元婚約者が愛おしい

碧井 汐桜香

文字の大きさ
1 / 4

婚約者が愛らしい

「はじめまして。お初にお目にかかれて、こうえいです。でんかの婚約者になりました、アマリルと申します」



 アマリルに出会ったのは、俺の10歳の誕生パーティーのことだった。
 ゆるくウェーブした、輝くような金髪を綺麗に編み込み、優しい笑顔で微笑む彼女に、一目惚れした。
 一目惚れした時点で、アマリルは俺の婚約者だった。
 アマリルも緊張からか赤く頬を染めて、上目遣いでこちらを見つめていて、天使のようであった。





「お、おう。よろしくな!」

「フラン? ちゃんとご挨拶なさい?」

「アマリルじょう。こちらこそ、よろしくたのむ」



 かっこつけて、わざわざフランクにした挨拶は、母上に怒られ、ちゃんと挨拶し直した。その姿を見ていたアマリルは、花が咲いたかのように笑ってくれた。








「アマリル! あっちにいくぞ!」

「ふふっ、お待ちください。フランさま」



 そこから俺たちが仲良くなるには、時間がかからなかった。大人たちも、俺たちが仲良くしているのを微笑ましく見守ってくれていた。






「フランとアマリルちゃんは、仲良しさんね?」

「よかったですわ。二人の相性が合ったようで。これで、王国の未来は安心ですわね」




 花が咲いたように笑うアマリルが愛おしくて、愛らしくて、大好きだった。










「アマリル。俺の教育ペース、少し早いと思わないか? つらいんだ、最近」

「フラン様。大丈夫ですか? ご無理なさらないでください。ただ、みなさまがフラン様にご期待なさってるから、今のペースで進んでいらっしゃるんですわ。大丈夫ですわ。フラン様の頑張りは、アマリルが見ておりますわ。フラン様ならきっと乗り越えられますわ。微力ながら、アマリルにも、横で支えさせてくださいませ」




 11歳になった俺は、基礎的な勉強に加えて、帝王学や経済学、経営学、法学等の勉強も始まった。
 元々、13歳に開始する予定だったはずの教育を早めたのには、ワケがあった。


 父上が王位に就くとき、先王であるお祖父様が急逝し、苦労したそうだ。そのためにも、早めに終えることのできる教育はできるだけ早く終わらせ、実践を経験させたいという親心からの教育課程だった。

 それはわかっていたが、幼い俺は反抗した。そんなのは虐待だと感じ、不満ばかりだった。
 そんな俺をアマリルは優しく支えてくれて、アマリルには必要のない授業まで共に受けてくれた。今思うと、王妃教育も忙しかっただろう。でも、時間を作っていつも一緒に参加してくれた。




「フラン様はすごいですわ。呑み込みがとても早くて、尊敬いたします。アマリルにはついていけないですわ」

 途中から参加したアマリルが、教育についていけないことは当然だった。しかし、アマリルのそんな言葉を聞くと、俺は気をよくした。好きな女に褒められるんだ。嬉しくないわけがない。








「フランさま! 気分転換に鷹狩りに参りましょう? アマリルも、サンドイッチを作って、ピクニック気分でフラン様と一緒に食べたいですわ」

 出かける時も、俺に合わせてくれて、よく外に出かけてくれた。俺のストレス解消のためにいろいろと考えてくれていたようだ。
 アマリル自身の趣味は読書や楽器演奏、絵を描くことのような室内で過ごすものが多かったが、いつも俺に合わせてくれていた。あの頃の俺は、それを当然と受け取っていたが。









「優秀なフラン様に、明るく優しく、いつも穏やかなアマリル様。この国の将来は安泰ですな!」


 俺からはもちろん、アマリルは国民たちからも大人気だったし、心優しい淑女の鑑であった。また、アマリルの名前に例えて、白いアマリリス姫と呼ばれることもあった。アマリルの上品さや穏やかさをよく表していると、俺も嬉しく思ったものだ。





「アマリル。庭に咲いていた、白いアマリリスだ。君にぴったりだろう?」

「まぁ! ありがとうございます、フラン様。大切にいたしますわ」




 そう言ったアマリルは、俺が贈ったその花を、毎日大切に世話をし、どういう技術を使ったのかはわからないが、美しく咲いた状態で残して、部屋に飾ってくれていたようだ。
 アマリリスを受け取った時のアマリルの、花が開いたかのような笑顔を、俺は一生忘れることはできないだろう。














「アマリル、俺、カルスターに留学に行くことにしたぞ! 一回り大きくなって帰ってくるからな!」

「え……?」

 アマリルに相談することなく、俺が海外留学に行くことを決めた時、アマリルは一瞬、微笑みをなくした。しかし、次の瞬間には微笑んで、こう応援してくれた。
 このときの俺は、アマリルの気持ちなんて考えずに、応援してくれて、当然だと思っていたのだ。



「フラン様なら、さらに幅広い視野を得て、帰っていらっしゃいますわ。アマリルも楽しみにご帰国をお待ちしておりますわ」







 その後数日、アマリルに会うことは叶わなかった。噂によると、俺の留学が寂しくて泣いていたようだ。
 離れていたって俺たちの関係が変わるものでもないし、婚約者として共に過ごす将来は変わらない。アマリルに会えなくなることは寂しいが、所詮隣国だ。長期休暇には帰国できるし、一年で済む。寂しがるアマリルを愛らしく思うと同時に、少し疎ましく思ってしまった。



 そんな俺の心の声をわかっていたのだろう。アマリルは決して俺の前で涙を見せなかった。










「では、いってくる」

「ご無事のご帰国をお待ちしておりますわ」

「隣国に1年間行くだけだ。大袈裟だな」

「アマリルの心は、フラン様でいっぱいですもの。心配してしまいますわ」





 優しい微笑みを浮かべながら、俺を慕うアマリルの聖母のような姿は、周囲の視線を集めていた。そんなアマリルに愛おしげに見つめられることは、すごく誇らしかった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

真実の愛の祝福

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。 だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。 それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。 カクヨム、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。 私は、恋に夢中で何も見えていなかった。 だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か なかったの。 ※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。 2022/9/5 隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。 お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。