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5章~豪華客船爆破テロ事件~
豪華客船爆破テロ事件①
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名古屋からリニアモーターカーで約四十分少々。そこは目まぐるしい復興を遂げた大都市が広がっている。
首都直下大地震の傷跡も然ることながら、その傷を感じさせない都会の雰囲気が広がる。人々は行き交い、足踏みを止めない。様々な人間が入り組んでいる。
そこから南下して、神奈川県へ。
辿り着いたのは目的の地である横浜港。
そこもまた復興を遂げた町となっていた。海が穏やかに、されど荒れている。
波の音が響いている。
一月の冬の風が靡いていた。
停泊している船は大きく、壮大に漂っている。
その船はタトルクルーズ。これから乗る豪華客船だ。
「これからあの船に乗るんだよ。本来なら高すぎて乗れるはずもない船にね、犬島ルイン君。」
犬島ルイン――。一ヶ月と少々前に、ホスト時代に名が通っていた鳳ルインから本名へと変えることを決めた。ただ、モタローからのお願いで、いつも呼ばれている"ルイン"の字を変えないで欲しいという要望に沿い、氏名だけを元に戻して呼んで貰うことにしたのだった。
まだ、一ヶ月ちょっとしか経っていないため、そのことに慣れるために、彼はフルネーム呼びを時々行うことがあった。と、そう新たに追加された記憶が伝えていた。
「ただ、ウカウカしていられないですからね。」
「もちろん分かってるよ。この船がテロリストに狙われることをね。だけど、常に気を張ってたらせっかくの旅がもったいないじゃないかい。」
全くこの人は、なんてことを思いながらため息が吐かれた。
涼しいを通り越して寒い風が吹かれていく。
時間が有り余っているため、近くの喫茶店で時間を潰すことにした。船から視線と体の向きを来た道へと戻す。
「よぉ、兄ちゃん。まだ一般客は乗客出来へんやろ。もしや、ハマの風でも浴びに来たんか。」
そんな感じでつるんできたのは身長が高めの細めの男だった。着ている和装がオリジナリティを際立たせる。掛けているサングラスからつり目が見えた。
また、彼の斜め後ろにはさらに背が高いスーツ姿の若い男性が立っていた。肉体がしっかりしている。また、表情が読み取れない程、真っ直ぐを見ている。
「おやおや、これはこれは。金太じゃぁないかい? こんな所で何をしてるんだい。」
「こちとら、このタトルクルーズで働くことになったんや。」
「おやおやおやおや。神主の仕事はどうなったんだい?」
「辞めたわ。あのまま続けてたら命が持たへんからなぁ。そや、先言うとくわ。二泊三日のこの船旅で、油断ならへん事件に巻き込まれるかもしれへんのよ。乗るんなら、覚悟しとくんやな。」
「安心したまえ。覚悟ならとうにしてあるのさ。」
「そーかい。口だけじゃ危険性なんぞ伝わらへんよな。ひとまず、先で待っとるわ。」
彼ら二人組みはそのまま船へと向かっていった。ゲートの内側を進み、船へと入っていった。
「モタローさん。彼らとは一体どのような関係なのですか?」
「あの人は金 太一。高校生の頃に部活動が一緒だったんだ。クラスメイトにもなったこともあるんだよ。それで、彼のニックネームが金太なのさ。」
つまり、その金太とモタローは同学年のため、現在は三十九歳かその前だと考えられた。
物思いにふけながら、ふわふわとした感じで話していく。
「懐かしいよ。あの部活で、俺は推理力を伸ばすことができたんだ。それが探偵をする最初のきっかけと言ってもいいかも知れないねぇ。」
探偵を目指すべききっかけになった部活。なんだろうと思いつつ、探偵部、だと安直か、などと考えていた。どうしても答えが知りたくなり「何部ですか?」と聞く。
「オカルト研究部だよ。特に、学校の七不思議の調査は今でもやり甲斐があったと感じてるよ。」
さらに、物思いにふけっていく。「その後、俺は探偵の道へと行ったけど、彼は家柄的に神主になったんだよねぇ。それも彼は伊勢神宮の神主だったんだよ。」
彼はターンをして、言い放った。
「楽しみになってきたねぇ。」
ため息をつきながら「この船での目的を忘れないで下さいね」と零した。
乗客の時間がやって来た。
船へと繋がるタラップを踏みしめて進む。このタラップに設置された巨大なアーチ型の機械。洞窟みたいに長く続く。よく見ると入り口に「アトム株式会社」と白く貼られてあった。
中はまるで別世界のような不思議な空間を通っていく。何も問題なく通り過ぎた。
厳重なるシステムが安全性を高めさせる。
安全じゃないか、と思わせる程に。
ただ、ルインは知っていた。未来において爆弾を爆発させるのが嘴平亥という男ということを。その男が警備会社の管理職という立場ということを。つまり、外部から防いでも内側から防げなければ意味が無いことに気づいていた。
やはり、安全ではない。
そんな答えに辿り着いていた。
客船クルーに歓迎されながら船内へと入った。やはり、豪華客船と言えるほどの内装をしている。身分違いな感覚を与えていく。
二人に用意されている部屋は地下にある。
階段を降りていく。
地下のその階は部屋が敷き詰められていた。床は鉄となっているが、丸い凹みの羅列が深々しい趣を与えていて安物感を与えさせない。それなりのクオリティを生み出している。さすがあの大企業ツルヒグループが造ったと言わざるを得ない程のクオリティだ。
部屋へと入る。
豪遊する船旅に最低限の設備がなされている。トイレとガラス張りのシャワー室。アメニティもしっかりしている。壁に付いている長い机。その上にドライヤーと黒色の紙袋が置かれてある。広いとは言えないが狭いとも言えない二つのベットの上には花形に畳まれたバスタオルが置かれてあった。
「やはり、最初にすることは一つだね。」
彼は靴を脱ぎながら、ベッドへと思いっきりダイブをした。ベッドでぐるぐると寝転がっている。「いいねぇ。これでこそ豪華客船だねぇ。」まさに浮かれ過ぎて、ベッドの上をふわふわと跳んでいるようだ。
机に置かれてあった黒色の紙袋の中身を見る。
中には一枚の置き手紙とアタッシュケースが置かれてある。
紙には『モタローへ』という書き出しから始まっていた。
「んー。何の手紙だろうねぇ。どれどれ『カジノの軍資金に使ってくれ』だってねぇ。『プレゼント』だなんて嬉しいよ。」
アタッシュケースを開く。
中から束になった万札が敷き詰められていた。
「ドラマとかでしか見たことないお金が出てきましたね。」口元がたじろいでいる。
「俺も初めて見たよ。流石にこれは恐れ多いよ。」
光ってはいないはずなのに光り輝いているように見えるのは脳のせいだろう。
一度アタッシュケースを閉じた。
「一人だけ心当たりがあるんだよねぇ。もしそれが当たっているならカジノに行くしかなさそうだよ。」
引き攣り笑いを浮かべながら話していた。
一度、そのことを一旦忘れることにして、二泊三日の旅の身支度を整えることにした。
*
船内に併設された施設には様々な物があった。海を一望できるデッキ。マッサージを受けられるリラックスルーム。揃いに揃った器具があるスポーツジム。船の上で楽しむ映画館。レストラン会場には舞台が用意され、決められた時間にショーが行われる。喫茶店やバーなども存在。昼間から使える大浴場なども併設されていた。
そして、カジノ施設も併設されていた。
薄暗い明かりの中、緑色のカーペットの上に置かれてある様々な台。そこにはディーラー等のクルー側と金の猛者が入り交じっていた。
手に持ったケースが心をドキマギさせていたが、この独特な雰囲気がさらにドキマギさせていく。
「ようやく来よったのぅ。怖気付いて来ないんやないかと内心冷や冷やしとってなぁ。さて、与えた軍資金でどれだけ増やせるか楽しみやのぅ。」
「やっぱり君の仕業だったか。まずは感謝を述べよう、ありがとう。そして宣言するよ。俺はギャンブルに勝って終えるつもりだ。」
「面白い。やれるもんならやってみな。」
制服姿に身を包む眼鏡をかけたディーラー。やはり、彼の斜めには体格の良い無口な男性が立っていた。
換金所でお金をチップに交換する。
まずはブラックジャックというゲームに挑戦することにした。ここのディーラーは彼ではなく、朗らかそうな男性だった。
隣に優しそうな白髪のおじいさんが座る。
彼は過去に置いて共に爆弾を探した人だった。ただし、それを彼が知る由もないが。
よろしくと言って微笑むが、前を向いた瞬間鋭い視線をカードに向けていた。それを傍から見ていく。
配られるカード。六と八。
カードを追加する。そのカードはジャックだった。六と八と十一。合わせて、二十五。つまり、この時点で負けである。
一斉に手札を見せる。一番近い数字だったのが白髪のおじいさんで二十一ピッタシだった。
こんな感じでこのゲームを五回繰り返した。
結果は二勝三敗でチップを幾つか失った。
今度はポーカーに挑戦をする。
今度は金太がディーラーだった。「楽しもうや」と悪い笑みを浮かべていた。その後ろで立っている者同士で会釈をした。
最初は二、二、五、九、キングの絵柄揃いなしでワンペア。そこから五、九、キングを返却。そこからエース、二、八が来て、ツーペアとなった。だが、相手は二枚揃いと三枚揃いのフルハウス。つまり、負けだった。
勝ち負けを繰り返す一進一退の展開。いや、着実に負けは嵩んでいる凡退。少し損をする結果となった。
「次は、もっとスリリングな勝負をせんかい?」
「面白いねぇ。その勝負とはなんだい?」
「ルーレットや。」
いいねぇ、と頷いていた。
「これはタイマンでやらせて貰うで。」
ディーラーと賭け人モタローの一対一。初手はイーブンに賭け、見事六に入り配当を得る。続いて、黒のカラー、一から六のラインに賭け、黒の二十四を引き当て、何とか少々の利益を得る。
これを八回は繰り返した。
勝負はモタローのジリ貧負けの状態となっていた。
「さっきからアウトサイドベットが多なってないか? 漢ならインサイドベット一択やないか?」
その挑発に乗り、黒の八、赤の二十三、赤の三十四にストレートアップ――それだけに賭ける。案の定、当たる訳がなかった。
次で十回目。
その勝負を見ようと観客が数人集まっていた。
お互いに緊張が走っていた。
「次で終いにしようや。イーブンかオッドにチップを全部賭けろ。この二択。天はどちらに味方するか試さんとなぁ?」
持っていたチップを全てイーブンに賭ける。
しかし、彼はまだ不満を持っていた。
「それだけなんか。ウチがあげた軍資金だけで、己は金一品も出しまへんってな。そりゃあ、大層ケチい奴なんやろなぁ。」
「……やるしか無さそうだね。」
仕方なく換金所で持ち金をチップに変える。そして、それをイーブンに置いた。
観客が盛り上がっている。
「残念やが、結末は"オッド"フューチャーやで。とやかく、やりましょか。」
ウィールが回転し、そこを鉄の球が転がった。コロコロと転がりながらも高度は下がっていく。勢いは弱まっていき、ついにポケットにボールが入ろうとしていた。
フワッ。
鉄の球は赤色の一に入っていった。
「残念やったな。奇数に入ったんで、アンタの負けやな。天はウチに味方したんや。今回はウチの顔を立てておくれや。観客の皆の雰囲気を壊したかないんでなぁ。精々恨まんでくれな~。」
地べたを這っている。
悔しい思いを胸に秘めたままその場を去る。
静かな廊下で悲しすぎて回っては地べたを這うモタロー。
「まあ、僕はギャンブルには参加しなかったので、賭け事以外のお金については何とかなりますから、落ち込まないでください。」
「いやぁ、悔しいんだよ。」
一桁の子供が玩具欲しさに駄々を捏ねるみたいな姿をしている。それを見て絶句しかけた。
落ち着きを取り戻し「イカサマにすぐに気付いて指摘できなかったことが一番の悔やみだよ」と言い放った。それを聞いて「イカサマ?」と訪ねた。
「そうさ、仕組まれていたんだよ。仕組みはきっと簡単だね。単純に磁石の球と磁石のポケットを使用したんじゃないかな。例えば、もし奇数なら反発し合う球を、もし偶数なら引き付け合う球を出せばいいって訳さ。」
ため息混じりに「まあ、あの場に他の客で囲まれていたことや、このようにどちらかに全額賭ける展開を初めから仕組まれていたこと、俺の異議ありを『顔を立てろ』だとか『客の雰囲気を壊さないで』とかで制止されたこと。そのどれもが彼に負けたと思わされてしまうんだよ」と深く吐き出された。
情けない姿で歩いていく彼を見て、少しばかしの吐息が漏れてしまった。
浮かない顔して部屋へと向かっていく。前方から黒のフードを被った、俯きがちな男が近づいてきた。身長はルインと同じぐらい。全面黒のコーデに目元を隠す程長い黒髪。そして、黒のマスク。もはや、黒ずくめの男だった。
トンッ。
少し肩がぶつかった。
「あっ、悪ぃな」と彼は言った。
その時、ルインは何処かで聞いたことある声だなと感じた。
彼もまた何かを感じとり、「何故、お前が」と呟き、それに対して「何処かでお会いしましたよね?」と訪ねた。
ほんの少しの間。
彼は「アンタ、名前はなんて言うんだ?」と聞く。それに応じて「犬島ルインさ」と答えた。
彼はすぐに「犬島……人違いだったみたいだ」と言って踵を返した。背中は全身黒のフード付きロングコートで隠されていた。
彼は見えなくなっていた。
二人はそのまま部屋へと向かう。
「何処かで会ったような気がするんですけどね。声も聞いたことがあるような……。ただ、思い出せないんですよねぇ。」
ボサッとした長い黒髪の男。ダラッとした男に見覚えがあっても思い出せない。
「まあ、長い船旅さ。お互い船の中にいるんだし、またすれ違うんじゃないかな。その時にきっと思い出すよ。」
そのまま部屋へと辿り着く。
彼は「憂さ晴らしだ」と言って、思いっきりベッドにダイブした。
時間は刻刻と過ぎて夜更けとなる。
大浴場で固まった息を吐く。
ここまでは過去改変する前と同じ歴史を辿っている。それを思い耽ながら「モタローさんはきっと何度繰り返してもカジノでぼろ負けする運命なんですよね」と独り言を呟いた。
それが聞こえたのか「俺の恥晒しの運命は変えられないのかい?」と跳ね返ってきた。
「それよりも変えないといけない件がありますから」と跳ね返した。
そして、残念、と言いながら風呂の中でクルクルと回転していた。全く公共の施設で傍迷惑だ。
首都直下大地震の傷跡も然ることながら、その傷を感じさせない都会の雰囲気が広がる。人々は行き交い、足踏みを止めない。様々な人間が入り組んでいる。
そこから南下して、神奈川県へ。
辿り着いたのは目的の地である横浜港。
そこもまた復興を遂げた町となっていた。海が穏やかに、されど荒れている。
波の音が響いている。
一月の冬の風が靡いていた。
停泊している船は大きく、壮大に漂っている。
その船はタトルクルーズ。これから乗る豪華客船だ。
「これからあの船に乗るんだよ。本来なら高すぎて乗れるはずもない船にね、犬島ルイン君。」
犬島ルイン――。一ヶ月と少々前に、ホスト時代に名が通っていた鳳ルインから本名へと変えることを決めた。ただ、モタローからのお願いで、いつも呼ばれている"ルイン"の字を変えないで欲しいという要望に沿い、氏名だけを元に戻して呼んで貰うことにしたのだった。
まだ、一ヶ月ちょっとしか経っていないため、そのことに慣れるために、彼はフルネーム呼びを時々行うことがあった。と、そう新たに追加された記憶が伝えていた。
「ただ、ウカウカしていられないですからね。」
「もちろん分かってるよ。この船がテロリストに狙われることをね。だけど、常に気を張ってたらせっかくの旅がもったいないじゃないかい。」
全くこの人は、なんてことを思いながらため息が吐かれた。
涼しいを通り越して寒い風が吹かれていく。
時間が有り余っているため、近くの喫茶店で時間を潰すことにした。船から視線と体の向きを来た道へと戻す。
「よぉ、兄ちゃん。まだ一般客は乗客出来へんやろ。もしや、ハマの風でも浴びに来たんか。」
そんな感じでつるんできたのは身長が高めの細めの男だった。着ている和装がオリジナリティを際立たせる。掛けているサングラスからつり目が見えた。
また、彼の斜め後ろにはさらに背が高いスーツ姿の若い男性が立っていた。肉体がしっかりしている。また、表情が読み取れない程、真っ直ぐを見ている。
「おやおや、これはこれは。金太じゃぁないかい? こんな所で何をしてるんだい。」
「こちとら、このタトルクルーズで働くことになったんや。」
「おやおやおやおや。神主の仕事はどうなったんだい?」
「辞めたわ。あのまま続けてたら命が持たへんからなぁ。そや、先言うとくわ。二泊三日のこの船旅で、油断ならへん事件に巻き込まれるかもしれへんのよ。乗るんなら、覚悟しとくんやな。」
「安心したまえ。覚悟ならとうにしてあるのさ。」
「そーかい。口だけじゃ危険性なんぞ伝わらへんよな。ひとまず、先で待っとるわ。」
彼ら二人組みはそのまま船へと向かっていった。ゲートの内側を進み、船へと入っていった。
「モタローさん。彼らとは一体どのような関係なのですか?」
「あの人は金 太一。高校生の頃に部活動が一緒だったんだ。クラスメイトにもなったこともあるんだよ。それで、彼のニックネームが金太なのさ。」
つまり、その金太とモタローは同学年のため、現在は三十九歳かその前だと考えられた。
物思いにふけながら、ふわふわとした感じで話していく。
「懐かしいよ。あの部活で、俺は推理力を伸ばすことができたんだ。それが探偵をする最初のきっかけと言ってもいいかも知れないねぇ。」
探偵を目指すべききっかけになった部活。なんだろうと思いつつ、探偵部、だと安直か、などと考えていた。どうしても答えが知りたくなり「何部ですか?」と聞く。
「オカルト研究部だよ。特に、学校の七不思議の調査は今でもやり甲斐があったと感じてるよ。」
さらに、物思いにふけっていく。「その後、俺は探偵の道へと行ったけど、彼は家柄的に神主になったんだよねぇ。それも彼は伊勢神宮の神主だったんだよ。」
彼はターンをして、言い放った。
「楽しみになってきたねぇ。」
ため息をつきながら「この船での目的を忘れないで下さいね」と零した。
乗客の時間がやって来た。
船へと繋がるタラップを踏みしめて進む。このタラップに設置された巨大なアーチ型の機械。洞窟みたいに長く続く。よく見ると入り口に「アトム株式会社」と白く貼られてあった。
中はまるで別世界のような不思議な空間を通っていく。何も問題なく通り過ぎた。
厳重なるシステムが安全性を高めさせる。
安全じゃないか、と思わせる程に。
ただ、ルインは知っていた。未来において爆弾を爆発させるのが嘴平亥という男ということを。その男が警備会社の管理職という立場ということを。つまり、外部から防いでも内側から防げなければ意味が無いことに気づいていた。
やはり、安全ではない。
そんな答えに辿り着いていた。
客船クルーに歓迎されながら船内へと入った。やはり、豪華客船と言えるほどの内装をしている。身分違いな感覚を与えていく。
二人に用意されている部屋は地下にある。
階段を降りていく。
地下のその階は部屋が敷き詰められていた。床は鉄となっているが、丸い凹みの羅列が深々しい趣を与えていて安物感を与えさせない。それなりのクオリティを生み出している。さすがあの大企業ツルヒグループが造ったと言わざるを得ない程のクオリティだ。
部屋へと入る。
豪遊する船旅に最低限の設備がなされている。トイレとガラス張りのシャワー室。アメニティもしっかりしている。壁に付いている長い机。その上にドライヤーと黒色の紙袋が置かれてある。広いとは言えないが狭いとも言えない二つのベットの上には花形に畳まれたバスタオルが置かれてあった。
「やはり、最初にすることは一つだね。」
彼は靴を脱ぎながら、ベッドへと思いっきりダイブをした。ベッドでぐるぐると寝転がっている。「いいねぇ。これでこそ豪華客船だねぇ。」まさに浮かれ過ぎて、ベッドの上をふわふわと跳んでいるようだ。
机に置かれてあった黒色の紙袋の中身を見る。
中には一枚の置き手紙とアタッシュケースが置かれてある。
紙には『モタローへ』という書き出しから始まっていた。
「んー。何の手紙だろうねぇ。どれどれ『カジノの軍資金に使ってくれ』だってねぇ。『プレゼント』だなんて嬉しいよ。」
アタッシュケースを開く。
中から束になった万札が敷き詰められていた。
「ドラマとかでしか見たことないお金が出てきましたね。」口元がたじろいでいる。
「俺も初めて見たよ。流石にこれは恐れ多いよ。」
光ってはいないはずなのに光り輝いているように見えるのは脳のせいだろう。
一度アタッシュケースを閉じた。
「一人だけ心当たりがあるんだよねぇ。もしそれが当たっているならカジノに行くしかなさそうだよ。」
引き攣り笑いを浮かべながら話していた。
一度、そのことを一旦忘れることにして、二泊三日の旅の身支度を整えることにした。
*
船内に併設された施設には様々な物があった。海を一望できるデッキ。マッサージを受けられるリラックスルーム。揃いに揃った器具があるスポーツジム。船の上で楽しむ映画館。レストラン会場には舞台が用意され、決められた時間にショーが行われる。喫茶店やバーなども存在。昼間から使える大浴場なども併設されていた。
そして、カジノ施設も併設されていた。
薄暗い明かりの中、緑色のカーペットの上に置かれてある様々な台。そこにはディーラー等のクルー側と金の猛者が入り交じっていた。
手に持ったケースが心をドキマギさせていたが、この独特な雰囲気がさらにドキマギさせていく。
「ようやく来よったのぅ。怖気付いて来ないんやないかと内心冷や冷やしとってなぁ。さて、与えた軍資金でどれだけ増やせるか楽しみやのぅ。」
「やっぱり君の仕業だったか。まずは感謝を述べよう、ありがとう。そして宣言するよ。俺はギャンブルに勝って終えるつもりだ。」
「面白い。やれるもんならやってみな。」
制服姿に身を包む眼鏡をかけたディーラー。やはり、彼の斜めには体格の良い無口な男性が立っていた。
換金所でお金をチップに交換する。
まずはブラックジャックというゲームに挑戦することにした。ここのディーラーは彼ではなく、朗らかそうな男性だった。
隣に優しそうな白髪のおじいさんが座る。
彼は過去に置いて共に爆弾を探した人だった。ただし、それを彼が知る由もないが。
よろしくと言って微笑むが、前を向いた瞬間鋭い視線をカードに向けていた。それを傍から見ていく。
配られるカード。六と八。
カードを追加する。そのカードはジャックだった。六と八と十一。合わせて、二十五。つまり、この時点で負けである。
一斉に手札を見せる。一番近い数字だったのが白髪のおじいさんで二十一ピッタシだった。
こんな感じでこのゲームを五回繰り返した。
結果は二勝三敗でチップを幾つか失った。
今度はポーカーに挑戦をする。
今度は金太がディーラーだった。「楽しもうや」と悪い笑みを浮かべていた。その後ろで立っている者同士で会釈をした。
最初は二、二、五、九、キングの絵柄揃いなしでワンペア。そこから五、九、キングを返却。そこからエース、二、八が来て、ツーペアとなった。だが、相手は二枚揃いと三枚揃いのフルハウス。つまり、負けだった。
勝ち負けを繰り返す一進一退の展開。いや、着実に負けは嵩んでいる凡退。少し損をする結果となった。
「次は、もっとスリリングな勝負をせんかい?」
「面白いねぇ。その勝負とはなんだい?」
「ルーレットや。」
いいねぇ、と頷いていた。
「これはタイマンでやらせて貰うで。」
ディーラーと賭け人モタローの一対一。初手はイーブンに賭け、見事六に入り配当を得る。続いて、黒のカラー、一から六のラインに賭け、黒の二十四を引き当て、何とか少々の利益を得る。
これを八回は繰り返した。
勝負はモタローのジリ貧負けの状態となっていた。
「さっきからアウトサイドベットが多なってないか? 漢ならインサイドベット一択やないか?」
その挑発に乗り、黒の八、赤の二十三、赤の三十四にストレートアップ――それだけに賭ける。案の定、当たる訳がなかった。
次で十回目。
その勝負を見ようと観客が数人集まっていた。
お互いに緊張が走っていた。
「次で終いにしようや。イーブンかオッドにチップを全部賭けろ。この二択。天はどちらに味方するか試さんとなぁ?」
持っていたチップを全てイーブンに賭ける。
しかし、彼はまだ不満を持っていた。
「それだけなんか。ウチがあげた軍資金だけで、己は金一品も出しまへんってな。そりゃあ、大層ケチい奴なんやろなぁ。」
「……やるしか無さそうだね。」
仕方なく換金所で持ち金をチップに変える。そして、それをイーブンに置いた。
観客が盛り上がっている。
「残念やが、結末は"オッド"フューチャーやで。とやかく、やりましょか。」
ウィールが回転し、そこを鉄の球が転がった。コロコロと転がりながらも高度は下がっていく。勢いは弱まっていき、ついにポケットにボールが入ろうとしていた。
フワッ。
鉄の球は赤色の一に入っていった。
「残念やったな。奇数に入ったんで、アンタの負けやな。天はウチに味方したんや。今回はウチの顔を立てておくれや。観客の皆の雰囲気を壊したかないんでなぁ。精々恨まんでくれな~。」
地べたを這っている。
悔しい思いを胸に秘めたままその場を去る。
静かな廊下で悲しすぎて回っては地べたを這うモタロー。
「まあ、僕はギャンブルには参加しなかったので、賭け事以外のお金については何とかなりますから、落ち込まないでください。」
「いやぁ、悔しいんだよ。」
一桁の子供が玩具欲しさに駄々を捏ねるみたいな姿をしている。それを見て絶句しかけた。
落ち着きを取り戻し「イカサマにすぐに気付いて指摘できなかったことが一番の悔やみだよ」と言い放った。それを聞いて「イカサマ?」と訪ねた。
「そうさ、仕組まれていたんだよ。仕組みはきっと簡単だね。単純に磁石の球と磁石のポケットを使用したんじゃないかな。例えば、もし奇数なら反発し合う球を、もし偶数なら引き付け合う球を出せばいいって訳さ。」
ため息混じりに「まあ、あの場に他の客で囲まれていたことや、このようにどちらかに全額賭ける展開を初めから仕組まれていたこと、俺の異議ありを『顔を立てろ』だとか『客の雰囲気を壊さないで』とかで制止されたこと。そのどれもが彼に負けたと思わされてしまうんだよ」と深く吐き出された。
情けない姿で歩いていく彼を見て、少しばかしの吐息が漏れてしまった。
浮かない顔して部屋へと向かっていく。前方から黒のフードを被った、俯きがちな男が近づいてきた。身長はルインと同じぐらい。全面黒のコーデに目元を隠す程長い黒髪。そして、黒のマスク。もはや、黒ずくめの男だった。
トンッ。
少し肩がぶつかった。
「あっ、悪ぃな」と彼は言った。
その時、ルインは何処かで聞いたことある声だなと感じた。
彼もまた何かを感じとり、「何故、お前が」と呟き、それに対して「何処かでお会いしましたよね?」と訪ねた。
ほんの少しの間。
彼は「アンタ、名前はなんて言うんだ?」と聞く。それに応じて「犬島ルインさ」と答えた。
彼はすぐに「犬島……人違いだったみたいだ」と言って踵を返した。背中は全身黒のフード付きロングコートで隠されていた。
彼は見えなくなっていた。
二人はそのまま部屋へと向かう。
「何処かで会ったような気がするんですけどね。声も聞いたことがあるような……。ただ、思い出せないんですよねぇ。」
ボサッとした長い黒髪の男。ダラッとした男に見覚えがあっても思い出せない。
「まあ、長い船旅さ。お互い船の中にいるんだし、またすれ違うんじゃないかな。その時にきっと思い出すよ。」
そのまま部屋へと辿り着く。
彼は「憂さ晴らしだ」と言って、思いっきりベッドにダイブした。
時間は刻刻と過ぎて夜更けとなる。
大浴場で固まった息を吐く。
ここまでは過去改変する前と同じ歴史を辿っている。それを思い耽ながら「モタローさんはきっと何度繰り返してもカジノでぼろ負けする運命なんですよね」と独り言を呟いた。
それが聞こえたのか「俺の恥晒しの運命は変えられないのかい?」と跳ね返ってきた。
「それよりも変えないといけない件がありますから」と跳ね返した。
そして、残念、と言いながら風呂の中でクルクルと回転していた。全く公共の施設で傍迷惑だ。
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