵です。」
「ああ。文化祭とかの演し物でありそうな並べてくアートか。」
「あれを一つ一つのトリックアートで表したのが、この摩天楼なんです。つまり、写真じゃなくてトリックアートの集合体が摩天楼に見させているんですよ。」
空を眺めると星々が個々に力強く光っている。その星に指を指す警部がいた。
「つまり、あれみたいなもんだな。あそこにある一つ一つの星々は単なる星でしかないが、重ねると星座に見える……ってな。」
「なんと素晴らしい考えだっ。まるでロマンチック。気が合いそうな予感がするよ。」
星座が美しい夜空の下で、いい大人達が楽しそうに笑っていた。
「連絡先でも交換するか?」
「いいんですかい。これはこれは警部殿も鼻が高い。もちろん喜んで交換致すよっ。」
「どうしようもない難事件があったらお前らの助けを貰ってもいいか?」
「もちろんですともっ。この探偵モタローが力を貸しますよ。」
二人はスマホを取り出した。
スムーズに事は進まず、警部は画面を遠ざけながら、モタローは慌てつきながらお互いの連絡先を交換した。
「早速お願いがあるのだけどいいかな?」
モタローは嬉々として言い放った。
次の日、警部から連絡があった。
捜索において落下死体を見つけたみたいだ。凡その行方不明者が死体となって存在していたらしい。もちろん、送った写真の子と思われる遺体も発見されたようだ。
発見された場所は例の場所だった。アートチックな山場の崖を降り、隣の山部の斜面や地崩れによる地割れのような形となった岩肌を降りた所の峠だった。踝までしかないとても緩やかな川が流れている。遺体は徐々に流されていたみたいだ。
さらに次の日、警部からビニール袋を授かった。その中には壊れたスマホがある。落下の衝撃と浸水によって故障している。ただ、スマホのカバーは所々破損していても、そのオリジナリティは失われていない。
「これが底に落ちていたスマホです。」
依頼人は袋を渡された。その袋の中のスマホを取り出して外見を確認する。残念ながら電源は付かない。
彼女は膝から崩れ落ちて号泣した。
「間違いありません。これは透のスマホです。」
ひたすらにそのスマホの持ち主の子の名前を呼んでいる。あまりにも無情な現実に哀しき悲鳴を上げているのだ。
泣き止むことのない空下。
隣の家から証と藍が出てきた。
モタローは泣き崩れている依頼人に対応していたため、二人はルインに話しかけた。
「探偵さん。透のこと、みんなに伝えたぜ。藍や翠なんかは、そのことを受け止めきれずに夕方まで涙を流してたんだ。けど、受け止めなきゃいけないんだよな、探偵さん。」
「そうだね。悲しくても辛くても、生きているからこそ前を向かなきゃならないんです。亡くなった人も――きっとあなたの心の中では生きているんです。長く長く生きて、亡き人の想いを永くこの世の中に留まらせる。それが僕達にできる最善の方法だと思いませんか。」
彼はすぐに後ろ姿を向けた。
親指だけを上に上げている。
「ありがとな。探偵さん。」
そう言って、去っていった。
依頼主の件も何とか対応し終えたようだ。
複雑な路地を進んでいった。
*
車道の端でサムズグッドのサイン――つまりヒッチハイクのサインをしている女子高生がいた。そして、その高校生に見覚えがあったので車を近くに停めた。
窓を開ける。「こんなところでどうしたんだい?」
「お願いがあるの。聞いて貰える?」
「ここでは長話ができない。車の停められる所に移動しようか。」
少し進んだ所に分岐する道があり、分かれた道を行くとすぐに峠へと辿り着ける。その場所を話す場所に選んだ。
まだ昼間の時間。透き通る暖色が峠を包み込む。夕焼の中のこの場所は脳裏に焼きこまれる程の絶景。何度も繰り返した過去の中で眺めたあの景色がフラッシュバックした。あの景色とはまた違った姿が目の前に広がっている。
「それで話とは何だい?」
「ドラゴンパーク建設を止めて欲しいの。アイツら強行的に建設をし始めるつもりなんだ。」
「そのこと……か。」
太陽の光がこの頂に乱反射している。
そのせいか表情が読み取りやすい。
「残念ながら、それはできない。」
「何でよ。」
「土地は建設会社の手中にある。ちゃんと法に則って行われている。何も文句を言う筋合いはない。」
「でも、このままじゃ私とベルナールさんとの大切な土地が壊されちゃうの。どうにかしてよ。」苛立ちとどうしようもない感情が混じり合い、ほんの少しの涙とともに放たれる。
「ツケが回ってきたのだよ。トリックアートで騙し、不慮の事故かも知れないけど死人が出た。根拠のない神の所業に縋り、薄っぺらな理論で反対運動を進めてきた。何度でも言うが、もうその土地は買収されているんだ。今は君たちの土地じゃない。この工事を止める筋合いなんて残念ながらないんだよ。」
それはどこか冷たく、しかし、まさしく真っ当な言の葉。そうそれは大人という現実を知る者が放つ現実そのもの。
現実は常に非情。
それを前にして息を荒らげるしかできていない紫衛來。どっちに分があるかは一目瞭然だった。
「ねぇ、アンタら。どっちの味方なの?」
その目は鋭利で、モタローの冷たさとはまた違った冷たさがあった。
しかし、彼は屈しない。
余裕のある表情だ。
「言うなれば、社会的正義の味方さ。社会的に正しい方の味方さ。いいかい、こちとら探偵業だからね、筋違いな行動は長期的な利益を損ずる。」
ルインは探偵である以上、社会的正義が必要となることを理解していた。例え金を多く払って社会的悪的な主張をする依頼を受けた場合、その場は多額の利益を得られるかも知れない。しかし、裁判にもつれ込めば負ける可能性も高くなる。何しろ厄介なのは、評判が一気に悪くなること。社会的悪を許容する探偵は評判が悪くなる。そうなると依頼数は減り、利益が下がってしまう。つまるところ、探偵業は社会的常識が求められるのだ。
「残念ながら、お引き取り願うよ。この村は――勝てない。」
彼女の冷たさはなくなっていた。冷たさを通り越して熱いオーラをまとっている。持っていた鞄を投げつけた。虚しく何も無い地面に叩きつけられる。
「この裏切り者っ!!」
息を荒らげている。
どうしようもない怒りが向けられているのが分かる。
しかし、何かできる訳ではない。
ただ、怒りの矛先を向けて睨みつけるしかできない。
「時間の無駄だね。戻ろうか、ルイン君。」
冷たくあしらいながら、車へと乗り込む。暴言や訴えを躱しつつ、車のエンジンをかける。彼女は何かを言い放っているが、ここには届かない。
そんな姿を他所に、車は走り出した。
峠を降りて、車通りの少ない道を進んでいく。
「凄いですね、モタローさんは。」
「何のことかい?」
「紫衛來さんの事です。どちらの味方か問われると僕は判断できない。僕はそうなると無理でも我慢してその人の側に着いてしまうんです。それが間違いだと分かっていても、そういう人があのように喚くとその人の立場に寄り添ってしまう。そうして、嘘を塗り重ねて苦しくなっていくんです。」
最高速度から十程度速いスピードで道を走っていく。
「僕はどちら側かという問いが苦手なんです。ホスト時代、姫とのそういうやり取りで苦労したこともあります。その度に思うんです。僕に自分を貫ける意志があったらな、と。」
黄色信号になり始めた。
急いで行けば問題ない。アクセルを踏んで駆け抜けた。
「だからこそ、尊敬するんです。自分の意志を貫けるモタローさんを。」
「意志を貫けることが絶対良いとは言いきれないがね。まっ、何事でもそうさ、全てにおいて絶対はない。逆に、ルイン君の優しさは俺にはない素晴らしい個性だと思うけどねぇ。」
人気のない道路を走っていく。
そこから見える星々はとても美しい。
心揺らめく星達の下、マイペースに車を走らせていった。
モタローはそのジュースと袋を購入した。
袋を掲げて店から出る瞬間、一人の男性とすれ違う。
「あれま。そこにおられるのは、もしやもしや鬼怒川警部ではありませんか~。」
「何故、お前らがいるんだ?」
「隣の村で行方不明となった少年を探して欲しいと依頼されましてねぇ。今も捜索中っていう訳なんだよ。」
「俺らと同じ感じか。」
「それはつまり?」
「県警に頻発してる行方不明事件の被害者達の捜索の増援だよ。人員増加に加えて、事件性も鑑みて俺も出動要請を受けただけだ。ところで、お前らは何か知ってんのか?」
「もちろん。その全貌を確認し終えた後ですよ。」
「なんだと。少し話を聞かせてくれ。ここで話すのもアレだしな――。」「それなら、いい所知っていますよ。」
三人は場所を移した。
そこは世界で最もポピュラーなハンバーガー屋さんからすぐ近くの公園だった。
澄んだ空気が空の星々を美しく輝かせる。
「それで、だ。行方不明事件の真相をお前らの見解でいいから聞かせてくれないか。」
「では、ルイン君。説明をお願いするよ。」
「はい。今回の行方不明事件は画家のウルソン・ベルナール氏が伐採され禿山となった一体に描いた超巨大なアート郡が原因です。詳しく言うと、その絵の幾つかがトリックアートになっており、そこに来た人の視覚を惑わして奈落へと落下させることが行方不明者を増やす原因になったのです。」
「……ということは行方不明者は既に――」「山から足を滑らせ亡くなっている筋が高いと思われます。」
「なるほどな。その話からすると、そのアートがある山の麓に行けば、行方不明者は見つかるんだな。」
「ええ。殆ど死体となっていると思いますけどね。」
安堵のため息が聞こえる。
警部からだった。
「助かった。行く前から変な噂が立っていてな。急に現れたり消えたりする摩天楼があるって噂が流れててな。神の仕業だとか稀代の大怪盗エーワンが盗まれたことを隠すために仕掛けたトリックが原因だとか、意味わからない噂がこちらの耳に入ってきて、杞憂してたんだ。」
「急に現れたり消えたりする摩天楼の噂は正しいですよ。」
「なぬっ。本当なのか。」驚きすぎたのか手に持っていたコーヒーを零しそうになっていた。
「まあ、その種も仕掛けも解明しましたけどね。」
「それもトリックアートの一種だったんです。」
モタローがスマホを見せた。アートが描かれていた山場を撮った写真だ。できるだけ目一杯にアートを映しこんでいる。二本指でスクロールをして画像を遠ざけていく。すると新たな絵が浮かび出てきた。
「なんだ、この絵は?」
「モザイクアートです。」
警部はモザイクアートというアートを分かっていなさそうだった。
「有名な物だと、一枚一枚違う顔写真を並べていって、遠くから見ると文字とか絵が浮かび上がるみたいな絵です。」
「ああ。文化祭とかの演し物でありそうな並べてくアートか。」
「あれを一つ一つのトリックアートで表したのが、この摩天楼なんです。つまり、写真じゃなくてトリックアートの集合体が摩天楼に見させているんですよ。」
空を眺めると星々が個々に力強く光っている。その星に指を指す警部がいた。
「つまり、あれみたいなもんだな。あそこにある一つ一つの星々は単なる星でしかないが、重ねると星座に見える……ってな。」
「なんと素晴らしい考えだっ。まるでロマンチック。気が合いそうな予感がするよ。」
星座が美しい夜空の下で、いい大人達が楽しそうに笑っていた。
「連絡先でも交換するか?」
「いいんですかい。これはこれは警部殿も鼻が高い。もちろん喜んで交換致すよっ。」
「どうしようもない難事件があったらお前らの助けを貰ってもいいか?」
「もちろんですともっ。この探偵モタローが力を貸しますよ。」
二人はスマホを取り出した。
スムーズに事は進まず、警部は画面を遠ざけながら、モタローは慌てつきながらお互いの連絡先を交換した。
「早速お願いがあるのだけどいいかな?」
モタローは嬉々として言い放った。
次の日、警部から連絡があった。
捜索において落下死体を見つけたみたいだ。凡その行方不明者が死体となって存在していたらしい。もちろん、送った写真の子と思われる遺体も発見されたようだ。
発見された場所は例の場所だった。アートチックな山場の崖を降り、隣の山部の斜面や地崩れによる地割れのような形となった岩肌を降りた所の峠だった。踝までしかないとても緩やかな川が流れている。遺体は徐々に流されていたみたいだ。
さらに次の日、警部からビニール袋を授かった。その中には壊れたスマホがある。落下の衝撃と浸水によって故障している。ただ、スマホのカバーは所々破損していても、そのオリジナリティは失われていない。
「これが底に落ちていたスマホです。」
依頼人は袋を渡された。その袋の中のスマホを取り出して外見を確認する。残念ながら電源は付かない。
彼女は膝から崩れ落ちて号泣した。
「間違いありません。これは透のスマホです。」
ひたすらにそのスマホの持ち主の子の名前を呼んでいる。あまりにも無情な現実に哀しき悲鳴を上げているのだ。
泣き止むことのない空下。
隣の家から証と藍が出てきた。
モタローは泣き崩れている依頼人に対応していたため、二人はルインに話しかけた。
「探偵さん。透のこと、みんなに伝えたぜ。藍や翠なんかは、そのことを受け止めきれずに夕方まで涙を流してたんだ。けど、受け止めなきゃいけないんだよな、探偵さん。」
「そうだね。悲しくても辛くても、生きているからこそ前を向かなきゃならないんです。亡くなった人も――きっとあなたの心の中では生きているんです。長く長く生きて、亡き人の想いを永くこの世の中に留まらせる。それが僕達にできる最善の方法だと思いませんか。」
彼はすぐに後ろ姿を向けた。
親指だけを上に上げている。
「ありがとな。探偵さん。」
そう言って、去っていった。
依頼主の件も何とか対応し終えたようだ。
複雑な路地を進んでいった。
*
車道の端でサムズグッドのサイン――つまりヒッチハイクのサインをしている女子高生がいた。そして、その高校生に見覚えがあったので車を近くに停めた。
窓を開ける。「こんなところでどうしたんだい?」
「お願いがあるの。聞いて貰える?」
「ここでは長話ができない。車の停められる所に移動しようか。」
少し進んだ所に分岐する道があり、分かれた道を行くとすぐに峠へと辿り着ける。その場所を話す場所に選んだ。
まだ昼間の時間。透き通る暖色が峠を包み込む。夕焼の中のこの場所は脳裏に焼きこまれる程の絶景。何度も繰り返した過去の中で眺めたあの景色がフラッシュバックした。あの景色とはまた違った姿が目の前に広がっている。
「それで話とは何だい?」
「ドラゴンパーク建設を止めて欲しいの。アイツら強行的に建設をし始めるつもりなんだ。」
「そのこと……か。」
太陽の光がこの頂に乱反射している。
そのせいか表情が読み取りやすい。
「残念ながら、それはできない。」
「何でよ。」
「土地は建設会社の手中にある。ちゃんと法に則って行われている。何も文句を言う筋合いはない。」
「でも、このままじゃ私とベルナールさんとの大切な土地が壊されちゃうの。どうにかしてよ。」苛立ちとどうしようもない感情が混じり合い、ほんの少しの涙とともに放たれる。
「ツケが回ってきたのだよ。トリックアートで騙し、不慮の事故かも知れないけど死人が出た。根拠のない神の所業に縋り、薄っぺらな理論で反対運動を進めてきた。何度でも言うが、もうその土地は買収されているんだ。今は君たちの土地じゃない。この工事を止める筋合いなんて残念ながらないんだよ。」
それはどこか冷たく、しかし、まさしく真っ当な言の葉。そうそれは大人という現実を知る者が放つ現実そのもの。
現実は常に非情。
それを前にして息を荒らげるしかできていない紫衛來。どっちに分があるかは一目瞭然だった。
「ねぇ、アンタら。どっちの味方なの?」
その目は鋭利で、モタローの冷たさとはまた違った冷たさがあった。
しかし、彼は屈しない。
余裕のある表情だ。
「言うなれば、社会的正義の味方さ。社会的に正しい方の味方さ。いいかい、こちとら探偵業だからね、筋違いな行動は長期的な利益を損ずる。」
ルインは探偵である以上、社会的正義が必要となることを理解していた。例え金を多く払って社会的悪的な主張をする依頼を受けた場合、その場は多額の利益を得られるかも知れない。しかし、裁判にもつれ込めば負ける可能性も高くなる。何しろ厄介なのは、評判が一気に悪くなること。社会的悪を許容する探偵は評判が悪くなる。そうなると依頼数は減り、利益が下がってしまう。つまるところ、探偵業は社会的常識が求められるのだ。
「残念ながら、お引き取り願うよ。この村は――勝てない。」
彼女の冷たさはなくなっていた。冷たさを通り越して熱いオーラをまとっている。持っていた鞄を投げつけた。虚しく何も無い地面に叩きつけられる。
「この裏切り者っ!!」
息を荒らげている。
どうしようもない怒りが向けられているのが分かる。
しかし、何かできる訳ではない。
ただ、怒りの矛先を向けて睨みつけるしかできない。
「時間の無駄だね。戻ろうか、ルイン君。」
冷たくあしらいながら、車へと乗り込む。暴言や訴えを躱しつつ、車のエンジンをかける。彼女は何かを言い放っているが、ここには届かない。
そんな姿を他所に、車は走り出した。
峠を降りて、車通りの少ない道を進んでいく。
「凄いですね、モタローさんは。」
「何のことかい?」
「紫衛來さんの事です。どちらの味方か問われると僕は判断できない。僕はそうなると無理でも我慢してその人の側に着いてしまうんです。それが間違いだと分かっていても、そういう人があのように喚くとその人の立場に寄り添ってしまう。そうして、嘘を塗り重ねて苦しくなっていくんです。」
最高速度から十程度速いスピードで道を走っていく。
「僕はどちら側かという問いが苦手なんです。ホスト時代、姫とのそういうやり取りで苦労したこともあります。その度に思うんです。僕に自分を貫ける意志があったらな、と。」
黄色信号になり始めた。
急いで行けば問題ない。アクセルを踏んで駆け抜けた。
「だからこそ、尊敬するんです。自分の意志を貫けるモタローさんを。」
「意志を貫けることが絶対良いとは言いきれないがね。まっ、何事でもそうさ、全てにおいて絶対はない。逆に、ルイン君の優しさは俺にはない素晴らしい個性だと思うけどねぇ。」
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そこから見える星々はとても美しい。
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