タイムリープミステリー『ルインと人生図書館』

ふるなゆ☆

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4章~怪盗《ℋ𝑜𝓇𝓈𝑒》参上~

大怪盗ye-one⑧

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 身体と瞼が重い。動きたくても動けない。布団がゼリー状になり、沈んでいく感じがする。
 パッと目の前が廊下になった。見渡すと部屋が並ぶ廊下だ。そして、そこが船の上だということを悟らせる。
 ある一室から黒のフードを被った正体不明の人間が走り去っていく。「不審者が不審物を持ち込んだ。その不審物はこの豪華客船を丸ごと吹き飛ばす程の威力ある爆弾が入っている」という噂が響いている。
 隣にいたモタローは「俺は運命さだめ的に彼を追わなきゃいけないみたいなんだ。爆弾の方は任せたよ」と言って、正体不明の人間を追いかけた。
 つまり、一人で解かなければならない状況が生まれたのだ。
 いつの間にか綺麗に整備された狭い一室にいた。その部屋は騒々しい雰囲気に包まれている。その部屋には見覚えがあった。また、その場には五人が居合わせていた。
 そこでハッと気付く。これは爆破テロの日と同じ景色だと言うことに。
 パッと部屋の中に爆弾が存在していた。
 爆弾から声がする。その声の主は亥であった。その声に聞き覚えがあったのだ。その声はこの船ではない別の所から遠隔で話している。そして、「残念だったね」という一言が頭の中で巡る。
 目の前の爆弾が爆発した。
 それと同時に体が飛び上がり、すぐ落ちた。ベッドに威力が吸収されている。ほんの軽く透き通る色が混ざり始める早朝前。ルインは目を覚ましていた。


 *


 警部と待ち合わせた場所はあまり人のいない風変わりな喫茶店だった。軽く飲み物を頼む。
「お願いがあるんだろ。とりあえず言ってみな。」優しい口調だった。
 勇気を出す時だ。隣に彼がいることで背中が押されていく。
「まずお願いの前に、僕の秘密を聞いて貰ってもよろしいですか。正直、あまり信じられないかも知れないです。それ程、非現実的な話なんですけどね。」
 顔を少し前に出してきた。
 ちょうどその時に、烏龍茶、メロンソーダフロート、エスプレッソが出された。それぞれが一口目を啜り終える。
「実は僕は未来から来た人間なんです。」
「ほう。そいつは信じ難い話だが、まあ聞かせてくれ。」
「僕が来た未来では、来年の一月、タトルクルーズ号に乗るんです。そこで爆破テロに会ったんです。そして、そこで僕は死んだ……はずでした。しかし、僕にも分からない摩訶不思議な力が働いて過去を変えるために過去へと戻って来たのです。」
 エスプレッソを啜って息を整える。
 彼もまた烏龍茶で喉を潤していた。
「僕は何度も事件の解決まで過去に繰り返して戻っていました。俗に言うタイムリープです。信じられないかもしれませんが、今までに透明人間の仕業と言われていた事件、『龍の宮』の火事事件、幻の摩天楼での行方不明事件、そしてこの度の怪盗エーワンの事件。どれも何度もタイムリープして解決まで漕ぎ着けたものです。」
 メロンソーダの上にあるバニラアイスを食べ終え、ストローを使わずにどか飲みして、今氷を砕いている彼が補足をする。「俺はタイムリープしてないけどね、これだけは言えるんだ。これは本当だよ。ルイン君の言う事件では、知り得るはずもない情報を持ってきてくれたことが解決の糸口になったことが多々あるんだよ。タイムリープしてたとしか説明がつかないような情報をね。」
「それで難事件を容易く解決してきたって訳か。まあ、信じられはしないが、信じるしか無さそうだな。」
 彼はお茶で喉を潤してから再び口を開ける。
「何度もお前らの推理に助けられてきたんだ。信じないでどうするんだ、ってことだよ。」
 その話を受け入れたようだった。
「そんで、お願いってのは何なんだ?」
「爆破テロを――止めて欲しいんです。」
「おお。任せろ、って言いたいけど、流石に大雑把すぎて何すりゃいいか分からねぇよ。」
「爆破テロを起こすテロリストがいます。その人は船外から爆弾を爆発させます。そこで警部にはその人を止めて頂きたいんです。」
「なるほどな。死ぬ原因となった事件の行方を変えるんだな。」
「彼の名前は嘴平亥。彼が爆破テロを起こすんです。船外にいるので捜し出して止めて欲しいんです。」
 ゴクリ。彼は烏龍茶を飲み干した。
 残される茶色く濁る氷とコップ。
 彼は深く腰をもたれて話した。
「要件は分かった。事件当日は誰かから不審物が持ち運ばれたとか不審者を見つけたとかいう連絡を受けたとかにして捜索しよう。見つけ次第、危険物所持の疑いで拘留する。」
 だがな、と続いていく。
「当日になるまでは俺らは何も出来ない。お前の言う未来者の話は世間は到底受け入れてくれない。危険物を持っているという噂だけで家宅捜査や拘留の令状なんて出る訳がない。つまり、現行犯逮捕でしか何もすることはできない。」
 エスプレッソが飲み終わる。
「えぇ。問題ありません。当日だけでも、協力して頂けるだけで相当助かります。」
「まっ、借りは返すってことだ。」
 話が終わった。
 二人は立ち上がった。
「待って。」「ん、どうした。何か加えて用があったか。」
 座りながらモタローは言う。
「実はこの店のストロベリーフレーバーのオレオ&クッキーパンケーキ・イン・チョコミントアイスが気になるんだよ。もう少し堪能していかないかい?」
 ため息混じりに座り直す。「なんだよ、その聞いたこともないパンケーキは」なんて言われながらも、彼は自由気ままに注文し始めた。


*


 健やかな天気だ。
 モタロー探偵事務所へと戻ってきた。
 入ってすぐの応接間を抜け、布越しにある事務室へと入った。そこには綺麗とも言えないデスクが置かれてある。
 ここで働いているのは三人。モタローとルイン、そしてパートのおじいさんである。
 パートのおじいさんが何やら一枚の封筒を持ってやってきた。
「ほれ、ツルヒグループの社長さんが直々に来おったぞ。直に渡せず申し訳ないが、快く受け取って貰いたいと言っとった。」
 オレンジと白を貴重とした趣ある封筒だった。
 封を開くと一枚の手紙と二枚のチケットが入ってあった。
 客室へと戻り、机に手紙を広げていった。丁寧で、かつしっかりと芯のある字で書かれてある。
 モタローが封書を読み上げる。
「拝啓。錦秋の候。向寒の折、冬に向けて準備をし始める時期となりました。さて、この度はツルヒグループが関わっていたドラゴンパーク建設にあたり、建設を難航させていた行方不明事件を解決して下さり、言葉では言い表せ無いほど感謝しております。本日、感謝のおしるしに、豪華客船のペアチケットをお送りしました。森太郎様、鳳ルイン様、日頃の探偵稼業に心身共に疲弊しておられるのではないでしょうか。この度は豪華客船での旅で心身共に休まれてはいかがでしょう。それではご自愛のほどお祈りいたしております。敬具。」
 どうやら他にも文章があるようだった。
「追記。お送りしました豪華客船旅行に着きまして、我がツルヒグループは新事業として船舶製造部門を創設し、本客船タトルクルーズの造船を担当致しました。本旅行に持ちまして、船の外装及び内装、質感、構造などもお楽しみ頂けると我々としても幸いでございます。」
 その後は日付と差し出した人――ツルヒグループ代表取締役という肩書きと、田嶋裏鳴の字が書かれてあった。
 以前も摩天楼の件でツルヒグループと繋がりこのチケットを貰っていたことを思い出した。そして、この旅行の際に――爆破テロに巻き込まれるのだ。
「ルイン君。これはもしかして例の――」「えぇ、爆破テロが起きた事件です。」
 彼は「じゃあ、行かない方がいいのかな?」と純粋に口を開いた。
 だが、この件において、行かざるを得ない、そんな使命感が湧き上がる。
「いえ、行きましょう。せっかく警部の力添えを貰えるんです。それなら逃げるんじゃなくて、しっかりと真っ直ぐから変えていくべきだと思うんです。」戸惑う心はあるが、それでも勇気を振り絞って、自らの意思を伝えた。
「いいねぇ。そうでこなくっちゃ。」
 封の中にある二枚のチケット。豪華客船タトルクルーズの旅。それが机の上に置かれてある。
「楽しみだよ。運命を変える時だねぇ。」
「えぇ、やる時が迫ってきている。そんな感じがします。」


 再び布越しの事務室へと戻ろうとした時に、別件で話しかける。
「どうしたんだい。」
「怪盗エーワンの事件の時、居合わせた警備員の一人に中学生時代の友達がいたんです。」
「それがどうかしたのかい?」
 穏やかな風が流れている。
「ふと思ったんです。ずっと"鳳ルイン"と名乗ってきていたけど、やはり元名の"犬島琉己"に戻した方がいいのかなって――。」
「なるほどねぇ。君の好きにすればいいと思うけど、今までルイン君と呼んできたからねぇ、急に琉己君と言うのは、違和感が凄いんだよね。」
「やはり、戻さない方がいいですかね。」
 彼は優しく「では、こういうのはどうかな」と提案してきた。「下の"ルイン"という名は変えないで、上の"鳳"を戻す。つまり、「犬島ルイン」だね。」
 中途半端な気もするが、それでいいとも思ってしまっていた。
「では、これからそうしていきます。」
 二人は布の暖簾を潜り、事務室に辿り着いた。たった数歩しか歩いていないが。
 爽やかな笑みを浮かべながらモタローが言い放った。そこに窓から指す秋の明るい日差しが差し込んで煌びやかに輝いて見えた。
「これからもよろしく頼むよ。犬島ルイン君。」
「えぇ。もちろんです。」爽やかに答えていった。
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