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3.悪役令嬢、治療する
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「さぁ、サーシャちゃん。こちらにお部屋を準備したわ」
久しぶりの領地です。緑豊かで空気が美味しい、少し胸が楽になった気がしました。
「ここは?」
普通に歩くだけで辛いわたくしは、マリアの肩を借りています。
「お母様のお隣の部屋よ? 部屋続きになっているから、夜はお母様と一緒のお部屋で寝ましょう?」
お父様の部屋がわたくしの部屋にされていました。お父様の荷物はどこにも見当たらず、内装も可愛らしいものに変わっています。
「お父様のお部屋では……?」
「まぁ! そんな男のことなんて口に出すんじゃありません! さあさあ、サーシャちゃん。ゆっくりおやすみなさい」
マリアとお母様によって、ベッドに運ばれました。お母様に優しく頭を撫でられ、瞼が落ちていきます。
「ありがとうございます、お母様」
ゆっくりと眠る、久しぶりな気がします。今までは寝ていても起きているような、ずっと誰かに否定されているような感じでしたから。
眠る。眠ろうとすると、髪が邪魔な気がしました。髪を切ってもらう……外の人間に関わることが怖く、わたくしは髪を自分で切り落としました。マリアが目を離した隙に。机の奥に隠しておいた鋏を使って。戻ってきたマリアが驚いた様子を見て、ダメだったかしらと首を傾げます。その後、マリアの手によって髪を少し整えられました。
「お嬢様! 今日は起きていてよろしいのですか?」
「えぇ。少し良くなってきた気がするわ」
わたくしがそう笑うと、マリアも安心したように笑いました。少しずつ社交界に戻る準備をしなくては。わたくしの価値は、貴族令嬢として、家同士の繋がりのために結婚することしかないのですから。
「マリア。窓をもう少し開けてくれる?」
マリアに言って、窓を開けてもらい、下を見下ろします。あぁ、高さが足りない。
「マリア、もう少し高いところに行きたいわ」
「お嬢様……?」
消えてしまいたい。なくなりたい。死にたい。それだとお母様に迷惑がかかってしまうわ。殺してほしい。誰か、わたくしを、殺して。
「お嬢様!」
マリアに揺さぶられて、目を覚まします。わたくし、寝ながら何を考えていたのでしょう。あぁ、そうだ。わたくしの死に方の話でしたわ。
「ねぇ、マリア。わたくし、一番人に迷惑をかけない死に方を探しているの。一緒に考えてくれる?」
わたくしがそう笑うと、マリアが息を呑んだような音が聞こえました。何かおかしなこと言ったかしら?
「……、お嬢様! 奥様を! 誰か、奥様を呼んで!」
「サーシャちゃん。お医者様とお話ししてもらっても、いいかしら?」
「体調はどうですか? サーシャ嬢」
そう優しく微笑むお医者様に、わたくしはカーテシーしようと立ち上がります。
「サーシャ嬢。座ったままでいいんですよ。ここは、貴女の部屋ですから。大丈夫、ここでは美しく振る舞わなくていい」
お医者様のその言葉に、わたくしの目が熱くなります。
「なんで泣いているのかしら」
ポロポロとこぼれ落ちる涙を見て、お母様もマリアも悲しそうな顔をします。悲しませてはダメ、泣き止まなければ。そう思えば思うほど、涙は止まりません。
「いいんですよ。自然な反応です。サーシャ嬢が心に溜め込んだ辛さを、排出しているのだから、無理に止めなくていい。一つだけ、僕と約束しよう。死にたいと思っても死んではダメです。わかりましたか?」
「はい……」
お医者様に言われて、その日はずっと泣き続けました。
動くのも辛かった時期を超え、少し動けるようになった今、ずっと死ぬことを考えていました。死にたい、どうやって死のう、ずっと考えていた死にたいが消えることはなくとも、少し薄くなった気がします。でも、動けなかった頃よりも今の方が気持ち的には辛い……そんな不思議さにお医者様のお薬が本当に効いているのか疑問に感じてしまいました。
「マリア。お薬、飲まないといけないかしら? あってもなくても辛いの」
「必ずお飲みになったことを確認するように言われておりますので、申し訳ございません。お嬢様」
「サーシャちゃん。お母様はそのお薬を飲んでから少しずつサーシャちゃんが回復しているように思うわ。無理せずに過ごしてほしいけど、お薬だけは飲みましょう?」
お母様の顔が悲しそうで、わたくしはお薬を飲んで眠りました。
死にたい。いえ、死んではならない。なんと難しいのでしょうか。わたくしは、死んではならない……。
久しぶりの領地です。緑豊かで空気が美味しい、少し胸が楽になった気がしました。
「ここは?」
普通に歩くだけで辛いわたくしは、マリアの肩を借りています。
「お母様のお隣の部屋よ? 部屋続きになっているから、夜はお母様と一緒のお部屋で寝ましょう?」
お父様の部屋がわたくしの部屋にされていました。お父様の荷物はどこにも見当たらず、内装も可愛らしいものに変わっています。
「お父様のお部屋では……?」
「まぁ! そんな男のことなんて口に出すんじゃありません! さあさあ、サーシャちゃん。ゆっくりおやすみなさい」
マリアとお母様によって、ベッドに運ばれました。お母様に優しく頭を撫でられ、瞼が落ちていきます。
「ありがとうございます、お母様」
ゆっくりと眠る、久しぶりな気がします。今までは寝ていても起きているような、ずっと誰かに否定されているような感じでしたから。
眠る。眠ろうとすると、髪が邪魔な気がしました。髪を切ってもらう……外の人間に関わることが怖く、わたくしは髪を自分で切り落としました。マリアが目を離した隙に。机の奥に隠しておいた鋏を使って。戻ってきたマリアが驚いた様子を見て、ダメだったかしらと首を傾げます。その後、マリアの手によって髪を少し整えられました。
「お嬢様! 今日は起きていてよろしいのですか?」
「えぇ。少し良くなってきた気がするわ」
わたくしがそう笑うと、マリアも安心したように笑いました。少しずつ社交界に戻る準備をしなくては。わたくしの価値は、貴族令嬢として、家同士の繋がりのために結婚することしかないのですから。
「マリア。窓をもう少し開けてくれる?」
マリアに言って、窓を開けてもらい、下を見下ろします。あぁ、高さが足りない。
「マリア、もう少し高いところに行きたいわ」
「お嬢様……?」
消えてしまいたい。なくなりたい。死にたい。それだとお母様に迷惑がかかってしまうわ。殺してほしい。誰か、わたくしを、殺して。
「お嬢様!」
マリアに揺さぶられて、目を覚まします。わたくし、寝ながら何を考えていたのでしょう。あぁ、そうだ。わたくしの死に方の話でしたわ。
「ねぇ、マリア。わたくし、一番人に迷惑をかけない死に方を探しているの。一緒に考えてくれる?」
わたくしがそう笑うと、マリアが息を呑んだような音が聞こえました。何かおかしなこと言ったかしら?
「……、お嬢様! 奥様を! 誰か、奥様を呼んで!」
「サーシャちゃん。お医者様とお話ししてもらっても、いいかしら?」
「体調はどうですか? サーシャ嬢」
そう優しく微笑むお医者様に、わたくしはカーテシーしようと立ち上がります。
「サーシャ嬢。座ったままでいいんですよ。ここは、貴女の部屋ですから。大丈夫、ここでは美しく振る舞わなくていい」
お医者様のその言葉に、わたくしの目が熱くなります。
「なんで泣いているのかしら」
ポロポロとこぼれ落ちる涙を見て、お母様もマリアも悲しそうな顔をします。悲しませてはダメ、泣き止まなければ。そう思えば思うほど、涙は止まりません。
「いいんですよ。自然な反応です。サーシャ嬢が心に溜め込んだ辛さを、排出しているのだから、無理に止めなくていい。一つだけ、僕と約束しよう。死にたいと思っても死んではダメです。わかりましたか?」
「はい……」
お医者様に言われて、その日はずっと泣き続けました。
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「必ずお飲みになったことを確認するように言われておりますので、申し訳ございません。お嬢様」
「サーシャちゃん。お母様はそのお薬を飲んでから少しずつサーシャちゃんが回復しているように思うわ。無理せずに過ごしてほしいけど、お薬だけは飲みましょう?」
お母様の顔が悲しそうで、わたくしはお薬を飲んで眠りました。
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