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第2章 生贄の月下美人
第23話 夕焼け時
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仲間たちは戦いの疲れが溜まっていたらしい。
社の中へ案内され、一息つくと次々と眠って行った。
もう時計の針は3の数字を越していた。
サクヤは1人、龍神に会いに来ていた。
「龍神様」
「どうした?サクヤ」
「…貴方はこれから先どうするのですか?海へ……帰るのですか?」
「ワタシは…やはりこの里に残ろうと思う。そしてこれからは…ワタシなんかが務めていいのか分からぬが、この里の守護神になろうと思う」
「そう、ですか…良かった」
サクヤは目を閉じ、胸に手を当て柔らかく微笑んで見せた。
「それなら妾は安心してこの里から旅だてます」
「サクヤ…やはりあの者たちと行くのだな?」
「はい。朝方決まりました。妾は助けてくれたお礼としてジンたちを助けたいと思います」
「そうか。寂しくなるな…」
「そんな事ないですよ。サクヨもいますし」
そう言うとサクヤはふふふと笑って見せた。龍神には初代サクヤと今のサクヤが重なって見えた気がした。
「あっ、話してるとこだったか?」
ソーマがそこへやってきた。ソーマもかなり疲弊しているはずなのだが…けろっとしている。メンバー内1の俊足に加え体力も兼ね備えているみたいだ。
サクヤはそのソーマの言葉に軽く首を横に振り「大丈夫じゃ」と言った。
「本当はあんまり、見せたくないんだが…」
ソーマはやけに言い出しにくそうに行動が少し挙動不審気味になっていた…が、意を決して後手に持っていたものをサクヤに見せる。
「それは?」
「これは、ボーカーへの招待状だ」
サクヤはソーマのその言葉に呆気にとられた。側にいた龍神が代わりにソーマに問う。
「ボーカーって、あの平和の楽園の事を言っておるのか?」
「あぁ、そうだ」
龍神は少し厳しめの顔をしてソーマに言った。
「ソーマよ。ボーカーというものはこのワタシですら何処にあるのか分からぬ理想郷みたいなモノだ。ボーカーへ行くのは並大抵の覚悟では叶わぬぞ?」
その言葉にソーマは
「覚悟ならもう何年も前から出来てる」
龍神にはソーマの瞳の奥に何か…冷たさの様なものが感じ取れた。
この少年。過去に何かあったのか。相当な念みたいなものを感じる…
「ボーカーへの旅路…妾はこの命をかけて其方らに活路を見出そう」
そう凛と通る声で言ったサクヤにソーマは軽くデコにチョップを食らわした。
「な、何をするのじゃ!?」
不意の出来事に思わず語尾が甲高くなる。
ソーマは…
「ジンの前では命をかけるとか口にするなよー?怒られるぞ?」
そう言って笑って見せた。
サクヤはそうだった…と少し反省した。ジンは仲間が傷付くのを極端に嫌う傾向があるのだ。まだ短い時間しか共にしていないがそれは良く分かる。
「それに」
「?」
夕焼け時が来た。ソーマの背後に橙色に染まった陽が溶けるように沈んでいく。陽と重なったソーマの姿は真っ黒に見え、その真っ黒なソーマは寂しげな声色で呟いた。
「もう誰かが死ぬのは耐えられない」
その姿にサクヤは憂気を、龍神は恐怖を覚えた。
夕焼け時になるといつも誰かが迎えに来てくれた。
あれ?もう来ないんだっけ…妾は……
いかん…ソーマの心の奥に潜む何かが巫女であるサクヤに強い影響を与えている……どうにかせねば。
龍神が涙を使い、心を浄化しようとした時だった。
「おーい!もーすぐ飯だってよー!!」
遠くからぶんぶん!と手を振りながら大声で叫ぶジン。
その声にソーマとサクヤの2人はハッと正気を取り戻した。
そう。今は迎えに来てくれる仲間がいる。
サクヤもジンに手を振り返した。
「悪い。サクヤ…先に戻っててくれ」
その言葉にサクヤは察し、頷くとジンの元へ歩いて行った。
その姿を確認し、ソーマは一息つくと若干の申し訳なさを感じている様だった。
「もう、、気づいているよな?」
「あぁ。其方の中に巣食う何かの事だろう?」
「流石龍神様だな。話が早い」
苦笑いを浮かべる頬を人差し指で掻く。ソーマが困った時によくする癖だ。
「単刀直入に聞きたい。俺の中には何がいるのか分かるか?」
その言葉に龍神は「残念だがわからぬ」と首を横に振った。
「そうか…」
「ただ…何かがいるという感覚はあるが、何かが足りないという感覚もする」
「何かが…足りない?」
「あぁ、でもその何かは性格でも、精神でもない…もっと別の何かだ」
「別の…何か……」
ソーマは空を見上げる。
大好きな空。
錆色から青色へ、今は夕焼け時で橙色の暖かさが空を覆っている。
今の自分の心境を表している様だった。
不安だけれども、心にコーティングするのだ。奥底に眠る冷たさを夕焼けの様な暖かさで。
龍神はそんなソーマを見てこの男は凄まじい運命を辿る事になるのだろうと思う。それを越えられるかどうかは本人の強さもだが、きっと……
「そうだ。其方らにワタシから餞別だ。其方らにワタシの力を少し分け与えよう。きっとボーカーへの旅路を助けてくれるだろう」
「いいのか?」
「あぁ、其方らには大恩があるからな。これくらい訳ない。また明日、旅立つ前に寄るといい」
「すまない。助かるよ」
ソーマはにっと笑って龍神に振り返り様手を振り社へと戻っていった。
「…ソーマは本当は見捨て子ではないな。何らかの不思議な力を宿している」
サクヤよ。お前の巫女の力でソーマの中に眠る冷たさが暴走した時には抑えるのだ。きっとお前と……あのアリスという奇跡の盾の力を扱える少女ならそれが出来よう」
龍神は目をすっと細め、社の方へ視線を向けると水中へと戻っていった。
第23話 夕焼け時 ~end~
社の中へ案内され、一息つくと次々と眠って行った。
もう時計の針は3の数字を越していた。
サクヤは1人、龍神に会いに来ていた。
「龍神様」
「どうした?サクヤ」
「…貴方はこれから先どうするのですか?海へ……帰るのですか?」
「ワタシは…やはりこの里に残ろうと思う。そしてこれからは…ワタシなんかが務めていいのか分からぬが、この里の守護神になろうと思う」
「そう、ですか…良かった」
サクヤは目を閉じ、胸に手を当て柔らかく微笑んで見せた。
「それなら妾は安心してこの里から旅だてます」
「サクヤ…やはりあの者たちと行くのだな?」
「はい。朝方決まりました。妾は助けてくれたお礼としてジンたちを助けたいと思います」
「そうか。寂しくなるな…」
「そんな事ないですよ。サクヨもいますし」
そう言うとサクヤはふふふと笑って見せた。龍神には初代サクヤと今のサクヤが重なって見えた気がした。
「あっ、話してるとこだったか?」
ソーマがそこへやってきた。ソーマもかなり疲弊しているはずなのだが…けろっとしている。メンバー内1の俊足に加え体力も兼ね備えているみたいだ。
サクヤはそのソーマの言葉に軽く首を横に振り「大丈夫じゃ」と言った。
「本当はあんまり、見せたくないんだが…」
ソーマはやけに言い出しにくそうに行動が少し挙動不審気味になっていた…が、意を決して後手に持っていたものをサクヤに見せる。
「それは?」
「これは、ボーカーへの招待状だ」
サクヤはソーマのその言葉に呆気にとられた。側にいた龍神が代わりにソーマに問う。
「ボーカーって、あの平和の楽園の事を言っておるのか?」
「あぁ、そうだ」
龍神は少し厳しめの顔をしてソーマに言った。
「ソーマよ。ボーカーというものはこのワタシですら何処にあるのか分からぬ理想郷みたいなモノだ。ボーカーへ行くのは並大抵の覚悟では叶わぬぞ?」
その言葉にソーマは
「覚悟ならもう何年も前から出来てる」
龍神にはソーマの瞳の奥に何か…冷たさの様なものが感じ取れた。
この少年。過去に何かあったのか。相当な念みたいなものを感じる…
「ボーカーへの旅路…妾はこの命をかけて其方らに活路を見出そう」
そう凛と通る声で言ったサクヤにソーマは軽くデコにチョップを食らわした。
「な、何をするのじゃ!?」
不意の出来事に思わず語尾が甲高くなる。
ソーマは…
「ジンの前では命をかけるとか口にするなよー?怒られるぞ?」
そう言って笑って見せた。
サクヤはそうだった…と少し反省した。ジンは仲間が傷付くのを極端に嫌う傾向があるのだ。まだ短い時間しか共にしていないがそれは良く分かる。
「それに」
「?」
夕焼け時が来た。ソーマの背後に橙色に染まった陽が溶けるように沈んでいく。陽と重なったソーマの姿は真っ黒に見え、その真っ黒なソーマは寂しげな声色で呟いた。
「もう誰かが死ぬのは耐えられない」
その姿にサクヤは憂気を、龍神は恐怖を覚えた。
夕焼け時になるといつも誰かが迎えに来てくれた。
あれ?もう来ないんだっけ…妾は……
いかん…ソーマの心の奥に潜む何かが巫女であるサクヤに強い影響を与えている……どうにかせねば。
龍神が涙を使い、心を浄化しようとした時だった。
「おーい!もーすぐ飯だってよー!!」
遠くからぶんぶん!と手を振りながら大声で叫ぶジン。
その声にソーマとサクヤの2人はハッと正気を取り戻した。
そう。今は迎えに来てくれる仲間がいる。
サクヤもジンに手を振り返した。
「悪い。サクヤ…先に戻っててくれ」
その言葉にサクヤは察し、頷くとジンの元へ歩いて行った。
その姿を確認し、ソーマは一息つくと若干の申し訳なさを感じている様だった。
「もう、、気づいているよな?」
「あぁ。其方の中に巣食う何かの事だろう?」
「流石龍神様だな。話が早い」
苦笑いを浮かべる頬を人差し指で掻く。ソーマが困った時によくする癖だ。
「単刀直入に聞きたい。俺の中には何がいるのか分かるか?」
その言葉に龍神は「残念だがわからぬ」と首を横に振った。
「そうか…」
「ただ…何かがいるという感覚はあるが、何かが足りないという感覚もする」
「何かが…足りない?」
「あぁ、でもその何かは性格でも、精神でもない…もっと別の何かだ」
「別の…何か……」
ソーマは空を見上げる。
大好きな空。
錆色から青色へ、今は夕焼け時で橙色の暖かさが空を覆っている。
今の自分の心境を表している様だった。
不安だけれども、心にコーティングするのだ。奥底に眠る冷たさを夕焼けの様な暖かさで。
龍神はそんなソーマを見てこの男は凄まじい運命を辿る事になるのだろうと思う。それを越えられるかどうかは本人の強さもだが、きっと……
「そうだ。其方らにワタシから餞別だ。其方らにワタシの力を少し分け与えよう。きっとボーカーへの旅路を助けてくれるだろう」
「いいのか?」
「あぁ、其方らには大恩があるからな。これくらい訳ない。また明日、旅立つ前に寄るといい」
「すまない。助かるよ」
ソーマはにっと笑って龍神に振り返り様手を振り社へと戻っていった。
「…ソーマは本当は見捨て子ではないな。何らかの不思議な力を宿している」
サクヤよ。お前の巫女の力でソーマの中に眠る冷たさが暴走した時には抑えるのだ。きっとお前と……あのアリスという奇跡の盾の力を扱える少女ならそれが出来よう」
龍神は目をすっと細め、社の方へ視線を向けると水中へと戻っていった。
第23話 夕焼け時 ~end~
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