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3章~幻の摩天楼事件~
幻の摩天楼⑦
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《18》
アートの岩場を背景にして、ゆっくりと座る。真剣な顔付きで空を見た。二人しかいない秘密の遊び場。きっとアトリエが近くにあるということは絵を描く所という意味での遊び場だと思われる。雲は水色の空の中をゆっくりと流れている。
「モタローさん。実は直近の過去改変で僕は死んだんです。このアートに誘われて進んだら、いつの間にか奈落の底でした。」
こんなアートチックな情景とはまるで逆の景色。地獄のような情景を思い浮かべていた。
「なるほどねぇ。まさに死に導くトリックアートという訳だね。」
写真をパシャリと撮る。
彼はスマホを二つの指で弄っていた。
「これで例の【三神事】の二つは解き明かせれたよ。」
それを聞いて「やっぱり――」と零れる。
「ルイン君も気付いたんだねぇ。安心したよ。これぐらいは解けて貰わないとね。いつまでも半人前とはいかないからさ。」
その場所を後にして、秘密の山道を下っていく。その間に、例の外国人のスマホでの情報と図書館にいた謎の女性からの言葉を伝えた。
それを聞き終えた後、彼は大きく手を開いた。
「実は【三神事】の残る一つも解き明かせそうなんだよね。まあ、その為には確認することがあるけどねぇ。」
山小屋へと辿り着いた。
暑い熱気からクーラーの涼しい冷気に飛び込んでいく。
「早かったね。」
「それはそれは、パズルのピースが埋まったからねぇ。簡単に外枠は埋まり、内枠もあと少しで当てはまりそうだよ。」
涼しい中で冷たい水を頂く。
冷たい液体が喉の奥を通っていく。
「なあ、この上はどうなってたんだ?」
証は立ちながら柱に背をもたれていた。
「禿山だったよ。」
「そうか。この上がドラゴンパークに買われた土地だったんだな。」
どこか納得した様子で頷いている。
「ところで少年。君はウルソン・ベルナールという人を知っているかな?」
「アレだろ。そこの絵の作者だろ? すまねぇが、知らねぇんだ。絵には興味がそそらなくてな。」
「その外国人を見たことはないのかい?」
「見たことも、調べたこともねぇな。」横を見て「なぁ、橙。見たことあるか?」と問うと「ううん。僕も知らないなぁ」と返した。
その一連の会話を聞いてゆっくりとした笑みを浮かべている。
「では、少年。外国人っぽい人は見たことあるかな?」
「いや、覚えがねぇ。」「うん、僕も。」藍は寝ていたので返答はない。
「この村の人々はベルナールさんのことを周知していない。ということじゃないかな、紫衛來さん。」
突然、話題を振られ困惑している。
「完結に言うと、この村に伝わる【三神事】の一つ《公園に出没する神影》とはベルナールさんのことだったんじゃないかな。」
「どうしてそう思うの?」
「この山小屋は公園から行ける場所にあったからね。それに山小屋からの下り道を目測で考えると公園の近くを通るんじゃないかな。そうなれば木々の奥に大きな人影が見えてもおかしくは無いんじゃないかなぁ。」
「流石、探偵さんね。多分、正解よ、それ。彼が来はじめてから噂が立つようになったもの。」
それを聞いて「おお」という小さな歓声が聞こえたような気にさせる。
「すごいわね。探偵のこと甘く見てたかも。例えば金田一少年だとか名探偵コナンだとか、シャーロックホームズだとか、そんなものは非現実的で、本当の探偵は無能なんだと思ってたけど、いざ目の前にして見ると凄いと思わされたわ。」
それを聞いたモタローが「ふははははは」と声を荒らげた。「モタローさん。それ悪い奴のやる笑い方ですよ」と助言が飛んだ。
満足気な彼の高笑いがこの場を和ませる。
それを見ていた人々もその空気に安心感を抱いていた。
「この調子で透のことも見つけ出せそうだねっ。それと残り二つの【三神事】も解き明かしちゃうかもなっ。」「そうかも知れねぇな、橙。」
それを聞いたモタローは高笑いを止めた。
今度はゆっくりとした大人の冷たい声を轟かせた。
「実はそれについては、もう憶測は着いているのだよ。」
普通なら喜とした声色のはずだが、その喜びの「よ」の字も感じさせない声色だった。
「本当か。教えてくれ。透は何処なんだ?」
鋭く冷たい声色に変わっていく。
「現実はいつも非情なのだよ。」
「すまねぇ。何が言いたいんだがよく分からねぇ。」
それを聞いていた紫衛來は顔を目を逸らしていった。
「紫衛來さん。やっぱり気付いていたんですね。だからこそ、歯止め役としてあの場所へ近付かないようにしていた。」
「やっぱり探偵ってすごいのね。まるで全てを見透かされているみたい。あそこは危険な場所なの。近付いちゃいけない場所。だからこその歯止め役を買って出た。そうよ、正解よ。ただね、まだ透君がその万が一に出会ったとは限らないから。」
「戻りましょう。その間に覚悟を決めて下さい。長いこと帰らないことが何よりの証拠ですから。」
歯軋りの音がした。
彼女は無言で俯いていた。
藍を目覚めさせ、小屋を出る。
無言の空気の中で道を下っていった。ある程度、下った場所から右手方向に真っ直ぐ進むと意図も簡単に公民館横の公園へと辿り着くことができた。
*
公園に集まった七人の子ども達。
その子ども達に囲まれた二人の探偵。
「さて、と。今日日まで心血注いで捜して来た君たちにも知る権利があるだろう。ただし、聞くからにはそれなりの覚悟をして貰わないといけないんだよ。もし覚悟が決まらないなら、今は家に帰るといい。何れすぐに情報は回ってくる。それまでに覚悟を決める準備期間にすれば良い。」
それを聞いて、「怖いこと?」と訪ねる藍。それを見た証が黄星の名を呼んだ。
「すまねぇが、藍を家まで送り届けてくれねぇか。」
それに動揺を隠せずに「俺、聞こうと思うんだけど」と言うのだが、翠に裾を掴まれてそのまま藍を引き連れてこの場から去ることになった。
「俺はリーダーとして聞かなきゃなんねぇ。」
「自分も最年長組として残らなきゃね。」「それじゃあ、私も残らざるを得ないわね。」
ただ橙だけが何と言うかを考えていた。すかさず「すまねぇ、橙。お前ぇも帰れ。内容は後で教えてやる。今日はァ俺の顔を立ててくれ」と橙を帰らせた。
残ったのは三人。
ほんの少し無言の時間が続いた。
三人とも覚悟を決めたようだ。
それを見て頷く。
「覚悟が決まったみたいだね。では、先に伺おう。もし透が死んだと言ったら君たちはどうする?」
唐突な質問に戸惑う証と蒼。ただ、証に関してはすぐに鋭い顔付きに変わった。
「透を殺した奴を許さねぇ。神だが何だが知らねぇが、透の代わりに復讐してやるさ。」
「どうやって神に復讐でもするのかい? そもそも復讐は何も生まないと漫画やテレビで教わらなかったのかい?」
「だとしても、復讐でもしなきゃ――」「それで何かが代わるのかい?」
モタローは酷く冷静だった。
その冷たさに黒い熱気を放つ証が押されていく。
「やめたまえ。復讐などと言う不幸の源は。復讐などでは誰も幸せにはならない。困るんだよ。未成年の復讐なんてものは、家族を、友達を、地域を、社会を、引いては亡くなったモノの魂すら不幸にする身勝手な行為なんだよ。そんなもの許容されるものじゃない。」
「言葉を返すようだが、未成年じゃなきゃいいのか?」
「成人になれば――つまり、大人になれば、やるもやらないも本人の選択だ。やったことには責任がついてくる。ただ、それだけの話さ。それで止めてくれる人がいてくれれば人選に恵まれただけだし、止められる人がいなければそれだけ意志が固かった、ただそれだけだろう。何にせよ、大人はなれば自己責任で行動すればいい。それで逮捕されるも後悔するも自己責任なのだからねぇ。」
そこまでは目を瞑り一人勝手に話していたが、そこまで話し終えると直接男の子の方を見た。
「けど、君は子どもだ。君はまだ自己責任の段階にはいないのだよ。つまり、君は復讐という身勝手な行為は認められないねぇ。」
一度、天を見上げた。
空に何があるのだろうか。いや、あるのはただの青い空と白い雲。雲の間から除く太陽。ただ、それだけだった。
「大人になれば――な。しゃあねぇ。受け入れてやる。だからと言って、透を想うこの気持ちは無くならねぇ。」
彼は一段と強くなった顔をしていた。
その瞳はしっかりとした覚悟の目をしていた。
「話を戻そう。結論から言うと、鰐渕透は死んでいる。」
こんな暑い太陽の下で、冷たい風が流れてきた。乾いた風だった。
「透君は亡くなる当日、あの摩天楼の場所まで行ったはず。実際は絵の書かれたはげ山です。」
蒼の顔が蒼白になっていく。
「そこにある騙し絵に引っかかると足を滑らせて谷底に落ちてしまうのですよ。」
紫衛來は強く目を瞑った。
高校生二人共、思い当たる節があったのだ。
「そしてそれが《逆鱗に触れし神隠し》の正体なんだよ。つまり、トリックアートによって踏み入れた者を墜落死させる現象さ。」
「なんだよそれ。ってか、何でそんな絵があるんだよ。誰が描いたんだよ!」
「推測の域だけど、描いたのはウルソン・ベルナールという外国人じゃないかなぁ。紫衛來さん、合ってるかな?」
視線の矛先が彼女に向かう。
「――うん。それと私も協力した。」
「ただ、協力したとしても微々たるものだろうね。あれ程のクオリティをあんなに書くにはそれなりの腕と拠点と時間を要する。個展を開ける程の実力、近くにある隠れ家、そして画家の彼に与えられた大量の時間。その結晶があのアートじゃないのかな。」
「そのことを知っていたからこそ、危険性を知っていたからこそ、それ以上に被害を出したくなくて歯止め役を買って出たんですよね。」
口にチャックがしてある。
静かな空間が広がる。風に靡く音だけが広がっていた。ようやく流れた「……ごめん」という言葉が、風によって掻き消された。
「何のためか……は分からないけど、まあ、ドラゴンパーク建設と関連してそうだよねぇ。建設関係者に死人が出れば、工事が中断されるというのを狙ってとか。まあ、今の俺では憶測でしか語れないけどねぇ。」
風でブランコが揺れている。
「なあ、そのベルナールって奴はどこにいるんだ?」
揺らめく風の中で放たれた疑問。
それに対して、指を上に向ける。
「上ですね。」「上?」「遥か彼方の空の上。もしくは遙か彼方の地の底。」「何が言いてぇ。」「人はそこを天国や地獄と呼ぶ所です。リュウダの火事で亡くなったんです。」
そこまで話して「……そうか」と言葉を紡ぐ。
ただ、虚しく時間だけが過ぎていく。
「俺らは誰を憎めばいい?」
「復讐と同様。恨み憎しみは何も生まないよ。」
「そうだったな。」
透き通る時間の中で、涙が地面に落ちているのが分かる。
「もちろん、過去の自分の行動を恨まないで。自分の行動がその結果の「きっかけ」になっているかも知れない。だけど、それはほんの少しの「きっかけ」に過ぎなくて、それ以外の誰のせいでもない「きっかけ」が殆どですから。」
蒼や紫衛來の背筋がピッとなった。二人の悲しい表情が映る。
「俺達は何をすりゃいい?」と証。
「簡単だよ。ただ一つできるのは、亡くなった人達を弔うことさ。」
夕焼小焼。
オレンジ気味の光へと徐々に変わっていく時間帯。それよりもはやく暗い空気がこの辺りには広がっていた。
「なぁ。【少年少女捜索隊】は解散しようと思うんだ。」「うん。いいと思う。しかし、凄いね。自分はそこまで早く気持ちを切り替えられないよ。」
目の辺りに手を当てている蒼。片手に持った眼鏡が虚しく揺れている。
「俺はリーダーだからな。こんなとこでクヨクヨしてちゃ示しがつかねぇからな。捜索隊の皆にも、そして透にも、な。」
「じゃあ、自分は一番のお兄さんだからさ、ここで泣いてちゃ示しがつかなそうだね。」「何か私も流れ的に泣いちゃ駄目みたいな雰囲気になってない?」
余韻がそこで途切れた。
三人は感謝を述べてこの場を後にした。
オレンジ色に染まる公園でなだらかに時間が過ぎていく。
「俺達も行こうか。」
公園から公民館へと進む。
砂利道を歩いているとどこからともなく石が飛んできた。
石の飛んできた方向を向くと、そこには証がいた。彼が急いで近づいてくる。
「改めてお礼を言いたくてな。透を探すのを手伝ってくれてありャアした。」深くお辞儀をした。
どうも、と手を振る。
しんみりとした空間とはまた違う雰囲気。
「俺ら【少年少女捜索隊】は明日を持って解散するんだ。」
彼は何故か口角を上げていた。
「代わりになんだが【少年少女探偵隊】を立ち上げることにしたんだ。アンタらにあやかってな。」
「それはそれは、面白そうじゃないか。」
「ああ。このメンバーに加えて永久欠番として透と――それとお前らは知らねぇと思うけど――今訳あって外に出れねぇ紫衛來の妹を含めた九人でやっていくつもりだ。まっ、教えといてやるよ。」
彼の眼差しは赤く輝いていて眩しかった。
「とりあえず、本当に、色々ありがとなっ。」
そして、彼の後ろ姿は本当に凛々しかった。
夕暮れの色がこの山々を赤く染めていた。
アートの岩場を背景にして、ゆっくりと座る。真剣な顔付きで空を見た。二人しかいない秘密の遊び場。きっとアトリエが近くにあるということは絵を描く所という意味での遊び場だと思われる。雲は水色の空の中をゆっくりと流れている。
「モタローさん。実は直近の過去改変で僕は死んだんです。このアートに誘われて進んだら、いつの間にか奈落の底でした。」
こんなアートチックな情景とはまるで逆の景色。地獄のような情景を思い浮かべていた。
「なるほどねぇ。まさに死に導くトリックアートという訳だね。」
写真をパシャリと撮る。
彼はスマホを二つの指で弄っていた。
「これで例の【三神事】の二つは解き明かせれたよ。」
それを聞いて「やっぱり――」と零れる。
「ルイン君も気付いたんだねぇ。安心したよ。これぐらいは解けて貰わないとね。いつまでも半人前とはいかないからさ。」
その場所を後にして、秘密の山道を下っていく。その間に、例の外国人のスマホでの情報と図書館にいた謎の女性からの言葉を伝えた。
それを聞き終えた後、彼は大きく手を開いた。
「実は【三神事】の残る一つも解き明かせそうなんだよね。まあ、その為には確認することがあるけどねぇ。」
山小屋へと辿り着いた。
暑い熱気からクーラーの涼しい冷気に飛び込んでいく。
「早かったね。」
「それはそれは、パズルのピースが埋まったからねぇ。簡単に外枠は埋まり、内枠もあと少しで当てはまりそうだよ。」
涼しい中で冷たい水を頂く。
冷たい液体が喉の奥を通っていく。
「なあ、この上はどうなってたんだ?」
証は立ちながら柱に背をもたれていた。
「禿山だったよ。」
「そうか。この上がドラゴンパークに買われた土地だったんだな。」
どこか納得した様子で頷いている。
「ところで少年。君はウルソン・ベルナールという人を知っているかな?」
「アレだろ。そこの絵の作者だろ? すまねぇが、知らねぇんだ。絵には興味がそそらなくてな。」
「その外国人を見たことはないのかい?」
「見たことも、調べたこともねぇな。」横を見て「なぁ、橙。見たことあるか?」と問うと「ううん。僕も知らないなぁ」と返した。
その一連の会話を聞いてゆっくりとした笑みを浮かべている。
「では、少年。外国人っぽい人は見たことあるかな?」
「いや、覚えがねぇ。」「うん、僕も。」藍は寝ていたので返答はない。
「この村の人々はベルナールさんのことを周知していない。ということじゃないかな、紫衛來さん。」
突然、話題を振られ困惑している。
「完結に言うと、この村に伝わる【三神事】の一つ《公園に出没する神影》とはベルナールさんのことだったんじゃないかな。」
「どうしてそう思うの?」
「この山小屋は公園から行ける場所にあったからね。それに山小屋からの下り道を目測で考えると公園の近くを通るんじゃないかな。そうなれば木々の奥に大きな人影が見えてもおかしくは無いんじゃないかなぁ。」
「流石、探偵さんね。多分、正解よ、それ。彼が来はじめてから噂が立つようになったもの。」
それを聞いて「おお」という小さな歓声が聞こえたような気にさせる。
「すごいわね。探偵のこと甘く見てたかも。例えば金田一少年だとか名探偵コナンだとか、シャーロックホームズだとか、そんなものは非現実的で、本当の探偵は無能なんだと思ってたけど、いざ目の前にして見ると凄いと思わされたわ。」
それを聞いたモタローが「ふははははは」と声を荒らげた。「モタローさん。それ悪い奴のやる笑い方ですよ」と助言が飛んだ。
満足気な彼の高笑いがこの場を和ませる。
それを見ていた人々もその空気に安心感を抱いていた。
「この調子で透のことも見つけ出せそうだねっ。それと残り二つの【三神事】も解き明かしちゃうかもなっ。」「そうかも知れねぇな、橙。」
それを聞いたモタローは高笑いを止めた。
今度はゆっくりとした大人の冷たい声を轟かせた。
「実はそれについては、もう憶測は着いているのだよ。」
普通なら喜とした声色のはずだが、その喜びの「よ」の字も感じさせない声色だった。
「本当か。教えてくれ。透は何処なんだ?」
鋭く冷たい声色に変わっていく。
「現実はいつも非情なのだよ。」
「すまねぇ。何が言いたいんだがよく分からねぇ。」
それを聞いていた紫衛來は顔を目を逸らしていった。
「紫衛來さん。やっぱり気付いていたんですね。だからこそ、歯止め役としてあの場所へ近付かないようにしていた。」
「やっぱり探偵ってすごいのね。まるで全てを見透かされているみたい。あそこは危険な場所なの。近付いちゃいけない場所。だからこその歯止め役を買って出た。そうよ、正解よ。ただね、まだ透君がその万が一に出会ったとは限らないから。」
「戻りましょう。その間に覚悟を決めて下さい。長いこと帰らないことが何よりの証拠ですから。」
歯軋りの音がした。
彼女は無言で俯いていた。
藍を目覚めさせ、小屋を出る。
無言の空気の中で道を下っていった。ある程度、下った場所から右手方向に真っ直ぐ進むと意図も簡単に公民館横の公園へと辿り着くことができた。
*
公園に集まった七人の子ども達。
その子ども達に囲まれた二人の探偵。
「さて、と。今日日まで心血注いで捜して来た君たちにも知る権利があるだろう。ただし、聞くからにはそれなりの覚悟をして貰わないといけないんだよ。もし覚悟が決まらないなら、今は家に帰るといい。何れすぐに情報は回ってくる。それまでに覚悟を決める準備期間にすれば良い。」
それを聞いて、「怖いこと?」と訪ねる藍。それを見た証が黄星の名を呼んだ。
「すまねぇが、藍を家まで送り届けてくれねぇか。」
それに動揺を隠せずに「俺、聞こうと思うんだけど」と言うのだが、翠に裾を掴まれてそのまま藍を引き連れてこの場から去ることになった。
「俺はリーダーとして聞かなきゃなんねぇ。」
「自分も最年長組として残らなきゃね。」「それじゃあ、私も残らざるを得ないわね。」
ただ橙だけが何と言うかを考えていた。すかさず「すまねぇ、橙。お前ぇも帰れ。内容は後で教えてやる。今日はァ俺の顔を立ててくれ」と橙を帰らせた。
残ったのは三人。
ほんの少し無言の時間が続いた。
三人とも覚悟を決めたようだ。
それを見て頷く。
「覚悟が決まったみたいだね。では、先に伺おう。もし透が死んだと言ったら君たちはどうする?」
唐突な質問に戸惑う証と蒼。ただ、証に関してはすぐに鋭い顔付きに変わった。
「透を殺した奴を許さねぇ。神だが何だが知らねぇが、透の代わりに復讐してやるさ。」
「どうやって神に復讐でもするのかい? そもそも復讐は何も生まないと漫画やテレビで教わらなかったのかい?」
「だとしても、復讐でもしなきゃ――」「それで何かが代わるのかい?」
モタローは酷く冷静だった。
その冷たさに黒い熱気を放つ証が押されていく。
「やめたまえ。復讐などと言う不幸の源は。復讐などでは誰も幸せにはならない。困るんだよ。未成年の復讐なんてものは、家族を、友達を、地域を、社会を、引いては亡くなったモノの魂すら不幸にする身勝手な行為なんだよ。そんなもの許容されるものじゃない。」
「言葉を返すようだが、未成年じゃなきゃいいのか?」
「成人になれば――つまり、大人になれば、やるもやらないも本人の選択だ。やったことには責任がついてくる。ただ、それだけの話さ。それで止めてくれる人がいてくれれば人選に恵まれただけだし、止められる人がいなければそれだけ意志が固かった、ただそれだけだろう。何にせよ、大人はなれば自己責任で行動すればいい。それで逮捕されるも後悔するも自己責任なのだからねぇ。」
そこまでは目を瞑り一人勝手に話していたが、そこまで話し終えると直接男の子の方を見た。
「けど、君は子どもだ。君はまだ自己責任の段階にはいないのだよ。つまり、君は復讐という身勝手な行為は認められないねぇ。」
一度、天を見上げた。
空に何があるのだろうか。いや、あるのはただの青い空と白い雲。雲の間から除く太陽。ただ、それだけだった。
「大人になれば――な。しゃあねぇ。受け入れてやる。だからと言って、透を想うこの気持ちは無くならねぇ。」
彼は一段と強くなった顔をしていた。
その瞳はしっかりとした覚悟の目をしていた。
「話を戻そう。結論から言うと、鰐渕透は死んでいる。」
こんな暑い太陽の下で、冷たい風が流れてきた。乾いた風だった。
「透君は亡くなる当日、あの摩天楼の場所まで行ったはず。実際は絵の書かれたはげ山です。」
蒼の顔が蒼白になっていく。
「そこにある騙し絵に引っかかると足を滑らせて谷底に落ちてしまうのですよ。」
紫衛來は強く目を瞑った。
高校生二人共、思い当たる節があったのだ。
「そしてそれが《逆鱗に触れし神隠し》の正体なんだよ。つまり、トリックアートによって踏み入れた者を墜落死させる現象さ。」
「なんだよそれ。ってか、何でそんな絵があるんだよ。誰が描いたんだよ!」
「推測の域だけど、描いたのはウルソン・ベルナールという外国人じゃないかなぁ。紫衛來さん、合ってるかな?」
視線の矛先が彼女に向かう。
「――うん。それと私も協力した。」
「ただ、協力したとしても微々たるものだろうね。あれ程のクオリティをあんなに書くにはそれなりの腕と拠点と時間を要する。個展を開ける程の実力、近くにある隠れ家、そして画家の彼に与えられた大量の時間。その結晶があのアートじゃないのかな。」
「そのことを知っていたからこそ、危険性を知っていたからこそ、それ以上に被害を出したくなくて歯止め役を買って出たんですよね。」
口にチャックがしてある。
静かな空間が広がる。風に靡く音だけが広がっていた。ようやく流れた「……ごめん」という言葉が、風によって掻き消された。
「何のためか……は分からないけど、まあ、ドラゴンパーク建設と関連してそうだよねぇ。建設関係者に死人が出れば、工事が中断されるというのを狙ってとか。まあ、今の俺では憶測でしか語れないけどねぇ。」
風でブランコが揺れている。
「なあ、そのベルナールって奴はどこにいるんだ?」
揺らめく風の中で放たれた疑問。
それに対して、指を上に向ける。
「上ですね。」「上?」「遥か彼方の空の上。もしくは遙か彼方の地の底。」「何が言いてぇ。」「人はそこを天国や地獄と呼ぶ所です。リュウダの火事で亡くなったんです。」
そこまで話して「……そうか」と言葉を紡ぐ。
ただ、虚しく時間だけが過ぎていく。
「俺らは誰を憎めばいい?」
「復讐と同様。恨み憎しみは何も生まないよ。」
「そうだったな。」
透き通る時間の中で、涙が地面に落ちているのが分かる。
「もちろん、過去の自分の行動を恨まないで。自分の行動がその結果の「きっかけ」になっているかも知れない。だけど、それはほんの少しの「きっかけ」に過ぎなくて、それ以外の誰のせいでもない「きっかけ」が殆どですから。」
蒼や紫衛來の背筋がピッとなった。二人の悲しい表情が映る。
「俺達は何をすりゃいい?」と証。
「簡単だよ。ただ一つできるのは、亡くなった人達を弔うことさ。」
夕焼小焼。
オレンジ気味の光へと徐々に変わっていく時間帯。それよりもはやく暗い空気がこの辺りには広がっていた。
「なぁ。【少年少女捜索隊】は解散しようと思うんだ。」「うん。いいと思う。しかし、凄いね。自分はそこまで早く気持ちを切り替えられないよ。」
目の辺りに手を当てている蒼。片手に持った眼鏡が虚しく揺れている。
「俺はリーダーだからな。こんなとこでクヨクヨしてちゃ示しがつかねぇからな。捜索隊の皆にも、そして透にも、な。」
「じゃあ、自分は一番のお兄さんだからさ、ここで泣いてちゃ示しがつかなそうだね。」「何か私も流れ的に泣いちゃ駄目みたいな雰囲気になってない?」
余韻がそこで途切れた。
三人は感謝を述べてこの場を後にした。
オレンジ色に染まる公園でなだらかに時間が過ぎていく。
「俺達も行こうか。」
公園から公民館へと進む。
砂利道を歩いているとどこからともなく石が飛んできた。
石の飛んできた方向を向くと、そこには証がいた。彼が急いで近づいてくる。
「改めてお礼を言いたくてな。透を探すのを手伝ってくれてありャアした。」深くお辞儀をした。
どうも、と手を振る。
しんみりとした空間とはまた違う雰囲気。
「俺ら【少年少女捜索隊】は明日を持って解散するんだ。」
彼は何故か口角を上げていた。
「代わりになんだが【少年少女探偵隊】を立ち上げることにしたんだ。アンタらにあやかってな。」
「それはそれは、面白そうじゃないか。」
「ああ。このメンバーに加えて永久欠番として透と――それとお前らは知らねぇと思うけど――今訳あって外に出れねぇ紫衛來の妹を含めた九人でやっていくつもりだ。まっ、教えといてやるよ。」
彼の眼差しは赤く輝いていて眩しかった。
「とりあえず、本当に、色々ありがとなっ。」
そして、彼の後ろ姿は本当に凛々しかった。
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