3 / 4
3
しおりを挟むその日は朝早くから目が覚めた。
いつもなら既にリビングにいるはずの奈津美がいない。寝坊だろうか?
「ジーニアス、朝食を用意してくれないか?」
「了解しましタ、ミスターボータロ」
飯ができる前に起こしてやるか。
そう思って彼女が寝てる部屋へと向かった。
コンコン
「寝てるのか?入るぞ?」
そういってドアノブに手をかける。
開いた先にはベッドに蹲る奈津美の姿があった。
「おい、もう朝だぞいい加減起きろよ」
「うぅ……ボータロかすまない身体がうまく動かないんだあちこち痛くてそして寒い」
「ってお前それ風邪じゃねぇのか!」
慌てて額に手を当てる。
すごい熱だ。
「ジーニアス! ちょっと来てくれ!」
◇
「これは2020年型インフルエンザウィルスでス、ナノマシン治療薬を処方しまス」
「まさか君の居た時代のウィルスに感染してしまうとは情けない」
「そういえば昨日の夜身体がだるいって言ってたもんな、すまんもっと早く気がつけば……」
自分の居た時代から連れてきたウィルスが原因なのが申し訳なく感じる。
「責任を感じなくていい君のせいじゃないよボータロ、これはあくまでも偶発的に起こったことだ……ごほっ」
「もういいから寝てろ、薬も飲んだし治るんだろ?」
「ハイ、生命維持には問題ありまセン、後はナノマシンが体内ウィルスを駆逐するのを待つだけでス」
「てなわけだしゆっくり寝ろ、タイムマシン云々は元気になってからでいいからよ」
そういうと彼は優しく私の頭を撫でてくれた。気が緩んだせいもあってか私はすぐに睡眠に落ちた。
◇
「奈津美偉いぞよくできたな」
「なっちゃんはほんといい子ね」
「奈津美、お前も有坂の人間ならそれらしくしろ」
「なっちゃんはこれくらいできて当然よね?」
何時からだろう……。
褒めてもらえたから褒められなければに変わったのは……。
両親は科学者で必然的に私も科学の道へ進んだ。最初は期待の新星ともてはやされたが
次第に周囲は成果を求めるようになった。
当然私もその期待に答えるようにAIジーニアスを作った。ジーニアスを元に企業用量産型アンドロイドの開発にも携わった。それでも周囲の成果を求める声はやまなかった。
そこで私はテレポートマシンの構想を思いついた。だが現実は厳しく空間転移なとどいう途方もない実験が待ち受けていたのだ。
当然成果も出ず周囲の期待に答えるのが難しくなった。どれだけ頑張っても次第に認めてもらえなくなる。私は自分の居場所が無くなるような気がして怖くなった。
何としてもこの作品だけは完成させねば……。
切羽詰まっていたこの時期に丁度時空間概念の本を目にした。その時思ったのだ。これをテレポートマシンに応用すればタイムマシンができるのではないかと。
タイムマシンほどの偉業を成し遂げればもう誰も文句は言わないだろう。そう思い何年もかけてタイムマシンの基礎を作り上げた。私のタイムマシンは両方向性のものでは無く片道切符の単方向性のものだった。
何度も起動させたがうまくいかず泥沼に嵌ってしまっていた時。タイムマシンはいつも肝心なところでシャットダウンしてしまう、そこで私はもしかしたら膨大な電力それも原発並の電力が必要なのではと思い避雷針をタイムマシンに直結させた。
その数週間後の嵐の日についに私の念願がかなった。
「お父さんお母さん私できたよ、だから置いていかないで」
「うっ」
「まだ起きるな、寝てろ」
どうやら私はいつの間にか眠っていたらしい、ふと手に暖かさを感じる
「ずっと手を握っていてくれたのか?」
私は少し軽くなった身体を起こす。
「ああそのほうが安心するかなって」
今になって彼の優しさが身に染みる。
それと同時に顔に熱を帯びるのを感じた。
これはウィルスのよるものなのかどうかはわからないが動悸が激しくなりなんとも居たたまれない気持ちになった。
ばっと手を引っ込める。
「大丈夫か? 随分うなされてたが悪い夢でも見たか?」
私は観念したかのように語り始めた。
「あぁ、幼いころの夢を見ていた。その頃は両親も健在だった、私もなに不自由なく暮していた」
「両親は健在だった ってじゃあ今は……」
「私の両親は研究中の事故で他界している」
「何か……その……すまない」
「気にすることはない、私は既に受け入れている、現状祖父の保護下でこうして研究をやっているのだから」
そう言いつつも儚げなその横顔が印象に残った。
「もう体調は大丈夫なのか?」
「あぁ、薬も効いてきたし問題ない」
彼女は少し疲れた笑顔ではにかんだ。
「すまないな、タイムマシン修復の作業が滞ってしまって、回復したら即部品の調達に行かないとな」
「調達ったって当てはあるのか?」
「祖父の会社の技術部を当たってみようと思っている、その為には祖父に直接あって直談判をしなくてはいけないがね」
顔を曇らせながらそう呟いた。
「祖父ってったって身内だろ? そんなややこしいもんなのか?」
「両親が亡くなってから祖父は厳格になり私への成果の期待と重圧はより強いものになった」
「そんな中よく頑張ってきたな、尊敬するよ、偉いぞ」
「えっ……」
いつの間にか私は堰を切ったように感情が頬を伝っていった。まさかこんなところで認めてもらえるとは、その一言にどれだけ救われたか。
今まさに私は彼の一言に救われたのだ。
「お、おい泣くなよ、俺が泣かしたみたいじゃねえか」
「うっ、グスッ、そうだな、しかし実際に泣かされてしまったからな、ありがとう私を認めてくれて」
その後ナノマシン治療薬のお陰で奈津美の体調は万全まで回復し、奈津美の祖父のいる有坂コーポレーション本社ビルへ向かうこととなった。
「希少部品で厳重管理されているからな、ほいほい盗みだすわけにもいかない、おじい様に直接許可をもらわないとダメなんだ」
奈津美はタクシーの中でそう説明してくれた
そしてタクシーは本社ビル前で停車した。
タクシーを降りた俺たちは気を持ち直して巨大な建物へと歩みを進めるのだった。
本社ビルの中へと入った俺たちは受付へ向かう
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
受付嬢が定型の挨拶をするがはっとして
「奈津美お嬢様!? 今日はどうされましたか?」
慌てて対応を変える。
「おじい様を面会がしたい、すぐできるよう取り計らってほしい」
奈津美がそう告げると受付嬢は何やら連絡を取り始めた。
「お会いになられるそうです、右手エレベーターから会長室へどうぞ」
エレベーターの中、沈黙が続く。
「なぁほんとにうまくいくのか?」
緊張した面持ちで奈津美が答える。
「賭けみたいなもんだ、今回は君もいるし何かと複雑になる予感がするが」
そういうと斜め上目使いに俺を見る。
「な、なんだよあのまま留守番ってわけにもいかないしほっとけないだろ」
そういうと彼女はクスっと笑った。
「いかにもボータロらしいな」
そうこうしているうちに最上階、会長室がある階へと到着した。
「いいか、ここからは気を抜くんじゃないぞボータロ」
「お、おう……」
空気がずしっと重くなるのを感じた。
コンコン
「入れ」
扉を開けると街が一望できるガラスに高級な机を椅子に座った老人がいた。
「お久しぶりですおじい様」
「横の男は誰だ?」
「私の友人です」
「ふむ、こうして直々にお前がくるということは何かあるのだろう? 要件をいいなさい」
「実は技術部で管理されている部品の持ち出し許可を頂きたくて参りました」
「何に使うつもりだ?」
「現在進めている研究につかうつもりです」
「お前も息子たちにそっくりだ、何かあれば研究研究、もう少し他にないのか?」
「ですがAIジーニアスを作ったのは私です、それにおいては会社へ貢献したといってもいいのではないでしょうか?」
「その成果については認めよう、だが会社はお前の資材庫じゃないんだ」
そのおじい様とやらは顔をしかめながら眉間にしわを寄せ話す。その様子に奈津美は押し黙ってしまうしかないようだった。
「ちょっと待ってください! 成果成果ってあなたは奈津美の苦しみを理解しようとしたことがあるんですか?」
「部外者は黙っとれ」
「いいえ黙りません、俺なら奈津美をこんなに悲しませたりはしない! もっと幸せにしてみせる!」
俺の発言の様子に二人とも目を丸くしてこちらを見つめていた、俺、何かやっちまったか?
「ふははぬかしおる、友人を偽って想い人をつれてきたか奈津美よ」
「なっ、そんなつもりはありません!」
「いやはや興が乗った、いいだろう部品に関しては許可をだそう、若いの孫を頼んだぞ」
はっはっはと高笑いしてる奈津美の祖父を背中に会長室を後にした。
無事技術部で部品を調達し帰るタクシーの中。
「なぁ……ボータロ」
「ん? なんだ?」
「さっきのおじい様のところでの話だが」
「あ、あれには深い意味はないぞ、その場の勢い出た言葉というかなんというか……」
「そ、そうか、ならいいんだ……」
気まずい沈黙の中タクシーはラボに到着した。
扉を開けるとアンドロイド形態のジーニアスが迎えてくれた。
「お帰りなさいまセ、御二方、ドクター奈津美、指示通りコア部分の修復を行っておきましタ」
「ああありがとうジーニアス 、これで後はこのパーツを交換すればタイムマシンは使用可能になる」
「俺も元の時代に戻れるのか」
「なぁボータロ提案なんだが次の落雷予報まで1日ある、その間だけでも二人でどこかへ行かないか? その……思い出作りに」
思いもよらぬ提案だったが断る理由もないので承諾する。
「ああ、構わないぜ最後の未来満喫としますか」
ちょっと照れ隠しもあり言葉が上ずってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる