天の龍 地の女神

常盤 舞子

文字の大きさ
11 / 60

第10話 マンハッタン夜想

しおりを挟む
 妙土たえとが襲撃の衝撃と精神的疲労で寝ている間に用意されたであろうブルーのワンピースや靴は妙土のサイズにピッタリであった。
 バッグの中もハンカチや化粧ポーチをはじめ、長財布や携帯電話もそろっていた。
 長財布には現金やクレジットカードが入っているし、化粧ポーチにも細々したコスメ系グッズがそろっていて、カイルの心遣いと女子力の高さに妙土は少々ビビった。
 カイルにしてみれば、妙土を日本に帰す気は毛頭なかったので、服やバッグどころか、妙土が居住する家まで用意していたのだが、この時はまだ妙土がそのことを知るよしもない。

 妙土の準備ができたところで、見計らったかのようにカイルが部屋に入ってきた。
 カイルの服装は、黒いタートルネックとパンツにストライプのジャケットをスタイリッシュに着こなしていた。ファッション誌のモデルでもおかしくないほど絵になる男である。

 妙土のルックスは日本人としては悪くないほうではあるが、手足の長さや顔の造りなど、カイルと並べばどうしても見劣る。
 カイルを見て日本人の容姿って不利だよな、と妙土は密かにため息をついた。

 カイルにエスコートされ、エレベーターを利用するにあたり、ここがホテルだということがわかった。
 妙土たちが使用している部屋は59階であり、こんな高層階の部屋は、地震国の日本では、まずお目にかかれない。
 ホテルのインテリアやたたずまいなどからも高級感が漂い、一歩進むごとに場違いな自分がこそばゆかった。
 エンパイアステートビルを真ん前に見ることができるマンハッタンのど真ん中にあるホテル。
 一体、一泊いくらするのだろうか。

 二人はハイセンスなレセプションやエントランスホールを通り抜けて入り口付近に待機していたイエローキャブに乗り込んだ。

 カイルとイエローキャブの運転手とのやりとりを日本語として妙土は理解することができたのでソロモンの指輪の威力を実感した。
 英語の同時通訳を自分でこなしているようなものである。
 言葉の壁というストレスがないのは、いいものだ。



 イエローキャブの運転手は夜のきらびやかなマンハッタンの街を抜けてニューヨーク郊外のブルックリンへ一路向かう。

 車窓から通り過ぎていく華やかなネオンの海をぼんやり見ながら、妙土たえとは今日の盛りだくさんすぎる出来事を思い返してみる。
 毎日のように見たリーザと魔王ラディリオンの夢。
 フリーホール状態の電車から空中戦にさらされたこと。
 カイルとの出会い。
 ニューヨークや宇宙空間への移動。
 そして、夢物語のような神々の闘いにリーネ族や魔界の話。
 生まれ変わりの話。

 たまたま、妙土が読書好きで、神話や転生などに免疫があったから良かったものの、普通の女子校生には土台理解できないものばかりである。
 自分の好きなものや興味があるものは意味があり、やがては役に立つののだな、としみじみと思う妙土であった。

 ふと横に座るカイルを見る。
 金髪やアクアマリンの瞳が通り過ぎるネオンの光に照らされてキラキラ光っている。
 横顔は大理石の彫像のように整っていて綺麗だ。

 「どうしたの?」
 カイルはニコニコしながら尋ねる。
 「いやあ、カイルが前世の息子という実感が沸かなくて・・・」
 お互いにしばらく真面目な顔でじっと見つめ合っていたが、共通点のないそれぞれの顔にしかめっ面になり、やがて同時に吹き出した。
 ひどい状況だと思うのに落ち着いていられるのは何でだろう。

 いつのまにかカイルの手が妙土の手に重ねられていて、その体温がさらなる安心感を妙土にもたらした。
 カイルに対する妙土の意識は「私を守ってくれるお兄ちゃん」ぐらいであった。
 男に慣れていない妙土が手を重ねてきたカイルの不穏な意図に気づくことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...