【R18/完結】転生先は親友だと思っていた友人の小説の中でした。- 悪役令嬢になりきれないから、王弟殿下に調教されています -

猫まんじゅう

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56. 王城への帰還



 ヒューベルは息を切らしたエヴァンとロイドと合流すると白い柱を見上げた。

「殿下、申し訳······「その話は後だ。それに、リルが助けてくれたみたいだよ」

 馬に乗って走り出したヒューベルの後をエヴァンとロイドも慌てて追いかける。
 白い柱の先は、市街地の路地裏にある小さな建物だった。

 既に建物の屋根は壊れ、キラキラと真っ白な輝きが辺りに舞っていて、先に辺りを取り囲んでいた騎士団を制して、エヴァンとロイドが扉を押し開けた。

「シェリル······」

 ヒューベルの視界に入ったのは、紐で上半身を拘束されたまま、ドレスを切り裂かれたシェリル。
 彼女は泣きながらその真っ白な光の柱に近寄っていって、膝から崩れ落ちた。

「シェリルッ······!!」

 流石に間に合わないか!と、ヒューベルは地を蹴る。
 風魔法を使おうと発動しかけた瞬間、白い柱が彼女の身体に吸い込まれていき、彼女の身体がふわりと浮いて、ヒューベルはその光景に目を見張った。

「リル······なのか?」

 彼はシェリルを受け止めると、自分の着ていた上着をシェリルの上にそっと掛けた。

「······シェリル、遅くなってすまなかった······」

 周りを見渡せば、リルによるものだろう猛獣の爪痕で血を流している男が二人、そして恐怖に脚を震わせ泡を吹いたり、失禁している男が三人。そして、ヒューベルは椅子に座ったまま苛々とした様子で脚を組みかえたヴァレンティ―ナを視界に捉えた。

「クソっ!また、お前かっ!!」
「なんでそんな目をするの?!ヒューベル殿下だって私の事を好きだった筈でしょ?」

 その言葉にヒューベルは冷ややかな目を向ける。

「何を言っているんだ?妄想も大概にしてくれ。私がお前の事をそういう目で見た事は一度もない」

 最初に会った時は好感度上昇のスキルが確実に効いていた筈なのに。と、ヴァレンティ―ナは綺麗に整えられた爪をギシリと噛みしめる。

「なんで······あの猫といい、どうして私の小説通りに進まないの?!!変よっ!こんなのおかしい!これも、あれも······全部、シェリルがいなければ起こらなかった事なのにッ!!」

 そう、オカシイ。
 だって、小説で書いた内容には”リル”なんていう猫も、精霊を信仰する国だなんて事も書かなかった。
 なのに······この世界には小説中には実在しなかったモノが実在しているのだから。

 ヴァレンティ―ナはシェリルを大切そうに抱きかかえたヒューベルを睨みつけた。

「君は間違っている。君たち二人に何があったのかは知らないが、二人が同じ場所から来ている事はもう分かっているんだ。シェリルは君の事を本当に友人だと、そう思っていたんだぞ?」

 その戒めの様な言葉にヴァレンティ―ナは声を荒げる。

「分かった様な事言わないで!!あの子は痛覚が無かったから苦しまなかった。私達の苦痛なんて知らないんだからっ。今苦しんで死んでもらう事の、何が悪いっていうの?!」

「自分が苦痛を強いられたからと、転生してまで他人に同じ事を望むのは間違っているだろう!」

「はァ?間違ってる?そんなの知らないわ?今も昔も私はあの子を友達として見た事もないし。それに、この世界は私の創ったものなんだから、私の思い通りにならないなら意味がない!シェリルの事はずっと死ねばいいと思っていたし、今も思っているわ?」

 ヒューベルは全く悪気のないヴァレンティ―ナを見た。

「ヴァレンティ―ナ・ロザリア。君の妄言は聞き飽きた。私は直ぐにこの国の国王となる。シェリルは直に王妃だ。その意味が、分からない程の馬鹿だとは考えたくないが?」

 その言葉にヴァレンティ―ナは目を見開く。

「は?ま、待って?なんで?!アルは?今日国王が死んで、アロラインが次期国王になるんじゃ「ヴィヴィ······父上の事も知っていたんだね······?君は、この国の重罪を犯しすぎている。もう僕の婚約者であろうと、許される事ではないんだ」

 突如、背後からアロラインの声が後ろから響き渡り、ヴァレンティ―ナは咄嗟に席を立ち彼の元へ縋りついた。

「アルっ!変なの、みんな······変でッ!!」
「変······なのは君さ、ヴィヴィ。でも、そんな······変な君が······、好きなんだ」

「······は?」

 ヴァレンティ―ナは瞳が欲情の色を宿し、うっすらと口元に弧を描いたアロラインを見つめた。

「普通の常識として、これでも僕は王太子なんだ。僕以外の男と婚姻前に姦通し、次期王妃になれると?」
「それは······、処女だって守っていたじゃない!······それに私は”世渡り人”なんだから!」

 駄々をこね始めたヴァレンティ―ナを、アロラインは宥めるように諭す。

「いくら”世渡り人”といえど、ヴィヴィには知らない事もあるみたいだね?君には言っていなかったけど、叔父上はかなり前から国王になる事が決まっていたし、僕と叔父上はとても仲が良いよ?」

「え······?」

 ヴァレンティ―ナの顔から表情が抜け落ち、ヒューベルは彼女に冷ややかな視線を向けた。

「私は君がシェリルに紙を渡して色々と誘導していたのも知っているし、男を差し向けて彼女を襲わせようとしていたのも知っている。アルからも色々と報告を受けていたよ」

「こ、これって······私が······悪役令嬢エンド······なの?」

 ヴァレンティ―ナは膝から崩れ落ちると泣き出した。

「やだ、やだああ、もう死にたくないの······もうあんな所、戻りたくないのお、私の小説だったのに······なのにその通りに進んでないし······いつあの世界に引き戻されるかも分からない······怖いのぉっ」

 子供の様に泣き喚くヴァレンティ―ナを見ながら、ヒューベルは感情の籠らない声で言葉を続ける。

「身勝手な事だな。何人もの人生を狂わせておいて、自分は死にたくない等と。今回までの事件、罪の重さで言えば死刑だろう?」

「ま、待って······なんで······私が死刑なの?まだ死にたくない······まだ、色々やりたい事がっ······!嫌······ッ」

 そんな中、静かに怒りを露わにするヒューベルの目の前に立ったアロラインが頭を下げた。

「叔父上······お怒りごもっともだと承知しています。ですが、辺境の地下牢で私が管理するというのでお許し頂けないでしょうか?」
「アル、お前まだそんな事を言っているのか?」

 ヒューベルに睨まれ、アロラインは身体を揺らす。だが、彼はまっすぐ彼を見ると土下座し額を床に付けた。

「彼女は牢から出しません。叔父上の監視を一人置いて頂いても構いませんので!だから、是非······私の玩具にさせて下さい······!」

 顔を上げたアロラインから灰黒い欲情を孕んだその瞳が見え、ヒューベルは顎に手をあてる。

「けど······、その女には魅了の魔法がある。牢から抜け出されると困るんだよね。ああ、目を使わせなければいいか······」

「っ······好感度のスキルも······バレてるの······?!嫌よ!目が見えないのなんて絶対に嫌!辺境の牢なんか行きたくないわ!そんなの奴隷かペットか何かと変わらないじゃない!」

 その言葉にヒューベルはヴァレンティ―ナを見てニヤリと口角を上げる。

「それが、どうした?死刑を免れるんだ、そんなの生ぬるいだろう?」

 彼女は人間の尊厳のない状況で、自分の意思とは関係なく多くの男と関係を持ち、それをアロラインは見て娯楽とする。アロラインは、これから正規に婚約を他の女性と結び直し、彼女はただの”玩具”と化すんだから。

「ひぃっ······。私の婚姻は······?ラルク······は?」
「ラルクも辺境には一緒にくるけど、結婚はしないってさ。だからヴィヴィ、楽しませてね」

「······い、嫌······ッ!なんでっ!この世界を創ったのは私なのに!」

 泣き崩れるヴァレンティ―ナを気にも留めず、ヒューベルはアロラインを振り返った。

「アロライン、学園を卒業したらすぐに辺境に赴いてもらう。それまで、彼女は王城の地下牢に入れさせてもらうよ?彼女の目の件も含め、世話はロイドが適任だろうしね」

「はい······寛大なお心有難く、ロザリア国王陛下」
「ッイヤ!あのロイドとかいう男は嫌!怖いの!」

 こうして、主犯であったヴァレンティ―ナはロイドに、この事態の収集はエヴァンと騎士団に任せ、ヒューベルは意識を失ったシェリルを抱きしめて王城へと帰還した。
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