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エピソード6
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「どうしようか。このままでは、メリアは私の妃になってしまう」
王子が微笑みを浮かべながら、外国からの要人も招いた社交の場で考え込んでいた。
「いた!」
「ご、ごめんなさい!」
よそ見をしていたからだろうか。一人歩く王子がぶつかった相手は、隣国の姫だった。
「す、すまない! 怪我はないだろうか?」
慌てて彼女の手を取り、尋ねると笑顔を浮かべて彼女が返事をした。
「えぇ、大丈夫ですわ」
そう笑って立ち去ると思った姫は、動くことがない。そのまま王子が数歩歩んだところで、違和感を覚え、振り返った。姫は未だ、動いていない。
「……違っていたら申し訳ない。もしかして、今の衝撃で足を痛めたのではないだろうか?」
「!?」
驚いたように振り返った姫の顔を見ると驚愕に染まっていた。まさか、気が付かれるなんてと書いてあるような姫は、王子にとって初めて会う人種だった。高貴な姫もメリアッセンヌも、王子の周りにいる人間は皆、社交の場で表情を隠すことに長けている。足が痛くてもそのまま歩みを進めるような者ばかりだ。たとえ動けなかったとしても、他国の者に気が付かれるようなことはしないだろう。
「申し訳ない。控え室まで送ろう」
そう言って姫を抱き上げ、人目を避けて控え室を目指した。メリアッセンヌのような華はない。どちらかというと騎士のような格好をしている姫。そんな姫が痛くて動けないことをうまく隠せない。王子はこんな姫なら、メリアッセンヌとジュドーのような関係を自分も築けるのでは、と一瞬頭によぎったのだった。
「申し訳ございませんわ」
あまりに動揺していたから、あの姿だっただけで、実際に交流してみると、姫はどちらかというと王子に似た冷酷な面も持ち合わせた性格だった。
「いや、こちらこそすまなかった。もう足は痛まないか?」
「えぇ。おかげですっかり治りましたわ。殿下は数日後に婚約者発表をなさるこの会の主役でしょう? そんなお方を独り占めしてしまって……婚約者になる予定のお方にも申し訳ないですわ」
婚約者内定発表まで数日。今回のメインは王子の婚約者の発表だ。すでに王子と共に挨拶回りをしていたメリアッセンヌに内定しているのだろうと、全員が口を揃えて言っていたし、メリアッセンヌもそのつもりだろう、と考えた王子は、大切な妹分の恋を壊してしまうことに不快感を覚え、思わず顔を歪めてしまった。
「……わたくし、なにかいけないことを言ってしまったかしら?」
王子の表情が変わったのを見て、姫が慌てたように付け加えた。王子は小さく首を振って、誤魔化しながら言った。
「いや……。メリアとは幼少の頃から一緒だったから、妹のような気持ちしか抱けなくてね。メリアに問題はないし、政略的にも最適なのはわかっているのだが」
王子の言葉に驚いた表情を浮かべた姫が、口を押さえた後しばらくして小さく頷いていった。
「……わかります。妹のように思うお方とは結婚など……できませんものね」
姫の表情が暗く、王子がつい問いかける。
「君も……なにかあるのかい?」
「いいえ。ただ、“妹のようにしか見えない”とわたくしを振ったお方が、姉上とご結婚なさることになって……ただ、わたくしはそんなお二人を見ているのが辛くて……国を出たいくらいに思っているだけです」
悲しげな姫の手を取った王子は、思わず提案をしていた。
「……まだ、婚約者の内定を発表していない。君が、僕の妃になるかい? ……国を出るために。別にすぐに離縁してくれて構わない」
「……それはありがたいご提案ですが、メリアッセンヌ様があまりにもご不憫ですわ」
拒絶した姫の手を取り、王子は説得する。メリアッセンヌを幸せにしてやりたいのだ、と。
王子が微笑みを浮かべながら、外国からの要人も招いた社交の場で考え込んでいた。
「いた!」
「ご、ごめんなさい!」
よそ見をしていたからだろうか。一人歩く王子がぶつかった相手は、隣国の姫だった。
「す、すまない! 怪我はないだろうか?」
慌てて彼女の手を取り、尋ねると笑顔を浮かべて彼女が返事をした。
「えぇ、大丈夫ですわ」
そう笑って立ち去ると思った姫は、動くことがない。そのまま王子が数歩歩んだところで、違和感を覚え、振り返った。姫は未だ、動いていない。
「……違っていたら申し訳ない。もしかして、今の衝撃で足を痛めたのではないだろうか?」
「!?」
驚いたように振り返った姫の顔を見ると驚愕に染まっていた。まさか、気が付かれるなんてと書いてあるような姫は、王子にとって初めて会う人種だった。高貴な姫もメリアッセンヌも、王子の周りにいる人間は皆、社交の場で表情を隠すことに長けている。足が痛くてもそのまま歩みを進めるような者ばかりだ。たとえ動けなかったとしても、他国の者に気が付かれるようなことはしないだろう。
「申し訳ない。控え室まで送ろう」
そう言って姫を抱き上げ、人目を避けて控え室を目指した。メリアッセンヌのような華はない。どちらかというと騎士のような格好をしている姫。そんな姫が痛くて動けないことをうまく隠せない。王子はこんな姫なら、メリアッセンヌとジュドーのような関係を自分も築けるのでは、と一瞬頭によぎったのだった。
「申し訳ございませんわ」
あまりに動揺していたから、あの姿だっただけで、実際に交流してみると、姫はどちらかというと王子に似た冷酷な面も持ち合わせた性格だった。
「いや、こちらこそすまなかった。もう足は痛まないか?」
「えぇ。おかげですっかり治りましたわ。殿下は数日後に婚約者発表をなさるこの会の主役でしょう? そんなお方を独り占めしてしまって……婚約者になる予定のお方にも申し訳ないですわ」
婚約者内定発表まで数日。今回のメインは王子の婚約者の発表だ。すでに王子と共に挨拶回りをしていたメリアッセンヌに内定しているのだろうと、全員が口を揃えて言っていたし、メリアッセンヌもそのつもりだろう、と考えた王子は、大切な妹分の恋を壊してしまうことに不快感を覚え、思わず顔を歪めてしまった。
「……わたくし、なにかいけないことを言ってしまったかしら?」
王子の表情が変わったのを見て、姫が慌てたように付け加えた。王子は小さく首を振って、誤魔化しながら言った。
「いや……。メリアとは幼少の頃から一緒だったから、妹のような気持ちしか抱けなくてね。メリアに問題はないし、政略的にも最適なのはわかっているのだが」
王子の言葉に驚いた表情を浮かべた姫が、口を押さえた後しばらくして小さく頷いていった。
「……わかります。妹のように思うお方とは結婚など……できませんものね」
姫の表情が暗く、王子がつい問いかける。
「君も……なにかあるのかい?」
「いいえ。ただ、“妹のようにしか見えない”とわたくしを振ったお方が、姉上とご結婚なさることになって……ただ、わたくしはそんなお二人を見ているのが辛くて……国を出たいくらいに思っているだけです」
悲しげな姫の手を取った王子は、思わず提案をしていた。
「……まだ、婚約者の内定を発表していない。君が、僕の妃になるかい? ……国を出るために。別にすぐに離縁してくれて構わない」
「……それはありがたいご提案ですが、メリアッセンヌ様があまりにもご不憫ですわ」
拒絶した姫の手を取り、王子は説得する。メリアッセンヌを幸せにしてやりたいのだ、と。
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