別れを告げたら、赤い紐で結ばれて・・・ハッピーエンド

KUMANOMORI(くまのもり)

文字の大きさ
10 / 21

友達化計画

しおりを挟む


 スタジオを出て、社用車に二人乗り込む。助手席に乗るのは嫌だったので、始めはごねたものの、距離感的に後部座席にのるのは、難しいと分かって観念した。
 助手席の気まずさをごまかすために、指の青い紐をじっと見つめていると、
「那々巳はずっと慧梓が好きだったよね」
 と唐突な話が始める。
「え?そ、そうだったかな」
 好きだと意識する以前に仲が良かったし、付き合い始めてから好きだと実感したように思う。
「ずっと慧梓だったよ。慧梓とは楽しそうに話すけど、オレとは楽しくなさそうだった」
「鳥府くんは他の女の子とも付き合っていたし、そりゃ楽しくないよ」
「慧梓もモテてたと思うけど。那々巳と仲良くても、彼女いたこともあったはずだよね」
 私と鳥府くんとの仲を取り持つ流れになってから、慧ちゃんは積極的に彼女を作るようになった。だからこそ、私は鳥府くんとの関係を続けなければ、と思ったのだとも思う。友達の重荷になりたくはなかったから。

「私はそのとき別に、慧ちゃんと付き合ってなかったし。彼女がいたかどうかは、関係ないよ」
「他の子からもモテるのが好きなんじゃないの?」
「モテモテなのに、自分を選んでくれてハッピーみたいなの、ないよ。どの子も自分が一番になりたいと思ってるし、競ってる。でも私はそういうの、ホストにみつぐのと変わらないし、満たされなくて辛かった」
「オレは那々巳が好きだったけどな」
「そういうの、いらないな」
「一番好きだったけど」
「比べられている時点で、イヤ。それに桜庭先輩と結婚した時点で、一番じゃないよ」
「だって、那々巳がモテるオレがいいって言ったんじゃん。特権感があるって。だから、出来るだけ女の子からモテるようにしてきたのに」
「なにそれ、意味分からない」
 青い紐が引っ張られて、鳥府くんの顔がこちらに向く。顔が近づく気配がしたので、右手でその鼻先をパチンをはじいた。

「いた」
 と鳥府くんは声をあげる。
「節操はないの?」それに運転に集中して、と付け加えた。
「過剰防衛だよ。さすがにキスは」
「しないね?」
「したかもしれないけど」
 眉根を寄せて、少し申し訳なさそうに言う。それもポーズのようにも見えた。ため息がでてしまう。鳥府潤という人は、どうしてこんな風に軽いんだろう。どこまでも軽い。
「私は、鳥府くんと違って浮気しないから」
「じゃあ、那々巳と仲良くするのはどうすればいいの?」
「え?」
「大学のときもいつの間にか音信不通になってたし、会えなくなった。そしたらいつの間にか慧梓と付き合ってるなんて、ひどいよ」
「結婚したのに、なに言ってるの?」
「関係ないよ」
「いや、あるから。不倫はもっとダメだから」
「リルは嘘ついてたんだよ。一度結婚生活をしたら、すぐにオレとのことを諦めて離婚するって。なのに、中々別れてくれなかった」
「え、理解できない。その提案を出すのも、それを信じるのも変」
「結婚したら、今度は子どもが欲しいって言うし。子どもはイヤだって言えば、今度は収入アップのために今の会社に転職しろって言うし、とことんうるさくて」
 開いた口がふさがらない、といった気分をたった今経験する。

「ことばを選ばないで言わせてもらえるなら。鳥府くんって、バカ?」
「あんまり言われたことないけどなあ、もういいわ、とはよく女の子には言われたけど。でもリルには、バカって言われたかも」
「別れて正解だね、先輩からすれば」
「結婚が原因だったなら、那々巳はオレと離れる理由ないよね」
「いや、あるでしょ」
「仲良くしてくれないんだ?」
「仲良くってどういうの?」
「楽しく話をしてくれる、とか。目を見て話してくれるとか。そっぽ向かないで可愛くキスしてくれるとか、セックスでちゃんと気持ちいい顔して……」
「後半二個以外はできるよ。友達になればいんじゃない?」
「他はもう、してくれないの」
「全然喜んでなかったくせに」
「だって、那々巳が全然楽しそうじゃなかったし。していると絶対顔見てくれないし。泣いちゃうときもあるし。それにああやって無理矢理アソコ使……」
「も、もう、その話はしないで!その世界線はもうないから!友達とそういう話する趣味ないし。それでよければ、仲良くできるよ」
「慧梓とはするくせに」
「うるさいな!」
 私がそう言ったとたんに、パチンと弾けて中指の紐が取れた。私たちは顔を見合わせる。

「取れちゃったかあ」
 と鳥府くんは残念そうに言うけれど、私は心底ホッとした。紐が取れたこともホッとしたけれど、鳥府くんとこんな風にフラットに話せる状態にも、安心したのもある。
「友達としてなら、仲良くしよう」
 私は鳥府くんとの距離感をそう決めることにした。鳥府くんは微妙に納得をしていなかったようだけれど、「今のところは、それでいいよ」と言う。

 その後、家に送り届けてくれただけど、鳥府くんには「まだここに住んでるの?」と驚かれた。
「知ってれば、ここに来たのに」と言われる。
 知られていなくてよかったと思った。やっぱり引っ越しておくべきだったのかもしれない。

 なんにしても、その日はなんとか無事に終わったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

元婚約者が修道院送りになった令嬢を呼び戻すとき

岡暁舟
恋愛
「もう一度やり直そう」 そんなに上手くいくのでしょうか???

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...