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「ジョセリア。全くいつも地味だな。僕の周りにいるかわいいお花ちゃんたちを見習えよ」
婚約者アランの言葉を無視したまま、ジョセリアは食事を終える。いつもなら、アランの周りにいる令嬢たちが一緒になって、アランの機嫌をとるようにクスクスと笑うのだが、今日はアランともう一人、最近男爵家に引き取られたという少女のみだ。
「侯爵家のご令嬢って想像していたよりも地味でびっくりしちゃった。でも、アランは物語に出てくる王子様みたいに素敵」
うっとりとした表情でアランを見上げる少女に、アランも満足げに少女を抱き寄せて髪を撫でながら返答する。
「ミハルダの愛らしさは物語のお姫様レベルだよ」
きゃあっとはなやいだ声をあげるミハルダとアランに、ジョセリアは言った。
「……平民の娼館の真似事は学園の外でやってくださいます? ここは由緒あるエジョリアント学園ですよ?」
いつも無視を決め込むジョセリアが反応したことに、アランが笑みを深めて言った。
「いつも黙り込んでむっすりしているのに、今日は返事をしてくるなんて、どんな気持ちの変化だい?」
そんなことを言うアランに、ジョセリアがため息を落として言った。
「……今日はあなたの周りにいつもいる少女たちの姿が見えないことにお気づきですか?」
ジョセリアの言葉に、周りを見渡したアランが言った。
「かわいいお花ちゃんたちは体調でも悪いのかな? お見舞いに行かなきゃだね。僕の顔を見たらきっとすぐに元気になるよ」
ウィンクしたアランに、ミハルダが歓声を上げた。
「……思い過ごしも結構です。あなたの取り巻きだったジュリアンヌさんはあちらにおいでですよ?」
ジョセリアの指し示す方で、びくりと身体を揺らしたジュリアンヌに、アランは笑顔を向けて言った。
「どうしたんだい? 僕のかわいいお花ちゃん。照れていないでこっちにおいでよ」
指名されたジュリアンヌはまだ残っている食事をつかんで慌てたように食堂から出ていった。
「……どうしたんだろう?」
首を傾げるアランに、ミハルダが口を尖らせて言う。
「……アランったら。せっかく今日はあたしがアランを独り占めしているのに、他の子ばっかり見たら嫌」
「すまない、拗ねないでおくれ。僕の可愛いお花ちゃん」
いちゃつく二人に、ジョセリアが冷たい視線を向けたまま言った。
「侯爵家に婿入り予定の婚約者に手を出したらどうなるか、きちんと懇切丁寧に説明して差し上げたんですよ。アランが騙していたことに気がついた彼女たちは顔を青ざめながら謝罪してきました。“アランの美しさを他の人と共有したいから、婚約者も結婚後の愛人も認可している”ですって? よくもまぁそんな頭で思いついたことですね。そんな頭だからこんなことしか思い付かないのでしょうか?」
ジョセリアの言葉にキョトン、と首を傾げる二人。理解していようがいまいがかまわないとジョセリアは続けた。
「侯爵家に喧嘩を売っていることになると気がついた皆様はアランの元から去ったようですよ。……ただ一人、わたくしの説明を理解する知性をお持ちでない方を除いて。……まぁ、本日限りであなた方が何をしようがわたくしには関係ありませんが。アラン。婚約を破棄しましょう。両家の当主には了承を得ております。すでにわたくしのサインも済んでいて、あとはあなたのサインを埋めるのみ……まぁ、今回はアランの有責と両家当主が認めており、客観的証拠もすでに貴族院に提出済みです。アランのサインがなくとも婚約破棄は成立しますわ」
今までの無表情と打って変わって美しい笑みを浮かべたジョセリアに思わず見惚れた二人に、ジョセリアの従者がペンを差し出す。ペンを受け取りそうになったアランがハッとして、首を振る。
「い、嫌だ! ジョセリア! 君との婚約を解消したくない! 結婚前の単なる火遊びじゃないか! ジョセリアだけを愛しているに決まっているだろう!?」
アランの言葉に冷たい視線を送ったジョセリアが従者に書類を戻すように指示する。それを見たアランがホッと息をつくのと同時に、ミハルダがアランに向かって目を釣り上げて言った。
「アラン! あなた、あたしだけを愛しているって言ったじゃない!? アランはあたしと結婚できるならしたいって! 嘘をついたの!? あたし、アランに全て捧げたのに!」
アランの両肩をつかんで揺らすミハルダの言葉に、聴衆がざわついた。全てを捧げたということは、もうすでにミハルダに貴族令嬢的価値がないという意味になる。アランの周りを取り囲んでいた取り巻きたちにも冷たい視線が流れる。それを横目に、ジョセリアが従者に書類を貴族院に提出するように指示を出した。
「いやだ、捨てないでくれ、ジョセリア! 君が、君が夜会の時のように美しくいてほしくて、ついあんなことをしたんだ! ジョセリア! 君を愛している!」
「どういうことよ! アラン! あたしを愛しているって言いなさいよ!」
ジョセリアが指を鳴らすと、音もなく待機していた衛兵たちがアランとミハルダを取り押さえに入ってきた。そして、ジョセリアに、アランにすがる二人をそのまま連れ去っていったのだった。
二人を見送ったジョセリアが食堂にいた者たちに頭を下げた。
「皆様、お食事の邪魔をしてしまってごめんなさい。どうぞ続きを楽しんで」
女生徒が一人、隣の友人に問いかける。
「あの二人、どうなると思います?」
隣にいた生徒が顎に手を当ててうーんと唸った後、小さく囁いた。
「侯爵家に喧嘩を売ったってことだから、よくて平民落ち、悪くて国外追放ってところじゃないかしら? あの男爵令嬢は、元平民で男爵家に引き取られたお方なのでしょう? もう貴族令嬢として価値がないもの。平民に戻されるのは確実だわ。それに、アラン様は侯爵家に厭われたのですもの。もう伯爵令息として無価値だわ」
反対隣の女生徒が問いかける。
「あ、じゃあ。以前までアラン様の取り巻きをしていた方々は?」
「……騙されたといえども、侯爵家に喧嘩を売ったんですもの。まともな縁談は望めないでしょうね。アラン様にすべて捧げていたら貴族令嬢として完全に価値がないわ。……まぁ、事実がどうであれ、あの男爵令嬢の告白のせいで、彼女たちも同様に見られるでしょうね。かわいそうだけれど、普通に考えてジョセリア様に無礼だったもの。仕方のないことだわ」
そう言った生徒たちの会話はすぐに食事の内容に移り、講義の内容へと移っていくのだった。
「あら、ご覧になってジョセリア様よ。今日もお美しいわね」
アランという婚約者を失ったジョセリアは、アランがいる時は適当に済ませていた服装や髪型を、アランから解放されたことを楽しむようにきちんと整えるようになり、その美しさに次々と新たな婚約打診が舞い込んだという。
婚約者アランの言葉を無視したまま、ジョセリアは食事を終える。いつもなら、アランの周りにいる令嬢たちが一緒になって、アランの機嫌をとるようにクスクスと笑うのだが、今日はアランともう一人、最近男爵家に引き取られたという少女のみだ。
「侯爵家のご令嬢って想像していたよりも地味でびっくりしちゃった。でも、アランは物語に出てくる王子様みたいに素敵」
うっとりとした表情でアランを見上げる少女に、アランも満足げに少女を抱き寄せて髪を撫でながら返答する。
「ミハルダの愛らしさは物語のお姫様レベルだよ」
きゃあっとはなやいだ声をあげるミハルダとアランに、ジョセリアは言った。
「……平民の娼館の真似事は学園の外でやってくださいます? ここは由緒あるエジョリアント学園ですよ?」
いつも無視を決め込むジョセリアが反応したことに、アランが笑みを深めて言った。
「いつも黙り込んでむっすりしているのに、今日は返事をしてくるなんて、どんな気持ちの変化だい?」
そんなことを言うアランに、ジョセリアがため息を落として言った。
「……今日はあなたの周りにいつもいる少女たちの姿が見えないことにお気づきですか?」
ジョセリアの言葉に、周りを見渡したアランが言った。
「かわいいお花ちゃんたちは体調でも悪いのかな? お見舞いに行かなきゃだね。僕の顔を見たらきっとすぐに元気になるよ」
ウィンクしたアランに、ミハルダが歓声を上げた。
「……思い過ごしも結構です。あなたの取り巻きだったジュリアンヌさんはあちらにおいでですよ?」
ジョセリアの指し示す方で、びくりと身体を揺らしたジュリアンヌに、アランは笑顔を向けて言った。
「どうしたんだい? 僕のかわいいお花ちゃん。照れていないでこっちにおいでよ」
指名されたジュリアンヌはまだ残っている食事をつかんで慌てたように食堂から出ていった。
「……どうしたんだろう?」
首を傾げるアランに、ミハルダが口を尖らせて言う。
「……アランったら。せっかく今日はあたしがアランを独り占めしているのに、他の子ばっかり見たら嫌」
「すまない、拗ねないでおくれ。僕の可愛いお花ちゃん」
いちゃつく二人に、ジョセリアが冷たい視線を向けたまま言った。
「侯爵家に婿入り予定の婚約者に手を出したらどうなるか、きちんと懇切丁寧に説明して差し上げたんですよ。アランが騙していたことに気がついた彼女たちは顔を青ざめながら謝罪してきました。“アランの美しさを他の人と共有したいから、婚約者も結婚後の愛人も認可している”ですって? よくもまぁそんな頭で思いついたことですね。そんな頭だからこんなことしか思い付かないのでしょうか?」
ジョセリアの言葉にキョトン、と首を傾げる二人。理解していようがいまいがかまわないとジョセリアは続けた。
「侯爵家に喧嘩を売っていることになると気がついた皆様はアランの元から去ったようですよ。……ただ一人、わたくしの説明を理解する知性をお持ちでない方を除いて。……まぁ、本日限りであなた方が何をしようがわたくしには関係ありませんが。アラン。婚約を破棄しましょう。両家の当主には了承を得ております。すでにわたくしのサインも済んでいて、あとはあなたのサインを埋めるのみ……まぁ、今回はアランの有責と両家当主が認めており、客観的証拠もすでに貴族院に提出済みです。アランのサインがなくとも婚約破棄は成立しますわ」
今までの無表情と打って変わって美しい笑みを浮かべたジョセリアに思わず見惚れた二人に、ジョセリアの従者がペンを差し出す。ペンを受け取りそうになったアランがハッとして、首を振る。
「い、嫌だ! ジョセリア! 君との婚約を解消したくない! 結婚前の単なる火遊びじゃないか! ジョセリアだけを愛しているに決まっているだろう!?」
アランの言葉に冷たい視線を送ったジョセリアが従者に書類を戻すように指示する。それを見たアランがホッと息をつくのと同時に、ミハルダがアランに向かって目を釣り上げて言った。
「アラン! あなた、あたしだけを愛しているって言ったじゃない!? アランはあたしと結婚できるならしたいって! 嘘をついたの!? あたし、アランに全て捧げたのに!」
アランの両肩をつかんで揺らすミハルダの言葉に、聴衆がざわついた。全てを捧げたということは、もうすでにミハルダに貴族令嬢的価値がないという意味になる。アランの周りを取り囲んでいた取り巻きたちにも冷たい視線が流れる。それを横目に、ジョセリアが従者に書類を貴族院に提出するように指示を出した。
「いやだ、捨てないでくれ、ジョセリア! 君が、君が夜会の時のように美しくいてほしくて、ついあんなことをしたんだ! ジョセリア! 君を愛している!」
「どういうことよ! アラン! あたしを愛しているって言いなさいよ!」
ジョセリアが指を鳴らすと、音もなく待機していた衛兵たちがアランとミハルダを取り押さえに入ってきた。そして、ジョセリアに、アランにすがる二人をそのまま連れ去っていったのだった。
二人を見送ったジョセリアが食堂にいた者たちに頭を下げた。
「皆様、お食事の邪魔をしてしまってごめんなさい。どうぞ続きを楽しんで」
女生徒が一人、隣の友人に問いかける。
「あの二人、どうなると思います?」
隣にいた生徒が顎に手を当ててうーんと唸った後、小さく囁いた。
「侯爵家に喧嘩を売ったってことだから、よくて平民落ち、悪くて国外追放ってところじゃないかしら? あの男爵令嬢は、元平民で男爵家に引き取られたお方なのでしょう? もう貴族令嬢として価値がないもの。平民に戻されるのは確実だわ。それに、アラン様は侯爵家に厭われたのですもの。もう伯爵令息として無価値だわ」
反対隣の女生徒が問いかける。
「あ、じゃあ。以前までアラン様の取り巻きをしていた方々は?」
「……騙されたといえども、侯爵家に喧嘩を売ったんですもの。まともな縁談は望めないでしょうね。アラン様にすべて捧げていたら貴族令嬢として完全に価値がないわ。……まぁ、事実がどうであれ、あの男爵令嬢の告白のせいで、彼女たちも同様に見られるでしょうね。かわいそうだけれど、普通に考えてジョセリア様に無礼だったもの。仕方のないことだわ」
そう言った生徒たちの会話はすぐに食事の内容に移り、講義の内容へと移っていくのだった。
「あら、ご覧になってジョセリア様よ。今日もお美しいわね」
アランという婚約者を失ったジョセリアは、アランがいる時は適当に済ませていた服装や髪型を、アランから解放されたことを楽しむようにきちんと整えるようになり、その美しさに次々と新たな婚約打診が舞い込んだという。
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