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36. 触れる唇と好きという気持ち、
目の前にじっと自分の顔を覗き込んだヒューの顔が見えて、シェリルは一気に赤面する。
「おいおい、美男美女でイチャついてくれるぜ~」
「初々しいカップルだな、悔しいッ!」
「まあ、店としちゃあ宣伝になるけどなあ!」
「はははは、違いねえ!!」
周りから野次が飛び、シェリルは恥ずかしさに俯く。
その隣で、ヒューが笑って口を開いた。
「皆、急かさないでくれ。まだ、カップルにはなれてないんだ。今日、願い事としてに星と精霊に願う予定でね」
「おお!それは良いな!頑張れよ、兄ちゃん!精霊の加護があるように祈ってるぜ!!」
「君たちもね!っじゃあ、皆、良い建国記念日を!」
ヒューが席を立って、自然な流れで手を差し出し、シェリルはその手を躊躇わず掴んだ。
二人は手を繋ぎながら、路地裏を練り歩く。
見たこともない物ばかりで、シェリルは終始辺りを見回し、瞳を輝かせた。
「本当に、皆様、幸せそうですね」
「そうだね、僕もこれを見ると嬉しいな」
「······本当に、私この世界に······生きているのですね」
感慨深げにそう呟いたシェリルの言葉と同時に、城下町中心にある時計台の音が鳴り響く。
ゴーン、ゴーン、と鳴るその音に、シェリルは夕日を見つめた。
もうこんな時間······。なのに、未だキスはできていない。
どうしましょう······。
少し焦ったシェリルはヒューにキスを頼むべく勇気を出して口を開く。
「ヒューさま、あの「さ、そろそろ行こうか?」
だが、同時にヒューが立ち上がり、シェリルの声は遮られた。
諦めて「はい」と頷いたシェリルはヒューに連れられて、時計台の目の前、大きな噴水のある場所に着き、あまりの人に息を呑む。
ヒューベルがその一部、人だかりの出来ている場所を指してシェリルはそこを見た。
「シェリル、見えるかい?みんな灯籠を持っているだろう?あれに願い事を書いて空に浮かせるんだ。それが星まで届いて願いを叶えてくれるという言い伝えなんだよ」
「まあ······とても、綺麗ですね······あれらはいつ放たれるのですか?」
「あそこの王城が見えるかい?国王が最初の灯籠を上げる。それが合図さ」
日は落ち、灯籠に火を灯し始めた人が続々と願い事を書いてその瞬間を待ち詫びる中。
シェリルとヒューも隣に座り合って願い事を書き終えた。
「シェリルの願い事は?」
シェリルは周りを見渡す。
此処は、素晴らしい世界······。
人々の笑顔からは希望が溢れ、何かを願い、夢を叶える事のできる世界。
「私は······これからも戦争がなく平和な世でありますように、と······誰も辛い思いをしないように」
「······へえ、シェリルはやっぱり美しい心を持っているんだね」
ヒューベルはスラリとのびた脚を組むと、そこに頬杖をついてシェリルを見つめた。
紫の美しい瞳に見つめられ、シェリルは堪らず目を反らす。
「ヒュー様は······何を書かれたのですか?」
「僕?僕は······」
ヒューの答えを聞く直前、王城の方から大きな楽器の音がして、広場にいた民衆達は皆動きを止めた。
その楽器の後、ゆっくりと一際大きな灯籠が王城から一つ上がる。
それが国王の物である事は一目瞭然だった。
「さて、僕達も立とう」
ヒューが立ち上がって、シェリルに手を差し伸べる。シェリルを立たせると、彼は灯籠を高く掲げ、手を放した。
「この国の皆の願いが叶いますように」
シェリルはそれを見て、彼と同じように灯籠を両手に持った。
両手を高く上げて、揺れる灯を見ながら手を離す。
「一人でも多くの方の願いが、叶いますように······」
空高く上がっていく灯籠をじっと見つめ、周りに上がる数多の灯籠の美しさに目を奪われる。それらで埋め尽くされる夜空を見上げていれば、そっと顎に手が添えられて。
それは一瞬だった。
夜空はもう見えなくて、見えたのは、あまりに整った顔。紫の美しい髪の毛と、顔に当たる眼鏡。
瞳は閉じられていて、唇が触れていた。
一瞬、自分の周りの世界が動きを止め、時すらも止まったような気がして、シェリルは何も考えられなくなる。バクバクとけたたましく鳴る心臓の音だけが聞こえて、胸が押しつぶされそうで。
何分経っただろう?いや、何秒とかそんなものだったのかもしれない。
唇が少し離れ、瞳が開いて美しい紫が自分を捉え。
彼は額と額を合わせながら、口を開いた。
「シェリル······好きだ」
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