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第三部
岩城攻略
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地下国の者達からの攻撃がやんだことに、長兄のケアスをはじめとして、イオやクレイ、ヒュリオやベアスなどのフィアの兄達は、不審に思う。
イテアやレミア、ミステア、ネモやイペスト、テュトなどのフィアの姉達は、争いがないことに越したことはないでしょ?とのんびりと構えていた。
フィアの兄や姉たちは岩山を切り崩しながら、地下国の街に攻撃を仕掛けている。岩を放れば、松明が飛んでくるのは平常のことだ。
しかし今日は、松明一つ飛んでこない。
自分たちの攻撃により、地下国の街が壊滅した可能性をケアスは思った。とはいっても、散々苦労しているのに、ここに来て簡単に壊滅するとは思えない。
青銅の門は、現在女性陣の封印魔法で封じているため、地上から邪魔な軍の司令官が降りて来ている可能性はほとんどない。どこかの国の、迷い人が時折地下国へたどり着く来ることはあるが、大抵は地下国の見せる幻想に疲れ果てているものばかりだ。何か事を成すとは思えなかった。
異様な静けさを不審に思ったケアスは、ヒュリオやベアスなど下の弟達に、
「城の入り口付近を見て来てくれ」
と言いつける。
岩山をくりぬいて作った巨大な城の入り口には、ケアスが一族の紋を彫っていた。ティアトタン国の城門にあるのと同じものだ。
城の石扉はティアトタン国の城門と同様に、一族の者が持つ強大な力を与えなければ、開かないようになっていた。今や自分たちしか、開けることは出来ない、とケアス達は思っていたのだ。
ヒュリオやベアス達が、回廊を降り、城の入り口に降りて行ったとき、地響きのような音がホールへと響いた。城の石扉を叩く音だ。最初は何かがぶつかるような音と衝撃だったが、その後城全体が揺れるような大きな揺れがあった。
「なんだ?」
「すごい音だ」とヒュリオとベアスが声を上げたときには、石扉は真っ二つに割れ、吹き飛んだ。強い風が吹いてきて、入り口のホールの端まで飛ばされてしまう。
「こんばんは~!失礼しまーす!」
と元気のいい声が飛んできて、もう一度烈風が吹いた。ヒュリオとベアスは、やむことのない風に、壁に張りつけにされてしまう。
そして、ホール内に小さな人影とそれよりはやや大きめの人影がやって来る。
「一人、二人。ああ、先は長いな」とため息まじりの気だるそうな声がしたかと思えば、鮮烈な雷撃が身体を駆け抜け、二人は気を失った。
城内を風雷が駆け抜け、轟音が鳴り響くので、上階にいた女性陣も異変を感じる。自室から出た下の妹達であるイぺストとテュトが、
「なに?」
「うるさいわね、誰?」
と階下を覗き込む。螺旋階段に風が吹き抜け、小さな足の形に石壁に穴が開いていくので、危機感を覚えたテュトが手をかざし水の魔法を放った。
壁に水が滴った瞬間に、バチっと爆ぜる音がして、テュトは気を失う。
「え?」
戸惑うイぺストがテュトを見やれば、光の筋が走る。一方のイペストは光魔法を得意としていたので、辺りに迸る光の魔法を吸い上げた。
「素晴らしい」
と称賛の声があがる。
「何?」
とイペストは声の方を見るが、光の筋が走るのが分かるだけだ。
「だが、やりにくいな」
「じゃあ、僕が」
と聞こえて、イペストの背中には強い衝撃が当たって来た。
イペストには何かがうごめいているのは分かったが、目にも止まらぬ速さなので、補足できない。イペストはそのまま、床に昏倒した。
「アイン、貴婦人に手荒な真似をするな」
「ええ~!お父様のビリビリは手荒じゃないの?」
「不可抗力だな」
「これで、三、四だね!」
だがそこで、異変に気付いたミステアが鉄の壁を繰り出したことで、通路が塞がれた。ミステアは封印を得意としており、青銅の門を封印したのも、彼女だ。
壁には足形に穴が開くが、頑丈な鉄壁には足跡は一つ付かない。
「固いなぁ~もう少し抑制剤の効果が解けないと、きびしぃ」
ここへ来て、シルバーブロンドの髪と黄金の瞳を
持つ少年が姿を現した。
「強化魔法があればいいが。一旦、上に任せよう」その脇には、灰色の髪と灰褐色の瞳の少年も現れ出る。
その姿を見たミステアには、イヤな予感がしていた。シルバーブロンドの髪はティアトタン国の王族の証だ。自分達兄弟以外に、その姿を持つ者は、一人しかいなかった。
「フィア達はどうかなぁ?無事に侵入できたかな?」
「フィア」
いとものんびりと少年が放ったその単語に、ミステアは身震いする。
「あちらこそ、破壊力抜群だろう」
と灰褐色の髪の少年は、階上を見上げた。
ケアスは窓の外に広がる宵闇が、急に暁色に染まって来たのを見る。徐々に明るさを増していき、明るさに呼応するかのように、熱の気配を感じた。火の手こそあがらないが急速に当たりの気温が高くなるのだ。
「地下国の奴らが、懲りもせずに火を放ってきたな」とケアスは思う。
ケアスはテュト同様に水を操るのを得意としていたので、辺りに魔法を放ち、城内の熱を緩和させる。しかし、水は即座に蒸気と化し、空気中に消えていく。
さらにはパチパチと何かが焼ける音や匂いがしてきた。ただ、テラスから城の下の岩場を覗いても、誰一人見当たらない。
「ノイン、泣いて!そうすれば力が出やすいわ」
と謎の叱咤激励がどこからか飛んでくる。
「そんな急には無理だよ、お母様」
と子どもの声が聞こえた。
ケアスが回りを見回すと、
「上ですよ、お兄様」
と聞き覚えのある声が上方から聞こえる。
シルバーブロンドの髪を持ち、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女が、宙に浮いていた。抑制剤の効果が切れてきている少女の髪は、力を宿しキラキラと光る。
「テオドールの強引な追放には、驚きましたが。ご無事で何よりです」と少女は言いながら、見えない何かにつかまりながら、こちらを見おろしてくる。
「なぜ、お前がここにいる?」ケアスは、その少女、フィアを自分が悪意を持って排除しようとした記憶しかなかった。
「敵国の騎士様にお助けいただきました。お兄様、私は母国に戻ります」
「いくら化け物であっても。お前一人では、テオドール、そしてクロスト相手には敵わない」
「クロスト?」
「ここでもう一度、お前を排除することになるとはな」
とケアスは魔法を放ってくるのだ。フィアの片手に魔法があたり、フィアは捕まっていたノインのかぎ爪から手を離してしまう。
「えぇ!?ちょっとこれは!」と落ちそうになるフィアを、
「お母様!」
見えない何かが確保した。ケアスは隙を与えずに、魔法を放ち、さらに手元の剣を投げつけて来る。
「お母様に攻撃するなんて!いくら伯父様でも、ダメだよ!」
剣はフィアの鼻先をかすめたその瞬間に溶け、ケアスの身体を灼熱が駆けた。ケアスの皮膚から水蒸気があがる。
「なんだこれは?」
状況を把握できないケアスを尻目に、フィアはテラスへと飛び降りる。そして、兄と向き合った。
「お久しぶりです、お兄様。そして、少しだけお休みください」
フィアは記憶にある限り初めて、その拳で兄の懐を突いた。部屋の壁を貫通し、兄は吹っ飛んでいく。岩城から落下していく兄を見おろし、フィアは慌てて下を覗き込む
「えぇ、お兄様!?」
兄もまた、ラヌスの子どもであり、力を持つ者だ。さすがに絶命はしないだろう、と思っていたけれど、予想外に吹っ飛んでしまったのでフィアは心配になる。
しかし、辛うじて兄の魔法の気配を感じられたので、フィアはホッと胸を撫でおろす。
「お母様、ゼクスとアインと合流する約束だよ」とノインに言われて、フィアは気を取り直した。
二人がどこまで上って来たのかは分からない。ノインもまたフィアに続いてテラスへ降りてくる。フィアはノインの角の脇にある耳孔からカフスを取った。紅蓮のドラゴンが姿を現す。
「さすがにその姿じゃ、城の中では手狭になるわ」
フィアはノインに、首を後ろを噛みついて、エナジーを吸い出すように言う。そうすればノインは人の姿に戻れる。フィアが首の後ろを指でつついてみせると、ノインは首を振った。
「お母様を噛むのは、イヤだよ」
「もう、我がまま。じゃあ、爪でツンツンでもいいから」
言われて渋々とノインは、フィアの首筋をつつく。そして流れ出て来たエナジーを手の先から浴びていけば、ノインは人の姿に戻っていった。仄かに感じてはいたけれど、ノインの髪の色と瞳の色は、ゼクスのそれとそっくりだ。
少年の姿になったことで、より似ているように見える。違うのは肌の色のみだ。ノインは、地下国の者の特徴である褐色の肌を受け継いでいた。
不思議だとは思うけれど、今は考えている場合じゃない、と思い、フィアはノインと共に、城の螺旋階段を降りていく。
石を投擲しているのは、イオお兄様とクレオお兄様に違いない、とフィアは思っている。二人の兄は魔力はそれほど持たないが、力が強いことで知られていた。岩城の中は、住居以外は所々岩肌がそのまま残った洞窟のようにもなっている。
歩いていくと足音が反響する。フィアとノインが歩いていくと、轟音がとどろき、回廊の中を巨大な岩が転がって来た。
バウンドするように転がって来る音が、何重にも響いている。
「一撃じゃ、難しいかもしれない」フィアが腕を振りかぶって、手数をかけないで片づけようとすれば、
「お母様は、一撃でどうにかしようとしすぎだよ」とノインに冷静に諫められてしまう。
「冷静な言い方が、お父様みたいね」とフィアが言えば、ノインの顔がクシャっと歪む。
「お父様には、絶対に、似てない!」
転がってきた大岩をフィアが試しに砕いてみれば、後から続々と転がって来るのだった。
「キリがなさそう」
とフィアが呟けば、
「お母様は少し下がっていて」と言って、ノインは両掌を前に向けて差し出した。
「あ、ノイン、ちょっと待って!」
と静止の声を上げる前に、ノインは掌から焔の帯を放つ。凄まじい熱と、爆風がやって来てフィアは後ろに飛ばされそうになる。辛うじて足で踏ん張りをかけた。
ノインの手が触れていた岩はドロドロに溶けてしまい、後から転がって来た岩々も飲み込まれるようにして、溶岩と化していく。追い打ちをかけるようにして、溶岩の熱を流し込んでいき、どこまでも溶かしていくのだった。
「ほら、お父様とは全然違うよ」とノインは言うけれど、
「いえ。強引なやり口は、本当にそっくり」とフィアは呟く。
イオとクレオは高熱に耐えかねて、回廊の窓から城の外へと飛び降りて行った。残るは、四人の姉達だ。回廊の先に流れていく溶岩を見つめながら、
「ネモお姉様は、殿方からすればやりにくい相手ね」とフィアは思う。
据え膳上げ膳食わぬは、男のなんとやら、ならば。
イテアやレミア、ミステア、ネモやイペスト、テュトなどのフィアの姉達は、争いがないことに越したことはないでしょ?とのんびりと構えていた。
フィアの兄や姉たちは岩山を切り崩しながら、地下国の街に攻撃を仕掛けている。岩を放れば、松明が飛んでくるのは平常のことだ。
しかし今日は、松明一つ飛んでこない。
自分たちの攻撃により、地下国の街が壊滅した可能性をケアスは思った。とはいっても、散々苦労しているのに、ここに来て簡単に壊滅するとは思えない。
青銅の門は、現在女性陣の封印魔法で封じているため、地上から邪魔な軍の司令官が降りて来ている可能性はほとんどない。どこかの国の、迷い人が時折地下国へたどり着く来ることはあるが、大抵は地下国の見せる幻想に疲れ果てているものばかりだ。何か事を成すとは思えなかった。
異様な静けさを不審に思ったケアスは、ヒュリオやベアスなど下の弟達に、
「城の入り口付近を見て来てくれ」
と言いつける。
岩山をくりぬいて作った巨大な城の入り口には、ケアスが一族の紋を彫っていた。ティアトタン国の城門にあるのと同じものだ。
城の石扉はティアトタン国の城門と同様に、一族の者が持つ強大な力を与えなければ、開かないようになっていた。今や自分たちしか、開けることは出来ない、とケアス達は思っていたのだ。
ヒュリオやベアス達が、回廊を降り、城の入り口に降りて行ったとき、地響きのような音がホールへと響いた。城の石扉を叩く音だ。最初は何かがぶつかるような音と衝撃だったが、その後城全体が揺れるような大きな揺れがあった。
「なんだ?」
「すごい音だ」とヒュリオとベアスが声を上げたときには、石扉は真っ二つに割れ、吹き飛んだ。強い風が吹いてきて、入り口のホールの端まで飛ばされてしまう。
「こんばんは~!失礼しまーす!」
と元気のいい声が飛んできて、もう一度烈風が吹いた。ヒュリオとベアスは、やむことのない風に、壁に張りつけにされてしまう。
そして、ホール内に小さな人影とそれよりはやや大きめの人影がやって来る。
「一人、二人。ああ、先は長いな」とため息まじりの気だるそうな声がしたかと思えば、鮮烈な雷撃が身体を駆け抜け、二人は気を失った。
城内を風雷が駆け抜け、轟音が鳴り響くので、上階にいた女性陣も異変を感じる。自室から出た下の妹達であるイぺストとテュトが、
「なに?」
「うるさいわね、誰?」
と階下を覗き込む。螺旋階段に風が吹き抜け、小さな足の形に石壁に穴が開いていくので、危機感を覚えたテュトが手をかざし水の魔法を放った。
壁に水が滴った瞬間に、バチっと爆ぜる音がして、テュトは気を失う。
「え?」
戸惑うイぺストがテュトを見やれば、光の筋が走る。一方のイペストは光魔法を得意としていたので、辺りに迸る光の魔法を吸い上げた。
「素晴らしい」
と称賛の声があがる。
「何?」
とイペストは声の方を見るが、光の筋が走るのが分かるだけだ。
「だが、やりにくいな」
「じゃあ、僕が」
と聞こえて、イペストの背中には強い衝撃が当たって来た。
イペストには何かがうごめいているのは分かったが、目にも止まらぬ速さなので、補足できない。イペストはそのまま、床に昏倒した。
「アイン、貴婦人に手荒な真似をするな」
「ええ~!お父様のビリビリは手荒じゃないの?」
「不可抗力だな」
「これで、三、四だね!」
だがそこで、異変に気付いたミステアが鉄の壁を繰り出したことで、通路が塞がれた。ミステアは封印を得意としており、青銅の門を封印したのも、彼女だ。
壁には足形に穴が開くが、頑丈な鉄壁には足跡は一つ付かない。
「固いなぁ~もう少し抑制剤の効果が解けないと、きびしぃ」
ここへ来て、シルバーブロンドの髪と黄金の瞳を
持つ少年が姿を現した。
「強化魔法があればいいが。一旦、上に任せよう」その脇には、灰色の髪と灰褐色の瞳の少年も現れ出る。
その姿を見たミステアには、イヤな予感がしていた。シルバーブロンドの髪はティアトタン国の王族の証だ。自分達兄弟以外に、その姿を持つ者は、一人しかいなかった。
「フィア達はどうかなぁ?無事に侵入できたかな?」
「フィア」
いとものんびりと少年が放ったその単語に、ミステアは身震いする。
「あちらこそ、破壊力抜群だろう」
と灰褐色の髪の少年は、階上を見上げた。
ケアスは窓の外に広がる宵闇が、急に暁色に染まって来たのを見る。徐々に明るさを増していき、明るさに呼応するかのように、熱の気配を感じた。火の手こそあがらないが急速に当たりの気温が高くなるのだ。
「地下国の奴らが、懲りもせずに火を放ってきたな」とケアスは思う。
ケアスはテュト同様に水を操るのを得意としていたので、辺りに魔法を放ち、城内の熱を緩和させる。しかし、水は即座に蒸気と化し、空気中に消えていく。
さらにはパチパチと何かが焼ける音や匂いがしてきた。ただ、テラスから城の下の岩場を覗いても、誰一人見当たらない。
「ノイン、泣いて!そうすれば力が出やすいわ」
と謎の叱咤激励がどこからか飛んでくる。
「そんな急には無理だよ、お母様」
と子どもの声が聞こえた。
ケアスが回りを見回すと、
「上ですよ、お兄様」
と聞き覚えのある声が上方から聞こえる。
シルバーブロンドの髪を持ち、エメラルドグリーンの瞳を持つ少女が、宙に浮いていた。抑制剤の効果が切れてきている少女の髪は、力を宿しキラキラと光る。
「テオドールの強引な追放には、驚きましたが。ご無事で何よりです」と少女は言いながら、見えない何かにつかまりながら、こちらを見おろしてくる。
「なぜ、お前がここにいる?」ケアスは、その少女、フィアを自分が悪意を持って排除しようとした記憶しかなかった。
「敵国の騎士様にお助けいただきました。お兄様、私は母国に戻ります」
「いくら化け物であっても。お前一人では、テオドール、そしてクロスト相手には敵わない」
「クロスト?」
「ここでもう一度、お前を排除することになるとはな」
とケアスは魔法を放ってくるのだ。フィアの片手に魔法があたり、フィアは捕まっていたノインのかぎ爪から手を離してしまう。
「えぇ!?ちょっとこれは!」と落ちそうになるフィアを、
「お母様!」
見えない何かが確保した。ケアスは隙を与えずに、魔法を放ち、さらに手元の剣を投げつけて来る。
「お母様に攻撃するなんて!いくら伯父様でも、ダメだよ!」
剣はフィアの鼻先をかすめたその瞬間に溶け、ケアスの身体を灼熱が駆けた。ケアスの皮膚から水蒸気があがる。
「なんだこれは?」
状況を把握できないケアスを尻目に、フィアはテラスへと飛び降りる。そして、兄と向き合った。
「お久しぶりです、お兄様。そして、少しだけお休みください」
フィアは記憶にある限り初めて、その拳で兄の懐を突いた。部屋の壁を貫通し、兄は吹っ飛んでいく。岩城から落下していく兄を見おろし、フィアは慌てて下を覗き込む
「えぇ、お兄様!?」
兄もまた、ラヌスの子どもであり、力を持つ者だ。さすがに絶命はしないだろう、と思っていたけれど、予想外に吹っ飛んでしまったのでフィアは心配になる。
しかし、辛うじて兄の魔法の気配を感じられたので、フィアはホッと胸を撫でおろす。
「お母様、ゼクスとアインと合流する約束だよ」とノインに言われて、フィアは気を取り直した。
二人がどこまで上って来たのかは分からない。ノインもまたフィアに続いてテラスへ降りてくる。フィアはノインの角の脇にある耳孔からカフスを取った。紅蓮のドラゴンが姿を現す。
「さすがにその姿じゃ、城の中では手狭になるわ」
フィアはノインに、首を後ろを噛みついて、エナジーを吸い出すように言う。そうすればノインは人の姿に戻れる。フィアが首の後ろを指でつついてみせると、ノインは首を振った。
「お母様を噛むのは、イヤだよ」
「もう、我がまま。じゃあ、爪でツンツンでもいいから」
言われて渋々とノインは、フィアの首筋をつつく。そして流れ出て来たエナジーを手の先から浴びていけば、ノインは人の姿に戻っていった。仄かに感じてはいたけれど、ノインの髪の色と瞳の色は、ゼクスのそれとそっくりだ。
少年の姿になったことで、より似ているように見える。違うのは肌の色のみだ。ノインは、地下国の者の特徴である褐色の肌を受け継いでいた。
不思議だとは思うけれど、今は考えている場合じゃない、と思い、フィアはノインと共に、城の螺旋階段を降りていく。
石を投擲しているのは、イオお兄様とクレオお兄様に違いない、とフィアは思っている。二人の兄は魔力はそれほど持たないが、力が強いことで知られていた。岩城の中は、住居以外は所々岩肌がそのまま残った洞窟のようにもなっている。
歩いていくと足音が反響する。フィアとノインが歩いていくと、轟音がとどろき、回廊の中を巨大な岩が転がって来た。
バウンドするように転がって来る音が、何重にも響いている。
「一撃じゃ、難しいかもしれない」フィアが腕を振りかぶって、手数をかけないで片づけようとすれば、
「お母様は、一撃でどうにかしようとしすぎだよ」とノインに冷静に諫められてしまう。
「冷静な言い方が、お父様みたいね」とフィアが言えば、ノインの顔がクシャっと歪む。
「お父様には、絶対に、似てない!」
転がってきた大岩をフィアが試しに砕いてみれば、後から続々と転がって来るのだった。
「キリがなさそう」
とフィアが呟けば、
「お母様は少し下がっていて」と言って、ノインは両掌を前に向けて差し出した。
「あ、ノイン、ちょっと待って!」
と静止の声を上げる前に、ノインは掌から焔の帯を放つ。凄まじい熱と、爆風がやって来てフィアは後ろに飛ばされそうになる。辛うじて足で踏ん張りをかけた。
ノインの手が触れていた岩はドロドロに溶けてしまい、後から転がって来た岩々も飲み込まれるようにして、溶岩と化していく。追い打ちをかけるようにして、溶岩の熱を流し込んでいき、どこまでも溶かしていくのだった。
「ほら、お父様とは全然違うよ」とノインは言うけれど、
「いえ。強引なやり口は、本当にそっくり」とフィアは呟く。
イオとクレオは高熱に耐えかねて、回廊の窓から城の外へと飛び降りて行った。残るは、四人の姉達だ。回廊の先に流れていく溶岩を見つめながら、
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