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15. 悪役令嬢、大失敗!
「ア、アロライン様、もう行きましょ?授業が始まっちゃいます」
シンと静まり返った人だかりのできた校門で、最初に口を開いたのはヴァレンティ―ナだった。
クイクイと制服の袖を引っ張られ、茫然と立ち尽くしたアロラインは顔をヴァレンティ―ナに向ける。
「あ、ああ。そうだな。そろそろ行こう。シェリル、申し訳ないが······この話はまた今度だ」
「は、はい······」
シェリルは自分の目の前から立ち去る二人を見送って、両手で顔を覆った。
「だ······大失敗ですね······もうっ!」
校舎の中に消えて行ったアロラインとヴァレンティ―ナを見たあと、周りの生徒達はシェリルをじっと心配そうに見つめた。
けれど、彼女はアロライン王太子殿下の婚約者で、この国で最も高位で精霊の化身とも言われるほどに美しい公爵令嬢なのだ。
誰も話しかけに行く事ができないまま、人は去り、シェリルは一人で蹲った。
だが、この時から周りの生徒達はバルモント公爵令嬢の噂について疑念を感じる様になる。
ワガママで傲慢と名高かった彼女と目の前にいる人物はあまりにもかけ離れ、噂は嘘ではないのか?と、話は瞬く間に広がったのだ。
◆
初めての学園での一日が終わり、シェリルはヴァレンティ―ナに呼び出された。
とは言っても、呼び出しにきなさい。と言われたから、シェリルが言いに行ったのだけれど。
「ヴァレンティ―ナさん、少しお時間良いでしょうか?」
そう言ったシェリルの前には、少し怯えたような、震えたような表情のヴァレンティ―ナと、その彼女を心配そうに見つめるアロラインがいた。
「話がある······?ここでは言えないこと?」
そう言ったヴァレンティ―ナにシェリルはコクリと頷く。
「此処ではお話しできません。ですので、来て頂きたく思います」
ビクリと震えるヴァレンティ―ナに、アロラインが口をいた。
「ヴァレンティ―ナ、貴女が行く必要はないのでは?······シェリル、先日も言ったと思うが。彼女は国にとって大切な人なんだ。あまり迷惑をかけるな」
「だ、大丈夫。私もシェリル様と二人で話をしてみたかったし······それに、シェリル様は今は一応アロライン様の婚約者、でしょ?」
こうして、シェリルはヴァレンティ―ナを連れて外に出る事に成功した。
だが、状況は逆転し、シェリルは目の前をスタスタと歩くヴァレンティ―ナを追う。
「ヴァ、ヴァレンティ―ナさん······待って······っ」
校舎の裏、細い路地を曲がった所で立ち止まったヴァレンティ―ナは勢いよくシェリルを振り返った。
「シェリル?本当に、あんたはどうして言われた事もできないの?ほんと、失望するんですけど?」
失望、という言葉を聞いて、シェリルは愕然とする。
「······!ご、ごめんなさい······!」
「せっかく、私があんたを小説に組み込んであげてるんだから感謝して欲しいくらいなんだけど?そんなに出来の悪い友達なんて用ナシでしょ、」
「あ、ありがとうございます······でもっ、本当にこれからは頑張って悪役令嬢になれるようにするから······お願い、友達をやめるなんて······言わないで」
シェリルの瞳からポロポロと止め処なく流れる涙をみて、ヴァレンティ―ナは顔を顰めた。
「ねえ、その泣き虫のどうにかならないの?あ、それかソレ使って演技も良いかも?嫌だ嫌だって子供みたいに駄々こねて泣きじゃくれば逆に上手くいったり······とはいえ、所々小説の設定と変わっているのも気になるのよねー。うーん、ホント上手くいかないわ」
ヴァレンティ―ナがどうでも良い様にそういった時、後ろからアロラインと護衛の話す声が聞こえた。
「ヴァレンティ―ナ?シェリル!どこだ?」
「殿下、ここにはいないみたいっすね······あ、あの校舎裏かな?呼び出すならあそこ定番じゃないっすか?」
「定番なんてあるのか?俺は知らないが」
「そうですよ、きっと······ほら!」
アロラインと護衛のラルクが路地裏を覗き込んだ瞬間、ヴァレンティ―ナはシェリルの手を咄嗟に掴むと自分の頬を思い切り叩かせた。
パチーンッと肌をはたく音が響き渡り、ヴァレンティ―ナは尻もちをつく”フリ”をする。
『ちゃんと次は演技しなさいよ?じゃないと友達やめるからね?』
そう唇が言葉を紡いだのを見て、シェリルはメモに書いてあった言葉を思い出し、震える声を振り絞った。
「許せない!ヴァレンティ―ナさん、ヒドイですよ!私の婚約者とずっと一緒にいるなんて······っ!」
「ヴァレンティ―ナ!大丈夫か?」
すぐにアロラインが走ってきて、ヴァレンティ―ナの肩を抱く。
「アル様······ありがとうっ······でも怖い······。助けてっ」
ぎゅっとヴァレンティ―ナに抱きつかれたアロラインは、彼女の恐怖に震える瞳を見て、ゆっくりと立たせると、ラルクに向き直った。
「ラルク、彼女の護衛を頼む。あと、もしよければ先に二人で帰っていてくれ。俺はシェリルと少し話しをしてから帰る」
「はーい!んじゃ、ヴァレンティ―ナさん。俺じゃ不満かも知れないけど、行きましょっか」
「不満なんて······そんな事ないですよっ。守って下さいね」とラルクの目を見て微笑み、今度はラルクの腕に胸を押し付ける様にしがみついたヴァレンティ―ナ。
その一瞬でラルクの頬が赤く染まったのをアロラインは横目で見ながら、シェリルに目を向けた。
そして、二人が去っていったのを確認し、ゆっくりと口を開く。
「さて、シェリル······言い訳はなしだ。何故、ヴァレンティ―ナを叩いたのか理由を聞いても?」
「そ、それは······」
「また、嫉妬······か?貴女は確かに、私の婚約者に決まった頃から他の令嬢に嫉妬をして私を困らせ「嫉妬······?とはなんでしょうか?」
キョトンとした顔で首を傾げるシェリルにアロラインは茫然とする。
「は?というか、やはり変だろう。本当に、シェリル······なんだよな?」
「はい。私はシェリルです······。その、殿下の仰る、嫉妬?というものはよくわかりませんが、叩いた理由は、アロライン王太子殿下には私という婚約者がいるのに······いながら······ヴァレンティ―ナさんと一緒に馬車に乗って通学するなど······するからでして······」
シェリル自身も言いたい事があまり定まっていないような、何かの台詞を棒読みしているような言い方にアロラインは疑問を抱く。しかし、時間もないから、と取りあえず告げなければならない事を口にすることにした。
「······。シェリル、ヴァレンティ―ナは”世渡り人”だった。叔父上にも確認して貰ったから確実だ。そして”世渡り人”の価値と待遇は······貴女も知っているはずだな?そういう事、なんだ。だから······貴女が今俺の婚約者であっても彼女に関わるなというのは無理な話なんだよ」
「······彼女と······結婚されるのですか?」
アロラインは流れる様にシェリルから出たその言葉に驚きを隠せない様子だったが、静かに首を振った。
「それは······まだ分からない。だが、王族の誰かしらが彼女と結婚する事にはなるだろう。俺か、叔父上か······だろうな。だが、そうだな······それも視野に入れているという事だ······」
申し訳なさそうに言ったアロラインとは対照的に、シェリルの顔はぱっと明るくなって彼は目を疑う。
そんな表情を隠すようにシェリルは顔を俯けると小さな声を出した。
「分かりました······私は······殿下の御意思を尊重したいと思います······」
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