タイムリープミステリー『ルインと人生図書館』

ふるなゆ☆

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4章~怪盗《ℋ𝑜𝓇𝓈𝑒》参上~

大怪盗ye-one⑥

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 十一月二十一日、名古屋市科学館の地下二階。そこに七人が揃っている。扉は固く閉ざされ、まさに密室となった部屋。
 部屋は突如真っ暗闇になり「レディース&ジェントルマン」の掛け声で始まる怪盗エーワンの謳い文句。そして、扉側に置かれた機械の下にあるスポットライト。それによって映し出されるシルエット。どこからか鳴るAI音声。一連の流れが終わると否や、ガラス片が散乱する部屋へと変わっていた。
「いやぁ、扉は開かれなかったはずだよねぇ。あまりにも厳重な扉は開くと音が響く。だのに、音は聞こえなかったよねぇ。」
 そこから、この中に怪盗エーワンがいる、という状況下に陥った。誰もが疑心暗鬼となる中、人先早く声を上げたのがゴリだった。
「とりあえず荷物を確認しないか」と発言。
 それによって荷物を確認していくと、日午のリュックから箱が取り出された。その中には『エメラルドクリスタル』が入っており、それを見て壊れるから箱に戻すようにと日午は伝えた。
「どういうことだ。日午さん。お前が何故『エメラルドクリスタル』を持っている。もしやお前が怪盗エーワンだったのか。」
 誰もが日午を怪しむ中、探偵組においては違っていた。一人はスポットライトと影絵の素材を見つけ出した。そして、「日午博士が怪盗だと決まった訳じゃありませんよね」と放たれる。
「例えば、そのリュックに入れ、持ち運ばれるのを見越して、運ばれた後に回収することだってできると思います。彼と断定するには早計だと思いますよ。」
 彼が犯人だと疑われ、そのまま彼を怪しんだ結果、過去改変に失敗した。だからこそ、その考えが浮かんできたのである。「じゃあ、誰なんだ?」と問われるが、答えられない。
「誰かに成りすましているとか、か?」
 その言葉に皆が反応した。
「何を言い出すかと思ったら。剛力さん、真剣に仕事に打ち込んで下さい。」
「いやいや、先輩。真面目ですぜ。ほら、怪盗って変装して誰かに成りすますイメージがありません?」
「そう言われて見れば……あるわね。じゃあ、変装を解くために――」そこにモタローが「顔を抓ればいいのかい?」と挟んだ。
 それならお安い御用だよ、と彼は鹿内博士の目前に立った。そして、両方の頬を手で挟んだ。あまりの急な行動に驚かれている。
「上、上、下、下。横、横。ぐるぐるぐる~ちょんっ。」抓ったまま上に上げたり、下に下げたり、横に引っ張ったり、最後はぐるりと回して、洗濯バサミを取るかのようにパチンと離す。
「おま、お前、楽しんでないか?」
「ご名答。流石だよ。この俺が楽しんで抓っていたなんて見抜くなんて。」
「こ、このぅ」とモタローもまた頬で遊ばれていた。
 二人とも偽物ではないようだった。
「すみません。御無礼、失礼します。」
 少し乱雑に頬を抓られる日午博士。彼は偽物ではなかったようだ。その成り行きで抓る側に回るが、彼女もまた偽物ではなかった。
 警部もまた抓られる。警部がゴリを抓る。
 この場は奇数のため、一人残されていた。それを見たゴリは「ルインだけ取り残されちゃったな。安心しろ。俺が抓ってやる」と頬を抓ってきた。
 この場にいる全員が本物という証拠だけが残された。
「全員、本物のようです。ご協力ありがとうございます。」
「やっぱり、怪盗エーワンの正体は日午博士なんじゃねぇかな。成りすましじゃないんなら、もうリュックに盗んだものを隠し入れてた日午博士しかいないんじゃねぇか。」
 探偵みたいに推理を決める警備員。
 それを見て「ルイン君。どう思う?」と聞かれた。その表情は試しているような表情だ。
「僕は日午博士ではないと思います。何か見落としているような気がするんです。」素直に答えた。
「いいねぇ。もう少しで解き明かせそうだねぇ。」余裕そうな表情だ。
 それを見て「お前さん。お前さんは正体が分かったのか」と頭を掻きながら呟かれた。
「今回、俺はこの事件を解き明かさないんだ。すまないねぇ、鬼怒川警部。」
「おいおい。どういうことだ。」
「今回、この事件を解き明かすのは助手のルイン君さ。彼には一人前の探偵になって貰わないといけないからねぇ。」
「大丈夫なのか?」
「きっと大丈夫さ。何度も何度も繰り返してでも、必ず解き明かしてくれるはずさ。繰り返すうちに様々な事実が点として増え続きている。後はそれを線で結んでいくだけさ。」
 探偵モタローは繰り返すことなどなく、その事件に居合わせただけで重要な点を幾つも見つけ出して、集めた点を結び、答えと辿りつける。
 しかし、ルインは彼と違って、点を集めきれない。そのせいで答えと繋がる線を引けない。だが、神は彼に大きなチャンスを与えていた。何度も繰り返す中で、多様な見方から新たな点を見出す。この事実についても、見つけ出した多くの点がバラけて存在している。後は答えに繋がる線を引くだけ。
「思い出すんだ。過去に言われたモタローさんのヒントを。まず『"怪盗エーワンは誰か"を解き明かすのではなくて、その"事件の真相は何か"を解き明かすのだということ』という点。」
 つまり、怪盗探しに意識を囚われてはいけないということ。事件の真相解明のために、現象に目を向ける。
「それと『それぞれの人間の関係性が判断材料になる』可能性がある。」
 今までに洗い出した関係性を整理していく。ルインとゴリの中学生時代の旧友。ゴリと佐凪惠の警備員ペア。警備会社アトムと亥。日午博士と亥。日午博士と鹿内博士。それぞれの関係性が結ばれていく。
「最後に『生温いガラスの破片が周りに飛び散っていたねぇ。なのに、プレイヤーXが取り出すまで宝石は無事だった』こと。」
 真ん中の機械と飛び散ったガラスの破片を見た。このヒントはつまり、この状況に違和感があると言うこと。さらに、宝石が無事ということにも意味がある。
 どうしてガラスを生温いと言ったのか。
 どうして破片が外側にも広がっているのか。
 どうしてこんな悲惨な現状なのに宝石は無事なのか。
「そういうことなんだね。」ここで点と点が結ばれ、真実への糸口が見つかった。
「ん? もしや分かったのか。怪盗エーワンの正体が。」
「えぇ。導き出せました。」
「いいねぇ。聞かせて貰えないかな。」
 プシュウ。扉が開いていく。異変を察知した警備員らが外で待機している。その中央には社長も直々にやって来ていた。
 そんな状況にも関わらずルインは一目怪盗エーワンの人物に向けて体を向けた。人差し指で突き刺すように指すのも申し訳なく、指紋のある腹を上側にして人差し指を真っ直ぐと向けた。
 その先にいたのは――鹿内豪羽である。
 そこにいた人々はその方向を向いた。警備員の方々もそちらを向く。
「おいおい。ワシかい。ワシは今回の主催者だ。所有者だぞ。どうしてわざわざ盗む必要がある。」
「では、盗んだ犯人は誰なのでしょうか。あなたは日午博士を怪しんでいましたね。」
「当たり前だろ。そのリュックから出てきたんだ。怪しむのは当然だ。」
「では、日午博士が犯人だと仮定して、彼が盗むための根拠はあるのでしょうか? 彼もまた所有者だったはず――。」
「あるだろう。そもそもそれはアイツは無理やり所有を主張したんだ。完全に自分の物にするために盗んだんだ。」
「それはあなたも同じでしょう。」
 少し苛立ちを見せ始めている。
 そんな姿を横目にくるっと後ろの方を見た。
「もちろん。一人での仕業とは思っていません。協力者がいたはずです。そうでしょう、奥川社長――。」
 突然視線が集まり、目を瞑り、目を開く。観念したのかゆっくりと口を動かす。
「流石ですね。その通りです。まさか見破られるとは、思いもしませんでした。」
 それを聞いて「何で言ってしまうんだ」と荒らげながら、手に持っていたサングラスを投げ捨てた。サングラスはただのサングラスではないようで中から部品が外れてバラバラになっていた。それはつまり、このことは間違いありません、と言っているようなものだ。
「おいおい、どうなってる。話が掴めんぞ」と警部。
「見ての通りだよ。全て仕組まれていたのさ。日午博士を貶める作戦のね。」
 誰もがその場から動けずにいる。
「あはは。そういうことかい。相変わらず強欲で傲慢で強引だな。」
 貶められそうになった彼はちょうど背中向きで表情が見えなかった。
「私がこの件で不祥事を起こせば、『エメラルドクリスタル』の所有はおぬし一人の物になるし、その研究実績の第一人ともなれる。如何におぬしらしい作戦だの。」
「くそぅ。このためだけに怪盗エーワンの噂を広めるのにどれだけ苦労したことか。全てを水の泡としおって~。」
 もはや一目瞭然。今回の事件の正体が目に見えて分かる。
「鹿内殿を捕まえるのかい?」
「いや、今回はスルーだ。業務執行妨害で取り締まりたいが、個人的に護衛に来たんだ。そんな無茶をする気はない。」
「じゃあ、彼を取り締まるためにはアレしかないね。」そう言うと、日午博士の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「この件は刑事事件で受理されないみたいだ。未遂に終わったけど、君は貶められかけた。まさに名誉毀損未遂だよ。もしこの件で彼にこの罪を背負わしたいのなら民事裁判しかない。もし良ければ良い弁護士でも紹介しようかい?」
 少し考えている。
 そして、話す相手を変えた。
「おぬし。こんな周りを巻き込んでこんな事件を起こしたのだ。『エメラルドクリスタル』を手放す覚悟はあるかの?」
「ちっ。手放せばこのことを無かったこととしてあつかうのか。」
「そうしても良い。強欲なおぬしにはうってつけの罰じゃろ。」
「ぐぬぅ。仕方あるまい。くれてやるっ。」
 独特な穏やかなトーンで笑っていた。
 優しい笑みを見せている。
「今回のことは水に流そう。もちろん、こんな馬鹿げたことを二度としないと契りは結んで貰うがの。」
「な、いいのか。」
「私だけが所有するのも心許ない。私も一人の人間だの。いつか気が狂い愚策で『エメラルドクリスタル』を手放すかも知れぬ。いいかの、『エメラルドクリスタル』は悪しき者に渡ってはならぬ。だからこそ、おぬしと私で所有することで誰にも渡らぬようにするのだ。お互いに制止しながら、悪しき者に渡らぬように管理したいんじゃ。」
「上から、ムカつく野郎だ。だが、その条件飲んでやらんでもない。」
「素直じゃないの。」
 二人だけのやんわりした空間が存在していた。
「全く人騒がせな。」警部からとんでもない量のため息が吐かれていた。
「しっかし、まだ腑に落ちないんだよな。どのように宝石を盗んだのか、まだ明らかになっていないしな。」
「それについては後日、我が事務所でゆっくりと説明致しましょうか?」
「そうだな。助かる。」
 二人で話が進んでいった。
 ルインの元にゴリがやってきた。
「流石だな。しっかし、よく分かったな。」
「モタローさんのヒントが後押ししてくれたんだ。もちろん、君のお陰でもあるんですよ。」
「俺、何かしたか?」
 頭を掻きながら笑っている。
「どうしても日午博士を犯人にしようと必死だったからですよ。それで思い出したんです。君が『奥川優は怪盗エーワンとは関係ない単なる凡人だ』って言っていたことが。」
 彼から笑顔が消えた。
「どうしても過去改変に失敗させたい君なら、嘘をついていると思ったんですよ。本当かどうか疑わしかったのですが、嘘だと断定した時に、点と点が結ぶようになったんです。いいヒントになりましたよ。」
「気付いてたか。やっぱり積極的に日午博士を犯人だと決めつけたのが悪かったのか。」
「違います。ゴリは僕のことを"ルイン"とは呼ばないからですよ、プレイヤーXさん。」
 彼は観念したようだ。
「そういや、アンタの名前、犬島……琉己って言うのか。船で犬島ルインと名乗ってたから、ずっとルインだと思い込んでしまった。」この人物から記憶を読み取ったのだろう。また、その後の船とは爆破テロの時だと予測された。
「何を話してるか分からないですけど、仕事戻りますよ。」彼は佐凪惠に連れて行かれた。
 残された部屋には無惨な姿のガラス片が散らばっていた。
「さて、せっかく科学館に来たのだから、プラネタリウムでも見て変えろうか。」
「何言ってるんです。今日は予告状の件もあって全館休止ですよ。」
「まっ、金持ちの無駄遣いの被害だな。諦めるしかないぞ。」
「そ、そんなぁ」と膝を着いて「痛ぁっ」とガラス片に触れて飛び上がった。
 床を踏む度に音が鳴る。
 その音が虚しく響き渡っていた。
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