天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第24話 妙土の覚醒

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頭が重い。
妙土たえとはうめいた。
それに、体がひどく寒い。
芯から冷えているようだ。
寒さに震えながら、カイルのぬくもりを思い出した。
アクアマリンの瞳が心配そうに見つめてくる。
カイルの瞳が拡大していき、バルムンクの柄から取り出された青い宝石に変わる。

魔界の地下神殿。
青い宝石はリーザの右手に中にあり、頭上高く掲げられていた。
相対する魔王ラディリオンは青い宝石から出ている無数の銀の糸状の光にからめとられている。
後ろには妹のラビリティアが激しい怒りに満ちた目でリーザを睨んでいた。

リーザの隣にはブランドンがバルムンクを構えてリーデイルの攻撃に備えていた。
リーデイルはジリジリと攻撃の角度とタイミングを見計らっている。
その他にも何人かのリーネ族の戦士が女王リーザに近寄らせまいと魔族と戦闘中であったが、圧倒的な敵の数にリーネ族は明らかに劣勢であった。

「封印!!」
リーザの叫びと同時に魔王ラディリオンは青い宝石の中に吸い込まれるようにして消えた。

「兄様ー!!」
ラビリティアの絶叫が響きわたる。

リーザは封印で力尽き、崩れるようにして倒れた。
右手から青い宝石がこぼれ落ちる。

すかさずリーデイルが青い宝石とリーザを奪取する。
リーデイルの腕の中、息も絶え絶えなリーザは3種の神器の1つである宇宙龍の環に祈った。
魔王ラディリオンが復活するまで魔族が地上に手出しできないよう。
魔族は日没から夜明け前、つまり太陽の光を浴びることがない夜に地上で活動していたのだ。

宇宙龍の環はリーザの願いを叶えた。
魔界に結界がはられ、魔族は魔界から出られなくなった。

ブランドンや生き残ったリーネ族の戦士たちは、女王リーザを残し瞬間移動で地上へ逃げ延びた。
地上ではリーザから託された双子の赤子を抱くネリーニがブランドンたちを迎えた。

リーザは魔王ラディリオン復活のときまで永い眠りについた。
体は、ラビリティアにより、氷壁の中に閉じ込められたが、魂は大いなる輪廻の環に加わり、人間として転生を繰り返すこととなる。

有限の肉体となったリーザは、結界を抜けることができるリーデイルに命を狙われる。
生き残ったリーネ族の戦士たちはリーザの転生者を守るため、リーデイルとの戦いでほとんど死んだ。
リーネ族と魔族のハイブリッドであるリーデイルは戦闘能力も高いようだ。

やがて成長したカイルがリーデイルの前に立ちはだかり、リーザの転生を見守っていく。

・・・ああそうだ。
何度も何度もカイルに出会っていたことを妙土は思い出した。
「僕が必ずあなたを見つけ出して守る」
カイルの声が繰り返される。

カイルに会いたい!
激烈な頭痛を感じ妙土の意識は目覚めた。



気づいたとき、妙土たえと天蓋てんがいつきの巨大なベッドに寝かされていた。
薄暗い部屋の中には見覚えのない重厚なインテリアが並ぶ。
壁や柱は大理石だろうか。
かすかにお香のような良い香りがする。

体は鉛のように重く、起き上がることも億劫おっくうだった。
(ここはどこだろう・・・。ホテル・・・じゃないよね・・・)

妙土は、ぼんやりする頭を目覚めさせるかのように、強く瞬きをした。
カイルの姿を見出だそうとしたが、しんと静まりかえった部屋にはカイルどころか人の気配がまるでなかった。

手足の指をゆっくり動かしてみる。
足を曲げたり腕を動かして、可動状況を確認し、ふと自分の手を見やった。
白くて優美な指の爪は美しく整えられ、肌は滑らかな白磁のようなきめ細かさである。

(なんだこれは⁉)

全身の力を振りしぼってベッドから上半身をのろのろと起こす。
顔の両サイドを毛ぶるような金髪が揺らめいていた。
胸が重いと思ったら、薄衣をまとったメロンサイズの豊かな乳房が2つ見えた。

(は?へ?・・・これって・・・)

妙土がパニックになろうとした、その時。
「お目覚めですか」
背後から声をかけられたので、振り返ると小柄な栗色の髪をした少女が立っていた。
大きな黒い瞳で人懐っこそうな顔をしていたが、耳はとがっているし、頭の上にちょこんと角が生えている。

(・・・コスプレじゃないよね・・・)
妙土はおそるおそる体の向きを少女の方に変えた。
少女はニコッと笑った。
「私は小鬼のユティアでーす。伝説の女神リーザ様にお会いできて光栄でーす」
アイドルを見るようなキラキラした表情でこちらを見る。

(この子、いま私をリーザって言った!?すると、えーと、この体は・・・)
「あの、すみません・・・」
妙土は右手を小さく上げて呼びかけた。
「鏡はありますか?」
「はーい!ありますよー」
ユティアが右手の人差し指をクルクルさせると、鏡が現出した。
人も移動させるんだから、物も瞬間移動させることができるんだな、とぼんやり妙土は考えた。

鏡を持ち上げて妙土は驚愕する。
鏡に写ったのは、金髪碧眼の超美女。
背中を覆うウェーブがかった金髪は白磁の肌を滑らかにつたう。
カイルと同じアクアマリンの瞳はじっとこちらを見つめていた。

「はーー!!!???」
妙土が動揺して取り落とした鏡を慌てて受けとめるユティア。
「リーザ様、どうなさいました!?」
「どうしたもこうしたも!これは、どうなってるの!?」

目覚めたら、自分が金髪碧眼のセクシーダイナマイト美女になってるなんて、たちの悪いドッキリのようだ。
説明してもらえそうな人物に思い当たった。

「ちょっと、リーザ!これを説明してよ!」
リーネ族の女王だろうが、伝説の女神だろうが、もはや呼びつけである。
妙土はもう一人の自分に呼びかける。

「目覚めて早々、にぎやかだな」
頭の上から湯気が出そうなくらいヒートアップしている妙土の前にハッとするくらい美しい漆黒の男が現れた。
魔王ラディリオン。
何度も妙土の夢に出てきた男が目の前に立っていた。
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