天の龍 地の女神

常盤 舞子

文字の大きさ
26 / 60

第25話 邂逅

しおりを挟む
魔王サタンに代表されるように、「魔王」とは世にも恐ろしい姿で絵画などにおいて描かれている。

しかし、魔王ラディリオンの姿はどうだろう。
月も星もない夜の闇をまとったような漆黒の髪と瞳。
整った顔は完璧すぎて怖いくらいだ。

「魔」とは、本来、邪悪で恐ろしい姿ではなく、尋常でない美しさで人々を魅了し、恍惚こうこつのうちに命や魂を奪うのではないだろうか。

妙土たえともまたこの世にあり得ないような魔王の美貌に畏怖を感じた。

「敗北した神々は太陽を仰ぎ見ることが許されない体にされて地下に追いやられた。地上にいる者を憎むあまり、魔性の穢れと漆黒の闇をまとって地下に王国を築き上げたんだ」

妙土はカイルの言葉を思い出した。

神代に神々の闘いで敗れた神は地下に下り、漆黒の闇をまとった魔族となった。
魔王ラディリオンは地下に堕とされた神々の一人なのだろうか。

「あのー、私、下がりますねー」
そう言ってユティアがそそくさと退出しようとする。
二人きりにされては困る、と妙土はユティアを止めようとしたが、ユティアは煙のように消えてしまった。

魔王ラディリオンと妙土の二人きりになった。

今にもリーザが意識の奥から出て助けにくるのではないかと期待する妙土だったが、リーザが出てくる気配はなかった。
あくまで、だんまりを決め込むらしい。

(気まずい・・・)

ベッドにいる薄衣をまとった極上の美女が絶世の美男と二人きりというシチュエーションも何となく胸騒ぎを起こさせる。

フリーホール状態の電車から危機一髪で救い出してくれたように、カイルは助けに来てくれないのだろうか。
カイルが助けにくれば、それこそ映画のようにドラマチックだが、妙土は今はリーザの姿なので複雑な三角関係の図になるし、いつもそんなタイミング良くカイルが現れるとは限らない。

自分で何とかしなければいけない。

(どうしよう・・・)
気まずい沈黙が続き、妙土は部屋の空気に押しつぶされそうだった。

「具合はどうだ?」
口火を切ったのは、ラディリオンだった。

言葉が通じると思って自分の左手を見れば、ソロモンの指輪が光っていた。
指輪のおかげなのか、妙土はラディリオンとコミュニケーションをとれるようだ。

ラディリオンがベッドに近づいてきたので、とっさにベッドから離れようとしたところ、借り物のような体のせいかバランスを崩し、妙土はベッドから転がり落ちそうになった。
ラディリオンが駆け付けてカイルより華奢きゃしゃな腕で妙土の体を抱き止める。

「大丈夫か?」
氷の美貌と裏腹に、腰が砕けそうになるくらい甘い声でリーザの安否を気遣う。
妙土の乱れた金髪を整え、そのまま額や頬に手を添えていく。
肌と肌の馴染み具合が尋常でないぐらいに気持ちいい。
このまま触れられ続けたらどうにかなりそうな気がして、妙土はラディリオンの手を振り払おうとしたが、力が入らない。

ラディリオンの手はゆっくりと妙土の滑らかなうなじや肩、鎖骨を辿り、やがて豊かな乳房に到達した。
白い胸の頂を指でもてあそぶ。
恍惚のうちに妙土の全身にしびれるような感覚が起こり、下腹部がうずいたが、カイルの顔がよぎった。

我に返った妙土は抵抗を試み、身をよじらせて逃げようとするが、ラディリオンにベッドの上に押さえ込まれた。
妙土の体にラディリオンが覆い被さってくる。
華奢な体は鋼のように鍛えられており、妙土の力ではどうしようもできない。

薄衣が引き剥がされ、妙土の上半身が露になる。

この後やってくる展開にたまらなくなり、妙土は叫ぶ。
「助けて!カイルー!」
「カイルだと?誰だそれは」
ラディリオンの動きが止まった。
初めて聞く男の名前に戸惑いと嫉妬を隠せない様子で詰問する。

妙土は必死で薄衣を胸の前にかき寄せラディリオンを睨み付ける。

しかし、返答に窮した。

カイルはリーヴィシラン、リーザと魔王ラディリオンの息子であり、人間世界で生きるための通称名が「カイル」である。
ラディリオンはカイルが自分の息子であるリーヴィシランと同一人物だと知らないようだ。

ただ、このなりでカイルとの関係を説明すると母子相姦的な構図になるのではないか。

ラディリオンはリーザの中身が天宮妙土だとも思ってないだろう。
えもいわれぬ緊張感に妙土は目まいがしそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...