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4章~怪盗《ℋ𝑜𝓇𝓈𝑒》参上~
大怪盗ye-one④
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十一月二十一日、名古屋市科学館。
宝石のある部屋に入室する。遅れて三人がやって来た。
「琉己、前はありがとな。今日は気張らせて貰うぜ。頑張ろうな。」明るく話しかけてきた。
「緊張感も忘れずに持ち合わせて下さいよ。」
二人は持ち場へと着いた。
もう一人は宝石がある機械に近くにいた。
モタローの「このガラス、耐久性はそこそこ程度ありそうだねぇ。けど、防犯ガラス程の耐久性はなさそうだ」に反応し、この宝石についての説明をし始めた。最後に「お初にかかるね。私はこの『エメラルドクリスタル』の開発リーダーを務めた日午颯馬という者だ。実は宝石の所有権の半分を持っている。悪用されないよう、この宝は誰の手にも渡ってはいけないのだ。本日は怪盗の手に渡るのを死守して頂きたい。よろしく頼むよ」と言葉を閉めた。
彼について、知りたい関係性についての情報があった。
流れは掴めていないが、無理にでも差し込んでいく。
「こちらこそよろしくお願いします。僕は以前『龍の宮』に潜入していたことがありました。僕はそこの幹部になったのですが、同じく幹部に研究者の嘴平亥という方がいまして。彼が日午博士のことを知っていると耳にしましてね。」
その人物に反応した。
真剣な顔をしている。
「あやつこそ『エメラルドクリスタル』を手にしてはいけない人間の筆頭だ。研究初期の時は一緒に『エメラルドクリスタル』について研究してきたのだが、亥の危険すぎる思想に研究から遠ざけたが故に、自ら辞して行った。」
「危険すぎる思想?」
「あやつの博士論文――研究分野を知っておるか。研究内容は『爆発について』だ。これは直接聞いた話。奴は『爆発』に取り憑かれておったようだ。友達付き合いが悪く、運動で目立つこともない。影に埋もれているタイプだった。そんな奴の趣味が『爆発』だったそうだ。最初は花火から始まり、スプレーライターや爆竹、ガス、そんな危険な趣味に没頭してきたらしい。あやつは、一つのことにのめり込むタイプだったのだ。」
トーンが段々と下がっているのが分かる。
「頭は良かった。何より私のゼミや教義では真剣かつ好成績だったのだ。話を戻すが『エメラルドクリスタル』は圧縮の原理が用いられる。その原理には『爆発』という知識が必要なのだった。奴は最終的に私の助教ともなり、共に働いた。その際に『爆発』の知識が著しい奴にも手伝って貰っていたのだ。ただ、奴の本性が現れ始めた。『エメラルドクリスタル』には圧縮が必要不可欠。その圧縮と逆の拡大は紙一重。あやつは『エメラルドクリスタル』の制作過程で、圧縮と拡大を用いた強烈な爆弾を考え始めたのだ。『エメラルドクリスタル』を悪用すれば、容易く核爆弾級の威力の爆弾を量産できる算段。そのあまりにも危険すぎる思想に気付き、研究メンバーから外した。二年ほど前の話だ。そこからは助教の職を捨て、今では何をしてるか分からなかったがな……。」
真剣な言葉が一つ一つ紡がれている。
彼と亥との関係性。現在は離れてしまったことが分かってきた。
「今、あやつは何をしている?」
横から言葉が挟まれた。
「嘴平さんはアトム会社の管理職をしていますよ。」冷たい女性の声だった。
扉の前から話されていく。
「彼、同じ研究仲間だったのですね。拡大解釈になりそうですが、嘴平さんにも『エメラルドクリスタル』を活用する権利があるのではないでしょうか。少なくとも研究に携わったものとして。」
「駄目だ。絶対に駄目なのだ。何故、『エメラルドクリスタル』の所有権が二人なのか分かるかね? 善悪のつかぬ鹿内豪羽がおぬしみたいな言伝に騙され、簡単に宝石を渡さぬようにするためなのだ。無理を言って、強引にでも所有を主張したのは『エメラルドクリスタル』は邪気者に渡ってはいけないものであるからなのだ。」
強めの口調で断言した。
その後は、静かな空間となった。
何とも言えない雰囲気の中、警部と鹿内博士が入室した。
「おっほっ。この度は本当によく来てくれた。もう既に聞き飽きた事だと思うが、今日はそこに飾られた『エメラルドクリスタル』をあの怪盗エーワンが盗みに来ると予告状を授かっている。」
折り畳みの椅子に座る彼が話していく。
聞き覚えのある話をし終え、再び静かな空間に戻った。
電気が消えた。暗闇となった。
「レディース&ジェントルマン。皆様、ショーの前に注意事項。周りにガラスの破片が飛び散って降りますので、怪我をしないよう動かずに待機して下さい。」その声の後、硝子張りのケースが破裂し、ガラス片が周りに散らばる。鹿内博士が「痛い」と悲鳴を上げ、どよめいていた。
そこにスポットライトがつく。
円状の光の中にいるシルエット。怪盗エーワンだ。彼は「今宵の月は美しい。花鳥風月。秋の風が落ち着いて、代わりに透き通る冬の月が現れる。この月下には魔法みたいな宝石が良く似合う。『エメラルドクリスタル』は確かに頂戴した。アウフ・ヴィーダーセーエン、幸運を祈ろう、良い一日よ。」と言い放っては消えた。
それと同時に光が復旧した。
とっくに『エメラルドクリスタル』はそこにはなく、周りはガラス片が散らばっていた。
前回はすぐにアトム社長の奥川優が突入してきたが、今回はそのばかりではない。扉はまだ開かれていなかった。
「いやぁ、扉は開かれなかったはずだよねぇ。あまりにも厳重な扉は開くと音が響く。だのに、音は聞こえなかったよねぇ。」
彼の推理が場を支配していく。
「つまり、どういうことだ……。」
「この中に怪盗エーワンが潜んでいるということですね」と、助手らしく補足をした。
それを聞いた鹿内博士は落ちてるガラス片を蹴りながら進み、折り畳みの椅子を手に持って、真ん中の機械に残っていた尖ったガラスの破片にぶつけた。
一通り破壊すると、顔を中に入れ、下と上を眺める。その後、手で触れて確認する。
「この中には隠れていないようだ。ここから通じる穴なんか人間が通れる隙間じゃない。」
さらに、壁付近の機械も確認する。
「やはり、どこにも隠れちゃぁいない。ということは――」「怪盗エーワンはこの中にいるということですね。」「おーい。それワシのセリフ。」
密室と化した部屋。
誰も出ていった形跡などはない。
誰かが怪しい。疑心暗鬼に周りを見ていく。扉の前に立ちはだかるゴリと佐凪惠。飄々と立っている日午博士。モタローは扉横の機械の前で屈んでいる。頭を地に着けて尻を突き出す感じで屈んでいる。とてつもなく怪しい行動。
「何してるんです?」
「もしかすると、ここら辺に――」そこまで喋ると「おっ」と言って機械の中に手を入れ始めた。何かに気づいたようだ。
そこから出てきた手には何かを二つ持っていた。懐中電灯のようなものと、象られた小さなスタンドだ。
「見つけたよ。先程、現れた怪盗エーワンの正体をね。」
スタンドを置く。そこに向かって懐中電灯みたいなものを照らした。
電気がついているために薄らとしか見えないが、確かに怪盗エーワンのシルエットとそれを囲んだ光の円が現れた。ただ、若干小さく見える。
「つまり、この型に光源を当てれば、さっきみたいなシルエットを映し出せるのさ。こんなに小さくても距離さえ調整すれば、暗闇の中に現れたシルエットを映せるのさ。」
簡単な仕組みだった。中学生の理科で習うような仕組みだ。それで像を作り出していただけだったようだ。
「音声もどこかに隠されているんじゃないかな。」
これによって、暗闇の中に現れたシルエットと声の正体は掴めそうだった。だが。
「じゃあ、怪盗エーワンはいなかったってことかしら?」独り言のように呟きながら問う。
「それは分からないよ。今の解説じゃ、ガラスを割ったこと、『エメラルドクリスタル』を盗んだことについては、説明つかないからね。」
まだ緊張感は続くようだ。
一体誰の仕業なのか。
生温いガラスの破片が周りに飛び散っていたねぇ。なのに、プレイヤーXが取り出すまで宝石は無事だった。そんなモタローの言葉が思い出されていく。
ガラスの破片を拾う。生温いというよりはちょっとだけひんやりする感じだ。破片の形はバラバラだ。
「ひとまず荷物を確認させて頂いでもよろしいでしょうか。」
警備員によって近辺荷物の確認がされていく。
一方で顔を機械の中に入れている探偵もいる。
そんな時だった。「これはっ」と大きく声が上がったのだ。
黒いリュックから取り出される箱。箱の蓋が開かれるとそこから冷気が出てきた。その中を傾けると宝石がチラリと見えた。
「これ『エメラルドクリスタル』ではないでしょうか。」
女性の手が宝石に触れようとする。
すぐに「やめたまえ」と力のない声が響いた。
「『エメラルドクリスタル』は崩れやすいのだ。冷えた場所ではないと簡単に砕けてしまう。」
それを聞いて、箱は下ろされた。
ただ、そこで話は終わらない。
「どうして、このリュックから怪盗エーワンが盗んだと思われる『エメラルドクリスタル』が出てきたのでしょうか。これは一体誰のリュックでしょう。」
修羅場みたいな険悪な雰囲気が広がる。
間が悪いのか、扉が開き始めた。外で警備員が待機している。また、そこには奥川優もいた。
その状況下でも追跡は続く。
「これは日午博士のリュックではないでしょうか。貴方がこの部屋に持ち運ぶ姿を覚えています。」
「まあ、私のだ。私のなんだが、ただ、それが入っているのは、私は知らないぞ。」
「ふと思うのですが、何故こんなリュックを持ち運んだのでしょうか。中身はほとんど入っていませんね。元々、『エメラルドクリスタル』を運ぶために持ち運んだのではないのでしょうか。」
「違う。それは私がいつも使っているリュックなのだ。関係ない。」
「言い訳ではないでしょうか。」
怪しむ彼女に対して、後手に回る博士。どうしても博士が不利に見える。
人の視線が増えている。
今度は鹿内博士が乱入してきた。
「どういうことだ。日午さん。お前が何故『エメラルドクリスタル』を持っている。もしや――」そしてデカデカと「お前が怪盗エーワンだったのか」と部屋に響かせた。
扉の外がザワついている。
未だに証拠を探し続けている一人を除いて、全ての視線が彼に向けられた。
「一度、別の部屋でお話しましょう。私めも何があったのか確認したい所ですので。」
オドオドした様子でたじろぐ姿。
近くに向かい「日午博士。一旦、別の部屋に移動しましょっか」と彼を立ち上がらせた。中学生時代から少し強引な所は変わらないと感じた。
そのまま連れられて行かれる。
連行された後のその部屋は静かになっていた。
「本日はありがとな。意外な形ではあったがな、怪盗エーワンをとっ捕まえることができた。」
その言葉が放たれることで解散の彷徨が広がった。この場から去らざるを得ない雰囲気となる。さらには、警備員がぞろぞろと入り、自由に動けなくなったのだ。
「俺は窃盗の容疑のある日午颯馬の元へ向かう。お前らの力は借りはしたかったが、ちゃんとした貸しとして受け取ってくれよ。」
警部と別となる。
二つは星空が美しい夜道を歩いて行った。
静寂な公園に凩が吹いていく。
「本当に怪盗エーワンの正体は日午博士だったのか。ルイン君はどう思う?」
突然問われる。その意図は組めなかった。
「僕はその可能性もあるとは思いました。ただ、彼もまた『エメラルドクリスタル』を所有している身としてわざわざ盗む必要があるのか、という疑問は残りますけどね。」
「そこなんだよ。所有権は半分ずつ。それを丸ごと自分の物にする。それだけなら、わざわざこんな大層な仕組みをする必要はないんだよ。だからこそ、他に理由がないと厳しいよねぇ。」
動機が弱すぎる。
やはり、彼は怪盗エーワンではなかったのでは。そう考えられる。
「ただ、怪盗エーワンが彼だとすると繋がる点があるんだよねぇ。彼の身長は世に言われている身長の許容内。それに体格や髪型はシルエットと照らし合わせるとちゃーんと重なっているんだよ。AI音声だって彼の声が元になっている気もするからね。」
風の風向きが変わってきた。
「そもそも名称"エーワン"の綴りを知っているかい。世間は"ye-one"と認知しているが、実際は"𝓗𝓸𝓻𝓼𝓮"――カーシブテキストの"Horse"。つまり、馬を意味してるのさ。」
「つまり、怪盗エーワンではなくて、実際は怪盗"馬"だったということですか?」
「馬呼びは呼びにくいしダサいから怪盗"ホース"じゃないかな。そして、日午博士の下の名前は颯馬。ちゃっかりと馬という字が入っているんだよねぇ。」
前言撤回。やはり、彼が怪盗エーワンだという可能性が出てきた。
「何にしてもここまで繋がることはあるのかな。少しできすぎてる。そんな感覚を受けるね。」
車へと乗り込んだ。
もし彼が捕まれば、このまま時間が少し進んでから図書館に戻されることになる。すぐに戻されれば、何かが違うということだ。
車内において意味深な発言が繰り出された。
「実はね、怪盗エーワンの正体を薄々感じ取っているんだよ。まあ、判断材料が少ないから何とも言えないけどね。しかし、君ももう一人前になっていい時期だ。君の言っていたテロ事件はもう数ヶ月で起きてしまうと聞いてる。その事件に立ち向かうためにも、ルイン君は半人前のままじゃ駄目なんじゃないかな。だからこそ、今回は、俺はヒントは出すけど答えは導かない。今回の件は、ルイン君。君が解き明かすんだよ。」
そうこの事件を解き明かすのは彼ではなく彼であった。いつまでも頼ってばかりにはいられない。
「もし今回の件が間違いだとしたら――。このヒントを覚えておくといいよ。"怪盗エーワンは誰か"を解き明かすのではなくて、その"事件の真相は何か"を解き明かすのだということを、ね。」
そこに「これが学校だったら『ここテストに出るぞ』って言われるポイントだ。覚えておいて、損はないんじゃないかな」と追加した。
夜更けがやってきた。
答え合わせの時だ。
ルインは――無色の図書館へと戻っていた。
宝石のある部屋に入室する。遅れて三人がやって来た。
「琉己、前はありがとな。今日は気張らせて貰うぜ。頑張ろうな。」明るく話しかけてきた。
「緊張感も忘れずに持ち合わせて下さいよ。」
二人は持ち場へと着いた。
もう一人は宝石がある機械に近くにいた。
モタローの「このガラス、耐久性はそこそこ程度ありそうだねぇ。けど、防犯ガラス程の耐久性はなさそうだ」に反応し、この宝石についての説明をし始めた。最後に「お初にかかるね。私はこの『エメラルドクリスタル』の開発リーダーを務めた日午颯馬という者だ。実は宝石の所有権の半分を持っている。悪用されないよう、この宝は誰の手にも渡ってはいけないのだ。本日は怪盗の手に渡るのを死守して頂きたい。よろしく頼むよ」と言葉を閉めた。
彼について、知りたい関係性についての情報があった。
流れは掴めていないが、無理にでも差し込んでいく。
「こちらこそよろしくお願いします。僕は以前『龍の宮』に潜入していたことがありました。僕はそこの幹部になったのですが、同じく幹部に研究者の嘴平亥という方がいまして。彼が日午博士のことを知っていると耳にしましてね。」
その人物に反応した。
真剣な顔をしている。
「あやつこそ『エメラルドクリスタル』を手にしてはいけない人間の筆頭だ。研究初期の時は一緒に『エメラルドクリスタル』について研究してきたのだが、亥の危険すぎる思想に研究から遠ざけたが故に、自ら辞して行った。」
「危険すぎる思想?」
「あやつの博士論文――研究分野を知っておるか。研究内容は『爆発について』だ。これは直接聞いた話。奴は『爆発』に取り憑かれておったようだ。友達付き合いが悪く、運動で目立つこともない。影に埋もれているタイプだった。そんな奴の趣味が『爆発』だったそうだ。最初は花火から始まり、スプレーライターや爆竹、ガス、そんな危険な趣味に没頭してきたらしい。あやつは、一つのことにのめり込むタイプだったのだ。」
トーンが段々と下がっているのが分かる。
「頭は良かった。何より私のゼミや教義では真剣かつ好成績だったのだ。話を戻すが『エメラルドクリスタル』は圧縮の原理が用いられる。その原理には『爆発』という知識が必要なのだった。奴は最終的に私の助教ともなり、共に働いた。その際に『爆発』の知識が著しい奴にも手伝って貰っていたのだ。ただ、奴の本性が現れ始めた。『エメラルドクリスタル』には圧縮が必要不可欠。その圧縮と逆の拡大は紙一重。あやつは『エメラルドクリスタル』の制作過程で、圧縮と拡大を用いた強烈な爆弾を考え始めたのだ。『エメラルドクリスタル』を悪用すれば、容易く核爆弾級の威力の爆弾を量産できる算段。そのあまりにも危険すぎる思想に気付き、研究メンバーから外した。二年ほど前の話だ。そこからは助教の職を捨て、今では何をしてるか分からなかったがな……。」
真剣な言葉が一つ一つ紡がれている。
彼と亥との関係性。現在は離れてしまったことが分かってきた。
「今、あやつは何をしている?」
横から言葉が挟まれた。
「嘴平さんはアトム会社の管理職をしていますよ。」冷たい女性の声だった。
扉の前から話されていく。
「彼、同じ研究仲間だったのですね。拡大解釈になりそうですが、嘴平さんにも『エメラルドクリスタル』を活用する権利があるのではないでしょうか。少なくとも研究に携わったものとして。」
「駄目だ。絶対に駄目なのだ。何故、『エメラルドクリスタル』の所有権が二人なのか分かるかね? 善悪のつかぬ鹿内豪羽がおぬしみたいな言伝に騙され、簡単に宝石を渡さぬようにするためなのだ。無理を言って、強引にでも所有を主張したのは『エメラルドクリスタル』は邪気者に渡ってはいけないものであるからなのだ。」
強めの口調で断言した。
その後は、静かな空間となった。
何とも言えない雰囲気の中、警部と鹿内博士が入室した。
「おっほっ。この度は本当によく来てくれた。もう既に聞き飽きた事だと思うが、今日はそこに飾られた『エメラルドクリスタル』をあの怪盗エーワンが盗みに来ると予告状を授かっている。」
折り畳みの椅子に座る彼が話していく。
聞き覚えのある話をし終え、再び静かな空間に戻った。
電気が消えた。暗闇となった。
「レディース&ジェントルマン。皆様、ショーの前に注意事項。周りにガラスの破片が飛び散って降りますので、怪我をしないよう動かずに待機して下さい。」その声の後、硝子張りのケースが破裂し、ガラス片が周りに散らばる。鹿内博士が「痛い」と悲鳴を上げ、どよめいていた。
そこにスポットライトがつく。
円状の光の中にいるシルエット。怪盗エーワンだ。彼は「今宵の月は美しい。花鳥風月。秋の風が落ち着いて、代わりに透き通る冬の月が現れる。この月下には魔法みたいな宝石が良く似合う。『エメラルドクリスタル』は確かに頂戴した。アウフ・ヴィーダーセーエン、幸運を祈ろう、良い一日よ。」と言い放っては消えた。
それと同時に光が復旧した。
とっくに『エメラルドクリスタル』はそこにはなく、周りはガラス片が散らばっていた。
前回はすぐにアトム社長の奥川優が突入してきたが、今回はそのばかりではない。扉はまだ開かれていなかった。
「いやぁ、扉は開かれなかったはずだよねぇ。あまりにも厳重な扉は開くと音が響く。だのに、音は聞こえなかったよねぇ。」
彼の推理が場を支配していく。
「つまり、どういうことだ……。」
「この中に怪盗エーワンが潜んでいるということですね」と、助手らしく補足をした。
それを聞いた鹿内博士は落ちてるガラス片を蹴りながら進み、折り畳みの椅子を手に持って、真ん中の機械に残っていた尖ったガラスの破片にぶつけた。
一通り破壊すると、顔を中に入れ、下と上を眺める。その後、手で触れて確認する。
「この中には隠れていないようだ。ここから通じる穴なんか人間が通れる隙間じゃない。」
さらに、壁付近の機械も確認する。
「やはり、どこにも隠れちゃぁいない。ということは――」「怪盗エーワンはこの中にいるということですね。」「おーい。それワシのセリフ。」
密室と化した部屋。
誰も出ていった形跡などはない。
誰かが怪しい。疑心暗鬼に周りを見ていく。扉の前に立ちはだかるゴリと佐凪惠。飄々と立っている日午博士。モタローは扉横の機械の前で屈んでいる。頭を地に着けて尻を突き出す感じで屈んでいる。とてつもなく怪しい行動。
「何してるんです?」
「もしかすると、ここら辺に――」そこまで喋ると「おっ」と言って機械の中に手を入れ始めた。何かに気づいたようだ。
そこから出てきた手には何かを二つ持っていた。懐中電灯のようなものと、象られた小さなスタンドだ。
「見つけたよ。先程、現れた怪盗エーワンの正体をね。」
スタンドを置く。そこに向かって懐中電灯みたいなものを照らした。
電気がついているために薄らとしか見えないが、確かに怪盗エーワンのシルエットとそれを囲んだ光の円が現れた。ただ、若干小さく見える。
「つまり、この型に光源を当てれば、さっきみたいなシルエットを映し出せるのさ。こんなに小さくても距離さえ調整すれば、暗闇の中に現れたシルエットを映せるのさ。」
簡単な仕組みだった。中学生の理科で習うような仕組みだ。それで像を作り出していただけだったようだ。
「音声もどこかに隠されているんじゃないかな。」
これによって、暗闇の中に現れたシルエットと声の正体は掴めそうだった。だが。
「じゃあ、怪盗エーワンはいなかったってことかしら?」独り言のように呟きながら問う。
「それは分からないよ。今の解説じゃ、ガラスを割ったこと、『エメラルドクリスタル』を盗んだことについては、説明つかないからね。」
まだ緊張感は続くようだ。
一体誰の仕業なのか。
生温いガラスの破片が周りに飛び散っていたねぇ。なのに、プレイヤーXが取り出すまで宝石は無事だった。そんなモタローの言葉が思い出されていく。
ガラスの破片を拾う。生温いというよりはちょっとだけひんやりする感じだ。破片の形はバラバラだ。
「ひとまず荷物を確認させて頂いでもよろしいでしょうか。」
警備員によって近辺荷物の確認がされていく。
一方で顔を機械の中に入れている探偵もいる。
そんな時だった。「これはっ」と大きく声が上がったのだ。
黒いリュックから取り出される箱。箱の蓋が開かれるとそこから冷気が出てきた。その中を傾けると宝石がチラリと見えた。
「これ『エメラルドクリスタル』ではないでしょうか。」
女性の手が宝石に触れようとする。
すぐに「やめたまえ」と力のない声が響いた。
「『エメラルドクリスタル』は崩れやすいのだ。冷えた場所ではないと簡単に砕けてしまう。」
それを聞いて、箱は下ろされた。
ただ、そこで話は終わらない。
「どうして、このリュックから怪盗エーワンが盗んだと思われる『エメラルドクリスタル』が出てきたのでしょうか。これは一体誰のリュックでしょう。」
修羅場みたいな険悪な雰囲気が広がる。
間が悪いのか、扉が開き始めた。外で警備員が待機している。また、そこには奥川優もいた。
その状況下でも追跡は続く。
「これは日午博士のリュックではないでしょうか。貴方がこの部屋に持ち運ぶ姿を覚えています。」
「まあ、私のだ。私のなんだが、ただ、それが入っているのは、私は知らないぞ。」
「ふと思うのですが、何故こんなリュックを持ち運んだのでしょうか。中身はほとんど入っていませんね。元々、『エメラルドクリスタル』を運ぶために持ち運んだのではないのでしょうか。」
「違う。それは私がいつも使っているリュックなのだ。関係ない。」
「言い訳ではないでしょうか。」
怪しむ彼女に対して、後手に回る博士。どうしても博士が不利に見える。
人の視線が増えている。
今度は鹿内博士が乱入してきた。
「どういうことだ。日午さん。お前が何故『エメラルドクリスタル』を持っている。もしや――」そしてデカデカと「お前が怪盗エーワンだったのか」と部屋に響かせた。
扉の外がザワついている。
未だに証拠を探し続けている一人を除いて、全ての視線が彼に向けられた。
「一度、別の部屋でお話しましょう。私めも何があったのか確認したい所ですので。」
オドオドした様子でたじろぐ姿。
近くに向かい「日午博士。一旦、別の部屋に移動しましょっか」と彼を立ち上がらせた。中学生時代から少し強引な所は変わらないと感じた。
そのまま連れられて行かれる。
連行された後のその部屋は静かになっていた。
「本日はありがとな。意外な形ではあったがな、怪盗エーワンをとっ捕まえることができた。」
その言葉が放たれることで解散の彷徨が広がった。この場から去らざるを得ない雰囲気となる。さらには、警備員がぞろぞろと入り、自由に動けなくなったのだ。
「俺は窃盗の容疑のある日午颯馬の元へ向かう。お前らの力は借りはしたかったが、ちゃんとした貸しとして受け取ってくれよ。」
警部と別となる。
二つは星空が美しい夜道を歩いて行った。
静寂な公園に凩が吹いていく。
「本当に怪盗エーワンの正体は日午博士だったのか。ルイン君はどう思う?」
突然問われる。その意図は組めなかった。
「僕はその可能性もあるとは思いました。ただ、彼もまた『エメラルドクリスタル』を所有している身としてわざわざ盗む必要があるのか、という疑問は残りますけどね。」
「そこなんだよ。所有権は半分ずつ。それを丸ごと自分の物にする。それだけなら、わざわざこんな大層な仕組みをする必要はないんだよ。だからこそ、他に理由がないと厳しいよねぇ。」
動機が弱すぎる。
やはり、彼は怪盗エーワンではなかったのでは。そう考えられる。
「ただ、怪盗エーワンが彼だとすると繋がる点があるんだよねぇ。彼の身長は世に言われている身長の許容内。それに体格や髪型はシルエットと照らし合わせるとちゃーんと重なっているんだよ。AI音声だって彼の声が元になっている気もするからね。」
風の風向きが変わってきた。
「そもそも名称"エーワン"の綴りを知っているかい。世間は"ye-one"と認知しているが、実際は"𝓗𝓸𝓻𝓼𝓮"――カーシブテキストの"Horse"。つまり、馬を意味してるのさ。」
「つまり、怪盗エーワンではなくて、実際は怪盗"馬"だったということですか?」
「馬呼びは呼びにくいしダサいから怪盗"ホース"じゃないかな。そして、日午博士の下の名前は颯馬。ちゃっかりと馬という字が入っているんだよねぇ。」
前言撤回。やはり、彼が怪盗エーワンだという可能性が出てきた。
「何にしてもここまで繋がることはあるのかな。少しできすぎてる。そんな感覚を受けるね。」
車へと乗り込んだ。
もし彼が捕まれば、このまま時間が少し進んでから図書館に戻されることになる。すぐに戻されれば、何かが違うということだ。
車内において意味深な発言が繰り出された。
「実はね、怪盗エーワンの正体を薄々感じ取っているんだよ。まあ、判断材料が少ないから何とも言えないけどね。しかし、君ももう一人前になっていい時期だ。君の言っていたテロ事件はもう数ヶ月で起きてしまうと聞いてる。その事件に立ち向かうためにも、ルイン君は半人前のままじゃ駄目なんじゃないかな。だからこそ、今回は、俺はヒントは出すけど答えは導かない。今回の件は、ルイン君。君が解き明かすんだよ。」
そうこの事件を解き明かすのは彼ではなく彼であった。いつまでも頼ってばかりにはいられない。
「もし今回の件が間違いだとしたら――。このヒントを覚えておくといいよ。"怪盗エーワンは誰か"を解き明かすのではなくて、その"事件の真相は何か"を解き明かすのだということを、ね。」
そこに「これが学校だったら『ここテストに出るぞ』って言われるポイントだ。覚えておいて、損はないんじゃないかな」と追加した。
夜更けがやってきた。
答え合わせの時だ。
ルインは――無色の図書館へと戻っていた。
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