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9. 担当者と、誓約
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担当者が決まったようですよ?本日は少し長め、ゆっくり、お暇なときにどうぞ。
※後半でてくる内容からは白猫セシルの5話と時系列が同じとなり、今後時間が平行して進んでいます。
************************
皇帝ヴィクトールの執務室隣、少人数用の面会室に呼ばれたオリリアス、マルクス、ジョシュアの三人は椅子に腰を下ろした。
そしてお互いに顔を見合わせる。
この時期の、この人数である。 三人共、召集された理由は何となく察しがついていた。
「「「陛下の御前、失礼致します」」」
部屋の扉が開き、そこにヴィクトールが入室した事で三人は直ぐに立ち上がり礼を取った。
「ああ、とりあえず、楽にしてくれ。 皆、もう分かっているかもしれないが、今日は『慣らし五夜』の件で呼んだ」
無言で頷いた三人は外面的には平静を保ってはいるが、口から心臓が飛び出そうな程に緊張していた。
未来の皇后の、『慣らし五夜』の担当者に抜擢されたのだ。この国の男にとっては最高の名誉である。
「オリリアス、お前は幾多の実績があるし、マルクスはまだ担当者としての経験が下限の五回に達していないだろう? ジョシュア、お前も今後の事を考えての事だ、」
皇国の男性は子孫繁栄の象徴である女性を満足させるため、自らの初夜以前に五回は必ず儀式の担当者としての経験を積むように教育されている。
挿入を伴う必要はないとはいえ、この国では最低五回、女性と寝台での経験を積んでようやく一人の男性として婚儀の資格を得るのだ。
三人は各々ヴィクトールの意図する理由を考え、思い当たる節があったため大きく頷いた。
「お前達が良ければ、誓約を執り行おう。 今回は俺のアルカナの元に誓約を立て、厳しく管理させてもらう。 魔法陣に手を翳してくれ、」
ヴィクトールは指でコツンと机を叩き黄金の魔法陣を展開する。 そして三人も黙ってそこに手を翳した。 元より、皇帝陛下に担当者としての役目を頼まれて、拒否等到底できるはずもない。
「ヴィクトール・レイ・ルドアニアがアルカナの元に『慣らし五夜』に関する誓約魔法を発動する。
まず、膣、肛門への全ての挿入を禁ずる。 次に、口づけの禁止。 最後に、リリィという愛称の禁止。
以上に反した場合、相応の罰を即時発動する。」
すっと魔法陣が消えると、三人の腕には腕輪のような黒い紋様が刻まれる。 ぐるりと輪になったそれを見つめた三人にヴィクトールは言葉を発した。
「それは責務が終われば消える、心配するな。
五夜の順番はお前たちで決めると良い。 決まったら、出来るだけ早急にメイド長かマダム・ジゼッタに伝えてくれ。 それでは、あとは頼んだぞ、」
ヴィクトールが部屋から退出し、部屋に取り残された三人は深呼吸して呼吸を整えた。
皇帝と密室に同席しているという理由もあるが、慣れない高位の誓約魔法を執り行った所為からか身体が緊張状態に陥っていたのだ。
特に、平民あがりのジョシュアからすればそれに加えて公爵家という高位貴族二人と密室にいる今も大きな圧力を感じるのだが······。
そしてこの重い沈黙を破ったのは無論、最も立場の高いオリリアスだった。
「では、皆さま。 『慣らし五夜』の担当者として、よろしくお願い致しますね。 しかし、陛下もこんな高位の誓約魔法まで使用されるとは······、」
オリリアスは腕輪のように腕にぐるりと刻まれた黒い紋様を再びまじまじと見る。 これを見ればヴィクトールが本当にリリアーナを誰にも渡したくはないのだろう事が手に取るように分かる。
「さて、順番を決めましょうか? 私は何夜目でも構わないのですが······このメンバーを見るに、一夜目でしょうかね?」
「自分は、できれば二夜目がいいっす。 あんまり、その、、一連の流れを復習っていうのは······、」
慣れてないんで、と気不味そうに言葉を零したジョシュアを見て、オリリアスは視線をマルクスに向けた。
「まあ、自慰指導も繊細な行程だと思うのですが。 分かりました。 では、マルクスは三夜目で良いですか?」
「······特に不満はない、」
では、決まりですね! と両手を合わせたオリリアスは『そうだ、皆さまに一つご助言を差し上げましょう』と言って、にっこりと微笑んだ。
「儀式の前に何度か彼女で自慰をしておく事をお勧めしますよ? 意外と本番になるとその罪悪感から冷静になれるものですので。 まぁ、でも今回は少し難しいかも知れませんが。 あの美しさですからね」
それに、今回に限っては誓約が通常よりも厳しくかかっている。 本当に、単に彼女の身体を初夜に向けて慣らす為だけのものになるだろう。 とオリリアスは心の中で思う。
そんな中、ジョシュアが『慣らし五夜』に対する純粋な疑問を口にした。
「あの。 オリリアス様は、あれにしても······マルクス様は『慣らし五夜』の経験って、あるんすか?
さっき陛下は数が足りてないって······、」
「······あぁ、。 君と同じ理由で呼ばれているのだとは思う。 だが、俺は三回、ある」
「へぇ、それは驚いた。 無口なマルクスがどう攻めるのかは気になるなぁ、」
オリリアスの挑発する様な目線に、マルクスはどうでも良いという様子で脚を組んでそっぽを向く。
「そういえば、陛下は『慣らし五夜』行ってるんすかね?」
そんな中、軽い気持ちで次なる質問を口にしたジョシュアをオリリアスは鋭い目つきで一瞥し、重々しい溜め息をついた。
「ジョシュア君、無知なのは仕方ありませんが。 陛下がいらっしゃる前で言ったら本当に不敬ですからね。 それは絶対にやめてください?」
そして、何かを悩むように少し押黙った後、諦めたように口を開くと言葉を続けた。
「······陛下が、臣下の『慣らし』など行う筈がないでしょう? しかし、そうですね······君は、前皇帝を知っていますか?」
「いや、自分はその、凄く女好きの強欲な人だった、としか······、」
「そうですねぇ。 前皇帝は、今リリアーナ様がいらっしゃるあの広い後宮を埋め尽くす程の女性を抱えていらっしゃいましたからね」
「えっ?!」
ジョシュアはその言葉に驚愕した。
皇国の後宮はかなりの広さがある。 中に入ったことはないが、城内の警備で後宮の外周を回った事はあって、その広さは把握していた。
あそこを埋め尽くす程の······と考えて身震いする。
「陛下は少年の頃からずっと前皇帝にそこに連れまわされていたと聞きます。 ヴィクトール様の前で女性を犯すなんて事もあったとか。 それに、これは本当かどうか知りませんが、ヴィクトール様の初めてを奪ったのは実の母親という話もあります。
まあ、その後宮にいた者は女も子も、もう誰一人いない訳ですからねぇ。 死人に口なし、です」
「それは確かに聞きたくないっすね······」
「でしょう? 貴方が聞きたくないのなら、あの御方はもっと聞きたくないかと。 ですので絶対に、陛下の前では言わないで下さいね?」
ジョシュアは大きく頷いた。
確かに、陛下の生き様を知りたいとは思うのだが、そんな暗黒の歴史までを紐解きたいとは思わない。
「さて、儀式まではあと約一週間ですからね。 そうだ、ジョシュア君はセドリックの所のセシル嬢と婚姻するのでしたっけ?」
「いや、まだ分かりません。 陛下から打診をされただけで。 彼女、セドリックさんに気があるっぽいし」
「おやおや。 セドリックも婚約者が決まって、もう儀式が始まっているのでは? 色々と問題を抱えていそうですね」
ふふっ、とオリリアスは愉快そうに笑った。
「ああ、これだから人の恋路を見るのはやめられないですねぇ。 貴方も気になるご令嬢がいるなら素直になった方がいいですよ? 幸運な事に我らが陛下はご寛大なお心をお持ちでいらっしゃる。
拗れると余計大変になりますので、」
では、私はお先に。 とオリリアスは立ち上がり優雅に手を振りながら退出していった。 それに続くように、マルクスも無言で立ち上がり部屋を出ていく。
一人残されたジョシュアは机に残された飲みかけの紅茶を見つめた。
確かに、自分に想い人がいないわけではない。
そして先日セシルとの婚姻の打診をされた時に隣にいたセドリックの顔を思い出した。
あれは、喪失感と敗北、嫉妬がぐちゃぐちゃに混ざったような顔だった。 なのに、何かに急かされるように婚約を進め、もう初夜は明日とかだった気がするんだが。 と考えて首を振る。
「やっぱオレ、二人の恋事情に巻き込まれてるよなあ?」
ジョシュアは席を立ち、明日のセシルとの面会に備える事にした。 彼女とは初めての逢瀬だというのに、あまり気が乗らない。
だが、これも仕事のうちだ。
そう割り切って彼は漸く部屋を出た。
※後半でてくる内容からは白猫セシルの5話と時系列が同じとなり、今後時間が平行して進んでいます。
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皇帝ヴィクトールの執務室隣、少人数用の面会室に呼ばれたオリリアス、マルクス、ジョシュアの三人は椅子に腰を下ろした。
そしてお互いに顔を見合わせる。
この時期の、この人数である。 三人共、召集された理由は何となく察しがついていた。
「「「陛下の御前、失礼致します」」」
部屋の扉が開き、そこにヴィクトールが入室した事で三人は直ぐに立ち上がり礼を取った。
「ああ、とりあえず、楽にしてくれ。 皆、もう分かっているかもしれないが、今日は『慣らし五夜』の件で呼んだ」
無言で頷いた三人は外面的には平静を保ってはいるが、口から心臓が飛び出そうな程に緊張していた。
未来の皇后の、『慣らし五夜』の担当者に抜擢されたのだ。この国の男にとっては最高の名誉である。
「オリリアス、お前は幾多の実績があるし、マルクスはまだ担当者としての経験が下限の五回に達していないだろう? ジョシュア、お前も今後の事を考えての事だ、」
皇国の男性は子孫繁栄の象徴である女性を満足させるため、自らの初夜以前に五回は必ず儀式の担当者としての経験を積むように教育されている。
挿入を伴う必要はないとはいえ、この国では最低五回、女性と寝台での経験を積んでようやく一人の男性として婚儀の資格を得るのだ。
三人は各々ヴィクトールの意図する理由を考え、思い当たる節があったため大きく頷いた。
「お前達が良ければ、誓約を執り行おう。 今回は俺のアルカナの元に誓約を立て、厳しく管理させてもらう。 魔法陣に手を翳してくれ、」
ヴィクトールは指でコツンと机を叩き黄金の魔法陣を展開する。 そして三人も黙ってそこに手を翳した。 元より、皇帝陛下に担当者としての役目を頼まれて、拒否等到底できるはずもない。
「ヴィクトール・レイ・ルドアニアがアルカナの元に『慣らし五夜』に関する誓約魔法を発動する。
まず、膣、肛門への全ての挿入を禁ずる。 次に、口づけの禁止。 最後に、リリィという愛称の禁止。
以上に反した場合、相応の罰を即時発動する。」
すっと魔法陣が消えると、三人の腕には腕輪のような黒い紋様が刻まれる。 ぐるりと輪になったそれを見つめた三人にヴィクトールは言葉を発した。
「それは責務が終われば消える、心配するな。
五夜の順番はお前たちで決めると良い。 決まったら、出来るだけ早急にメイド長かマダム・ジゼッタに伝えてくれ。 それでは、あとは頼んだぞ、」
ヴィクトールが部屋から退出し、部屋に取り残された三人は深呼吸して呼吸を整えた。
皇帝と密室に同席しているという理由もあるが、慣れない高位の誓約魔法を執り行った所為からか身体が緊張状態に陥っていたのだ。
特に、平民あがりのジョシュアからすればそれに加えて公爵家という高位貴族二人と密室にいる今も大きな圧力を感じるのだが······。
そしてこの重い沈黙を破ったのは無論、最も立場の高いオリリアスだった。
「では、皆さま。 『慣らし五夜』の担当者として、よろしくお願い致しますね。 しかし、陛下もこんな高位の誓約魔法まで使用されるとは······、」
オリリアスは腕輪のように腕にぐるりと刻まれた黒い紋様を再びまじまじと見る。 これを見ればヴィクトールが本当にリリアーナを誰にも渡したくはないのだろう事が手に取るように分かる。
「さて、順番を決めましょうか? 私は何夜目でも構わないのですが······このメンバーを見るに、一夜目でしょうかね?」
「自分は、できれば二夜目がいいっす。 あんまり、その、、一連の流れを復習っていうのは······、」
慣れてないんで、と気不味そうに言葉を零したジョシュアを見て、オリリアスは視線をマルクスに向けた。
「まあ、自慰指導も繊細な行程だと思うのですが。 分かりました。 では、マルクスは三夜目で良いですか?」
「······特に不満はない、」
では、決まりですね! と両手を合わせたオリリアスは『そうだ、皆さまに一つご助言を差し上げましょう』と言って、にっこりと微笑んだ。
「儀式の前に何度か彼女で自慰をしておく事をお勧めしますよ? 意外と本番になるとその罪悪感から冷静になれるものですので。 まぁ、でも今回は少し難しいかも知れませんが。 あの美しさですからね」
それに、今回に限っては誓約が通常よりも厳しくかかっている。 本当に、単に彼女の身体を初夜に向けて慣らす為だけのものになるだろう。 とオリリアスは心の中で思う。
そんな中、ジョシュアが『慣らし五夜』に対する純粋な疑問を口にした。
「あの。 オリリアス様は、あれにしても······マルクス様は『慣らし五夜』の経験って、あるんすか?
さっき陛下は数が足りてないって······、」
「······あぁ、。 君と同じ理由で呼ばれているのだとは思う。 だが、俺は三回、ある」
「へぇ、それは驚いた。 無口なマルクスがどう攻めるのかは気になるなぁ、」
オリリアスの挑発する様な目線に、マルクスはどうでも良いという様子で脚を組んでそっぽを向く。
「そういえば、陛下は『慣らし五夜』行ってるんすかね?」
そんな中、軽い気持ちで次なる質問を口にしたジョシュアをオリリアスは鋭い目つきで一瞥し、重々しい溜め息をついた。
「ジョシュア君、無知なのは仕方ありませんが。 陛下がいらっしゃる前で言ったら本当に不敬ですからね。 それは絶対にやめてください?」
そして、何かを悩むように少し押黙った後、諦めたように口を開くと言葉を続けた。
「······陛下が、臣下の『慣らし』など行う筈がないでしょう? しかし、そうですね······君は、前皇帝を知っていますか?」
「いや、自分はその、凄く女好きの強欲な人だった、としか······、」
「そうですねぇ。 前皇帝は、今リリアーナ様がいらっしゃるあの広い後宮を埋め尽くす程の女性を抱えていらっしゃいましたからね」
「えっ?!」
ジョシュアはその言葉に驚愕した。
皇国の後宮はかなりの広さがある。 中に入ったことはないが、城内の警備で後宮の外周を回った事はあって、その広さは把握していた。
あそこを埋め尽くす程の······と考えて身震いする。
「陛下は少年の頃からずっと前皇帝にそこに連れまわされていたと聞きます。 ヴィクトール様の前で女性を犯すなんて事もあったとか。 それに、これは本当かどうか知りませんが、ヴィクトール様の初めてを奪ったのは実の母親という話もあります。
まあ、その後宮にいた者は女も子も、もう誰一人いない訳ですからねぇ。 死人に口なし、です」
「それは確かに聞きたくないっすね······」
「でしょう? 貴方が聞きたくないのなら、あの御方はもっと聞きたくないかと。 ですので絶対に、陛下の前では言わないで下さいね?」
ジョシュアは大きく頷いた。
確かに、陛下の生き様を知りたいとは思うのだが、そんな暗黒の歴史までを紐解きたいとは思わない。
「さて、儀式まではあと約一週間ですからね。 そうだ、ジョシュア君はセドリックの所のセシル嬢と婚姻するのでしたっけ?」
「いや、まだ分かりません。 陛下から打診をされただけで。 彼女、セドリックさんに気があるっぽいし」
「おやおや。 セドリックも婚約者が決まって、もう儀式が始まっているのでは? 色々と問題を抱えていそうですね」
ふふっ、とオリリアスは愉快そうに笑った。
「ああ、これだから人の恋路を見るのはやめられないですねぇ。 貴方も気になるご令嬢がいるなら素直になった方がいいですよ? 幸運な事に我らが陛下はご寛大なお心をお持ちでいらっしゃる。
拗れると余計大変になりますので、」
では、私はお先に。 とオリリアスは立ち上がり優雅に手を振りながら退出していった。 それに続くように、マルクスも無言で立ち上がり部屋を出ていく。
一人残されたジョシュアは机に残された飲みかけの紅茶を見つめた。
確かに、自分に想い人がいないわけではない。
そして先日セシルとの婚姻の打診をされた時に隣にいたセドリックの顔を思い出した。
あれは、喪失感と敗北、嫉妬がぐちゃぐちゃに混ざったような顔だった。 なのに、何かに急かされるように婚約を進め、もう初夜は明日とかだった気がするんだが。 と考えて首を振る。
「やっぱオレ、二人の恋事情に巻き込まれてるよなあ?」
ジョシュアは席を立ち、明日のセシルとの面会に備える事にした。 彼女とは初めての逢瀬だというのに、あまり気が乗らない。
だが、これも仕事のうちだ。
そう割り切って彼は漸く部屋を出た。
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