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第一部 第一章
第19話 冤罪と謁見
しおりを挟む僕は、今日の朝、父上に正式な謁見を申し出た。その謁見のため僕は、王子が着用する正装に着替えているのである。父と子であっても王子が王に正式に謁見をする場合は、正装に身を包むことが、決められている。
僕は、侍女たちに手伝ってもらいながら正装に着替え、最後にペリースと呼ばれる片方の肩に掛けるマントを左肩に掛けて完成である。
ではなぜ、そんな正装をしなければならない謁見を、父上に申し出たのかと言うと、それは、昨日逮捕されたワーグスト・ラエンドルを釈放させるためである。
その理由を説明したいと思う。それは、昨日ワーグスト・ラエンドル逮捕の報が、僕にもたらされてからである。
その報告を聞いた時に僕は、直感的にワーグストは、犯人ではないと確信したのだ。その為、報告に来てくれたオルティシアにこう尋ねた。
「ワーグスト・ラエンドルが、この事件を仕組んだ証拠は有るの?」
「はい、確実な証拠が有る訳では、ないとの事です。」
オルティシアは、そう言うと更にこんな事を言って来た。
「それと、ワーグスト・ラエンドルが、この事件を仕組んだと言う密告が、あったとの事です。」
「密告?」
「はい、別の商会の会頭からの密告だそうです。」
僕は、それが気になりオルティシアに、その密告者をセドイスと共に調べるよう命じ、部屋で就寝した。
就寝をしてしばらく経った頃、僕は、再び記憶のカギを開ける夢を見ていた。今回は、創造神様は現れなかったが、いつもの映像装置が、置かれていた。
その映像には、逮捕されたワーグスト・ラエンドルが、映っており、誰かの質問にこう答えていた。
『〔デイ・ノルド王国〕の滅亡に加担した理由ですか。そんなのは、簡単な事です。あの国は、ロクに捜査もせずに密告だけで一方的に私を犯人と決めつけ、証拠を捏造し、そして裁判に掛けた、それにより私は、全財産を没収され、国外追放を言い渡されました。だから私は、故国を滅ぼすことを誓ったのです。』
僕は、この回答を聞いて、記憶のカギが、また一つ解放された。ワーグスト・ラエンドルは、〔王国に咲く花 夜天に輝く眩い星〕にて作品最大の黒幕として登場するのである。ヒロインのスポンサーだけではなく、悪役令嬢たちの実家の貴族家のスポンサーにもなっており、その目的は、王家と貴族家を共倒れにさせる事であったのだ。それを行った理由が、昨日の逮捕であったのだ。
そのため、僕は、眼を覚ますと同時に父上に謁見を願い出たのであった。
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 謁見の間
僕は、謁見の間の扉の前に立っていた。あと少しで、父上との謁見が開始される、少し緊張をしながら待っていると、儀典官の服装を身に纏った男が近づいてきた。
僕の前で彼は、止まると礼をしてこう言って来た。
「殿下、準備を宜しいでしょうか?」
「うん、少し緊張しているけど、大丈夫。準備は完了してるよ。」
そう答えると、彼は、謁見の手順を教えてくれた。
「それは、重畳です。では、謁見の手順を説明いたします。 まず扉を入られましたら、王族の方が平伏する場所まで歩いて行き、平伏します。陛下のお声掛けがございましたら頭を上げることが出来ます。その後、陛下が謁見の理由をお問いになりますので、お答えください。」
「うん、分かった。」
「ご質問は、ございませんか?」
「あっ、一つだけ、王族が平伏する場所ってどうなっているの?」
僕が、そう質問すると、儀典官は、こう答えた。
「謁見の間の床は、全て黒大理石で敷き詰められています。ですが、平伏をする場所によって異なる色の大理石によって線が引かれています。色の順序は、白・赤・オレンジ・緑です。殿下が、平伏される場所は、白の大理石の線でございます。」
「うん、分かった。ありがとう。」
「勤めを果たして、安堵いたしました。」
そう答えると、儀典官は、持ち場に戻っていった。儀典官が、去ると僕は、身嗜みをチェックし呼ばれるのを待った。
「〔デイ・ノルド王国〕第一王子エギル・フォン=パラン=ノルド殿下、御入来」
扉の両脇に立つ兵士たちの内一人が僕の名前を呼び、二人は一斉に持っている槍の石突で床を叩いた。
ガンガンガン
その音と共に謁見の間の扉が、開かれた。僕は、扉を通り父上の前へと進んで行った。
すると、謁見の間の両脇に控える貴族からヒソヒソと話す声が、聞こえて来た。
「ほぉ~、中々の堂の入った歩き方、将来が楽しみですな。」
「誠に、王家も安泰でございますな。」
「ですが、まだまだ幼少でございます、我々が支えにならなければ。」
と言った、僕を値踏みする声が、聞こえて来たが、それを無視して白い大理石のラインで停止し、王族が王に対して行う王国礼を取り平伏した。
するとまた、ヒソヒソ声が、聞こえて来た。
「ここまで、王国礼を完璧に行うとは、末恐ろしい。」
「我々も、もう少ししっかりとしなければな。」
「うむ、そうですな。」
そうなヒソヒソ話が、聞こえてくる中、僕は、父上からの声掛けを待った。そしてようやく父上が、言葉を発した。
「面を上げよ、エギル。」
「はっ。」
僕は、顔を上げ父上を見た、ここで僕は、初めて国王としての父上の顔を見たのであった。いつもの父上より威厳と荘厳さを兼ね備え、威圧や畏怖ではなく威光を持って人々を従える王者の顔をしていたのだ。
そうな事を考えていると、父上から、質問が飛んだ。
「していかにして、謁見を望んだのだ?」
「国王陛下にお願いの議が有り、謁見を望みました。」
「願いとは、申してみよ。」
僕は、意を決してこう言った。
「昨日、逮捕されました、ワーグスト・ラエンドルを、解放していただきたいのです。」
「何?」
父上のその言葉により謁見の間が、騒然となった。両脇に控えていた貴族たちも、それぞれに文句を言いだした。
だが僕は、そんなことは無視して話をした。
「国王陛下、何も無条件に開放しろとは、申しておりません。」
すると父上は、こう問うてきた。
「では、どうしろと言うのだ。」
僕は、こう答えた。
「彼を逮捕するに至ったのは、密告による証言であったと聞きます。更に彼が、今回の事件を企てたと言う物的証拠はほとんどないと聞いています。これでは、捕まえておく理由になりません。」
「うむ、続けよ。」
「密告による曖昧な捜査をするのではなく、きちんと証拠に基づく捜査をすべきと考えます。更にその密告をしてきたものが、何故その事を知っていたのか調べる必要があると私は考えます。」
「うむ、エギルの言いたいことは、分かった。」
そう言うと、父上は、壇上に立っている宰相に呼びかけた。
「宰相、エギルの申し分如何とする。」
宰相は、父上の下問に対して、こう答えた。
「エギル殿下の申し分、誠に重要な事と存じ上げます。確かに密告だけで、ロクな捜査も行われていない可能性は十分にございます。」
それを聞いた父上は、更に宰相に問いかけた。
「では、どうする。」
「はっ、現在捜査を担当している者たちには、確実な証拠に基づいた捜査を厳命し、更にエギル殿下にも捜査を行う事の出来る権限を与えて、捜査をしてもらうのがよろしいかと存じます。」
「エギルに捜査を難しいと思うが?」
父上は、こう言うと宰相は、この様に答えた。
「エギル殿下だけに捜査をさせる訳では、ございません。エギル殿下の教育を担っておられる先生方と共に捜査にあたっていただくのです。」
「なるほど、あい分かった。」
そう言って父上は、こちらを向くと顔をほころばせながら、こう言った。
「エギル・フォン=パラン=ノルド、其方に王城施設爆破及び未遂事件の捜査を行う権限を与える、其方の持つ英知と先人たちの英知を結集し、この事件を解いてみよ。」
「はっ、捜査の権限を拝受いたします。国王陛下。」
「うむ、存分にやるがよい。」
こうして謁見は終わり僕は、先生たちが居る離宮へと向かって歩き出した。正しい捜査を行い、王国の未来と一人の男を救うために。
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