この偏屈な博士に愛情を

マクワウリ

文字の大きさ
2 / 4

2

しおりを挟む
俺は目を覚ますと真っ先に見知らぬドーム状の天井が視界に入ってきた。
 まだこの現実を受け入れられずにいる。
  即席ベッドから起き上がると上の階、リビングで奈津美が何やらごそごそしていた。
「やぁおはようボータロ、よく眠れたかね?」

「いやまだ頭の整理が追いついていない」

「これから朝食だ、食べるだろう?」
「あぁそうだな頂くとするか」
 埋め込み式電子レンジのようなものからトレーを取り出す、その上にはパンにベーコンエッグ、サラダといった俺の時代と何ら変わらないものだった。
「どうしたボータロ? 食材も珍しくもないだろう、それとももっと奇抜だ食事を期待していたかな? それなら申し訳ないが食文化は古来からさほど進化してない、既に完成されているものだったからな、勿論携帯食や調理方法は変わってはいるがな」

 机の上に並べられていく朝食を見ながら唾を飲み込んだ。そりゃそうだ、昨日から何も食べてない、腹はいつだって減るもんだ。
  
「さぁ食べよう」
 いつになくウキウキした様子で俺に食事を勧める。
 まぁ腹は減っているので従わない理由もない。
「これ全部お前が作ったのか?」

「お前ではない奈津美だといっただろう、まぁこれはレトルトの簡易朝食だか古代東京の食事をなんら遜色ないだろう?」 


 そわ言われてはぐうの音も出ない 未来のレトルはこうも進化しているのか。
  
「それではお言葉に甘えて、いただきます」
 そういうと彼女、奈津美はにっこりと笑ってどうぞ召し上がれと言った。
「一人以外で朝食を摂るのはいつ以来だろう、
この研究成果を出すのにも苦労した、立場的に私はあれこれ言われるのでな」

「奈津美はそんな偉い立場なのか?」
 事情を知らない俺はつい無粋な質問をしてしまう。
  
「今現在の電化製品世界シェア4割を握る有坂コーポレーションの娘といったらわかってもらえるかな?」

「せ、世界シェア4割っておまっ……」

「ああ、有坂無しには世界は成り立たないと言っても過言ではないほどだ、私がこの歳で研究者になれたのもその威光のおかげもある」

「そうだったのか意外にすごいやつだったんだな」

「今更気付いたのか? まぁいい食事を終えたらどこか散歩にでも行こうか、君も未来を見物したいだろう」

 そういうとぱくぱくと食事を平らげる奈津美。
「なぁ俺のことは公表しないのか?実験の大成果なんだろ?」

「確かにしてやりたいがそうすれば君がモルモットになるのは目に見えている、それは私の意にそぐわない」

 倫理観が欠けていると思いきやちゃんと考えてくれてるんだな。そんなこと考えならの食事だったせいか初未来飯の味がどんなのかわからなくなってしまった。
  
  食事も無事終え散歩に出掛けることとなった。が、いきなり見知らぬロボットが家へと入ってきた。
  
  途端に場の空気が凍る、俺は硬直したまま動けなかった。
  
「ただいま戻りマシタ、ドクター奈津美」

 まさにアンドロイドと言った風貌のロボが喋っている。
「心配するな彼は私のサポーターAIジーニアスだ。普段は家を一体化して私の研究をサポートしてくれるがこうして自律ボディに移し替えて私の仕事の助手もしてくてれる」

「始めマシテ、ミスター……アー」

「望太郎だ」

「ミスターボータロー以後お見知りおきヲ」

 その挨拶のあとそいつ……ジーニアスだっけか?はクローゼットほどの狭い空間にすっぽりと入り配線接続された
  
「ホームモードに移行しましタ」

 家全体が喋ってるようで少し不気味だ。
  
「私たちはこれから外出してくる留守を頼んだ」

「いってらっしゃいまセ、ドクター奈津美」

「なぁあんなのに留守任せて大丈夫なのか?」
 俺は古代人ならではの当然の疑問を投げかける。
「問題ない、彼がセキュリティーシステムを制御し侵入者があれば即警察に通報し機密ファイルの保護を行ってくれる」

 防犯システムが意思を持ってるようなもんなのか。
  
 そこでふと俺は足取りが軽いことに気が付いた。
「何だこの靴すごい跳ねるぞ!」

 奈津美は初めておもちゃを買ってもらった子供をみるように笑った。
「ははっそれは高反発ソールといってだな」
 そこからわけのわからない理論を口走る。
  
  その内容を1ミリも理解できなかった俺だが身体が軽いのはわかる。スキップすれば自転車並の速度が出せそうだ。
  試しにトランポリンの要領で跳んでみる。
「うぉぉ! すげーぞこれ」
 軽く3mはジャンプした。
これには奈津美も驚いたようで。
 「古代人はそんなにフィジカルが強いのか!?」
  と目を丸くしていた。
「ははっこの靴があれば俺の時代じゃオリンピックに出れるな」
「ふむ、私たちは進化しているようで退化していたのかもな」
 あまりはしゃいでいては人目を引くのでおとなしく歩くことにする。
  未来の世界を案内してもらえるとあって俺はウキウキを隠せないでいた。
「上機嫌だなボータロ、そんなに君のいた時代と変わっているかね」
「ああ違うね、歩道を覆うこの透明なチューブ、そして走っている車も如何にも未来って感じのフォルムだ」
 つい鼻息を荒くして喋ってしまう。
「歩道をある程度隔離することで不用意な飛び出し事故を防いだり雨に対する屋根の役割も果たしている、車は自動運転が確立されてからはインフラ整備が整い物流に大きな影響を与えた」

「うんうんそれでそれで?」
 道行く人々にはきっと俺たちは好機の目で見られただろう。
  
「ふふっ、こんな退屈な話なのにまるでおとぎ話を聞く子供の様だな」

「そりゃそうだ、未来がこんなに明るい世界だと心も躍るさ」

 奈津美はどこか母親が子供をあやす様にゆっくりわかりやすく話してくれた。
「さっきみたいなアンドロイドも街にいっぱいいるのか?」

 アンドロイドと共存する世界まさにSF漫画で読んだ世界だ。
  
「あー残念だがアンドロイドを持つには資格が必要でね私のような研究者や企業のお偉いさんくらいなもんだ、それ以外はアンドロイドではない非自律型の簡易AIでプログラムされたことだけをやっている」

 それでもすごいことだ。何もかもがオートになっている世界、唆るぜこれは。
「喉が渇いたな、ボータロ、君も何か飲むかね?」

「おう炭酸があればいいなコーラとかないのか」

「オーケー、そこの自販機で買おう」

 そういうと彼女は自販機へと近づいていった。

 ん?この自販機どこか妙だぞ?そうか金の投入口がない。
  
  奈津美は自販機の黒い読み取り部分を覗き込みその後コーラとウーロン茶のボタンを押した。
  
「今は網膜認証で個人が判別できるこれで私の口座から自動引き落としされるわけだ」
 
  そう言いながら冷えたコーラのボトルを渡してくる。
「当然ながら君の網膜は登録されていないからエラーが出る、くれぐれも使うんじゃないぞ」

 渡してもらったコーラのボトルだが円柱状でどうやって飲めばいいのか全くわからん。
「一体どうやって飲むんだこれ?」
  戸惑う俺に子供の面倒を見る母親の様に彼女は飲み方を教えてくれた
  
「ここの出っ張りをスライドさせるとほら飲めるだろう? 飲んだらまたスライドさせて閉めておけばいい」

 なるほど簡易水筒みたいになってるのかこれなら今までのようにキャップをグルグル回す手間が省ける。
「ふふっあっはははは」
 突然奈津美が笑い出す。
「何だ!? どうした?」

「いや、こんなに楽しい散歩なんていつ以来だろうと思ってね、ボータロ、君といると実に愉快だ」

「まぁ俺も未知の文化に触れられて嬉しいよ」

「歩き疲れたそろそろ帰ろうか」

 俺は全然平気だが小柄で華奢な奈津美には十分な疲労なのだろう。その提案に賛成する。
  
「オートタクシーを使おう、今呼ぶから待ってくれ」

 横断歩道のチューブの切れ目に来たところで奈津美はスマートウォッチをいじり始めた
。するとものの30秒くらいでタクシーが到着した。
「さぁ乗った乗った」
せっつかれて乗ったはいいが運転席には誰もいない。

 奈津美が液晶画面に向かって住所を伝えるとタクシーは動きだした。
「すげーなこれが自動運転ってやつか」

「格安な移動手段でもっぱら人々の足に使われてるんだ」
 そうこう話してるうちに奈津美の自宅兼ラボへと着いた。
  玄関までくると自動で扉が開く
「お帰りなさいドクター奈津美」
 部屋が一気に明るくなり空調が効き始める。
その後ロボット体に移ったジーニアスが奈津美の上着を脱がせ預かってくれる。俺のほうもそういしようとしてきたが自分で脱いで渡した。
「散歩は快適だったようですネ、あんな楽しそうなドクター奈津美を見るのはいつ以来でしょうカ」
「はー疲れた」
そう言いながらソファーにどかっと身体を預ける奈津美。
「そんな遠出でもなかったろう」
 少なくとも俺はそう感じていたが
ソファーから尻目にこっちを伺う奈津美はそうでもないようだ。

「君のような古代人のフィジカルと一緒にしないでくれ徒歩であれだけの距離は未来人には疲れるには十分な距離だよ」

「散歩で忘れていたがタイムマシンの修理の方は大丈夫なんだろうな?」

 当初の目的を思い出し問い詰める。
  
「まぁ焦るな焦るな、ちゃんと頭の中でプランは立ててある」

「ほんとかぁ?」

「私は科学に嘘はつかない今日は疲れたから夕食を摂って寝ることにしよう、もう身体がだるい」

「まぁそういうなら」
 得に不服もないのでその日は夕食を摂って寝ることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

処理中です...