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第19話 妙土の運命
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妙土は金色の宇宙龍の環を手にとった。
不思議な光沢と手触りだ。思わず見入ってしまう。単語
ゆるやかに湾曲した形をとっているが、サークルと言うからには、3つのピースがそろうと頭にかぶせる輪っかのようになるのだろうか。
妙土は西遊記に出てくる三蔵法師にはめられた孫悟空の金の輪っかを思い浮かべて顔をほころばせた。
この宇宙龍の環にはどんな力が宿っているのだろう。
その時、妙土はいきなり耳なりと目まいを感じて、吐き気をもよおした。
宇宙龍の環を直視できない。
シンキングボウルを鳴らされた時のように、頭の中を震わすようなバイブレーションを感じた。
「ごめんなさい、化粧室に行ってきます」
妙土はウェイターに案内されて、急いでその場から立ち去った。
心配顔で妙土を目で追い続けるカイルを見て苦笑しながら、ブランドンは話す。
「我がリーネ族最強の神器、宇宙龍の環の呼び声にあてられたかな?
人間の身とはいえ、彼女の魂は宇宙龍の環の正統な持ち主だ。
今回のリーザ様の生まれ変わりはアジア人なんだね。
まだほんの子どものようじゃないか。
あれじゃあ、カイル様は悪さできないよね」
「ブランドン、何が言いたい。」
「リーザ様を甦らすためにはリーザ様の体と魂が必要だ。
リーザ様の魂を取り出すため、あの子はいずれ死ななければならないんじゃないか?」
「ブランドン・・・」
「3種の神器をそろえれば、あとはリーザ様の体とバルムンクの青い宝石を魔界から取り戻せばいい。
妙土を殺してリーザ様の体に魂が戻れば女王リーザは復活する。
リーザ様が魔族を宇宙龍の環で滅ぼして、めでたしめでたしだ。
カイル様、あんたならすぐ達成できる。
魔族を倒すように頑張ってリーザ様を説き伏せてくれ。
リーザ様が復活すれば、あんたも母親の転生を追いかける永い旅が終わる。
それまで、せいぜい妙土に、お姫様のように、かしづいて最期に良い夢を見せてあげるんだね」
「・・・」
「ぐずぐずしていると、魔族の追っ手が来るよ。総力をあげてあんた方を探してると思うし」
「他人事なんだね」
「だって、手に負えないもの」
ブランドンはおどけて両手をあげて見せる。
「リーネ族と魔族の地上争奪戦。2つの王族の力はどちらも世界を瞬時に滅ぼせる怪物のようだ。
あんたの判断で地球をぶっ壊さないでくれよ、カイル様。
優柔不断で地上を滅亡の危険にさらしたのは、リーザ様だけで充分だ。じゃあ、ハニーが待っているから帰るよ」
前髪をかきあげながらカイルにウインクしてブランドンは去っていった。
カイルは髪の毛をくしゃっとかき混ぜて、ソファに深く座り直した。
ブランドンが去るのと入れ替わりに、ディランとリーナがバーにやって来た。
カイルのもう一人の乳兄弟であるディランはブランドンの弟で、ロンドンに現在、住んでいた。
痩せすぎなのと少し猫背気味のせいか気弱そうな風情である。
リーネ族特有の金髪碧眼の持ち主である。
「カイル兄さん!」
妹のリーナはモデルのように颯爽と近づいてくる。
結局、リーナはロシアで兄の訪問を待てずに、ディランと示し合わせて香港に乗り込んできたのだ。
予想外の訪問者たちにカイルは呆気にとられていた。
二人に会いに行くつもりが、先にカイルのところに二人が一緒に来るという、機先を制された感があった。
「持ってきたわよ、兄さん!」リーナは布に包まれた包みをバッグから取り出した。
「カイル様、ご無沙汰しています・・・」
二人はそれぞれ布の包みをカイルに差し出した。
確認するまでもなく、宇宙龍の環のピースであろう。
3つのピースがそろい、宇宙龍の環は完成するのだ。
ソロモンの指輪。
バルムンクの剣
宇宙龍の環。
とうとう、リーネ族3種の神器が勢ぞろいである。
「さあ、兄さん、3種の神器はそろったわ!一緒に魔界へ行きましょう!」
3種の神器がそろったので、当初の予定通り、リーナはバルムンクの青い宝石とリーザの体を奪い返す気、満々である。
先の神魔対戦で母リーザは腹違いの兄であるリーデイルの罠にはまり、魔族に捕らえられた。
彼女は魔族の王ラディリオンと情を交わし、子を孕んだ。
あげくに最終決戦でラディリオンを殺せず、封印のみで済まし、力尽きたところを魔族に再び捕らえられた。
結果的に、王を失ったリーネ族は壊滅的な打撃を被り、大混乱の中、乳母ネリーニの夫をはじめ、たくさんのリーネ族の戦士たちが命を落とした。
早く魔族と決着をつけたいと妹は願っている。
母が今回も迷うなら、自分が代わりに父ラディリオンにとどめを射しても良いと思っている。
それが、自分たちを育て上げたネリーニや乳兄弟たちへの恩返しになるだろう。
妹の気持ちが痛いほどわかるカイルは言葉に詰まった。
母の体を取り戻せば妙土の体から母の魂を取り出さなければならない。
それは、すなわち妙土の死を意味する。
初めて会ったとき、非常事態であるにも関わらず、取り乱さず冷静に状況を判断していた妙土を思い出した。
母の生まれ変わりは皆そうだ。
どこか不遜で物事に動じない。
そして、あらゆる事態を受け入れる。
母が純血主義のリーネ族王族にも関わらず魔族である父と結ばれたのは、そういった進取の気性があったからであろう。
会ったばかりの自分を信頼し、ついてきてくれる妙土は、以前、カイルの恋人や妻であった者の現し身でもあり、生まれ変わってもなお、絆が存在しているのを感じる。
カイルは自分に決断の時が迫っているのを感じた。
不思議な光沢と手触りだ。思わず見入ってしまう。単語
ゆるやかに湾曲した形をとっているが、サークルと言うからには、3つのピースがそろうと頭にかぶせる輪っかのようになるのだろうか。
妙土は西遊記に出てくる三蔵法師にはめられた孫悟空の金の輪っかを思い浮かべて顔をほころばせた。
この宇宙龍の環にはどんな力が宿っているのだろう。
その時、妙土はいきなり耳なりと目まいを感じて、吐き気をもよおした。
宇宙龍の環を直視できない。
シンキングボウルを鳴らされた時のように、頭の中を震わすようなバイブレーションを感じた。
「ごめんなさい、化粧室に行ってきます」
妙土はウェイターに案内されて、急いでその場から立ち去った。
心配顔で妙土を目で追い続けるカイルを見て苦笑しながら、ブランドンは話す。
「我がリーネ族最強の神器、宇宙龍の環の呼び声にあてられたかな?
人間の身とはいえ、彼女の魂は宇宙龍の環の正統な持ち主だ。
今回のリーザ様の生まれ変わりはアジア人なんだね。
まだほんの子どものようじゃないか。
あれじゃあ、カイル様は悪さできないよね」
「ブランドン、何が言いたい。」
「リーザ様を甦らすためにはリーザ様の体と魂が必要だ。
リーザ様の魂を取り出すため、あの子はいずれ死ななければならないんじゃないか?」
「ブランドン・・・」
「3種の神器をそろえれば、あとはリーザ様の体とバルムンクの青い宝石を魔界から取り戻せばいい。
妙土を殺してリーザ様の体に魂が戻れば女王リーザは復活する。
リーザ様が魔族を宇宙龍の環で滅ぼして、めでたしめでたしだ。
カイル様、あんたならすぐ達成できる。
魔族を倒すように頑張ってリーザ様を説き伏せてくれ。
リーザ様が復活すれば、あんたも母親の転生を追いかける永い旅が終わる。
それまで、せいぜい妙土に、お姫様のように、かしづいて最期に良い夢を見せてあげるんだね」
「・・・」
「ぐずぐずしていると、魔族の追っ手が来るよ。総力をあげてあんた方を探してると思うし」
「他人事なんだね」
「だって、手に負えないもの」
ブランドンはおどけて両手をあげて見せる。
「リーネ族と魔族の地上争奪戦。2つの王族の力はどちらも世界を瞬時に滅ぼせる怪物のようだ。
あんたの判断で地球をぶっ壊さないでくれよ、カイル様。
優柔不断で地上を滅亡の危険にさらしたのは、リーザ様だけで充分だ。じゃあ、ハニーが待っているから帰るよ」
前髪をかきあげながらカイルにウインクしてブランドンは去っていった。
カイルは髪の毛をくしゃっとかき混ぜて、ソファに深く座り直した。
ブランドンが去るのと入れ替わりに、ディランとリーナがバーにやって来た。
カイルのもう一人の乳兄弟であるディランはブランドンの弟で、ロンドンに現在、住んでいた。
痩せすぎなのと少し猫背気味のせいか気弱そうな風情である。
リーネ族特有の金髪碧眼の持ち主である。
「カイル兄さん!」
妹のリーナはモデルのように颯爽と近づいてくる。
結局、リーナはロシアで兄の訪問を待てずに、ディランと示し合わせて香港に乗り込んできたのだ。
予想外の訪問者たちにカイルは呆気にとられていた。
二人に会いに行くつもりが、先にカイルのところに二人が一緒に来るという、機先を制された感があった。
「持ってきたわよ、兄さん!」リーナは布に包まれた包みをバッグから取り出した。
「カイル様、ご無沙汰しています・・・」
二人はそれぞれ布の包みをカイルに差し出した。
確認するまでもなく、宇宙龍の環のピースであろう。
3つのピースがそろい、宇宙龍の環は完成するのだ。
ソロモンの指輪。
バルムンクの剣
宇宙龍の環。
とうとう、リーネ族3種の神器が勢ぞろいである。
「さあ、兄さん、3種の神器はそろったわ!一緒に魔界へ行きましょう!」
3種の神器がそろったので、当初の予定通り、リーナはバルムンクの青い宝石とリーザの体を奪い返す気、満々である。
先の神魔対戦で母リーザは腹違いの兄であるリーデイルの罠にはまり、魔族に捕らえられた。
彼女は魔族の王ラディリオンと情を交わし、子を孕んだ。
あげくに最終決戦でラディリオンを殺せず、封印のみで済まし、力尽きたところを魔族に再び捕らえられた。
結果的に、王を失ったリーネ族は壊滅的な打撃を被り、大混乱の中、乳母ネリーニの夫をはじめ、たくさんのリーネ族の戦士たちが命を落とした。
早く魔族と決着をつけたいと妹は願っている。
母が今回も迷うなら、自分が代わりに父ラディリオンにとどめを射しても良いと思っている。
それが、自分たちを育て上げたネリーニや乳兄弟たちへの恩返しになるだろう。
妹の気持ちが痛いほどわかるカイルは言葉に詰まった。
母の体を取り戻せば妙土の体から母の魂を取り出さなければならない。
それは、すなわち妙土の死を意味する。
初めて会ったとき、非常事態であるにも関わらず、取り乱さず冷静に状況を判断していた妙土を思い出した。
母の生まれ変わりは皆そうだ。
どこか不遜で物事に動じない。
そして、あらゆる事態を受け入れる。
母が純血主義のリーネ族王族にも関わらず魔族である父と結ばれたのは、そういった進取の気性があったからであろう。
会ったばかりの自分を信頼し、ついてきてくれる妙土は、以前、カイルの恋人や妻であった者の現し身でもあり、生まれ変わってもなお、絆が存在しているのを感じる。
カイルは自分に決断の時が迫っているのを感じた。
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