【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

文字の大きさ
3 / 63

2. サンドロイズ実験隔離施設



 シェリルはアクアビアンという国のサンドロイズ地方で一度目の人生を終えた。

 この人生の記憶は硬いコンクリートの部屋の中の残像のみ。

 戦争が日常の一部であるこの国で、戦争孤児だったシェリルや幼い子供達を集め、狂戦士を作る為だけに作られた実験隔離病棟で育ったのだから仕方のない事だろう。

 その無機質な世界の日々の中で、シェリルは一人の友人が出来た。
 名前はヴァレンティ―ナ・ロザリア。
 真っ赤な燃えるような髪に真っ赤な瞳の活発な女の子だ。

「シェリルは本当に綺麗よね~、この真っ白な髪も透き通るような肌も、それでいてアクアマリンの宝石の様な瞳でしょ?お淑やかな性格も相まってお人形みたい!」

「えぇ······そんな事はないと思いますけれど······。ヴァレンティ―ナさんの方が······その深紅の髪も瞳も······とても······魅力的です」

 嘘ではない。自分には何も取柄がない。
 色素の薄い真っ白な肌に白髪。瞳だけは透明感のある青い色を宿している。

 それに、周りからは「」と蔑まれているのですし······。

「アナタの自信がないところは駄目だと思うんだよねえ。誰もが羨むほどの美貌の持ち主で、きっとどんな男も虜にできる筈なのに、ね?それにしても、本当にここから抜け出したいなぁ······」

 ヴァレンティ―ナは徐に一冊の本を取り出した。

「なにを読んでいるのですか······?取り上げられてしまいますよ······?」

 ここでは教養をつけるものや、外部と接触するものの所持を許されてはいない。
 見つかれば直ぐに没収されてしまうだろう。

「違うの。これはただのノートなのよ。監視員も知っているから大丈夫。”また頭のおかしいヤツが現実逃避している”って嘲笑われたのよねえ、」

······ですか?」

「うん。これはね、私の、”ロザリア王国”での恋愛小説なの!」

「ロザリアおうこく······?での、れんあい小説······ですか?」

 ヴァレンティ―ナのその小説は、彼女の現実逃避として作られた、彼女を中心とした夢の様な世界だった。特にその過激な恋模様を描いた設定は、恋愛や性に対して全く無知であったシェリルに、衝撃と新たな知識を授けた。

「そ、それで······そのヒロインの方は国の主要な何人もの男性方に愛される······のですか?」
「そうだけど?だって、ヒロインはいつ何時も最も最高な結末を迎えるものでしょ?だから、沢山の男性に愛されて愛でられながら悠悠自適に暮らすの」

 何人もの······男性に愛される······。想像はつかないが、そういうものなのかも、とシェリルは頷く。

「そ、そうなのですね······その······ヴァレンティ―ナさんの国には······戦争はないのでしょうか?」
「え?まあ、そうなんじゃない?でも、あったとしても、ヒロインには下々の事は関係ないと思うけど?とにかく、こんな施設に私がいるべきではないのよねえ」

 その時扉が乱雑に開いて、白衣姿の男が二人入ってくる。

「オイ、早く来い!今日の実験の時間だ」
「またこんなもん持ちやがって!このクソ生意気な赤髪女が!」

 一人の男がヴァレンティ―ナから本を奪い取り、鼻で笑うとそれを放り投げる。

「ッ、痛ぁい!それは大事なの!やめてっ」
「ホント、こんな所から逃げられないのに馬鹿な女。お前らはこの施設のモルモットとして死ぬんだっつーの」

 奪い合いになった際に少し本が破れ、ヴァレンティ―ナが男を涙目で睨みつける。
 そんな事はどこ吹く風で、男は彼女の肩まで掛かる赤い髪を乱雑に掴んだ。

「痛いっ!やめて······もうイヤなの!」

「オイ、その白い不気味な方もついて来い。本当に見てくれだけは極上だから実験が終わった最後には一発ヤッてみたいもんだよなあ」
「はは、違いねえ。でも、コイツは不感症なんでしょう?痛みを一切感じないと言うじゃないっすか?俺達が犯しても声の一つも発しないんじゃつまんねーっす。本当ヤベエ奴っすよ。気持ち悪いな」

 シェリルは何も言わなかった。やられることはいつも同じ。
 固い実験台ベッドの上に拘束されて、薬を投与される。

 ここに集められた孤児は大勢いる。皆同じように薬を投与され、最強の狂戦士を創り出すという実験が日々行われているのだ。
 だから、被験場にいく間にも、他の子達の叫び声、すすり泣く声、発狂する声が響き渡り静かになる事などない世界。

 それが此処、サンドロイズ実験隔離施設。

 生まれつき痛み自体を一切感じないシェリルは、狂戦士になればかなり有用性があるのだろう。
 けれど、お淑やかで争い嫌いの元来の性格は薬でも簡単には変える事はできなかった。だから、研究施設も既に彼女に飽き、匙を投げていたのだ。

「オラ、早くそこに横になれ、不感症女」

 シェリルは温和で静かな性格。それに加えて、不感症。
 いや、不感症なんてものではない。痛みに対する全ての感覚がない。
 だから、何をされても一切の感情の変化がない。

「······はい」
「今日の血清は特別製だぞ?本当の野獣の様になれるかもしれないらしい。お前もさあ、ちょっとは痛みがわかるといいよなあ、本当に女」

 その実験に使われる薬は日々過激を増していて、生き残れない者も多くいて。
 ズンッと薬が体内に入り全身に巡る感覚だけがあり、シェリルは瞳を閉じた。
 こうやって目を閉じていれば、身体を揺すられた時にはもう全てが終わっている。

「イっ、イヤ!痛いっ、やめてぇ······!」
「赤髪、お前は生意気だから皆から嫌われてんの分かんねえのかよ!クソ女が!」
「痛いッ!苦しい!アツい!!!イヤイヤイヤイヤあああ!!!」

 ヴァレンティ―ナの悶絶するような叫び声が隣から聞こえ、周りで雑音の様に聞こえていた他の被験者達の声が段々と消えていく。
 
「う”うううッ、っぐ······あぁァ!!!たすけ······て······っ」
「なんか変だな。オイ、お前施設長の所に行くぞ、早く来い!」

 同時にバタバタと研究者の男達が部屋から出ていく音がする。

「······私の······私だけの、楽園に······行きた······」

 段々とヴァレンティ―ナの声がか細くなり、遠のいていって、シェリルは首を傾げた。

 ヴァレンティ―ナさん······今日は気を失ってしまったのでしょうか?
 いえ、私には痛覚がないから何も感じないですけれど。
 拷問は気を失った方が遥かに良いと言いますものね······。

 ああ、でも、何も音がないなんて······。この施設に来てから初めての経験かもしれません。
 凄く不気味で、唯一の友のヴァレンティ―ナさんもいないような感覚で······なんだか一人だけ取り残されたようで······寂しいわ。

 でも、わたくしも今日はなんだか少し眠いようです······。
 
 けれど、これは······?あなたは······誰······?頭の中で······私を呼んでいる······あなたは·····?
 
 あぁ、でも······やっぱり瞼が重くて開かない······こんなのいつぶりかしら······。
 少し眠りにつけば、きっと誰かが起こしてくれるに違いありませんよね······。

******************************** 
 その日のサンドロイズ実験隔離施設の研究者のメモは以下の通りである:
 血清142 Bは人間への投与では異常値を出しすぎることが判明した。
 本日施設の被験者全員を失った。生存者ゼロ。
********************************
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…