天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第43話 サンクトペテルブルクでの再会

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妙土たえととリーナはサンクトペテルブルクのリーナのアパートメントに移動した。

妙土は服が薄くて寒そうだし、ビラビラしているという理由で、リーナから着替えるように言い渡された。
言われてみれば、体のラインが透けて見えるくらいの薄衣だし、袖やスカートの裾が広がっていて動きにくいことこの上ない。

実は妙土の首筋や胸元に花びらのようなキスマークがあることにリーナは気付いた。
こんなものをマザコンの兄カイルが見たら大変な騒ぎになる。
兄への牽制けんせいのつもりか、わざと父ラディリオンがつけたに違いない。
所有印のつもりか!
リーナは心の中で父に舌打ちをしながら妙土に着替えを促した。

妙土はリーナの下着と服を受けとり、そそくさと着替える。
もちろんタートルネックである。
パンツの丈が少々、長めだったが、裾を折り返すことで問題なく履けた。

リーナがロシアの伝統的な茶器であるサモワールで紅茶を淹れてくれた。
紅茶の良い香りが部屋を漂う。

「まあ、お飲みなさいよ」
リーナはチョコレート菓子まで出してくれた。
チョコレートはカカオが濃くて甘かった。

「私のことはカイル兄さんから聞いてるでしょ?双子なのよね。こう見えて」
そう言って自分の黒髪を指差した。

「予想より早くバルムンクの青い宝石が見つかって良かったわ。よく見つけたわね。やるじゃない」
「いや、私が見つけたわけではなく・・・。気がついたら部屋の中にあったというか・・・」
「部屋の中にあった!?魔王を封じ込めていた青い宝石が?・・・誰かがわざとあなたに渡したようね。
大体なぜあなたの意識はまだあるのかしら。あなたは死んだのに」

アナタハシンダノニ。
リーナの言葉が妙土の中でズシンと響いた。

今さらながら「天宮妙土」は死んで、リーザの体は借り物であることを思い知らされた。

どういうわけか、今はリーザの体で動けるけど、リーザがその気になれば、私は消滅する?
妙土は身震いした。

「母上の意識はわざと出てこないのよね、きっと。あなたにかじ取りをさせようとしているんだわ」
「舵取り?」
「そう。世界の運命の舵取り。宇宙龍の環の所有者は世界の運命を握っている。現所有者はリーザだから、あなたというわけ」

「そんな無茶苦茶な・・・。私は普通の女子高生で知識も力もありません」
「フフフ。なまじ知識や力がないからこそ宇宙龍の環を任すことができるのかも。
知識がなければ、思い込みや偏見のフィルターを通さずに物事を見ることができるしね。
知識や力があることが全てではないわ。母は全知全能の神ディーンの直系だけど、リーネ族を滅ぼしたしね。
魔族にも止めをさせず決着を数千年後に持ち越した大馬鹿者。
その大馬鹿者のせいで、あなたも私も現在、迷惑を被っているというわけ」

「・・・」

妙土はリーザが怒って出てくるのではないかとヒヤヒヤしたが、リーザが出てくる気配はまるでなかった。
自分の母親を前にして堂々たる悪口雑言のリーナ。
すごい娘だと妙土は思った。

「私としては、リーデイルたち混血児のアルカナをぶっ殺して、現行の結界による魔界封じ込めを続けることが良いと思うのだけど。あなたはどう思う?」
「どう思う、って・・・」
「今後の魔族対策よ。人間の世界にあいつらが出てきたら困るでしょ?」

それは困る。
妙土はユティアと魔界を回ったが、魔界にいるのは神話や物語に出てくるようなモンスターたちである。
地上に出てこられたら大混乱になるのは目に見えている。
リーザが結界で地上に出ないようにしてくれたことは、人間にとって、ありがたい。

魔族を滅ぼすのはダメ。
でも、地上に魔族が出てこられたら困る。
魔族は地上で暮らしたい。

・・・丸く収まる解決策が見つからない。
おまけにリーザの異母兄であるリーデイルはリーザをひどく恨んでいて恐い。

「リーデイルはなぜリーザを恨んでいるの?」
「ああ、あの男の逆恨みよ」
リーナは紅茶を一口すすった。

「母親がリーネ王、つまり私の祖父に捨てられたと恨んでいるのよ。
女を孕ませて捨てるなんて、祖父に限って、そんなことするわけないじゃない。魔族との融合政策に勝算があったからこそ、手をつけちゃったんじゃないかと・・・。
それが王宮内の陰謀で融合政策がひっくり返ったんだと思うわ。リーネ族は王族で権力争いが激しかったというから」

「不幸な行き違いがあったというわけね・・・」
「混血児は「不浄の者」と忌み嫌われてるしね。・・・私も混血児だから、何となくリーデイル叔父さんの気持ちはわかるけどね」
カイルと同じアクアマリンの瞳が揺れた。

一族全てが金髪碧眼だと、黒髪のリーナはやはり居心地が悪かったのだろうか。

一服しているところへ、カイルとブランドンが戻ってきた。

「カイル!」
久しぶりに恋人の顔を見て駆け寄ろうとした妙土だったが、自分の今の姿がカイルの母親であることを思いだし立ちすくんでしまった。
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