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17. 学園のアイドル、白き精霊の化身!
このロザリア王国、王立学園では卒業時にスムーズに社交活動ができるようにするため、3年になると社交界や舞踏会のマナーや顔見知りを作る予行演習が多く行われる。
それは、この学園に入ったばかりのヴァレンティ―ナやシェリルも例外ではなかった。
最初の社交界演習はこの学園内の最も大きな会場で行われるのだが。
その日程までもう二週間をきった日、教室ではヴァレンティ―ナの気怠そうな声が響いた。
「社交とか~、あんま自信ないなあ」
「ヴァレンティ―ナ嬢、もし分からない事あれば僕が隣にいますので」
「いや、俺の方が教えて差し上げられる事がありますっ」
それを拾う男達のフォローの声が聞こえ、クラスの令嬢達はいつものその光景に溜め息を零した。
「はぁ······私の婚約者も最近はヴァレンティ―ナ嬢に骨抜きで······どうしたらいいのかしら」
「私もよ?婚約しているのに、会って話をする機会があってもずっと彼女の話をしているの」
そんな声が前から聞こえ、シェリルは席を立った。
そう、彼女にもミッションがあるのだ。こんなところでぼうっと座っているわけにはいかない。
スタスタとヴァレンティ―ナの机まで歩いていくと、周りを取り囲んでいる男子生徒達の後ろから咳払いをする。
「ん”んっ、すみません、私も入れて頂けるかしら?」
にっこりと微笑むと、周りの男子生徒達はシェリルを見て硬直した。
「は······はい······」
シェリルは慣れた様子で漸く見えたヴァレンティーナの目の前に立つと、彼女の事は見ず周りの男子生徒達を見渡す。
「皆様、ごきげんよう?今日もヴァレンティ―ナさんは素敵な殿方に囲まれてとても羨ましいですね?」
美しいアクアマリンの瞳に見つめられ、男達が頬を染めて俯けば、ヴァレンティ―ナの不機嫌そうな声が響いた。
「シェリルさま、何?今日も嫉妬ですか?婚約者である殿下の心が私に向いているからって、そういうのは醜いですよ!美しい花に沢山の虫達が集まってしまうのは仕方のない事だと思いません?」
最近はこの悪役令嬢役もとても上手くできるようになってきたと思う。
ヴァレンティ―ナの攻略したい人物に接触する際はかなり怒られ注意されることも多いが、こういう日常の会話であれば大分怒られなくはなってきたのだ。
悪役令嬢たるもの、常に気高く!でしたよね······。
だから、シェリルはゆっくりと頷いてから彼女を正面から見据えた。
「そのようですね······でも、その美しい花には大切な物を蔑ろにしてうつつを抜かす殿方しか集まらないのでしょうか······?それとも、ヴァレンティ―ナさんはどんな方でも全てを平等に愛してくださるので?」
「······なん、ですって······?」
「皆様、本質の美しさを見誤ってはいけませんよ?大切なものはすぐ傍にあるものです。もしそれに気付けないのでしたら、それを失っても仕方のない事ですよね······?」
シェリルはワザとらしく窓の方まで歩いていくと、外を見た。
そこには、先日婚約破棄をされた男子生徒が、元婚約者の令嬢に泣いて縋りついているのが見える。
「あれ?あそこにいらっしゃる彼は、確か······先週まで美しい花の蜜を吸いにきていらっしゃいましたよね?先日、婚約破棄をされたようですが······幻覚を見せられていただけだったと昨日も泣いて縋りついていらっしゃいましたよ?本日も頑張って失ったものを取り戻そうとされているようですが······もう、無理そうですね?」
ふふっとシェリルが儚げに笑えば、男子生徒達が一人、また一人とヴァレンティ―ナから離れていく。
「っ、シェリルさま?!どうして、そんな、私に当てつけのような真似をするんですか!」
「ヴィヴィ?どうしたんだ」
その時、廊下から部屋に入って来たアロラインの声がして、ヴァレンティ―ナは咄嗟にその声の方を振り返り席を立った。
「アル様ぁ!いつものですっ······シェリルさまがまた私がモテている事に嫉妬して!」
アロライン殿下、”ヴィヴィ”なんて愛称で呼んでいるなんて······。
シェリルは顔を俯けた。
アロライン殿下、本当に羨ましい!私も友人、それに親友であるならヴァレンティ―ナさんを是非、愛称で呼んでみたいものです!
でも······私は悪役令嬢という役柄ですし。
それにしても、いつこの悪役令嬢役は終わるのでしょうか?
私はいつ、親友に戻れるのでしょうか?
シェリルがそんな事を考えていると、アロラインの不機嫌そうな声が響き渡る。
「ああ、シェリル。君は本当に······諦めがつかないのか?ヴィヴィは”世渡り人”なのだから例外が多く認められているんだ。それに加えてこんなにも美しいのだから男性が寄ってきてしまうのは仕方ない事だろう?そんな事に嫉妬するなど······」
「そうっすよ、シェリル様。あんまり俺達の女王を虐めないで下さい」
「ラルク、それは言い過ぎだ」
”女王”と言ったラルクを嗜めたアロラインに彼は首を振った。
「この間も俺とヴァレンティ―ナが居残りで宿題をやっていたら入ってきて邪魔をされたんすよ。これくらい言ってもいいでしょう?」
”居残りで宿題”という言葉にシェリルは顔を一瞬顰める。
「どうした、シェリル。何か言いたそうだな?」
「いえ······なんでもありません。では、私はこれで失礼致します」
シェリルはヴァレンティ―ナとアロライン達の前を通り過ぎると逃げる様に教室を飛び出した。
校内の庭園近く噴水のある場所に座り、小さく溜め息をつく。
「先日の······ラルク様の、あれが······居残りの宿題······なのでしょうか······?」
シェリルの脳裏に焼き付いて離れないのは、先日見た、ヴァレンティ―ナがラルクの上に跨り、二人が口づけをしている姿だった。
あまりに衝撃的で······妖艶で······。思い出すだけで身体が熱くなり、顔が真っ赤になる。
二人の口づけは濃厚で、お互いに舌を絡め、最後には唾液が······とそこまで思い出した時、上から声がして彼女は顔を上げた。
そこには3人の男子生徒が不安気な表情で立っていて、そのうち一人が頭を下げ。
「バ、バルモント公爵令嬢、ご無礼をお許し下さい!ですが······大丈夫ですか?体調が悪いので?···───ッ!?」
その男子生徒達は、顔を真っ赤にして蹲っていたシェリルを気遣って声をかけただけだった。
バルモント公爵令嬢に自分達のような二流貴族が話しかけるのは不敬。怒鳴られて叩かれても仕方ないだろう。
でも、最近の彼女の噂は悪いものが一切ない。天使のようで美しく清廉潔白。男子生徒の中で彼女の評判はうなぎ上りだったから。
だから、彼らは彼女の体調不良を本当に心配しただけだったのだ。
下心がゼロだったかは置いておいても······。
でも本当に力になりたかっただけだった。
なのに······。
咄嗟に顔をあげた彼女の上気した赤い顔が、あまりにも······初心にしては艶やかで······。
初めて恋人と口付けを交わした時のような甘酸っぱい感情が全面にでて、彼らの加護欲が掻き立てられた。
『バルモント公爵令嬢万歳!麗しの我らが白き精霊の化身、シェリル嬢!』
そう彼女のファンが広がっていくのに、そこから時間は掛からなかったのである。
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