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第四部
王族へのまなざし
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貧民街とかつては言われていた地域に、隠れ家はあった。ひしめき合うように立ち並んだ家々の路地を、アルフレートはすいすいと進んでいく。進んでいった先には広場のある平屋の建物が見えた。
建物の中には、様々な人たちが入り乱れている。子どもから大人まで、年齢層や恐らく身分も様々な人たちが集まっていた。床に気だるそうに寝そべっている者達から、広場で走り回っている子ども達まで、思い思いに過ごしているようだ。
「この頃は、食物が不作になってきているし、魔法のエネルギーが枯渇しはじめていたせいで、生活に困る人たちが増えてきているんだ。立場上、表立っては協力できないが、ビアンカと協力して駆け込み場所と食料を提供している」
建物内に入っていけば、肌の色も目の色も様々な人々がいるので、他国からも流れてきて者もいるようだ。
「ビアンカも毎日来ているから、ここにいればビアンカに会えると思う」
とアルフレートは言うのだ。
「東方や北方の者もいるようだな。衣服も様々だ」とゼクスは言う。
「そうね、話を聞いてみましょうか?」
つい、心浮きたつフィアが声をかけようとしたところで、アルフレートが「そろそろ報告に戻らなければ、とにかくフィアが帰って来てくれて良かった」と言葉を残し去って行く。
褐色の肌に赤毛の、深紅の瞳を持つ少女を見つけた。本来のフィアよりは年下のはずだが、今のフィアの姿では年の頃は同じくらいだ。紗のドレスを纏った姿は美しい。
「初めまして、フィアと言うの。あなたの衣装とても美しいわ」とフィアが言えば、少女は驚いたようにして、
「これは私の国の衣装です。あなたは、その髪の色、瞳の色からすれば王族の方ですか?」と少し違ったイントネーションで話す。少女の言葉を受けて、周りの人々が一斉にフィアの方へと意識を向けるのが分かった。
「王族」
と呻き声のような声をあげる者、射貫くような視線で見てくる者、ひそひそを声をひそめる者など、様々な反応がある。それは、いずれも好意的なものではないのは分かった。
そして、フィアの方に何かが飛んでくる。
石だ、とフィアには分かるし、壊すことも除けることも出来た。
――――でも、それでいいの?
これが率直な反応なら、受けとめる方がいい。石を受けとめることにすれば、そばにいたゼクスが手で受けとめる。
「あ」
とフィアは声を出す。
「悪いな、見て見ぬふりは出来ない」
と言うのだ。
「王族とやら、この状況をどう思っている?」
と石を投げて来た男性は言ってくる。
「個人的には、様々な方々が集まってくださっているこの状況は、とても興味深いです。不謹慎かもしれませんが」
とフィアがそのままの感情を伝えれば、
「随分と軽薄な感想だな。物事の重要性を知らない」
と男性は吐き捨てた。
たしかに自分は物事の重要性を分かっていない、とフィアは思う。
国にいるときに自分は城から出たこともなかった、とフィアは記憶していた。物事の重要性どころか、国の状況を何一つ知らないのだ。
「各地の方々、我が国に来ていただき嬉しいです。ありがとうございます。そして、我が国の方々。追放された情けない身の上ですが、こうして再び相まみえたこと嬉しく思います」
と言ってフィアは四方に向かって頭を下げた。
「フィア様」
と小さく声をあげる女性がいる。
「土地が荒れ果てるのも、魔法のエネルギーが枯渇しているのも、本意ではありません。今は恐らく一時的に地下国の争いは停戦状態ですが、争いを止める必要があります」
「では、どうする」
「争いを止めましょう。そのためにまずは、あなた達の力で私を女王にしてください」
フィアが口にすると、周りの人が水を打ったようにして静まり返った。
「お前は何を言っているのか分かっているのか?」
「分かっています。私を女王にしてください。あなた方が求める女王にはどのような器が必要ですか?何も分からない無知な私に、教えていただきたいのです」
「王族ならば、ご自分で考えるべきではないのでしょうか」と先の少女が口にすれば、そうだ、そうだ、と声がかかる。
「私が一人で頭をひねったところで、大したものは出てきません。皆さまにご協力いただかなければ」
「お前は協力するのにふさわしい者だとは、思わない」
「では、私ではなくてもよいのです。今の横暴な王から王位を奪い、争いを止めたい方はぜひ、王になっていただきましょう。お心当たりがある方を探しませんか?」
急にやって来た娘がとんちんかんなことを言っている、と遠巻きに見ている者も多い中、フィアは、
「あなたはどうですか?あるいは、王としてふさわしい方をご存じありませんか?ところで、あなたはどこからいらしたのです?あなたのこと、色々教えてください!」
と次から次へと声をかけていくのだった。
そのバタバタと忙しい動きは、まさに、
「わーい、遊ぼうみんなぁー!」
といって現在進行形で子ども達と遊びまわっているアインと同じだ。
その目まぐるしい動きに、何だこのうるさい娘と子どもは、とその場の者達は怪訝な眼差しを向けていく。そうしているうちに、
「フィア!?帰っていたの?」
とビアンカがやって来て、一旦その場は収まる。
「ビアンカさん、いつもありがとうございます」と声をかける者も多い。さすがビアンカ、信頼を得ているのね、と思いながら、
「ビアンカ!久しぶり!無事でよかった!」
とフィアはビアンカに抱きついていく。ビアンカがうぐ、と小さく声をもらしたのを、フィアは気づいていない。
ビアンカもフィアとアインの二人の姿を見て、アルフレート同様に、即座に親子関係に気づいた。あの時の黄金の瞳の赤子だということにも、気づく。
例によって魔法によって口にすることは出来なかったけれど、テオドールの横暴なやり方に一矢報いることは出来る、とビアンカは思うのだ。
そして、背骨や肋骨がぎしっと音を立ててきたので、ビアンカはフィアにこっそり抑制魔法をほどこした。
「おかえりフィア。テオの横暴な王政はこりごり。さっさと王位奪還の作戦を立てましょう」
前置きもなく、言ってくるビアンカにフィアは驚く。けれど、一方のビアンカからすれば、フィアが国に帰って来て何もしないわけがない、と思うのだった。
同じとき、ゼクスとノインは、周りで怪しい動きをしていた者を取り押さえていた。フィアが帰国したことを知り、テオドールや宰相、軍司令官のギルバートへと知らせに走ろうとした者が数名いる。
まずはノインが髪の毛の先や衣装の先だけ燃やしして足止めして、ゼクスはささやかな電撃で気絶させる。
気絶させた者達を、入り口に置かれていた積み荷を縛っていた縄で縛りあげて、捕獲しておく。二人が無言で息を合わせて行うので、周りの者は何が起こっているのか分からないうちに、完了させていた。
「仕事が早いな」とゼクスが言えば、「ゼクスこそ」とノインが言う。
二人が親子関係であるとは、はた目には見えない。せいぜい、兄弟だ。ただ、その阿吽の呼吸には目を見張るものがある。
ビアンカとアインをともなったフィアが戻って来たときには、捕縛された者達が数十名にも上っていた。
「何でそんなに捕縛されているの?その人たちは一体?」
フィアが驚きの声をあげれば、
「ほとんどが軍の関係者みたいね。あとは、個人的に情報を売って褒章を得たい人たちだと思う」
とビアンカが答えた。
ビアンカはその後、ゼクスとノインの姿を認める。
「久しぶり、ノイン。そして、初めまして、私はビアンカ。あなたはフィアの」
「ゼクスが私の?」
いえ、とビアンカは言葉を飲み込み、
「リュオクス国の騎士様。フィアを護ってくれてありがとう」と言うのだった。
「いや、フィアには王都で協力してもらった。大人しく護られるだけの姫君ではないな。そして噂に事欠かない、興味深い姫君だ」
と言うので、ビアンカはクスクスと笑う。
「我が国の姫は、素晴らしいでしょう?」
「ああ、魅力的だ。魅せられてやまない」
屈託なく言うゼクスに、ビアンは目を見張る。
「すごい、かの王様とは随分と対照的な方。情熱的ね」
「二人して初対面なのに、随分と、親し気ね?何の話をしているの?」
「王位奪還作戦の話をしていたの」
「そうなの?」
「ああ、情報を集めて作戦開始にしよう」とゼクスも言う。
建物の中には、様々な人たちが入り乱れている。子どもから大人まで、年齢層や恐らく身分も様々な人たちが集まっていた。床に気だるそうに寝そべっている者達から、広場で走り回っている子ども達まで、思い思いに過ごしているようだ。
「この頃は、食物が不作になってきているし、魔法のエネルギーが枯渇しはじめていたせいで、生活に困る人たちが増えてきているんだ。立場上、表立っては協力できないが、ビアンカと協力して駆け込み場所と食料を提供している」
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「ビアンカも毎日来ているから、ここにいればビアンカに会えると思う」
とアルフレートは言うのだ。
「東方や北方の者もいるようだな。衣服も様々だ」とゼクスは言う。
「そうね、話を聞いてみましょうか?」
つい、心浮きたつフィアが声をかけようとしたところで、アルフレートが「そろそろ報告に戻らなければ、とにかくフィアが帰って来てくれて良かった」と言葉を残し去って行く。
褐色の肌に赤毛の、深紅の瞳を持つ少女を見つけた。本来のフィアよりは年下のはずだが、今のフィアの姿では年の頃は同じくらいだ。紗のドレスを纏った姿は美しい。
「初めまして、フィアと言うの。あなたの衣装とても美しいわ」とフィアが言えば、少女は驚いたようにして、
「これは私の国の衣装です。あなたは、その髪の色、瞳の色からすれば王族の方ですか?」と少し違ったイントネーションで話す。少女の言葉を受けて、周りの人々が一斉にフィアの方へと意識を向けるのが分かった。
「王族」
と呻き声のような声をあげる者、射貫くような視線で見てくる者、ひそひそを声をひそめる者など、様々な反応がある。それは、いずれも好意的なものではないのは分かった。
そして、フィアの方に何かが飛んでくる。
石だ、とフィアには分かるし、壊すことも除けることも出来た。
――――でも、それでいいの?
これが率直な反応なら、受けとめる方がいい。石を受けとめることにすれば、そばにいたゼクスが手で受けとめる。
「あ」
とフィアは声を出す。
「悪いな、見て見ぬふりは出来ない」
と言うのだ。
「王族とやら、この状況をどう思っている?」
と石を投げて来た男性は言ってくる。
「個人的には、様々な方々が集まってくださっているこの状況は、とても興味深いです。不謹慎かもしれませんが」
とフィアがそのままの感情を伝えれば、
「随分と軽薄な感想だな。物事の重要性を知らない」
と男性は吐き捨てた。
たしかに自分は物事の重要性を分かっていない、とフィアは思う。
国にいるときに自分は城から出たこともなかった、とフィアは記憶していた。物事の重要性どころか、国の状況を何一つ知らないのだ。
「各地の方々、我が国に来ていただき嬉しいです。ありがとうございます。そして、我が国の方々。追放された情けない身の上ですが、こうして再び相まみえたこと嬉しく思います」
と言ってフィアは四方に向かって頭を下げた。
「フィア様」
と小さく声をあげる女性がいる。
「土地が荒れ果てるのも、魔法のエネルギーが枯渇しているのも、本意ではありません。今は恐らく一時的に地下国の争いは停戦状態ですが、争いを止める必要があります」
「では、どうする」
「争いを止めましょう。そのためにまずは、あなた達の力で私を女王にしてください」
フィアが口にすると、周りの人が水を打ったようにして静まり返った。
「お前は何を言っているのか分かっているのか?」
「分かっています。私を女王にしてください。あなた方が求める女王にはどのような器が必要ですか?何も分からない無知な私に、教えていただきたいのです」
「王族ならば、ご自分で考えるべきではないのでしょうか」と先の少女が口にすれば、そうだ、そうだ、と声がかかる。
「私が一人で頭をひねったところで、大したものは出てきません。皆さまにご協力いただかなければ」
「お前は協力するのにふさわしい者だとは、思わない」
「では、私ではなくてもよいのです。今の横暴な王から王位を奪い、争いを止めたい方はぜひ、王になっていただきましょう。お心当たりがある方を探しませんか?」
急にやって来た娘がとんちんかんなことを言っている、と遠巻きに見ている者も多い中、フィアは、
「あなたはどうですか?あるいは、王としてふさわしい方をご存じありませんか?ところで、あなたはどこからいらしたのです?あなたのこと、色々教えてください!」
と次から次へと声をかけていくのだった。
そのバタバタと忙しい動きは、まさに、
「わーい、遊ぼうみんなぁー!」
といって現在進行形で子ども達と遊びまわっているアインと同じだ。
その目まぐるしい動きに、何だこのうるさい娘と子どもは、とその場の者達は怪訝な眼差しを向けていく。そうしているうちに、
「フィア!?帰っていたの?」
とビアンカがやって来て、一旦その場は収まる。
「ビアンカさん、いつもありがとうございます」と声をかける者も多い。さすがビアンカ、信頼を得ているのね、と思いながら、
「ビアンカ!久しぶり!無事でよかった!」
とフィアはビアンカに抱きついていく。ビアンカがうぐ、と小さく声をもらしたのを、フィアは気づいていない。
ビアンカもフィアとアインの二人の姿を見て、アルフレート同様に、即座に親子関係に気づいた。あの時の黄金の瞳の赤子だということにも、気づく。
例によって魔法によって口にすることは出来なかったけれど、テオドールの横暴なやり方に一矢報いることは出来る、とビアンカは思うのだ。
そして、背骨や肋骨がぎしっと音を立ててきたので、ビアンカはフィアにこっそり抑制魔法をほどこした。
「おかえりフィア。テオの横暴な王政はこりごり。さっさと王位奪還の作戦を立てましょう」
前置きもなく、言ってくるビアンカにフィアは驚く。けれど、一方のビアンカからすれば、フィアが国に帰って来て何もしないわけがない、と思うのだった。
同じとき、ゼクスとノインは、周りで怪しい動きをしていた者を取り押さえていた。フィアが帰国したことを知り、テオドールや宰相、軍司令官のギルバートへと知らせに走ろうとした者が数名いる。
まずはノインが髪の毛の先や衣装の先だけ燃やしして足止めして、ゼクスはささやかな電撃で気絶させる。
気絶させた者達を、入り口に置かれていた積み荷を縛っていた縄で縛りあげて、捕獲しておく。二人が無言で息を合わせて行うので、周りの者は何が起こっているのか分からないうちに、完了させていた。
「仕事が早いな」とゼクスが言えば、「ゼクスこそ」とノインが言う。
二人が親子関係であるとは、はた目には見えない。せいぜい、兄弟だ。ただ、その阿吽の呼吸には目を見張るものがある。
ビアンカとアインをともなったフィアが戻って来たときには、捕縛された者達が数十名にも上っていた。
「何でそんなに捕縛されているの?その人たちは一体?」
フィアが驚きの声をあげれば、
「ほとんどが軍の関係者みたいね。あとは、個人的に情報を売って褒章を得たい人たちだと思う」
とビアンカが答えた。
ビアンカはその後、ゼクスとノインの姿を認める。
「久しぶり、ノイン。そして、初めまして、私はビアンカ。あなたはフィアの」
「ゼクスが私の?」
いえ、とビアンカは言葉を飲み込み、
「リュオクス国の騎士様。フィアを護ってくれてありがとう」と言うのだった。
「いや、フィアには王都で協力してもらった。大人しく護られるだけの姫君ではないな。そして噂に事欠かない、興味深い姫君だ」
と言うので、ビアンカはクスクスと笑う。
「我が国の姫は、素晴らしいでしょう?」
「ああ、魅力的だ。魅せられてやまない」
屈託なく言うゼクスに、ビアンは目を見張る。
「すごい、かの王様とは随分と対照的な方。情熱的ね」
「二人して初対面なのに、随分と、親し気ね?何の話をしているの?」
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