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第2章 生贄の月下美人
第15話 もうすぐ
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時計の針というものはまるで呼吸をする様に気付いたら何回転と行進している。
それはまるで緩やかな流れの小川に青々とした若葉が風に吹かれ落ち、ゆっくりと太陽の陽射しを受けながら長い長い旅に出る時と似ている。
誰だってこの世に生を受けた時から平等に与えられる”時間”。
それはソーマたちも、サクヤも同じだ。
今夜、生贄の儀式が行われる。
里の者たちの話を小耳に挟んだ。どうやら23時50分~24時の間に儀式は終わるらしい。
儀式の終わり、それはサクヤが三ツ頭龍神の腹の中に納まった時だ。
それにしても昨日のうちに武器を取り返していて良かった。今日は儀式の日だと言うこともあり、早朝からドタバタと忙しそうに皆走り回っていたからだ。
もうすぐ、昼時である。
やはり——きた。
サクヤだ。一昨日、昨日と次いでソーマの動きを封じ、昼飯を持ってきてくれる。
サクヤが牢を出て、動ける様になる。
サクヤは外を見たまま俺たちを見ようとはしない。が、そのまま立ち去ろうともしなかった。
「サクヤ」
「…………今宵、妾は贄となる」
ジンの問いかけにサクヤは少しの沈黙を続けた後、口を開いた。
「後悔は無い。サクヨも助かるし、里も助かる。素晴らしい結果で終わる」
「お前は?お前はそれで助かるのか?救われるのか?」
「…………」
「1つだけ、この質問だけは正直に答えてくれ」
サクヤは、分かったと振り返りもせずに聞いた。
「……いや、やっぱ大丈夫だ!もう分かったから!」
サクヤは疑問に思いながらも「そうか」と少し寂しそうな声で返した。
そして。
「其方との言。妾は楽しかったぞ」
その言葉を残し、サクヤは社へとその姿を消して行った。
*
「姉様!」
「サクヨ?どうしたのじゃ?」
社に帰るとサクヨが心配そうに妾へと急ぎ足で駆け寄ってきた。
その顔は赤みを帯びており、瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。
「姉様!私!やっぱり嫌です!姉様が贄に捧げられるなど耐えられませぬ!」
「サクヨ……」
「なにが嫌なのだ?」
!!?声のした方にはサクヤの祖父、サクタロウが立っていた。
「サクヨ。問題発言だぞ今のは」
サクヨはサクタロウの圧に押され言葉を失いそうになるが、ぐっ、と堪え声を振り絞る。
「しっしかし!姉様はっずっとこの里のために貢献されて来ましたっ…だから」
「だから?だからなんだと言うのだ?贄には捧げられぬと?」
サクタロウは目をカッ!と見開きいきなり怒号の如くサクヨを怒鳴り散らかした。
「ふざけるでない!サクヤを捧げなければ里に災いが降りかかるのだ!それに龍神様は儂等にとってずっとこの里を守ってきてくれた気高く、崇高しなければならない存在なのだぞ!それを……このクズめ!」
バシッ!!!!とサクタロウはサクヨの頬を引張叩いた後、腕を強く掴み、何処かへ連れて行こうとした。
「い、痛い!離してくださいっ!!」
「そんなにサクヤを差し出すのが嫌だというのならサクヨ、お前は差し出してやる!!」
「!!!」
ピタっ……!とサクタロウの動きが止まる。これは……
「貴様サクヤ、儂に能力を放つとは何様だ」
「申し訳ありません。私めが贄になりますゆえサクヨをお離し下さい。さもなければ掟を破り、2人ともこの里から出て行くか、自害致します」
「……ふん、分かればいいのじゃ分かれば」
サクヤが能力を解き、サクヨはサクヤの元へと飛び込んだ。
サクタロウは舌打ちをすると「巫女装束に着替えろよ」と言い、去って行く。
サクヨはサクヤの胸の中でずっとごめんなさい、ごめんなさいと繰り返していた。
……準備を始めねば。
泣き付くサクヨをひっぺがし、サクヤは巫女装束の用意してある部屋へと向かう。
夕焼けが…こんなにも恐ろしく感じるなんて。
小さい頃は夕焼けが大好きだった。母上が迎えに来てくれたから。社に帰ると父上のあったかい笑顔でおかえり、って。
お祖父様だってあの頃は優しかったのに。どうして…
どうして、こんなに辛いんだろう
あぁ、そうか、もう誰も迎えに来てくれないからだ。夕焼けの頃合になっても、妾を迎えに来てくれる人はもうだれも……
もうすぐ、
もうすぐ夕焼けが
終わる…
最後の夕焼けをこの瞳に焼き付け、妾は巫女装束を用意してある部屋へと足を踏み入れた。
障子の閉まる音が夕焼けにのってやけに大きく聞こえた様な気がした。
第15話 もうすぐ ~end~
次回予告。
妾の一生はここで終わるのじゃ
…………サクヤはもう…
次回 第16話 新月
それはまるで緩やかな流れの小川に青々とした若葉が風に吹かれ落ち、ゆっくりと太陽の陽射しを受けながら長い長い旅に出る時と似ている。
誰だってこの世に生を受けた時から平等に与えられる”時間”。
それはソーマたちも、サクヤも同じだ。
今夜、生贄の儀式が行われる。
里の者たちの話を小耳に挟んだ。どうやら23時50分~24時の間に儀式は終わるらしい。
儀式の終わり、それはサクヤが三ツ頭龍神の腹の中に納まった時だ。
それにしても昨日のうちに武器を取り返していて良かった。今日は儀式の日だと言うこともあり、早朝からドタバタと忙しそうに皆走り回っていたからだ。
もうすぐ、昼時である。
やはり——きた。
サクヤだ。一昨日、昨日と次いでソーマの動きを封じ、昼飯を持ってきてくれる。
サクヤが牢を出て、動ける様になる。
サクヤは外を見たまま俺たちを見ようとはしない。が、そのまま立ち去ろうともしなかった。
「サクヤ」
「…………今宵、妾は贄となる」
ジンの問いかけにサクヤは少しの沈黙を続けた後、口を開いた。
「後悔は無い。サクヨも助かるし、里も助かる。素晴らしい結果で終わる」
「お前は?お前はそれで助かるのか?救われるのか?」
「…………」
「1つだけ、この質問だけは正直に答えてくれ」
サクヤは、分かったと振り返りもせずに聞いた。
「……いや、やっぱ大丈夫だ!もう分かったから!」
サクヤは疑問に思いながらも「そうか」と少し寂しそうな声で返した。
そして。
「其方との言。妾は楽しかったぞ」
その言葉を残し、サクヤは社へとその姿を消して行った。
*
「姉様!」
「サクヨ?どうしたのじゃ?」
社に帰るとサクヨが心配そうに妾へと急ぎ足で駆け寄ってきた。
その顔は赤みを帯びており、瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。
「姉様!私!やっぱり嫌です!姉様が贄に捧げられるなど耐えられませぬ!」
「サクヨ……」
「なにが嫌なのだ?」
!!?声のした方にはサクヤの祖父、サクタロウが立っていた。
「サクヨ。問題発言だぞ今のは」
サクヨはサクタロウの圧に押され言葉を失いそうになるが、ぐっ、と堪え声を振り絞る。
「しっしかし!姉様はっずっとこの里のために貢献されて来ましたっ…だから」
「だから?だからなんだと言うのだ?贄には捧げられぬと?」
サクタロウは目をカッ!と見開きいきなり怒号の如くサクヨを怒鳴り散らかした。
「ふざけるでない!サクヤを捧げなければ里に災いが降りかかるのだ!それに龍神様は儂等にとってずっとこの里を守ってきてくれた気高く、崇高しなければならない存在なのだぞ!それを……このクズめ!」
バシッ!!!!とサクタロウはサクヨの頬を引張叩いた後、腕を強く掴み、何処かへ連れて行こうとした。
「い、痛い!離してくださいっ!!」
「そんなにサクヤを差し出すのが嫌だというのならサクヨ、お前は差し出してやる!!」
「!!!」
ピタっ……!とサクタロウの動きが止まる。これは……
「貴様サクヤ、儂に能力を放つとは何様だ」
「申し訳ありません。私めが贄になりますゆえサクヨをお離し下さい。さもなければ掟を破り、2人ともこの里から出て行くか、自害致します」
「……ふん、分かればいいのじゃ分かれば」
サクヤが能力を解き、サクヨはサクヤの元へと飛び込んだ。
サクタロウは舌打ちをすると「巫女装束に着替えろよ」と言い、去って行く。
サクヨはサクヤの胸の中でずっとごめんなさい、ごめんなさいと繰り返していた。
……準備を始めねば。
泣き付くサクヨをひっぺがし、サクヤは巫女装束の用意してある部屋へと向かう。
夕焼けが…こんなにも恐ろしく感じるなんて。
小さい頃は夕焼けが大好きだった。母上が迎えに来てくれたから。社に帰ると父上のあったかい笑顔でおかえり、って。
お祖父様だってあの頃は優しかったのに。どうして…
どうして、こんなに辛いんだろう
あぁ、そうか、もう誰も迎えに来てくれないからだ。夕焼けの頃合になっても、妾を迎えに来てくれる人はもうだれも……
もうすぐ、
もうすぐ夕焼けが
終わる…
最後の夕焼けをこの瞳に焼き付け、妾は巫女装束を用意してある部屋へと足を踏み入れた。
障子の閉まる音が夕焼けにのってやけに大きく聞こえた様な気がした。
第15話 もうすぐ ~end~
次回予告。
妾の一生はここで終わるのじゃ
…………サクヤはもう…
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