この偏屈な博士に愛情を

マクワウリ

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  翌日。
  
 これってもしかしなくてもデートだよな……。そう思いながら身支度を済ませる……とはいっても着るものも全部こっちのものだし
靴だけは自分の物を履こうそう思い靴ひもを締めた。


 はわわわどうしよう。私としたことが実質デートだというのに昨日から流行最新コーデをかたっぱしから注文し
試着してはいるがどれがいいのか全くわからない

「やはりこのシックなレトロコーデが一番いいだろうか、いやいいに決まってる! これで行こう!」
 何せ体験したことのない事態だ。
 彼を待たせていないだろうかと気になる。
そんな面持ちで部屋から出ると
「おお、似合ってるじゃないか」

 早速彼が褒めてくれた。嬉しい。
「それで今日はどこへ案内してくれるんだ?」

「VR映画なんてのはどうかな?」

「VR映画なんてのもあるのか、こいつは楽しみだな」

 タクシーにのってやってきた映画館、さほど混み合ってもいなく快適にみれそうだ。
「どれが見たいボータロ」

「うーんここはやっぱり派手なアクションかなぁ」
「よしじゃあそれでいこう」
 館内に入るとスクリーンは無く座席にVRヘッドセットが設置されていた。これは初めてみる光景で驚かされる。

「ほら座って、ここにあるゴーグルをかけるんだ」

「お、おう」
 俺は言われるがままに座ってヘッドセットを着用する。すると綺麗な風景をバックに映画のマナーが流れている。  
「何か初めてで不安だな……」

「不安だったらその……手でも握っておこうか」

 そう言って奈津美が手を握ってきた。俺は恥ずかしいながらも振りほどくことはせずなすがまま手を繋いだ。
  
「ほらボータロ、もうすぐ始まるぞ」

 ドーンという重低音の後にロゴが流れ映画が始まる、何より驚いたのはVRでまるで自分が映画の中にいるかのような感覚を味わえたことだった。ヒーローが戦ってる視点を色々な角度から見ることができる。未来の映画は素晴らしいなぁ、などと感動してるうちに映画は終わってしまった。
  
「どうだった? ボータロ、楽しめたか?」

 ウキウキで聞いてくるまるで無邪気な子供のような彼女の瞳に一瞬魅入られてしまった
  
「ああ! 最後のヒーローの起死回生たまんなかったよな!」

 お互い手を握り締め合いながら熱く語る。
  ふとお互いが手を握り締めあっていたことに気付き、赤面しながらぱっと離す

その後もショッピングモールで買い物をしたりデートらしいデートを満喫した。
 
  しかし帰りのタクシーでは奈津美はどこか落ち込み気味だった。
  
「どうした? 気分でも悪いのか?
「いやこんなにも楽しい時間を過ごしたのは初めてだ……だから終わってしまうのが勿体ないなって思って……」

 そう、俺は明日過去に帰る予定なのだ。
  
「この短期間君とは非常にユニークな毎日を過ごさせてもらった、礼をいわないとな」

「そんな礼だなんて、俺は世話になりっぱなしだったし寧ろ助けてもらってばっかりだったよ」

 お互いに関係性が変化してるのが伝わってくる。
  タクシーが自宅兼ラボに到着すると二人は荷物を持って中へと入った。
  
「明日の天気は嵐だその前に備品を購入できてよかったよ」

 まるで女性が服を悩むかの如く備品を品定めしていた姿はやっぱり研究者なんだと思い知らされた。
  
  俺は本当に帰るべきなのかを悩んでいた
何故なら彼女、奈津美を愛してしまったからだ。
 恋人のような一日を過ごしたからかもしれない。でももっとそれ以前に好意の感情はあったのかもしれない。
  彼女のことを知れば知るほど惹かれていった。俺はこのまま帰るべきなのか残るべきなのか……。
  
  
  
  私はどんでもないことしてしまってた。
  研究者でありながら彼に恋をしてしまっのだ。彼は明日過去へ帰らなければならない。
  そんな状態で相手を好きになってしまったのだ。彼は私を認め受け止めてくれた。これ以上嬉しかったことはない。正直この感情は彼に対する愛情だと思っている。だからと言って引き留めるわけにはいかない。

 気まずさを振り払うように部屋をでたら彼と鉢合わせた。その時の彼はもう元居た時代の服を着ていて……・
  そうだよなそうなんだ、彼は今日過去へ戻る、落雷予報が外れて延期になればいいのにと思ったが今日ほどの嵐で強い雷はそうそうこないとのことだった。
  
「おはよう、準備は万端だな」

 私は気取られないよう注意して言葉を選ぶ。

「おう、後は雷がいつ落ちてくるかだな、予報では午後に激しい雷雨がくるんだろ? いやー未来の天気予報ってすごいなぁ」
 俺は心にもない上っ面だけの言葉を並べてその場を取り繕う。

「取り敢えず朝食にしよう。雷雨は午後からだしな」
 私は彼の調子に合わせて何の気ない返事をしてしてまう。本当に言いたいことはそんなんじゃないのに。
  
  ◇
  
  早めの朝食を済ませた私たちはタイムマシンの最終チェックに入る。私たちとは言っても実際に作業するのは私とジーニアスがサポートしてくれてやる作業だけだ。
  「システムオールグリーン、稼働可能状態でス」
  
「あぁ、ありがとうジーニアス、後はもう待つだけだな、雷雨が鳴り始めたらタイムマシンの指向性アンテナの前に立ってくれ、落雷と同時にシステムが稼働して元の時代に戻れるはずだ」

「そうか」

 二人の間に気まずい沈黙が流れる
  
「あ、あのさ、よかったら300年後の私に手紙を出してくれないか?無事着いたのか確認したい」

「わかったそれくらいならお安い御用だ、
孫の代まで受け継がせるよ」

 その言葉が胸にズキっと刺さる。私じゃない人と結婚して家庭を作っていくんだな……と。
 そうこうしているうちに午後になり雷鳴が聞こえ始めた。
「そろそろだなボータロ、準備はいいか?」

「ああ、問題ない」

「システムスタンバイ」 
  ジーニアスがそう告げるとタイムマシンはキュッゥゥンと音を上げ稼働する
  
  言わなくちゃ私! 今言わないと一生後悔する。
「ボータロ、私あなたが好き、愛してる……」

「そんなの俺だって同じだ!」

「嬉しい……私たち通じあってたんだね」

「やっぱ俺帰らない! お前と一緒に……」

「さよなら……ボータロ」

窓の外に閃光が満ちたと思った瞬間身体しびれる様な感覚を覚えた。

 気が付いたのはいつも通る帰り道。
  
「ああ成功したんだ奈津美、成功したぞ」
  
「どうやらそのようだな」

 ん?待て待て待て今奈津美の声が聞こえたような
「驚くのも無理もないだろう」

 倒れた俺の上に奈津美が覆い被さっていた
「これがタイムトラベルかここが300年前だと思うと感慨深いな」

「なんで奈津美がいるんだよ!」

「うむ、手短に話そう、あの時ボータロの近くでスイッチ操作していた為側撃雷を受けたみたいだ、それでボータロと共にこの時代にやってきた」

「やってきたってお前!もうこっちにはタイムマシンはなくて片道切符なんだぞ正真正銘の!」

「いいんだ、向こうに未練はない、それよりもボータロと暮らすほうが大事だ、偶発的とは言えお互い愛し合ってることがわかった上で離れ離れにならずに済んだんだ。これは神の粋な計らいというやつかな?」

 はーっとため息をついて考える。
  
「お前これから戸籍とかどうする気だ?」

「勿論ボータロの妻だ。あ、セキュリティ問題のこと言ってるならこの時代のセキュリティは私に取ってはおもちゃみたいなものだ戸籍偽造も容易い」

「堂々と犯罪自慢するんじゃねぇよ」

「とにかくこれからもよろしくなボータロ!」



 こうして俺は奈津美と愛情を育むことになった。先行きはどうなるやら。
  しかし思わぬところで俺の恋路も実ったのも事実。願わくばこの偏屈な博士に愛情を
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