ノーベル賞受賞屋が乙女ゲームの世界に転生した。

鹿島 ギイチ

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第一部 第二章

第4話 気絶と安全

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 ダンテを背負い僕は、〔ハルマ―〕の城下町の屋根を走り、時に跳躍<リープ>を用いて屋根から屋根へと飛んだ。
それを何回か繰り返し目的地のすぐ近くの教会に隣接した建物の屋根にたどり着いた。

「よし、家の近くまで来たぞ、ダンテ。」

 そう言って、後ろを振り返ると、ダンテが目をまわして伸びていたのであった。

「あっ、しまった。」

「ウ~、速すぎる~、高い~。」

「あ~、ちょっと、しっかりして。家はどこ?」

 僕は、身体強化の魔術を解き、ダンテを背中から降ろしながら聞いたが、伸びているので答えは、返ってこなかった。
どうしようかと途方に暮れそうになったが、とある事を思い出し、僕は、懐のポケットからそれを取り出し、思い切り、吹いた。
するとほどなくして、二人の人物が、屋根の上に現れ跪いた。

「「お呼びでございましょうか、殿下。」」

 そう現れたのは、僕の専属護衛官である衛剣のセドイスとオルティシアの二人であった。先ほど吹いたのは、魔力笛と呼ばれる物で、笛を吹くとその音を魔力に変換して相手が持つ受信機に送り、その相手だけに音が聞こえるという魔道具である。

「あっ、二人とも来てくれてありがとう。ちょっと助けて。」

 僕は、そう言ってダンテの方を見たのであった。二人は、僕と同様にダンテの方を見ると、状況を理解し、対処を開始した。

「とりあえず、彼を横にさせましょう。手伝っていただけますか、殿下?」

「うん、分かった。」

 僕は、セドイスの指示を聞きながらダンテをオルティシアが屋根の上に敷いてくれた簡易マットに上に横にさせ僕が来ていたマントをダンテの上に掛けたのであった。

「しばらく様子を見ましょう。多分、大丈夫でしょう。」

「うん、分かった。」

 僕は、快諾すると屋根に腰を下ろして眼下の教会前の通りを眺めていた。通りは、建国祭を祝う国民たちで埋め尽くされており、とてもにぎわっていた。

「殿下、先程殿下たちを探し回っていた彼らですが、まだ殿下たちを発見できていないようです。」

 通りを見ていた僕に、セドイスが、そう報告してくれた。

「うん、分かった。」

 僕が、了解の意志を示すとセドイスが、僕の隣に腰掛けて来た。そしてこう言って来た。

「殿下、彼らはまだ諦めていません、ここは慎重な行動をお願いします。」

「うん、そのつもり。ただ気になることもあるんだよね。」

 僕は、そんな事を言いながら少し考えていた。彼らは、何故ダンテを虐めていたのか?
 〔デイ・ノルド王国〕において貴族は、非常に強い権力を有しているが、それと同時に法によって厳しく統制されている。
その事を貴族の子息が、ましてや僕よりも年上の少年が知らないはずはない。
 さらに彼らは、ダンテの父親がどうなっても知らないとも言っていた。これは明らかな脅迫である。
しかし、いくら考えても答えは導き出すことはできない。余りにも情報が不足しているからである。情報を得るためにもダンテを安全な場所に送り届けることが重要である。
そんな事を思いながら僕は、ダンテの回復を待ったのであった。


 目的地の近くに到着してから三十分が立った頃、通りを見ていた僕の後ろで何かが動く音が聞こえた。
振り向いてみるとダンテが、起きておりポカ~ンという顔をしており、ここが何処で僕たちが誰なのか分かっていない顔をしていた。
そしてこう問うてきた。

「ここ何処? あなた達、誰?」

 その言葉に少しズッコケたが、気を取り直して説明すると、今までの事を思い出し、その後はスムーズに話すことが出来た。
そしてダンテから、家の場所を聞くとそれに向かう準備を開始した。

「あの、これ何です?」

 ダンテが、自分の腰に着けられた物を指差して怪訝そうな顔をしていた。それは僕にもつけられている物で、それについてセドイスが説明を始めた。

「ダンテ君、これは浮遊<フロート>の魔術が出来ない者を浮遊<フロート>の魔術が出来る者に繋ぐ固定具だよ。これを装着すれば、一緒にここから降りることが出来る。」

 そう言うとセドイスは、ダンテの背後に回ると彼の腰に着けられている装置に自分の腰に装備されている装置を連結させた。

「では、お先に行かせていただきます。」

 そう言って、浮遊<フロート>の魔術を発動させ建物の屋根から降りて行った。

「では殿下、こちらも参りましょう。」

 僕の背後に居るオルティシアもそう言って浮遊<フロート>の魔術を発動させ僕と共に屋根から降りたのであった。
僕たちは、ゆっくりと降下をして安全に地面に降り立つことが出来たのであった。
 地面に降り立ち降下の補助具を外し終え、出発の準備が整うとダンテに案内されながら、彼の家へと向かったのであった。
教会から少し歩き商店と商店の間の路地を一本抜けると住宅地が広がっており、ダンテは、その内の一軒に歩みを進めていった。
僕たちもそれに続き、家の前に到着すると、ダンテが呼び鈴を鳴らした。

「は~い、今行きます~。」

 と言う僕にとって、とても聞き馴染みのある声が聞こえて来た。どこかで聞いた声だなと思っていると、ドアが開き、その声の人物が現れた。

「ダンテ、お帰りなさい。早かったわね。」

「ただいま、ママ。」

 その女性は、ダンテに挨拶をすると、後ろに居る僕たちを見た。すると一瞬驚いた顔をしたのであった。
しかし、その驚いた顔もすぐに引っ込み、ノルド王家に仕える侍女の顔に変わり、侍女が行う礼を行い、こう言った。

「エギル殿下、ようこそ我が家にいらっしゃいました。どうぞ狭いですが、お寛ぎくださいませ。」

「やあ、エマ。遊びに来たよ。」

 僕が、そう返すと、ダンテは、僕とエマを交互に見て、恐る恐る僕に聞いてきた。

「エギルって、ママと知り合いなの?」

「うん、知り合いだよ。」

 それを聞いたダンテは、僕にこう言って来た。

「エギルのフルネームって何?」

 その問いに僕は、こう答えた。

「僕の本当の名前は、エギル・フォン=パラン=ノルド。この国の第一王子さ。」
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