31 / 69
第一部 第二章
第4話 気絶と安全
しおりを挟むダンテを背負い僕は、〔ハルマ―〕の城下町の屋根を走り、時に跳躍<リープ>を用いて屋根から屋根へと飛んだ。
それを何回か繰り返し目的地のすぐ近くの教会に隣接した建物の屋根にたどり着いた。
「よし、家の近くまで来たぞ、ダンテ。」
そう言って、後ろを振り返ると、ダンテが目をまわして伸びていたのであった。
「あっ、しまった。」
「ウ~、速すぎる~、高い~。」
「あ~、ちょっと、しっかりして。家はどこ?」
僕は、身体強化の魔術を解き、ダンテを背中から降ろしながら聞いたが、伸びているので答えは、返ってこなかった。
どうしようかと途方に暮れそうになったが、とある事を思い出し、僕は、懐のポケットからそれを取り出し、思い切り、吹いた。
するとほどなくして、二人の人物が、屋根の上に現れ跪いた。
「「お呼びでございましょうか、殿下。」」
そう現れたのは、僕の専属護衛官である衛剣のセドイスとオルティシアの二人であった。先ほど吹いたのは、魔力笛と呼ばれる物で、笛を吹くとその音を魔力に変換して相手が持つ受信機に送り、その相手だけに音が聞こえるという魔道具である。
「あっ、二人とも来てくれてありがとう。ちょっと助けて。」
僕は、そう言ってダンテの方を見たのであった。二人は、僕と同様にダンテの方を見ると、状況を理解し、対処を開始した。
「とりあえず、彼を横にさせましょう。手伝っていただけますか、殿下?」
「うん、分かった。」
僕は、セドイスの指示を聞きながらダンテをオルティシアが屋根の上に敷いてくれた簡易マットに上に横にさせ僕が来ていたマントをダンテの上に掛けたのであった。
「しばらく様子を見ましょう。多分、大丈夫でしょう。」
「うん、分かった。」
僕は、快諾すると屋根に腰を下ろして眼下の教会前の通りを眺めていた。通りは、建国祭を祝う国民たちで埋め尽くされており、とてもにぎわっていた。
「殿下、先程殿下たちを探し回っていた彼らですが、まだ殿下たちを発見できていないようです。」
通りを見ていた僕に、セドイスが、そう報告してくれた。
「うん、分かった。」
僕が、了解の意志を示すとセドイスが、僕の隣に腰掛けて来た。そしてこう言って来た。
「殿下、彼らはまだ諦めていません、ここは慎重な行動をお願いします。」
「うん、そのつもり。ただ気になることもあるんだよね。」
僕は、そんな事を言いながら少し考えていた。彼らは、何故ダンテを虐めていたのか?
〔デイ・ノルド王国〕において貴族は、非常に強い権力を有しているが、それと同時に法によって厳しく統制されている。
その事を貴族の子息が、ましてや僕よりも年上の少年が知らないはずはない。
さらに彼らは、ダンテの父親がどうなっても知らないとも言っていた。これは明らかな脅迫である。
しかし、いくら考えても答えは導き出すことはできない。余りにも情報が不足しているからである。情報を得るためにもダンテを安全な場所に送り届けることが重要である。
そんな事を思いながら僕は、ダンテの回復を待ったのであった。
目的地の近くに到着してから三十分が立った頃、通りを見ていた僕の後ろで何かが動く音が聞こえた。
振り向いてみるとダンテが、起きておりポカ~ンという顔をしており、ここが何処で僕たちが誰なのか分かっていない顔をしていた。
そしてこう問うてきた。
「ここ何処? あなた達、誰?」
その言葉に少しズッコケたが、気を取り直して説明すると、今までの事を思い出し、その後はスムーズに話すことが出来た。
そしてダンテから、家の場所を聞くとそれに向かう準備を開始した。
「あの、これ何です?」
ダンテが、自分の腰に着けられた物を指差して怪訝そうな顔をしていた。それは僕にもつけられている物で、それについてセドイスが説明を始めた。
「ダンテ君、これは浮遊<フロート>の魔術が出来ない者を浮遊<フロート>の魔術が出来る者に繋ぐ固定具だよ。これを装着すれば、一緒にここから降りることが出来る。」
そう言うとセドイスは、ダンテの背後に回ると彼の腰に着けられている装置に自分の腰に装備されている装置を連結させた。
「では、お先に行かせていただきます。」
そう言って、浮遊<フロート>の魔術を発動させ建物の屋根から降りて行った。
「では殿下、こちらも参りましょう。」
僕の背後に居るオルティシアもそう言って浮遊<フロート>の魔術を発動させ僕と共に屋根から降りたのであった。
僕たちは、ゆっくりと降下をして安全に地面に降り立つことが出来たのであった。
地面に降り立ち降下の補助具を外し終え、出発の準備が整うとダンテに案内されながら、彼の家へと向かったのであった。
教会から少し歩き商店と商店の間の路地を一本抜けると住宅地が広がっており、ダンテは、その内の一軒に歩みを進めていった。
僕たちもそれに続き、家の前に到着すると、ダンテが呼び鈴を鳴らした。
「は~い、今行きます~。」
と言う僕にとって、とても聞き馴染みのある声が聞こえて来た。どこかで聞いた声だなと思っていると、ドアが開き、その声の人物が現れた。
「ダンテ、お帰りなさい。早かったわね。」
「ただいま、ママ。」
その女性は、ダンテに挨拶をすると、後ろに居る僕たちを見た。すると一瞬驚いた顔をしたのであった。
しかし、その驚いた顔もすぐに引っ込み、ノルド王家に仕える侍女の顔に変わり、侍女が行う礼を行い、こう言った。
「エギル殿下、ようこそ我が家にいらっしゃいました。どうぞ狭いですが、お寛ぎくださいませ。」
「やあ、エマ。遊びに来たよ。」
僕が、そう返すと、ダンテは、僕とエマを交互に見て、恐る恐る僕に聞いてきた。
「エギルって、ママと知り合いなの?」
「うん、知り合いだよ。」
それを聞いたダンテは、僕にこう言って来た。
「エギルのフルネームって何?」
その問いに僕は、こう答えた。
「僕の本当の名前は、エギル・フォン=パラン=ノルド。この国の第一王子さ。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる