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2. サンドロイズ実験隔離施設
シェリルはアクアビアンという国のサンドロイズ地方で一度目の人生を終えた。
この人生の記憶は硬いコンクリートの部屋の中の残像のみ。
戦争が日常の一部であるこの国で、戦争孤児だったシェリルや幼い子供達を集め、狂戦士を作る為だけに作られた実験隔離病棟で育ったのだから仕方のない事だろう。
その無機質な世界の日々の中で、シェリルは一人の友人が出来た。
名前はヴァレンティ―ナ・ロザリア。
真っ赤な燃えるような髪に真っ赤な瞳の活発な女の子だ。
「シェリルは本当に綺麗よね~、この真っ白な髪も透き通るような肌も、それでいてアクアマリンの宝石の様な瞳でしょ?お淑やかな性格も相まってお人形みたい!」
「えぇ······そんな事はないと思いますけれど······。ヴァレンティ―ナさんの方が······その深紅の髪も瞳も······とても······魅力的です」
嘘ではない。自分には何も取柄がない。
色素の薄い真っ白な肌に白髪。瞳だけは透明感のある青い色を宿している。
それに、周りからは「キモチワルイ」と蔑まれているのですし······。
「アナタの自信がないところは駄目だと思うんだよねえ。誰もが羨むほどの美貌の持ち主で、きっとどんな男も虜にできる筈なのに、ね?それにしても、本当にここから抜け出したいなぁ······」
ヴァレンティ―ナは徐に一冊の本を取り出した。
「なにを読んでいるのですか······?取り上げられてしまいますよ······?」
ここでは教養をつけるものや、外部と接触するものの所持を許されてはいない。
見つかれば直ぐに没収されてしまうだろう。
「違うの。これはただのノートなのよ。監視員も知っているから大丈夫。”また頭のおかしいヤツが現実逃避している”って嘲笑われたのよねえ、」
「げんじつとうひ······ですか?」
「うん。これはね、私の、”ロザリア王国”での恋愛小説なの!」
「ロザリアおうこく······?での、れんあい小説······ですか?」
ヴァレンティ―ナのその小説は、彼女の現実逃避として作られた、彼女を中心とした夢の様な世界だった。特にその過激な恋模様を描いた設定は、恋愛や性に対して全く無知であったシェリルに、衝撃と新たな知識を授けた。
「そ、それで······そのヒロインの方は国の主要な何人もの男性方に愛される······のですか?」
「そうだけど?だって、ヒロインはいつ何時も最も最高な結末を迎えるものでしょ?だから、沢山の男性に愛されて愛でられながら悠悠自適に暮らすの」
何人もの······男性に愛される······。想像はつかないが、そういうものなのかも、とシェリルは頷く。
「そ、そうなのですね······その······ヴァレンティ―ナさんの国には······戦争はないのでしょうか?」
「え?まあ、そうなんじゃない?でも、あったとしても、ヒロインには下々の事は関係ないと思うけど?とにかく、こんな施設に私がいるべきではないのよねえ」
その時扉が乱雑に開いて、白衣姿の男が二人入ってくる。
「オイ、早く来い!今日の実験の時間だ」
「またこんなもん持ちやがって!このクソ生意気な赤髪女が!」
一人の男がヴァレンティ―ナから本を奪い取り、鼻で笑うとそれを放り投げる。
「ッ、痛ぁい!それは大事なの!やめてっ」
「ホント、こんな所から逃げられないのに馬鹿な女。お前らはこの施設のモルモットとして死ぬんだっつーの」
奪い合いになった際に少し本が破れ、ヴァレンティ―ナが男を涙目で睨みつける。
そんな事はどこ吹く風で、男は彼女の肩まで掛かる赤い髪を乱雑に掴んだ。
「痛いっ!やめて······もうイヤなの!」
「オイ、その白い不気味な方もついて来い。本当に見てくれだけは極上だから実験が終わった最後には一発ヤッてみたいもんだよなあ」
「はは、違いねえ。でも、コイツは不感症なんでしょう?痛みを一切感じないと言うじゃないっすか?俺達が犯しても声の一つも発しないんじゃつまんねーっす。本当ヤベエ奴っすよ。気持ち悪いな」
シェリルは何も言わなかった。やられることはいつも同じ。
固い実験台の上に拘束されて、薬を投与される。
ここに集められた孤児は大勢いる。皆同じように薬を投与され、最強の狂戦士を創り出すという実験が日々行われているのだ。
だから、被験場にいく間にも、他の子達の叫び声、すすり泣く声、発狂する声が響き渡り静かになる事などない世界。
それが此処、サンドロイズ実験隔離施設。
生まれつき痛み自体を一切感じないシェリルは、狂戦士になればかなり有用性があるのだろう。
けれど、お淑やかで争い嫌いの元来の性格は薬でも簡単には変える事はできなかった。だから、研究施設も既に彼女に飽き、匙を投げていたのだ。
「オラ、早くそこに横になれ、不感症女」
シェリルは温和で静かな性格。それに加えて、不感症。
いや、不感症なんてものではない。痛みに対する全ての感覚がない。
だから、何をされても一切の感情の変化がない。
「······はい」
「今日の血清は特別製だぞ?本当の野獣の様になれるかもしれないらしい。お前もさあ、ちょっとは痛みがわかるといいよなあ、本当にキモチワルイ女」
その実験に使われる薬は日々過激を増していて、生き残れない者も多くいて。
ズンッと薬が体内に入り全身に巡る感覚だけがあり、シェリルは瞳を閉じた。
こうやって目を閉じていれば、身体を揺すられた時にはもう全てが終わっている。
「イっ、イヤ!痛いっ、やめてぇ······!」
「赤髪、お前は生意気だから皆から嫌われてんの分かんねえのかよ!クソ女が!」
「痛いッ!苦しい!アツい!!!イヤイヤイヤイヤあああ!!!」
ヴァレンティ―ナの悶絶するような叫び声が隣から聞こえ、周りで雑音の様に聞こえていた他の被験者達の声が段々と消えていく。
「う”うううッ、っぐ······あぁァ!!!たすけ······て······っ」
「なんか変だな。オイ、お前施設長の所に行くぞ、早く来い!」
同時にバタバタと研究者の男達が部屋から出ていく音がする。
「······私の······私だけの、楽園に······行きた······」
段々とヴァレンティ―ナの声がか細くなり、遠のいていって、シェリルは首を傾げた。
ヴァレンティ―ナさん······今日は気を失ってしまったのでしょうか?
いえ、私には痛覚がないから何も感じないですけれど。
拷問は気を失った方が遥かに良いと言いますものね······。
ああ、でも、何も音がないなんて······。この施設に来てから初めての経験かもしれません。
凄く不気味で、唯一の友のヴァレンティ―ナさんもいないような感覚で······なんだか一人だけ取り残されたようで······寂しいわ。
でも、わたくしも今日はなんだか少し眠いようです······。
けれど、これは······?あなたは······誰······?頭の中で······私を呼んでいる······あなたは·····?
あぁ、でも······やっぱり瞼が重くて開かない······こんなのいつぶりかしら······。
少し眠りにつけば、きっと誰かが起こしてくれるに違いありませんよね······。
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その日のサンドロイズ実験隔離施設の研究者のメモは以下の通りである:
血清142 Bは人間への投与では異常値を出しすぎることが判明した。
本日施設の被験者全員を失った。生存者ゼロ。
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