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5章~豪華客船爆破テロ事件~
豪華客船爆破テロ事件⑥
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《23》
船上で見る映画は、独特な感覚で新鮮であった。
スポーツジムの充実感は高い。一般的なランニングマシンを初め、ローイングマシンやベンチプレス、パワーラックなど色々な部位を鍛えることができる。
流した汗を大浴場で流しきる。
用意されたサウナで汗と流すを繰り返した。
「いいねぇ。整ったような気がするよぉ。」
時刻は夕方を回った。
次に行く場所は決まっていた。自販機ルームだ。夕暮れのその場所は無人だった。
「――とても高くて眺めの良い場所が一つピンと来る所があるんだよ」とモタローが電話をかけた。
その合間に自販機の左側のスペースを見た。
そこにはソレは置かれていなかった。
顔を近づけたり手を入れたりして確認するが、やはりそこにはない。代わりに、一枚の紙が自販機に貼られていた。
それを手に取ると、猿渡からの置き手紙だったことが分かった。『全部、俺がやっとくわ』と大きく汚い字で書かれていた。
「どうしたのかい?」
「いえ、何でもありません。」紙を折り畳んでポケットに入れた。
ポケットに紙を隠したまま部屋へと戻っていく。
二日目は彼に会うことはなく終えた。
少し早る気持ちを抑えながら時間を過ごす。
そして、三日目の午前中にも彼には会うことはなかった。ただ、一枚の置き手紙だけが頼りだった。
結局、例の時間が来てしまった。
雨譚が腰から崩れ落ち、周りには危険を報せる文字が映像として映し出される。
階段を登り始める。
階段を降りてきた猿渡をモタローが追いかけた。ここまで一切、プレイヤーXの存在を発見できていなかった。
階段を登り、燐音と共に爆弾が仕掛けられた部屋へと入る。
頭に浮かぶ爆発の瞬間の光景。結局、対策すらされずに行われたのだと感じた。裏切られたという状況に直面し、不安感が倍増されていく。
その部屋にいるのは五人。
先に血眼に探している三人を通り過ぎていく。爆弾が隠されている机の前へと来た。中の鏡を外した。中から爆弾を取り出していく。
そこに他の四人が集まってきた。
客船クルーの一人が疑問を呈した。
「これが爆弾っすか? アルミホイルでぐるぐる巻きになってんすけど……。」
銀色に輝くアルミホイルでぐるぐる巻きに包まれた箱。確かに爆弾だと確信した。
それを見て安堵の気持ちへと変わっていく。何故なら、こうすることが作戦だったからだ。
「これでいいんだろ?」
新たに二人増え、部屋には七人となった。
その内の一人は逃げて行ったはずの猿渡だった。
「どうして君がいるんです? 逃げて行ったはずでは……。」
「察せられねぇか。俺だよ、俺。猿渡驚輝ことプレイヤーXだよ。」
ドヤ顔とともに、煙草が取り出され、それを火で燻り、蒸していく。
「まさか俺が昔の俺に憑依するとは驚きだよな。まっ、アンタの前では逃げる振りして、見られなくなってから立ち止まったんだよ。至極簡単な話だろ?」
「彼……とても物分りが良かったんだよ。到底信じられそうもない非現実的な内容をすんなりと受け入れてね。」
「その話は履修済みだからな。履修する前は受け入れられず時間を掛けて聞いたが、そんな話、スキップすりゃ、いいってもんよ。」
彼の憑依先が昔の自分だった。それにより、爆弾を取る際に、事前に話していたアルミホイルを得ることも、巻くことも容易に出来たのだろう。
音沙汰のない爆弾が囲まれている。
「ってか、それでいいのかよ。予定通り、爆弾にアルミホイルをこれでもかって程、巻き付けといたけどよ。」
「充分ですよ。そこまで巻く必要もなかったですけどね。」
状況が飲み込めないクルーの一人が訪ねた。「これが爆弾なんすよね?」
それに対して、未来から来た二人で「そう」だ、と返答した。
「見つかったんなら、次はどうするかだよな。下手に触れない方がいいはずだな。」
「えぇ、態々危険なことをする必要はありません。一旦放置して、警察の爆弾処理班が来るまで待ちましょう。」
その会話を聞いていた猿渡が横入りしてきた。
「おいおいおい。そんな悠長な事言ってられんのか? それの起爆スイッチは遠くにいる嘴平亥が持ってんだ。そいつが起爆するかも知れねぇだろ。」
それを聞いたルインが優しく微笑む。
「安心して下さい。彼に起爆は出来ませんよ。」
「ん、どういうことだ?」
「彼は遠くからリモートで操作して起爆するんです。ですから、その遠隔操作が出来ないように電波を遮断すれば問題ないんですよ。」
煙草を持っていない左手で頭を搔く。
「詳しく教えてくれ。電波を遮断ってどういうことなんだ?」
視線が銀に光る箱に移った。
「この爆弾は良くも悪くもリモート式なんですよ。つまり、電波による通信によって起爆することができる。だからこそ、電波を遮るようにアルミホイルを巻いたんです。」
「なるほどねぇ。アルミホイルは電波を遮断する。隙間があれば通信されるけど、これぐらいぐるぐる巻きなら安心だねぇ」とモタローは関心していた。
部屋の中から緊迫感が薄まっていく。
「下手に触ってアルミホイルが破けるとか、中のシステムが作動するとか、そうならないためにも何もしないで待つ方が良さそうだね。」
「えぇ、そういうことです。」
その場にポツンと置かれた爆弾。
TMT箱という大層な命名をされたその爆弾も、今では虚しい程、恐ろしさという光を失っている。
アナウンスが流れる。
スフィア船長の声が船内に響き、近くの場所に寄港することを伝えた。
「こっからはお前さんらには頼れねぇな。爆弾についてはこっちで処理をする。お前さんらは安心して船を降りりゃいい。それと、お前はこちらで拘束させて貰おうか。」
猿渡は若いクルーに連れられて別室へと向かわされた。
*
船が陸に辿り着く。
金城ふ頭という場所だ。
船と陸を繋げるタラップを踏みしめて、久しぶりの土を踏みしめた。
その場から少しだけ進んだ先にレゴランドと呼ばれるテーマパークがある。人々はそこに屯していた。
また、そこにはパトカーが止まっており、警察官と思われし人々が船へと直行していた。
夜のテーマパークは安堵のオーラで広がっていた。ただ、爆破テロの件を受け、そこは避難勧告が出されていた。
次々にバスや車が辿り着く。
そこから北か西へと避難するためのバスだ。我先に乗る人達が率先して乗っていくため、それに乗るには少しだけ時間がかかりそうだった。
「無事に生きて帰れたなぁ。これもアンタ達の力添えのお陰やろ?」
金太が隣に立つ。もちろん、その後ろには昌苅が立っていた。
「まあねっ。と言いたいけど、俺は何にもしてないんだよ。したのはルインさっ。」
「流石やなぁ」と音のならない拍手をされた。
人々の雑音とパトカーの喧騒が騒々しい。
「爆弾処理班がもう着いたらしいで。あまりにも早すぎて聞いてもうたわ。どうしてそんなに早く早く対応できるんかって、な。そしたらな、準備はしてたらしいわ。こうなることを考慮してたようなんや。」
振り返ると、騒々しいタトルクルーズ号が目に入った。
「警察が何と言っとったか分かるか? 吃驚仰天、何と警察ん中に《未来を予知》した奴がいるらしいねん。ワシはこの二人以外に力を付与したことがないんやけどなぁ。」
彼はモタローの肩に手を置いて顔を近づけた。
「何か知っとんちゃう?」
冷静に「心当たりなら、あるね」と返していた。
一台の車が到着する。その車は艶やかな黒塗りで、見るものを圧倒する。
「やはりなぁ。流石やわぁ。」そう言った後に「迎えが来たんで、ウチは帰りますわ」と言い放った。
帰り際に言葉が送られる。「ワシもアンタも神器に選ばれし者の運命の下にあるんや。精々、くたばらんでや。」
それに対して「もちろんだよ」と返していた。
彼が車に乗り、去った。
また、別の方向では警察官に連れられた猿渡がパトカーに乗って、彼もまた警察用公用車で金城ふ頭から去っていった。
アイハヴァペン、アイハヴァアッポー、ウォゥン、アッポーペーン。どこかからか聞いた事のある歌が流れていく。
アイハヴァペン、アイハヴァパイナッポォー、ヒュウォン、パイナッポーペェン。モタローはポケットから歌を流しているスマホを取り出した。
アッポーペーン、パイナッポペー。ここで着信に出る。
数分、話し終えた後、電話が閉じられた。
「鬼怒川警部の方も無事、上手く行ったようだねぇ。彼には感謝をしなくちゃいけないよ。県警の中で働きかけてくれたお陰で、いち早くこのテロ事件に対応できたからねぇ。」
バスに待つ人が減ってきた。
「そう言えば、警部はどこにいるのですか?」
「彼は爆弾魔の所さ。」
つまり、亥の所だろう。
「ちなみに、その爆弾魔はどこにいるんですか?」
「観覧車だよ。建物で貸切できるとても高い場所。それに船の位置を進めて考えるとシートレインランドの観覧車が浮かんで来るのさ。」
そこまで予測していたとは、と感心する。
そして、上手く行ったということは亥を捕まえることに成功したということだろう。
ほっ。どこか安心感に満たされていく。
汽笛が鳴った。
船がその場から南下して行った。
よく見ると客船クルーを初めとする関係者もぞろぞろと避難をし始めていた。
それと同時にバスが来た。
バスには客船クルーも乗っていた。それでもまだ空席は存在していた。
バスは人を乗せて北上していく。
夜の道路の静寂の中、ただひたすら進んでいく。埋立地と陸地を繋ぐ道路を進んでいく。もう陸地へと到着する。
「今の何?」と乗客の誰かが言った。
その時は何のことが分からなかったが、すぐにその意味が分かるようになる。
轟く轟音。
夜のパレットに描かれる赤く燃ゆる爆炎。
異次元の蜃気楼。
凄まじい爆風がバスをすり抜けていく。
海上の船から起きた爆発だった。その爆発が周りを木っ端微塵にしていった。陸地と埋立地を繋ぐ道路も途中まで破壊された。そこから少し先は道路が崩落した。ただ、乗っているバスはその先を進んでおり、無事だった。
「先輩っ。先輩っ。」と泣き喚く客船クルーの一人がいた。彼は齋藤黄丹と言う男だ。
「そんなの無いっすよ――。」
流れ落ちる涙と無邪気な子どものように後ろの窓ガラスにへばりつく姿。その様子が彼にとっての大切な人の死を表していた。
その爆発の一コマが脳裏に深く刻まれた。
飛び散った破片が飛び散っていく。横の窓からもその塊共が飛んで落ちて転がる様子が見られた。
赤く色付いていた風景も今は黄土色と灰色とが混じりあったような不気味な色に変わり果て、灰色の煙を吐き出していた。
もはや向こう側は濁った色で何も見えないが、タトルクルーズ号が存在していないことは一目瞭然だった。
まさに通夜の空気感が広がる。
夜中の闇夜の中をバスは走り去っていった。
船上で見る映画は、独特な感覚で新鮮であった。
スポーツジムの充実感は高い。一般的なランニングマシンを初め、ローイングマシンやベンチプレス、パワーラックなど色々な部位を鍛えることができる。
流した汗を大浴場で流しきる。
用意されたサウナで汗と流すを繰り返した。
「いいねぇ。整ったような気がするよぉ。」
時刻は夕方を回った。
次に行く場所は決まっていた。自販機ルームだ。夕暮れのその場所は無人だった。
「――とても高くて眺めの良い場所が一つピンと来る所があるんだよ」とモタローが電話をかけた。
その合間に自販機の左側のスペースを見た。
そこにはソレは置かれていなかった。
顔を近づけたり手を入れたりして確認するが、やはりそこにはない。代わりに、一枚の紙が自販機に貼られていた。
それを手に取ると、猿渡からの置き手紙だったことが分かった。『全部、俺がやっとくわ』と大きく汚い字で書かれていた。
「どうしたのかい?」
「いえ、何でもありません。」紙を折り畳んでポケットに入れた。
ポケットに紙を隠したまま部屋へと戻っていく。
二日目は彼に会うことはなく終えた。
少し早る気持ちを抑えながら時間を過ごす。
そして、三日目の午前中にも彼には会うことはなかった。ただ、一枚の置き手紙だけが頼りだった。
結局、例の時間が来てしまった。
雨譚が腰から崩れ落ち、周りには危険を報せる文字が映像として映し出される。
階段を登り始める。
階段を降りてきた猿渡をモタローが追いかけた。ここまで一切、プレイヤーXの存在を発見できていなかった。
階段を登り、燐音と共に爆弾が仕掛けられた部屋へと入る。
頭に浮かぶ爆発の瞬間の光景。結局、対策すらされずに行われたのだと感じた。裏切られたという状況に直面し、不安感が倍増されていく。
その部屋にいるのは五人。
先に血眼に探している三人を通り過ぎていく。爆弾が隠されている机の前へと来た。中の鏡を外した。中から爆弾を取り出していく。
そこに他の四人が集まってきた。
客船クルーの一人が疑問を呈した。
「これが爆弾っすか? アルミホイルでぐるぐる巻きになってんすけど……。」
銀色に輝くアルミホイルでぐるぐる巻きに包まれた箱。確かに爆弾だと確信した。
それを見て安堵の気持ちへと変わっていく。何故なら、こうすることが作戦だったからだ。
「これでいいんだろ?」
新たに二人増え、部屋には七人となった。
その内の一人は逃げて行ったはずの猿渡だった。
「どうして君がいるんです? 逃げて行ったはずでは……。」
「察せられねぇか。俺だよ、俺。猿渡驚輝ことプレイヤーXだよ。」
ドヤ顔とともに、煙草が取り出され、それを火で燻り、蒸していく。
「まさか俺が昔の俺に憑依するとは驚きだよな。まっ、アンタの前では逃げる振りして、見られなくなってから立ち止まったんだよ。至極簡単な話だろ?」
「彼……とても物分りが良かったんだよ。到底信じられそうもない非現実的な内容をすんなりと受け入れてね。」
「その話は履修済みだからな。履修する前は受け入れられず時間を掛けて聞いたが、そんな話、スキップすりゃ、いいってもんよ。」
彼の憑依先が昔の自分だった。それにより、爆弾を取る際に、事前に話していたアルミホイルを得ることも、巻くことも容易に出来たのだろう。
音沙汰のない爆弾が囲まれている。
「ってか、それでいいのかよ。予定通り、爆弾にアルミホイルをこれでもかって程、巻き付けといたけどよ。」
「充分ですよ。そこまで巻く必要もなかったですけどね。」
状況が飲み込めないクルーの一人が訪ねた。「これが爆弾なんすよね?」
それに対して、未来から来た二人で「そう」だ、と返答した。
「見つかったんなら、次はどうするかだよな。下手に触れない方がいいはずだな。」
「えぇ、態々危険なことをする必要はありません。一旦放置して、警察の爆弾処理班が来るまで待ちましょう。」
その会話を聞いていた猿渡が横入りしてきた。
「おいおいおい。そんな悠長な事言ってられんのか? それの起爆スイッチは遠くにいる嘴平亥が持ってんだ。そいつが起爆するかも知れねぇだろ。」
それを聞いたルインが優しく微笑む。
「安心して下さい。彼に起爆は出来ませんよ。」
「ん、どういうことだ?」
「彼は遠くからリモートで操作して起爆するんです。ですから、その遠隔操作が出来ないように電波を遮断すれば問題ないんですよ。」
煙草を持っていない左手で頭を搔く。
「詳しく教えてくれ。電波を遮断ってどういうことなんだ?」
視線が銀に光る箱に移った。
「この爆弾は良くも悪くもリモート式なんですよ。つまり、電波による通信によって起爆することができる。だからこそ、電波を遮るようにアルミホイルを巻いたんです。」
「なるほどねぇ。アルミホイルは電波を遮断する。隙間があれば通信されるけど、これぐらいぐるぐる巻きなら安心だねぇ」とモタローは関心していた。
部屋の中から緊迫感が薄まっていく。
「下手に触ってアルミホイルが破けるとか、中のシステムが作動するとか、そうならないためにも何もしないで待つ方が良さそうだね。」
「えぇ、そういうことです。」
その場にポツンと置かれた爆弾。
TMT箱という大層な命名をされたその爆弾も、今では虚しい程、恐ろしさという光を失っている。
アナウンスが流れる。
スフィア船長の声が船内に響き、近くの場所に寄港することを伝えた。
「こっからはお前さんらには頼れねぇな。爆弾についてはこっちで処理をする。お前さんらは安心して船を降りりゃいい。それと、お前はこちらで拘束させて貰おうか。」
猿渡は若いクルーに連れられて別室へと向かわされた。
*
船が陸に辿り着く。
金城ふ頭という場所だ。
船と陸を繋げるタラップを踏みしめて、久しぶりの土を踏みしめた。
その場から少しだけ進んだ先にレゴランドと呼ばれるテーマパークがある。人々はそこに屯していた。
また、そこにはパトカーが止まっており、警察官と思われし人々が船へと直行していた。
夜のテーマパークは安堵のオーラで広がっていた。ただ、爆破テロの件を受け、そこは避難勧告が出されていた。
次々にバスや車が辿り着く。
そこから北か西へと避難するためのバスだ。我先に乗る人達が率先して乗っていくため、それに乗るには少しだけ時間がかかりそうだった。
「無事に生きて帰れたなぁ。これもアンタ達の力添えのお陰やろ?」
金太が隣に立つ。もちろん、その後ろには昌苅が立っていた。
「まあねっ。と言いたいけど、俺は何にもしてないんだよ。したのはルインさっ。」
「流石やなぁ」と音のならない拍手をされた。
人々の雑音とパトカーの喧騒が騒々しい。
「爆弾処理班がもう着いたらしいで。あまりにも早すぎて聞いてもうたわ。どうしてそんなに早く早く対応できるんかって、な。そしたらな、準備はしてたらしいわ。こうなることを考慮してたようなんや。」
振り返ると、騒々しいタトルクルーズ号が目に入った。
「警察が何と言っとったか分かるか? 吃驚仰天、何と警察ん中に《未来を予知》した奴がいるらしいねん。ワシはこの二人以外に力を付与したことがないんやけどなぁ。」
彼はモタローの肩に手を置いて顔を近づけた。
「何か知っとんちゃう?」
冷静に「心当たりなら、あるね」と返していた。
一台の車が到着する。その車は艶やかな黒塗りで、見るものを圧倒する。
「やはりなぁ。流石やわぁ。」そう言った後に「迎えが来たんで、ウチは帰りますわ」と言い放った。
帰り際に言葉が送られる。「ワシもアンタも神器に選ばれし者の運命の下にあるんや。精々、くたばらんでや。」
それに対して「もちろんだよ」と返していた。
彼が車に乗り、去った。
また、別の方向では警察官に連れられた猿渡がパトカーに乗って、彼もまた警察用公用車で金城ふ頭から去っていった。
アイハヴァペン、アイハヴァアッポー、ウォゥン、アッポーペーン。どこかからか聞いた事のある歌が流れていく。
アイハヴァペン、アイハヴァパイナッポォー、ヒュウォン、パイナッポーペェン。モタローはポケットから歌を流しているスマホを取り出した。
アッポーペーン、パイナッポペー。ここで着信に出る。
数分、話し終えた後、電話が閉じられた。
「鬼怒川警部の方も無事、上手く行ったようだねぇ。彼には感謝をしなくちゃいけないよ。県警の中で働きかけてくれたお陰で、いち早くこのテロ事件に対応できたからねぇ。」
バスに待つ人が減ってきた。
「そう言えば、警部はどこにいるのですか?」
「彼は爆弾魔の所さ。」
つまり、亥の所だろう。
「ちなみに、その爆弾魔はどこにいるんですか?」
「観覧車だよ。建物で貸切できるとても高い場所。それに船の位置を進めて考えるとシートレインランドの観覧車が浮かんで来るのさ。」
そこまで予測していたとは、と感心する。
そして、上手く行ったということは亥を捕まえることに成功したということだろう。
ほっ。どこか安心感に満たされていく。
汽笛が鳴った。
船がその場から南下して行った。
よく見ると客船クルーを初めとする関係者もぞろぞろと避難をし始めていた。
それと同時にバスが来た。
バスには客船クルーも乗っていた。それでもまだ空席は存在していた。
バスは人を乗せて北上していく。
夜の道路の静寂の中、ただひたすら進んでいく。埋立地と陸地を繋ぐ道路を進んでいく。もう陸地へと到着する。
「今の何?」と乗客の誰かが言った。
その時は何のことが分からなかったが、すぐにその意味が分かるようになる。
轟く轟音。
夜のパレットに描かれる赤く燃ゆる爆炎。
異次元の蜃気楼。
凄まじい爆風がバスをすり抜けていく。
海上の船から起きた爆発だった。その爆発が周りを木っ端微塵にしていった。陸地と埋立地を繋ぐ道路も途中まで破壊された。そこから少し先は道路が崩落した。ただ、乗っているバスはその先を進んでおり、無事だった。
「先輩っ。先輩っ。」と泣き喚く客船クルーの一人がいた。彼は齋藤黄丹と言う男だ。
「そんなの無いっすよ――。」
流れ落ちる涙と無邪気な子どものように後ろの窓ガラスにへばりつく姿。その様子が彼にとっての大切な人の死を表していた。
その爆発の一コマが脳裏に深く刻まれた。
飛び散った破片が飛び散っていく。横の窓からもその塊共が飛んで落ちて転がる様子が見られた。
赤く色付いていた風景も今は黄土色と灰色とが混じりあったような不気味な色に変わり果て、灰色の煙を吐き出していた。
もはや向こう側は濁った色で何も見えないが、タトルクルーズ号が存在していないことは一目瞭然だった。
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