天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第23話 地下神殿への道しるべ

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見渡す限りの砂漠。
地平線には建物の影ひとつない。
「・・・ここはどこなの・・・?」
我に返ったリーナがつぶやく。
カイルとリーナは魔界の地下神殿から砂漠に飛ばされたようだ。

カイルはポケットから取り出した携帯電話の画面を見ている。
「何を見ているの」
「GPS 。地下神殿にいた時からスイッチをオンにしていた。
・・・ここはエジプトのサハラ砂漠だ」
「エジプト!?何でまた私たちはエジプトへ飛ばされたんだろう」
「瞬間移動は移動先の方向と自分達が降り立つ場所を特定して移動するだろう?
ラディリオンは封印石から出てきたばかりで地上の地理に詳しくないし、飛ばす先をイメージできなかった。
だから、取り敢えず僕達を地下神殿の真上に飛ばしたんじゃないかな」
「・・・ということは・・・」
「地下神殿はサハラ砂漠の地下にある。
魔界への入り口はアフリカ大陸にあると聞いていたけど、これで確信した。
砂漠は広すぎて瞬間移動先のイメージが漠然としてしまうけど、道しるべになる座標はメモリー登録した」
「こんな砂漠のど真ん中でよく位置を確定できるわね。
GPS って便利ねー」
「高度な科学技術は神々の魔法のようだね。人間たちの文明の利器は使わなくちゃ。
それにこれはちょっとお金を払って特別仕立てなんだ。
・・・香港のホテルに戻ろう。母さんとバルムンクの青い宝石を取り戻す作戦を立てなきゃ」

カイルとリーナは香港のホテルに戻った。
部屋のベッドには、もはや全てのぬくもりが去り、冷たいむくろとなっている妙土たえとが横たわっていた。
リーナはまじまじと妙土を見つめた。
その視線を遮るかのように、カイルは妙土の亡骸を抱き上げる。

「兄さん、どこへ?」
「・・・妙土を埋葬してくる。部屋で待っていてくれ。部屋は今日1日、使えるようにしてあるから」
カイルは妙土を抱いたまま消えた。

部屋に取り残されたリーナはベッドに残る明らかな情交の跡に口笛を吹くと、肩をすくめてベッドメイキングをした。
子どものような少女にカイルが手を出したことに多少の嫌悪感はあるものの、少女は幸福そうに微笑み穏やかな死に顔だった。
例外はあるとは言え、カイルと母の転生者たちのカップリングは、相思相愛になるのである。

しかし、母は父の妻である。
さっき魔王ラディリオンが母を連れ合い宣言して、息子であるカイルにリーザは「俺の女」であるという明確な意思表示を示していた。
母親をめぐって息子が父親と三角関係。
まるで母親を父王から奪ったギリシャ神話のオイディプスの物語のようだ。
「兄さんのエディプスコンプレックスのせいで話がこじれるなあ・・・」
リーナはぼやいた。

「問題解決を引き伸ばす時間稼ぎでいいんじゃないか」
「ブランドン!」
乳兄弟のブランドンが唐突に現れた。



ブランドンは優雅に歩み寄ってきた。
長めの前髪をキザったらしく、かきあげる。
リーナは「うざっ」と思って心の中で舌を出したが、顔には出さず、瞬きをした。

「姫さんは相変わらずキレイだね」
「見え透いたお世辞はやめて、ブランドン。
純血主義のあなたが黒髪の私をキレイだなんて、よく言えるわね」

ブランドンはリーナと違い、両親ともども生粋のリーネ族である。
そもそも、リーネ族は純血を尊び、一族内でも近親間で婚姻を重ねてきた。
特に王族は強大な力を持ち、その血統を受け継いでいくため、婚姻について厳しく統制されていた。
カイルやリーナ、リーデイルの存在は例外中の例外である。

「僕は純血主義なんてとっくの昔に放棄したよ。
純粋なリーネ族はリーザ様を入れて母のネリーニに僕ら兄弟の4人。今さら純血を貫いても何にもならないしね」
「・・・・・」
「かといって、僕らは別の種族とは子を成せない。
僕らに近い容姿の人間とも無理だし。魔界の王族以外の魔族との間も無理。そういう遺伝子操作をされたんだろうね」
「誰に?ていうか、人間や魔族と子ができるかどうか試したんか。」
「リーネ族に3種の神器を渡した神様たちさ。
僕らは異種族と交尾できても、受精することはできないよう遺伝子操作をされた神様の亜種なんだろう。
そんなわけで、子孫は増えず、リーネ族はいずれ滅びる運命だろうね。
まあ、僕と姫さんがくっついて子孫を残すという選択はあるけど」

リーナからの後半の質問を飛ばしてブランドンがウインクをよこす。
ウインクをされたリーナはしかめっ面になった。
リーナにとって、ブランドンは見境なく女を漁る好色漢。
よくもまあ飽きずに女を取っ替え引っ替えするものだと感心する。

母の魂を一途に追いかける兄と言い、二人とも極端である。

子孫を絶やさないためには、リーナはブランドンかディランを選ぶ必要があるが、ブランドンはごめんだと思うリーナであった。
魔族の王族は、魔王ラディリオンとラビリティア、叔父のリーデイルだけだから、論外だろう。

「・・・無理やり子孫は増やさなくても良いんじゃない?リーネ族は地上代行者としての役割は終えたんだし。
魔族を今度こそ滅ぼして地上侵攻の脅威をなくせば、しばらく安泰なんじゃ・・・」
「逆だね。リーネ族と魔族が決着をつけなければ、世界は安泰だ。
リーネ族が勝てば、魔界は瓦解する。今まで統制されていた魔獣や妖のものたちが解き放たれ地上は大混乱。
またソドムとゴモラの町のように焼き払うか、大洪水を起こすとかしないと、地上の正常化は難しいだろうね。
魔族が勝てばこの世から太陽の光が消え、全ての生き物が死に絶える。
ウロボロスをどう使うかが鍵になると思うな」
「・・・とにかく、母を取り戻して彼女の意向を聞きましょう。
ウロボロスの力を使えるのはリーネ族の王だけだから。
兄さんはまだかしら」

リーナはホテルの窓の外を見やり、ため息をついた。
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