魂レベルでビッチです～ヤンデレ彼氏に殺されて悪役令嬢に転生したらしいので、処刑上等で自由な異世界ライフを楽しみます！～

奉納の日作戦

4

　どちらの名前で呼べばいいのか、混乱する。この乙女ゲームの世界で正しい名前はきっとこっちだ、と思って名前を呼ぼうとした。

「出雲悲緒……っ？」
「え？」

　厚い靴の底が床を叩く音がして、誰かが駆け寄ってくる気配がある。風を切る気配があり、私は風が動いた方向を見た。ルーカスが剣を抜き、その人物に斬りかかる瞬間だ。

「えっ！？ちょっと待ってよ……っ！それは作戦じゃないよ！」
　目の前の人物にも、ルーカスが呼んだ名前にも、そしてその行動にも疑問しかない。
　金属のぶつかり合う音がして、目の前の人物がルーカスの剣を自分の剣で受けたのだと分かる。

「ニュースで見た。お前の顔も名前も覚えてる。お前は舞日楽華を殺した殺人犯だ、出雲悲緒！」
「え……っ？」
　何でそのことを、ルーカスが知っているの？

「誰のことを言っている？」低く話す声は、私が知るその人の声じゃない。

「あなたは一体？」
　と私が声を出せば、その人の瞳がこちらをとらえる。

　――――違う。
　直感的にそう思った。何が違うのか分からないけれど、違う、と思ったのだ。

「ルピア、会いたかった」
　そう、私の狙いはそこだった。予定外の状況に戸惑ってしまって忘れてしまったけれど。王妃様の姿をとって侵入する、と決めていた。

　王様が求めてやまない王妃様の姿なら、王様は油断すると思ったからだ。そして交渉の余地がある、と思った。
　ふっと表情が緩んだ、と感じて手応えあり――――と思った瞬間に、首に手の指がかかる。

「ふぇぇっ！？」
　予想外のことに私は反応し遅れてしまった。まんまと王様に首を捕まれてしまった。

「子どもを逃がしただろう。お前の胎内を支配し産道を通ってきた汚らわしき者たちをどこに隠した」

　胎内を支配？産道を通ってきた？汚らわしき者たち。
　物々しい言葉が並ぶことに、驚くけれど、どんどん強くなっていく指の力に意識が飛びかける。頸動脈を圧迫されたことなんてない。

「やめろっ！この殺人野郎……っ」
　ぶんっと剣が振りかざされる音がして、再び彼が剣で受ける。首元から手が離れたので私は彼と距離をとった。

　どういうことだろう？
　ここは王様のいる場所のはずだし、私の今の姿を見て「ルピア」と呼ぶことからすれば、王様だと思う。

　でも目の前の人物の姿は、どう見ても、ランス・リルージュだ。
　つまり、悲緒にそっくりなわけで――――私には今の状況が理解できない。これも改変の一種なの？

　前回見た王様の姿とは年の頃も、見た目も全く違う。