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第一章 王国、離縁篇
17.舞踏会(離縁)まで5日 - リリアーナ、初めて城を出る -
しおりを挟む翌朝、リリアーナは侍女ラナーと護衛マルコと共に初めて王城から出た。
兄レイアードの突然の来訪から一夜あけ、城下町を散策する許可がアレクセイから早々に降りたのだ。
「本当に、レイアードお兄様は凄いのね」
「はい、シャルロン公爵家には国も一目を置いていますが、レイアード様には苦戦されているようですので·······」
「まあ、なんというか、、なんとなく分かる気がするわね。」
飼いならせない、誰にでも噛みつく狼感は凄くある。とリリアーナは首肯する。
「リリアーナ様にはとても優しく、甘いのですが」
うんうん、シスコンですものね。でも、その話題には絶対に触れない、この一択にかぎるわね。
リリアーナはコクコクと頷いてから、その横に佇むマルコに目を向けた。
「マルコもごめんなさいね。昨日の事といい、今日も付き合わせてしまって······。本当であれば王太子の専属護衛なのに········」
「いえ、昨日のことは気にしておりませんので。
それに、殿下には今、護衛は必要ないでしょうから·······さあ、そんな事より。本日は私共から離れないで下さいね。行ってみたい所等はあるのですか?」
マルコが少し遠い目をしながら王城の執務室を見やったのにリリアーナは気付いたが、黙っておく。
ルリナ嬢と揉め事のあった日以降、王太子専属護衛であったマルコはリリアーナの護衛へと変えられた。
初めて会った時の印象とは大分変わり、すこし疲れているように見受けられる彼を、リリアーナは心配していたのだ。
マルコが王太子にいま必要ないのは、アレクが傍にいるからなのかもしれないが、何かあったのだろうか?とリリアーナも執務室をちらりと横目で見る。
「うーん、そうね。特にこれといってはないのだけれど、“露店”という場所で珍しい食事を頂けると聞いたの。それを頂いてみたいわ。
あとは、自由になった時のために服なんかも見てみたい! 本当にこういう服なのかしら?
あ、そうだわ。二人共、今日は“リリア”と呼んで?お忍びでの散策なのだから、良いわよね?」
待ち切れない様子で、身に着けている“王都で流行りの身軽なワンピース”を摘んで首を傾げているリリアーナ。
“お忍び”、ということで侍女が“王都の金待ちお嬢様風”に着飾ったのだろうが、高貴な雰囲気が全く抜けていない······。
見た目を魔法で変えても、隠せないものはあるんだな。と心の中で突っ込みながら、マルコは一旦今日の行程を決めることにした。
「わかりました。“リリアお嬢様”、と呼ばせて頂きます。では、一先ずは貴族街を抜けて都民街という所にでましょうか? そこから少し歩くと露店が並ぶエリアに着きます。そこで気になる所などあれば、仰ってください」
◆
「リリアーナ様、少しこちらで休みましょうか?」
初めての城下町散策を全力で堪能していたリリアーナだったが、気づかない内に露店を歩くうちに人の多さにどっと疲れが押し寄せていたようだ。
「“リリアお嬢様”、でしょ?そうね、少し休憩しましょうか」
「お腹すいていらっしゃいませんか?私がなにか買ってきましょう。」
「まあ!いいわね!であれば、露店の中から貴方のオススメを見繕ってくれるかしら?二人の分も、忘れずにね!」
「分かりました。では、リリアお嬢様。ラナーの傍を絶対に離れないで下さい。こちらの噴水広場であれば人の目も多いので安全でしょう。直ぐに戻ってきますので」
リリアーナが決めた“王都の金持ちお嬢様”設定に緩く付き合っていたマルコは頷き、人でごった返している露店の中に足早に消えていく。
「今日はいつもより人が多くて、私もびっくりしているのですよ」
露店へ消えたマルコの方を見ながら普段の王都の様子を話すラナー。その隣に腰掛けたリリアーナは両手をぐぐっと伸ばし大きく背伸びをする。
『外は開放感があって、とっても心地良いわ!』
その時、突然路地から悲鳴とともに一人の少女が噴水広場へと走ってきた。
「キャァァァァァ! だれか、助けてっっ!!」
リリアーナは反射的に立ち上がって少女のもとへと駆け寄り肩を支える。
「あなた、大丈夫?震えているわ」
「た、助けて、お姉ちゃん! わたし、連れて行かれちゃうっ! 殺されるっ!!」
リリアーナはしゃがみ込んだ少女を優しく抱き締めてから、ラナーに視線を向ける。このときばかりは自分が魔法をつかえないことを恨んだ。
こうやってラナーに頼る事しか出来ないのだから。
「もう大丈夫よ。ラナー? 彼女を守って頂戴、」
「はいっ!」
直ぐに少女を追って走ってきたのは、六人の男達で、皆揃って大柄で体格が良い。そして、その真ん中にいた主犯格らしき大男が、荒々しい声をあげた。
「オイオイ! その女は返してもらうぞ。ソイツぁ俺達の商品なんだ」
「貴方、女って彼女、まだ少女だわ!? こんな子を商品なんて、人身売買のような表現、、(·······もしかして、本当に人身売買をしているというの?)」
リリアーナの表現が困惑したものに変わったのを見て、ニヤニヤと汚い歯を見せながら近寄ってきた男達は徐ろに刃物を出し始める。
「防御魔法展開します!!」
ラナーはすぐに対物理・魔法防御壁を張った。
そして、リリアーナと少女の前に立ちはだかる。
「はははっ、中々やるなあ、小娘ちゃんもよお」
“でも、” と主犯格の大男が手を翳すと、ラナーの防御魔法が無効化されスッと消え去った。
流石のラナーもこれには驚きが隠せないようだ。
「無効化っ!?それは、魔導具!?でも、そんな物はこの国には······ということは······──(密輸)?!」
ラナーは一つの答えに辿り着き、唖然としてその男を見つめた。
「小娘ちゃん、頭がいいねえ、商品には悪くない。それにそっちのお嬢ちゃんも上玉だ! こりゃあ高値で売れそうだぜ。
とりあえずここは人の目があるしなあ、商談はゆっくりと路地裏でやろうや」
「·····申し訳ございません、リリアーナ様。彼らには魔法が無効化されてしまうようです。素手で六人相手では······、流石に分が悪すぎます」
ラナーは服に忍ばせていた短剣を持って戦闘態勢をとっている。
無知なリリアーナには “魔導具” が何かは分からなかったが、ラナーの魔法が効かない以上かなり劣勢という事なのだろう。
どうしようか、と彼女が考えを巡らせている間にも大男はラナーの短剣を軽く振り払い、リリアーナの腕を掴もうと身を乗り出して来る。
そして────────、
──────── リリアーナは男に捕まる事を覚悟し目を伏せた。
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