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11 混迷した女王様が決まりました。

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 混迷を極めるレイブギンですが3代目暫定国王…女王が正式に即位するそうです。
 色々追い込まれて即位するのは、29歳、元軍務官僚。
 即位名テレス1世。
 …結局軍閥? 
 経緯はそうでもないようですが。事務方だそうです
 女と甘く見られたのでしょうか、一斉に侵攻の動きを見せる交戦国3国。
「レイブギン連邦王国女王として初の命を下します。
 徹底的に叩き潰しなさい」
 煽るでもなく冷淡に命を下したそうです。
 凍る謁見の間の噂に民衆は沸いたそうです。
 嘗められたとグズる女王を周りで諭した末の演技らしいですが。
 …傀儡政権ですね。
 政治は甘くないですね。
 ちなみに海以外をレイブギンとラーシアシス教国に囲まれたガルム連合国は自国通貨の価値がダダ下がって窮して降伏を求めてきても受け入れず、暗にラーシアシスを何とかしてから来いと脅したそうです。
 お荷物は要らないのです。

 
 侵攻の動きを見せる交戦国3国いずれもヴァンムジン大帝国の暫定自治領の隣国です。
 ヴァンムジンの東側はレイブギン…王国のほぼ支配下で元大帝国は領地的に大陸中央と分断していました。
 なので今隣接する他国はヴァンムジンが隣接する交戦国4国です。
 そしてフルブレイドですが、事情を知っているイリーシャとセレナのおかげで依頼すら遠慮しているようです。
「希望者は有給休暇をあげますから、レイブギンでバイトしてきてもいいですよ。
 2型と必要なら3型とFB‐02も構成員割引で格安で貸出します。
 もちろんあなた達と機体が帰還不能になる前に連絡はして下さい。
 無償で救助回収します」
 特に興味のない兵たちでしたが、わたしが手を貸したいのだと意を汲んでくれたようで、じゃあ小遣い稼ぎにでも行きますか、ヴァンムジンで買い物とかできますよね?、と先任からLv160級6名、先日まで予備隊だったLv140級8名が手を上げてくれました。


「というわけでヴァンムジンでの防衛はギルドに依頼して頂ければ、それなりの戦力が提供されると思いますよ」
 レイブギン連邦王国・王城の会議室です。
 面子はわたし・ゼーナさん・イリーシャ・セレナ・女王テレス。
 趣旨としては女王テレスとわたしを顔繋ぎさせたいのでしょう。
 この場では着飾らない官僚な風情の青髪の美人さんです
「話には聞いておりましたが、フルブレイドにレイブギンが依頼できるわけではないのですね?」
「フルブレイドは傭兵ではありません。
 今の所、技術収集・研究開発の為の実戦検証の部所としての戦闘部所があるに過ぎません。
 依頼を受けて戦闘活動する性格の集団ではないのです。
 平民である会長配下の個人商会と私兵に過ぎません。
 ご了承ください、テレス女王陛下」
「ゼーナさん、貴女に陛下呼ばわりされると皮肉に聞こえます」
「御知り合いだったのですか?」
 イリーシャが口を挿みます。
 元エトファム軍大佐とレイブギン事務方軍務官僚の接点は確かに気になります。
「軍務官僚だった頃エトファム・ダイスビルが立て続けに落ちて仕事で過労死寸前の頃に一時的に私の補佐としてゼーナさんはレイブギンに編入して来ました。
 超有能で淡々とキレイさっぱり纏めあげましたが、はっきり言えば私の方が小間使いでした。
 それも私の功績として悪目立ちして女王なんかになってしまった一因です
 一月もしない内に転属したかと思えば、こんな所でフルブレイドの幹部になって現れたのですから、私の方が皮肉の一つも言いたくなります」
「貴女は誠実で実直な方です。
 既存の王に向くかといえば疑問ですが、今のレイブギンで貴女が女王である事に希望はあるでしょう」
「…というか、フルブレイドは商会なのか?」
 さすが、こういった場で空気が読めないセレナが話を変えてくれます。
「わたしが素材売却に難があるので、商会という後ろ盾を作った所から始まりましたので」
「実態は大陸最強の軍事勢力、最高の兵器開発機関でしょう?
 商会なら売って欲しいのですけど」
「甲殻素材は普通に納品していますよ?
 技術開発もラーグスリーグの2研が中心ですからレイブギンの傘下ですよね?」
「ラーグスリーグはあくまで連邦の一角を成す自治領です。
 強権で介入したら皆辞めて正式にフルブレイドに移籍するでしょう。
 …ですね?イリーシャ様」
「様はおやめ下さい、陛下。
 成立過程的にレイブギンよりフルブレイドの方が圧倒的に彼らを遇しています。
 また彼らを育てたのもフルブレイドと言えます。
 強権介入はフルブレイドに対して敵対と見做される可能性があります」
「普通に筋を通していただけたら敵対とまでは思いませんが?」
「会長、会長が思わなくてもスタッフはそうは思いません。
 余計な仕事を増やして成果を横取りにくる侵略者に見えます。
 操縦兵も良い顔はしないでしょう」
「2型2機くらい提供して甲魔獣騎の研究者辺りに開発してもらうのは?
 ゼーナさんはどう思います?」
「…そうですね。甲魔獣騎の研究者の性質にもよりますがレイブギンで管理できるなら会長の目的からも外れないかもしれません」
「ジュライさん、貴女の目的とはなんなのです?」
「短期的にゼーナさんの言葉の意味でしたら、一度多方面から研究して多様化した方が良いと思っているのです。
 長期的にはイリーシャとセレナの判断で必要と思えば話してくれると思います」
「ちょっ!なんで私達が知っている事をバラすの!」
「そこで私達に丸投げはズルいぞ!」
「イリーシャ様、セレナ?」
 テレス陛下は泣きそうな表情でイリーシャとセレナを見ます。
「…いえ、極めて個人的な同情すべきプライバシーなので…」
「…必要と思えばお話する事になると思います…」
「重く考えないで下さい。
 陛下といえど、わたしは初対面でお互い信用の素地がありません。
 荒唐無稽なお話です。お話する時は余程の時ですから信用してあげて下さい」
「…分かりました。
 ともあれギルドに依頼すれば防衛戦力は個人的にでも借りる事ができるのですね?」
「ならば私達の出番です」
「陛下の初の命を遂行してみせましょう。
 徹底的に叩き潰してまいります」
 獰猛に微笑む、という表情を初めて見ました。

 
 防衛面をFB‐02とハイヒューマンが駆る甲殻戦機10機に任せられるなら、イリーシャとセレナにとっては逆侵攻が楽で効果的な戦術です。
 侵攻の動きを見せた交戦国3国は2週間で沈黙。
 残りの隣接国はその3国を含めてレイブギンに囲まれてしまい、王が自らの首を手土産に降伏を申し出て来たようです。
「王様の首は要らないからクズ貴族の首を並べて欲しいですね。
 王様は後からどうとでもなるのですし、手間を惜しまないで欲しいですよね」
「…貴族専門テロリストの言葉は重いな」
「それは休業状態です。といいますか、仕事をさせてもらえません」
「カンが鈍るぞ。久し振りに1本どうですか?イリーシャも?」
「甲魔獣は定期的に狩っていますが、対人は離れた格下としか経験がないかもしれません」
 当たり前ですが対人と対獣・魔獣・甲魔獣では戦い方は全く違います。
 高位の刀剣術有段者でも野生の虎を狩るのは難しいのです。
 逆の対獣の専門家も対人専門家には分が悪いのです。
 対人特化した分、牽制・誘い・逸らし・繋ぎ・歩法・体捌きといった技が洗練されているのです。
「私は時々セレナ様とやりますよ。フヅキに勝てる気はしませんけれど」
「いえ、息の根を止めるまでやるならともかく、いくつかズルスキルを封じて有効攻撃数勝負では分かりません。
 わたしが全力で5回当てても二人なら3割減くらいで済むと思いますから御願いできますか?」

 結果は酷い物でした。
 5撃先取ルールでは全く勝てませんでした。
 1撃・2連撃覚悟で2連撃・3連撃とか、どこの鬼ですか…?
 セレナの言う血肉になった差でしょうか?
「フヅキをここまで手玉にとれるのは楽しいな」
「ここまで…弱くはないですが、何というか…」
「…これは駄目です。
 ガラではありませんが、暫く特訓を御願いします」
 …サディスト達の目が笑った気がします。

 
 占領した4国の先の隣接国はやはり交戦状態の3国です。
 詳細は伝わっていないのでしょうが、レイブギンの勢いは怖くないのでしょうか?
『フヅキさん、コイン達がダームズ連合王国の西部の村であの弱い甲魔獣を確認したよ』
 エイプリルからの通信念話です。
 エイプリルも鳩数十羽を従魔に、ゼーナさんはトラ縞の仔猫リムを使い魔と小鳥各種とネズミやモモンガ等従魔は実用的な小動物を従えました。
 …今更ですが小鳥やモモンガの限界レベルが350と人より高いのは謎です。
 あと、リムを一旦Lv350にしても仔猫のままでホッとしていたゼーナさんはペット感覚ですよね?
 エイプリルも手品で鳩従魔使うとかネタですよね?魔法使いのタネのある手品って…?
 ちなみにザックリと言ってしまえば、高レベルになると従魔が自分の意思で主の魔法を使えない位しか使い魔と差がありません。従魔視界で主が魔法を使う事はできますが。
 さておき。
『村は?』
『あうと。今23体、撤退なのか侵攻なのか微妙な方向に向かって進行中ですね。 
 匿名で近隣のギルドに警告はしたよ。
 ウチのコ達にやらせようか?』
『小動物従魔達の主な役割は諜報調査・偵察活動です。
 監視はあると思いますから目立たせるのは損です。
 フルブレイドで対応しますのでわたしの方に空間接続をお願いします』
『はいな』
 FB‐01の指揮所兼操縦室にはエイプリルの鳩従魔が常駐しているのですぐに空間接続が現われます。
「エクシード機長、今回は零型でわたしが排除に向かいます。
 当番兵だけでも村の方の生存者確認を御願いします」
「了解しました。…零型ですか?」
 零型は特殊オーダー枠の4型にホムンクルス技術を投入した5型の先行試作機です。
 初期スペックは低いですが、そもそも甲殻戦機はわたしには足枷です。
「わたしが研鑚するべき道かもしれません。
 わたしがパラメータ頼みの強さでは先行きが危ういです。
 変装代わりも兼ねて実戦検証してきます」
「了解です。御武運を」

 空間接続の向こうに降りると変装したエイプリルが物理・魔法両面で逃走を防ぐ隔離魔法[アイソレーション・フィールド]を展開した直後でした。
『先にやってますよ』
『ウチで対応しますって言ったのに』
『私は私で思う所はあるのです。
 でも、そんなのを持ち出したフヅキにも思う所はあるのでしょうから譲ります』
 エイプリルが本気を出せば魔法で一瞬でしょう。
 隔離魔法などと忘れがちで地味な、まどろこしい手順を踏む必要はありません。
 それを普段隠すのは実力的に目立つ事を嫌う本人の性格と、セレナやイリーシャという切札にして見せ札に対して、隠し札でいる方が有益と皆で相談したからです。
『ありがとうございます』
 縦長のカニLv45…レベルが上がっています。
 MM甲殻マジックミラー越しの視界にマップ等のモニター映像を投影できないでしょうかと考えてしまいます。
 3mの機体は重いです…いえレスポンスが鈍いです。
 ですが、刃槍で目の前の2体を4連突きで粉々にします。
 次は左椀部に固定した長い盾に内蔵しました新装備のテストです。
 椀ごと盾を向けてトリガーを引きます。
 魔法のエネルギージャベリンが自動生成されて射出され狙った個体を倒します。
 クールタイムの類なしで連射します。
 わたし達や高レベルハイヒューマンも同様にできる人はいるらしいのですが、これは機体性能です。
 魔石から錬金した魔力結晶をカートリッジにして盾に内蔵した魔導器生成しています。
 次は魔法を変えてホーミングボルト。
 マップでロックした3体をワントリガーで同時に撃破。
 3連射を試します。
 良好です。
 後は…。
 肩から背中に背負った器官…浮遊魔導器と推進器官を合成して飛翔器と呼んでいる器官…に魔力結晶カートリッジを装填して飛翔。直上に高く。
 ガンっと衝撃がして1秒とかからず高度500mまで到達しました。
 行き過ぎです。目に付いた個体目掛けて降下します。
 …安全装置が必要ですね。
 これでは離陸に5・600㎞/hで壁に激突したような衝撃を味わいます。
 ハイヒューマンなら耐えるでしょうが、防御力次第でダメージはあるかもしれません。
 元々2型の頃から腰や各所に小型推進器官バーニアを内蔵しているのでジグザグに飛翔運動性能を試しながら一体一体を屠ります
 上手くゆきません。
 それもそうです。
 わたしが人型の方が有利と想像したのは、人がイメージで操作するなら人型の方がイメージし易いと思ったからです。
 小型推進器官バーニアや飛翔器は人体にありません。
 イメージしきれないのです。
 …いえ。
 リアルロボット的バーニア運動をイメージしてみます。
 うん、マシになりました。
 練習の価値があるかもしれません。
『ここまでです。
 エイプリル、思う所があるのでしたら後はどうぞ』
『…。
 え、ああ、まあ、そこまでの事でもないけど試してみたい事はあるから。
 [シーオー2ゾーン]』
 ユーシアが即興で作った魔法の二酸化炭素での改良版でしょうか?わたしは使えません。
 オキシゲンボールは素材収集の時にレベルが上がった瞬間増えていましたので使えるようになりましたけれど、同様に可能でしょうか。
『効果はあるみたいね [シーオー2ゾーン] [シーオー2ゾーン]』
 残りを全てシーオー2ゾーンで倒して死体を回収して終了しました。

 
「アレ、私も欲しい!」
 FB‐01の指揮所に引き上げてすぐです。
「零型ですか?駄目です。
 アレは5型の先行試作機です」
「じゃあ5型ができたら頂戴!」
「…一応最新型はフルブレイドの機密なので秘密については信用していますけれど、他所で使われるのは…」
「じゃあフルブレイドに入るから頂戴!」
「セレナは?」
「前にも言ったけどセレナ様は私なんか追い抜いて立派になりました。
 だからフルブレイドに入るから頂戴!」
「…色々扱い辛いですし、全体で訓練メニューの見直しをしている所でもあります」
「訓練メニューの見直しって、途中から有り得ない動きを始めた、あれ?」
「…よく分かりましたね」
「魔法も魔導器起動?フヅキさんの魔力じゃないよね?」
「御明察です。魔力結晶を使用して交換カートリッジにしています。
 これでMPが低い者でも魔法がガンガン使えますし機体の稼働時間も伸ばせます。
 現状ハイヒューマンでもチャージがしんどいのがネックですが」
「入ってチャージ係もやるからちょう…操縦兵にして」
「…ゼーナさん、いいですか?」
「構わないでしょう。エイプリルはフルブレイドを良く知っていますし今更です。
 操縦兵というのは少々勿体無いですが…いえ。
 隠し札を隠したまま戦力にできるのであれば有効ですね。
 会長もそういう使い方をされたでしょう?」
「…それもそうですね」

 
 甲魔獣の森。
 零型を貸してエイプリルの訓練がてら素材収集をしていた所に、セレナがゼーナさんを連れて稽古を着けに来てくれました。
 一通り絞られて一息つきます。
「本物の天才ってアレだから付いて行くのが大変です」
 もうわたし以上に自由自在変幻自在に零型を操るエイプリルに溜息が漏れます。
 わたしの挙動を傍で見ていたからイメージできるしイメージ拡張もできると。
 魔法使いはイメージが大事なのだそうです。
 イメトレで魔法を作れるようになるのでしょうか?
 溜息を吐くわたしをジッと見つめるセレナ。
「フヅキも天才だ、と思う」
「そうですね。私も会長はある種の天才だと思います」
「わたしのはチートですよ? 
 元の魔法のない故郷では一応天才とか言われた事もありましたが、今はロクに学ばず魔法やスキルを使っていますし」
「それでも見た事もない理解できない、魔法やスキルは使えなかったでしょう? 
 私もきちんと学んで魔法やスキルを憶えたわけじゃない。
 見て感じて覚えましたよ」
「そんなものなのでしょうか?」
「会長の年齢的に不相応な戦闘技術を傍目には簡単に血肉にしていくのは驚嘆するべき才能ですが、何か素地がありましたか?」
「師匠…養父が『俺はお前の親を殺したから、お前は俺を殺せるようになれ』って無茶苦茶で厳しい人で、それなりの鍛錬は受けていました。
 断っておきますが、日本では普通ではありませんよ? 
 人が人を殺す事も幼女児に戦闘鍛錬を課す事も。
 甲殻戦機自体存在しなかったのにアレなアレとはとても比べられません」
「ああ。アレはまた違うモノでしょう」
 セレナは零型を操るエイプリルを見やります。
「…エイプリル、良かったのですかセレナは?」
「なに、道を違えたわけでもない。
 違えたとして幼馴染は変わらない。
 縛るような、縛られるような生き方こそ不本意でしょう。私もエイプリルも」

 

 ダームズ連合王国は領土的に三指に入る北の大国です。
 その大国に対してレイブギン連邦王国は初めて侵攻に対する逆侵攻ではなく侵攻を宣言しました。
 これに際し女王テレスはわざわざFB‐01の指揮所まで自ら出向いてわたしとゼーナさんに説明の機会を設けました。
「ダームズ連合王国は大国といえど統治能力も経済力も既に破綻しています。
 官僚という名の貴族と軍人に農奴、ほぼその三種類しかいません。
 決して生産力がないのではなく大国に至るまでの軍事拡張に最適化したのです。
 我が国も明日は我が身といえる道筋ですが、幸い我が国の侵攻は早く負担が極端に少ないので同じ轍を踏まずに済みそうです。
 ですがダームズからの侵攻は時間の問題です。
 万全を期してか、追い詰められてかは微妙ですが、どちらにしても待つのは悪手です。
 そして複数の甲魔獣か甲魔獣騎の集団が連合王国内の村を含めて荒らして通過、国境を越えて隣国の村町を荒らし始めました。
 ダームズはこれを放置、レイブギン連邦王国としてはこれをダームズの手と断じる事も介入する事もできません。
 早期にダームズを打倒し、速やかな対処を打たねば広大な領土が奪う価値もない土地になってしまいます。
 重ねて言います。ダームズ連合王国に回復する統治能力も経済力も既に破綻しているのです」
「丁寧な御説明、ありがとうございます。一個人商会に身に余る光栄に存じます」
「白々しいですよ。
 フルブレイドに敵対したくない、軽視して悪感情のタネを撒きたくないのなら、して当然の易い根回しです」
 さすが元事務方軍務官僚女王様です
「…ここからは彼女達に近しい貴女達にしか聞けません。
 今更セレナとイリーシャの特別な実力は疑う余地もありません。
 ですが私達は二人に無理に連戦を強いてはいませんか?
 特別なハイヒューマンといえど人、不死身ではありません。
 実際、二人して貴女一人に勝てる気がしないと口を揃えます」
 センス・ライ状態のわたしには、ここまで偽りのない本心である事は分かります。
「オーバーハイヒューマン、ohHオーエイチと呼称する事にしました。
 体調でしたら大丈夫でしょう。
 ここの所、二人に代わる代わるボコボコにされています。
 怖いくらい研ぎ澄まされていますね」
「二人は貴女をも超えたと?」
「尊敬すべき師匠ですよ?」
「会長、妙な謙遜で誤解を招く場面ではありません。
 陛下、ルールによっては、と但し書きが付くのですよ」
「…模擬戦ならということですか」
「いえ、あれが本当の強さというものと思っています。
 お互いに止めを刺さなくてはいけない状況ならわたしが生き残るでしょう。
 ですが真剣勝負で二人にボコボコにされているのは本当です。
 怖いくらい研ぎ澄まされているのも本当です。
 大丈夫です。
 心配ありません」
 もちろん従魔達の諜報調査・偵察活動の裏付けもあります。
「…ありがとうございます。
 でしたら申し上げる事はございません」
 わたしが言うのもアレですが、いい人じゃないですか。
「陛下、敬語。気を抜かないで下さい」
「…いいじゃないですか、ここには3人しかいないのですから…」
 普通は敬語が抜けている場合に受ける注意ですが、頬を膨れさせてむくれる新米陛下は何か良いです。

 
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