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第20話 始まりの夜
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妙土が化粧室から戻ってきた。
「カイル、ごめんなさい。あれっ、ブランドンは?」
カイルはリーナとディランが来て宇宙龍の環のピースがそろったことを話さなかった。
「帰ったよ。用事は済んだからね。恋人が待っているらしい。
それより、大丈夫かい?」カイルがそって額に触れる。
妙土の額に触れたカイルの手がひんやりしていて気持ち良い。
気分が悪くなった妙土よりカイルの顔色の方がなんだか冴えないのが気になる。
「妙土が動けるようなら、僕たちもそろそろ帰ろう」
タクシーがビクトリア湾に面しているホテルに着いた。
ハーバービューの部屋の窓からはビクトリア湾の壮麗な夜景が広がっていた。
ツインルームでベッドの距離が近い、というか、ほとんど隣り合わせであることが、少々気になったが、瞬間移動で自由自在に出入りできるカイルを遠ざけても意味がないことなので、特に妙土は文句を言わなかった。
昨日、会ったばかりのカイル。
でも、もう一緒にいることが当たり前で・・・。
初めて会った男性なのに恐さはもうなく、エスコートされるのは、うれしくて、ときめいた気分になる。
ただ、この生活は本来の私のものではない。
日本で平和に高校生活を送っていたのに、外国の高級ホテルで仮住まいをするだなんて、環境の変化についていけない。夢を見ているようである。
リーネ族だとか魔族だとか、この先いつまで続くのだろうか?
それに、リーザの体を奪い返したら、「天宮妙土」はどうなるのだろう。
「妙土、泣いてるの?」
アクアマリンの瞳が心配そうに覗き込む。
「カイル、リーザさんの体を取り戻したら、私はどうなるの?死んじゃうのかなあ」
妙土の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめん、気がゆるんじゃっ・・・」
言い終わらないうちに、カイルに抱き締められた。
妙土は一瞬、何が起こったかわからなかった。
カイルからコロンの香りがふわっとして、妙土の鼻腔をくすぐった。
女性と違う筋肉質な腕と胸板は否が応でもカイルを男性として意識させたが、カイルに抱き締められると不安や恐怖がぬぐい去られ落ち着くのを感じた。
初めての経験に逃れようと、もがくどころか、自分の体の曲線全てになじむようなカイルの体にもたれかかり、より深く抱かれることを望む自分に驚いた。
カイルは、その思いに応えるかのように、妙土を引き寄せ強く抱き締める。
妙土は自分の前世の人間たちがカイルと生涯を共にしているのを知らなかったが、魂のどこかで記憶していたのかもしれない。
女性として、この腕に何度も抱かれたことを。
男性として、この胸に何度も寄りかかったことを。
気の遠くなるような長い輪廻の旅路の中、いついかなる時も側にいてくれたカイル。
抱き締められた感触や既視感が忘れられていた記憶を呼び起こそうとする。
「妙土、これだけは覚えておいて。これから何が起ころうと、僕が必ず君の側にいる。
あなたが魂だけになっても、これまでもそうだったように、僕は必ずあなたを見つけ出して守る。
だから・・・僕を信じてほしい」
妙土が恐る恐る顔を上げると、カイルと目が合った。
吸い込まれそうなくらい、綺麗なアクアマリンの瞳。
見とれていて、カイルの顔が近付いてきたことに気づくのが遅れた。
二つの影は重なり、ビクトリア湾のイルミネーションの光に照らし出された。
妙土の意識下にいるリーザが寂しげに微笑んだ。
「カイル、ごめんなさい。あれっ、ブランドンは?」
カイルはリーナとディランが来て宇宙龍の環のピースがそろったことを話さなかった。
「帰ったよ。用事は済んだからね。恋人が待っているらしい。
それより、大丈夫かい?」カイルがそって額に触れる。
妙土の額に触れたカイルの手がひんやりしていて気持ち良い。
気分が悪くなった妙土よりカイルの顔色の方がなんだか冴えないのが気になる。
「妙土が動けるようなら、僕たちもそろそろ帰ろう」
タクシーがビクトリア湾に面しているホテルに着いた。
ハーバービューの部屋の窓からはビクトリア湾の壮麗な夜景が広がっていた。
ツインルームでベッドの距離が近い、というか、ほとんど隣り合わせであることが、少々気になったが、瞬間移動で自由自在に出入りできるカイルを遠ざけても意味がないことなので、特に妙土は文句を言わなかった。
昨日、会ったばかりのカイル。
でも、もう一緒にいることが当たり前で・・・。
初めて会った男性なのに恐さはもうなく、エスコートされるのは、うれしくて、ときめいた気分になる。
ただ、この生活は本来の私のものではない。
日本で平和に高校生活を送っていたのに、外国の高級ホテルで仮住まいをするだなんて、環境の変化についていけない。夢を見ているようである。
リーネ族だとか魔族だとか、この先いつまで続くのだろうか?
それに、リーザの体を奪い返したら、「天宮妙土」はどうなるのだろう。
「妙土、泣いてるの?」
アクアマリンの瞳が心配そうに覗き込む。
「カイル、リーザさんの体を取り戻したら、私はどうなるの?死んじゃうのかなあ」
妙土の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめん、気がゆるんじゃっ・・・」
言い終わらないうちに、カイルに抱き締められた。
妙土は一瞬、何が起こったかわからなかった。
カイルからコロンの香りがふわっとして、妙土の鼻腔をくすぐった。
女性と違う筋肉質な腕と胸板は否が応でもカイルを男性として意識させたが、カイルに抱き締められると不安や恐怖がぬぐい去られ落ち着くのを感じた。
初めての経験に逃れようと、もがくどころか、自分の体の曲線全てになじむようなカイルの体にもたれかかり、より深く抱かれることを望む自分に驚いた。
カイルは、その思いに応えるかのように、妙土を引き寄せ強く抱き締める。
妙土は自分の前世の人間たちがカイルと生涯を共にしているのを知らなかったが、魂のどこかで記憶していたのかもしれない。
女性として、この腕に何度も抱かれたことを。
男性として、この胸に何度も寄りかかったことを。
気の遠くなるような長い輪廻の旅路の中、いついかなる時も側にいてくれたカイル。
抱き締められた感触や既視感が忘れられていた記憶を呼び起こそうとする。
「妙土、これだけは覚えておいて。これから何が起ころうと、僕が必ず君の側にいる。
あなたが魂だけになっても、これまでもそうだったように、僕は必ずあなたを見つけ出して守る。
だから・・・僕を信じてほしい」
妙土が恐る恐る顔を上げると、カイルと目が合った。
吸い込まれそうなくらい、綺麗なアクアマリンの瞳。
見とれていて、カイルの顔が近付いてきたことに気づくのが遅れた。
二つの影は重なり、ビクトリア湾のイルミネーションの光に照らし出された。
妙土の意識下にいるリーザが寂しげに微笑んだ。
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