【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

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16. アロラインの理想郷



 アロラインは、王城に到着するとすぐに急ぎ足で廊下を歩く。
 そんな時、後ろから聞きなれた声が聞こえて、彼は立ち止まった。

「殿下ッ!!大丈夫でした?婚約者様、怒ってました?」

 アロラインが振り返れば、想像通りの男、ラルク。
 そして彼の唇の端と制服の襟に赤い着色があって、アロラインは片眉を吊りあげて一言だけ告げた。

「ラルク、俺の専属護衛としての将来があるのだから。身だしみはしっかり整えた方がいいぞ」

 ハッとしたような表情で制服の襟を見たラルクを無視して、アロラインはそそくさと歩き始めると、一つの重厚な扉の前で立ち止まる。深呼吸を一度してからその扉をノックした。

「だれ「叔父上、」······アルか······入って」

 執務室に踏み込むや否や、アロラインはソファに倒れ込んだ。

「叔父上ええええ!」
「ちょ、ちょっと待って、今遮音の結界を······」

 結界を張り終えたヒューベルはアロラインの前に腰を下ろす。

「で、今日はどうしたの?ヴァレンティ―ナ嬢の今後の待遇の報告?それとも貞操概念の問題かな?」

 アロラインはその言葉に顔を上げた。

「ちょっとまって、貞操概念って······何ですか?もしかして······っていうか······やっぱり叔父上は凄いな······情報が早すぎるんだもんな」

「学園内の事は知らないけどね?王城については僕には何処にでも目があると思って貰って構わないよ」

 ふふっと笑いながら、ヒューベル直々に差し出された紅茶をアロラインは見つめる。

「シェリルが······俺の麗しのシェリル様が、やっぱり変なんです。もうあのワガママな女王みたいな彼女はいないんだ······」
「······変って?」
「叔父上は知っていますよね······シェリルはついこの間まで傲慢でワガママで、俺の事だって物みたいに扱ってくれていたんだ······」
「うんうん、そうだね。それで、アルはお尻を叩かれて、『この変態ドエム王太子野郎、気持ち悪いんだよ』って罵られるのが夢だったんだもんね?」

 ”そう!!そうなんですッ!!”と目の前で目を輝かせたアロラインを見て、ヒューベルは甘味を口に入れた。

『ああ、美味しいな。リルにあげられないのが残念だけど、アレも城内の情報収集などやるべき仕事があるからね······ずっと寝てられちゃ困るもんな』

 窓の外を見れば、歩きながらビクリと身体を震わせたリルが見えてヒューベルは頬を緩ませる。
 だが、その前で、アロラインは先と一転、絶望的な表情をした。

「でも、もう全然違うんです······そんな傲慢お嬢様感は一切なくて······もう罵ってすらくれない······今はただの泣き虫なんだ······。この間の事故で何かあったのかな······」

「······泣き虫······だって?」

 ヒューベルはずっと昔の事を思い出した。
 あの頃、まだ幼かったシェリルはずっと泣き虫で······そんな彼女をいじめていたのは他でもない自分。
 そして、そんな彼女が好きで、振り向いて欲しくて堪らなくて······事あるごとに公爵家を訪れて彼女にちょっかいを出していた。
 
 でも、アロラインの婚約者になった時にヒューベルはそれを封印した。そして、その頃からシェリルは全く別人のようにワガママ令嬢として名を馳せる様になって。
「僕にとっては······彼女が”変”だったのはワガママ令嬢だった時なんだけどな······」

「······え?叔父上、なんて?」
「ああ、いや。ごめん独り言さ。続けて?」

 聞こえていなくて良かった、とヒューベルは小さく溜め息をつく。

「で、叔父上、ヴァレンティ―ナを娶りますか?」
「は?」

 あまりの不快な言葉に、ヒューベルは顔を歪める。
 何があっても、あのヴァレンティ―ナとかいう女だけは嫌だ。
 魅了に似た何かを使用して人の心を得ようとする。それに加えて複数の男に媚びを売るような女。 嫌悪感しかない、とヒューベルは殺気立った。

「お、おじうえ······殺気······」
「ああ、ごめん。ちょっとあまりにも現実味のない言葉が聞こえたから······で、婚姻についてだけど、それは君が良いんじゃないかい?」

 ヒューベルがそう言えば、アロラインはパっと顔を輝かせる。
 だが、それを隠すように彼は改まったように声色を変えた。

「そ、その······父上は病気ですし······叔父上か俺かと思っていたんですが······」

「アルで良いんじゃないかい?でも、まだ公表はしない方がいいよ。確か、学園では二か月後に最初の社交界を想定した演習を学園で行うだろう?その次が、王城での演習。で、その後に中間の舞踏会演習があった筈だけど······。
 確定するのはその中間舞踏会辺りで良いんじゃないかな?」

「そう······ですね······」

 中間舞踏会演習まではあと半年もある。それまで婚約破棄も、新たに婚約を結ぶ事もできないのか······。とアロラインは内心がっかりした。

「アル、待てないのは分かるけどね。焦らずにしっかり相手を知って、見極めてから決めた方がいいよ?ほら、そうしないと、今回のシェリル嬢みたいに人が変わって、やっぱり嫌だ、ってなる事もあるんだから。結婚してしまったら、離縁なんて王家の醜聞に関わるよ?」
 ”君が今後王家を離れたとしてもね······”とヒューベルは小さな声で付け加える。

「確かに······でもヴァレンティ―ナはかなり性格がキツそうだし······すっごいタイプなんです。昔のシェリルよりも闇深くって······あぁ······」

 何かを思い出したのか、うっとりとする様な表情になったアルを見て、ヒューベルは慌てて口を開く。

「っちょっと待った。なんか変な雰囲気醸さないでくれるかい。少なくとも僕の執務室で欲情するのはやめてくれ?」
「叔父上!失礼ですよ?そんな事しません!」

「あと、アル。結婚するまで貞操はある程度守った方がいいと思う······君も、ヴァレンティ―ナ嬢も「でも、王族のままでいるつもりはない俺としては別に処女を守ってもらう必要はないんですよね」

「とは言ってもね。”世渡り人”は王族と結婚が必須。何か問題になったら、それこそ結婚もできなくなるだろう?」
「まあ、それはそうですね」
「······それに、他の男に彼女の身体を貪られるなんて嫌じゃないか······」

 そこまで言ってヒューベルは恍惚とした表情のアロラインを見た。
 そして思う。そうか、そういう奴だった······と。

「まあ、君が良いなら良いけど······ね。僕には分からないな······」

「分かって貰えなくても良いんです。でも、叔父上、お願いです。僕の力になって下さい。僕も、将来王族を抜けても、叔父上の力になれる様、全力でこの国を影から支えていきますので······」
「うん、」
「あ、あと、叔父上。先程言っていた学園の演習行事には参加されますか?毎年、王族かそれに準ずる誰かが参加していますよね······」

「うん、じゃあ僕か、エヴァンのどちらかが参加するよ」

 エヴァンと聞いて、アロラインは顔を顰める。
 彼はヒューベルの片腕で、宰相候補の男だ。頭のキレはこの国でも一番。
 学園を主席で卒業し、ヒューベルにしか懐く事のない、黒髪短髪、エメラルドの瞳に眼鏡の真面目男で、全てを見透かしてくる様な目はあまり得意な人物ではない。

「······分かりました」

 アロラインは深くお辞儀をしてから部屋を出た。

 扉を閉めたアロラインは、ニンマリとだらしなく下がる頬を他人に見られない様に隠す。

 次期国王であるヒューベルの許可は得た。
 今後の方針も決まった。後は、学園卒業後に自分の理想の桃源郷を作るだけ。

 彼女を女王の様に奉り、俺はこき使われて這いつくばる。
 その女王様を屈服させる男も沢山欲しいな。
 男が好きそうな彼女を囲み、関係を持たせ。

 そして、彼女はそこで見守られながら一生を終えるんだ。
 沢山の歪んだ愛に愛でられて。

「っふふ。ふふふっ······楽しみだなあ······本当に楽しみだ······ね、俺の女王様」
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