【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

文字の大きさ
19 / 63

18. エヴァンの想い



 王立学園での最初の社交界演習が二週間に迫ったある日。
 ヒューベルの執務室にノック音が響いた。

「はい、どうぞ~」

「殿下、失礼致します。そしてその緊張感のないお言葉、いかがなものでしょうか?」
「それは君が来ると分かっていたからだよ」

 黒縁の眼鏡をクイッとしながら位置調節しているらしい男が、この国の頭脳とも言われる男。ヒューベルの右腕にして次期宰相となるであろう人物だ。

「エヴァン、久しぶりだね」
「そうですね、本当にお久しぶりでございます。貴方が私に知らせず、”世渡り人”の鑑定を行い、その報告書を私に丸投げされた所為で、貴族達の不満も私が一心にうけ「エヴァン、ありがとう」

「あ、あ······ありが······まあ、殿下の為になるのでしたら、良いのですけれどね······それが私の仕事ですので?」

 本当にツンデレだな、とヒューベルは微笑んで、ソファに腰掛けると彼を座らせる。

「そうそう、それで。もうすぐ、王立学園の社交界演習があるだろう?それにいつも王族から参加して見守るってのをやっているんだけどね」

 その言葉に、エヴァンは顔を顰める。
 また厄介事を?と書いてある彼の顔を見て、ヒューベルは苦笑いを零した。

「エヴァン、顔に全部でているよ、ふふっ······そう、で、それに君に行って貰いたいんだ」
「嫌です」

「ふはっ、即答か!理由を聞いても?」

 ヒューベルはニコニコと笑いながら足を組む。

「それは······まず、今の3年生に私の興味のある人物はおりません。アロライン殿下がいるのですから王族からという理由であれば満たしているはず。それに私は王族ではありませんし。それに、あの”世渡り人”、凄く嫌な予感がするんです。この国の繁栄に助力しようとかそういう気を一切感じない」

「まあ、それは僕も同感かな?あの子を見ていても邪な感情しか映らないんだ。何か企んでいるというか虎視眈々と狙っているというか。あ、そうだ、伝えた通り彼女は”魅了”の類を使うらしい。気をつけてね」

 はんっ、と鼻を鳴らして、『私はそんなものには引っ掛かりません』と、気怠そうに窓の方を向いたエヴァンは小さな声で最後の言葉を呟いた。

「それに······殿下の為に立つ事がなにもない。ですから嫌、です」

 それを聞いたヒューベルはメイドの置いて行った紅茶に手をつけた。

「僕の為に立つ事しかない、んだけどな?」

 その言葉にエヴァンは顔をヒューベルに向けた。

「っな?いえ、私はあの3年生については色々と調べましたので、何もない筈です」
「ふふっ、頑固だなあ。じゃあ、君、シェリルを見た?」

 ”シェリル”ときいて、エヴァンの顔から表情がぬける。

「シェリ······ルが······?」

「そう。シェリルがついこないだ学園に入園したらしいんだ。僕はまだ会えていないんだけどね。で、もし演習に参加してくれたら「参加します」
「早ッ」

 分かっていた反応だったが、ヒューベルはその彼の変わり身の早さに目を見張る。

「シェリルがいるなら、参加します」
「うん、君ならそう言うと思った。けどね、彼女変わったらしい。いや、僕らからすれば”戻った”というべきかな?」
「戻った······?」

「うん、我儘で傲慢なシェリルではないらしい。僕らの知る、あの昔の純粋無垢なシェリルになっているんだと······まあ、僕も学園の情報までは入手に時間がかかるんだけど······「では、調べます」

「その必要はないよ、エヴァン。それはリルに任せるから。とりあえず、君には演習に参加して、ヴァレンティ―ナ嬢とシェリル、アロライン、ラルク、辺りを監視して欲しい。シェリルに何かあれば「すぐに守ります。最悪、私の侯爵家で保護します」

「エヴァン、」

 ヒューベルの地を這うような声が聞こえ、エヴァンはビクリと身体を揺らす。

「は······い」
「分かっていると思うが、シェリルは君には渡さないよ?もしシェリルを手に入れたいなんて考えが少しでも浮かんでいるなら、お前は行かせられない」
「いえ······」

 エヴァンは顔を俯ける。
 ヒューベルとエヴァンは幼馴染。そして公爵家の長男アルフレッドも、だ。
 だから、3人はよくバルモント公爵邸で遊んでいた。

 そこでずっと可愛がっていたのがシェリルだった。

 真っ白な肌に美しい白髪。はめ込まれたアクアマリンの宝石のような瞳。

 あの時は子猫のように纏わりついてくる彼女と遊んで、幸せな日々だったのに、アロラインと婚約が決まった辺りから、シェリルが我儘で傲慢であると噂が流れた。
 それは、ヒューベルやエヴァンが忙しくなり、遊ぶことも少なくなった時と重なっていて、誰も彼女を助けてあげる事は出来なかったのだ。

 悪い噂は良い噂よりも早く流れる。

 あんなに妹を可愛がっていたアルフレッドも、今では「ワガママ女」と罵るほどになり。
 彼女の周りからは人がいなくなった。

 彼女は自分の初恋なのに······。と、エヴァンはヒューベルをチラリと盗み見た。

 でも、エヴァンはその想いと同じくらいヒューベルを慕っている。
 彼と共に国を治めたいという思いがエヴァンには強くあったから、シェリルへの恋心は随分前に閉まい込んだ。

 そして、それはヒューベルも同じだった。
 だって、シェリルがアロラインの婚約者になった時、「もう国王になどならない!!」と子供のように駄々を捏ねながらも、ここまで国を支えてきたのは他でもない彼なのだから。

 エヴァンはそんな彼を生涯支えようと決意したのだ。
 だから答えは一つ。

「はい、心得ております」

「なら、いい。本当に、シェリルに危害が加わらないようにだけ注意してくれ。君なら信頼できるんだ。もし何かあれば、王城で私が保護しても構わないから」
「はい、畏まりました」

 エヴァンは席を立って、腰を折る。

「では、その社交界演習に参加し、終わり次第報告を兼ねすぐに殿下の元に赴きます」
「ああ、そうしてくれるかい?」

 にっこりと笑い、いつものヒューベルに戻った事を確認して、エヴァンは執務室を出る。
 そして、閉まった扉に背中を預け、ヒューベルの部屋にある一室を思い出した。

 シェリルとアロラインの婚約が決まった頃から、ヒューベルが作り始めたそれ。
 そこは一見美しい、女性向けの部屋。白を基調に、少量の青や金でシンプルに纏められたそこはまさに姫の為に用意された部屋だ。
 全く何も知らない他人があの部屋を見れば、ヒューベルの妻になる女性が使う美しい部屋だと多くの人が錯覚するだろう。

 けれど、あのアンティーク調の美しい棚の中に、所狭しと拘束具や調教用の玩具が所狭しと並べられている事を······あの寝台が四肢拘束ができるように作られ、テーブルの下が檻になっている事も······誰も知らない。

 シェリルを取られてからの彼の彼女に対する愛情と執着は異常だ。
 だから、きっと彼はシェリルを手に入れた暁にはもう二度と離さないだろう。
 もしかしたら逃げようとするシェリルを、あの部屋でヒューベル殿下が仕置きするという構図が見られるのだろうか······。

 そこまで考えてエヴァンは首を横に振った。

 自分が気にする必要はない。
 だって気にしたら、自分は······想像してしまうから。
 その調教の全貌を。

「ッ······はぁ······」

 エヴァンは服の下で膨張した己の想いを強く押さえ付けた。
 
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?