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ズドンと落され
しおりを挟む夜家に帰ってから、慧ちゃんからの連絡に返信する。
「潤とは平気だった?」と聞かれて「平気だよ」と答えつつ、「慧ちゃんも順調?」と聞いてみた。
「順調。勉強にはなるけど、那々に会えないのはキツイ」とカワイイことを言ってくれる。
慧ちゃんの愛情表現は純粋に嬉しい。私のことを思ってくれているのを感じるから。
ただ、どうしても気になっているのは、友達が教えてくれた浮気の情報だ。女性と一緒にいるところを目撃されているらしいのだ。一方で慧ちゃんは事情を話してくれないから、今は判断に迷ってしまう。
もし、浮気をしていたらやっぱり別れるかもしれない。私以外の人に同じように触れていたとすれば、私は耐えられないと思う。潤くんのときのことを思い出してしまうから。
翌日はイメージ映像を何本か撮りたいとの話だったので、街中をランニングする映像やジムでトレーニングする映像などを撮影する。レッスン風景も欲しいと言われたので、ジムに戻って一回だけ短いレッスンを行った。
レッスンに出てくれるのは、スタッフさんであったり、同じトレーナーであったりする。人に教えるのが得意な方ではないけれど、身体の変化を楽しんでくれる人たちを見てくれると、嬉しい。それだけのためにトレーナーを続けているように思う。
レッスン風景の撮影が終わったあとに、着替えのために一度スタッフルームに行くと、女性トレーナーの一人がこそッと話しかけてきた。「玖珠さんと一緒に来ている人、めちゃくちゃイケメンだね」と言う。
「mousaの人だよ、紹介しようか?」と私は言った。
トレーナーはぜひ、と言うので、私は鳥府くんにトレーナーを紹介する。
鳥府くんはいつものマイペースな感じで挨拶をするだけなのに、トレーナーはもはやメロメロになっていた。中々すごいな、と思う。
その後、紹介してくれてトレーナーにお礼を言われるのだけれど、そう言えば、と言った流れで、三河トレーナー昨日の夜見たよ、という話が出る。彼女は私と慧ちゃんが付き合っていることを知らないのだ。
「仕事帰りにご飯食べて帰るときに、たまたま見かけて。ロイヤルキングホテルに女の人?と入っていったんだよね」というのだった。
信じられない、という思いだったので「人違いってことはないの?」と私は言う。
「三河トレーナーって目立つし、間違いないと思うけどな。でも少し違和感はあった気もするけど、なんでだろ?それに、女の人見たことある気もするんだよね」
「そうなんだ」
私はその瞬間からズドンと、穴に落とされたかのような気持ちになる。だって昨日はあんなに優しいメッセージをくれていたのに、ほとんど同時間に女性とホテルに行っていた?もちろん、ラウンジで話をしたり、食事をしたりすることだってあると思う。それをちゃんと話してくれれば、いいのに。
また聞いても何もしていないって言うだけなのかな。
私の心には暗雲が立ち込めていた。だから、鳥府くんがスタジオに戻ろうと声をかけてきたときにも、から返事をしていたと思う。鳥府くんの運転でスタジオに戻る途中も、私は慧ちゃんのことを考えていた。連絡してみようかと思うけど、今は仕事中だし連絡はつかないと思う。
それに、聞いたところで話してくれる保証はない。
「那々巳、キスするよ」
「え?」
顔を近づけてくるので、思わず手のひらで弾いた。
「いた」
と鳥府くんは言い、顔を離す。
「何するの?」
「ずっと上の空だったよ。オレと付き合う?と聞いてもうん、この後ホテル行ってイチャイチャしよう?って言ってもうん。って言った」
「嘘ばっかり」
「元気ないね」
「そんなことないよ」
「前の那々巳に少し戻ってる感じがするな。オレで良ければ話聞くよ?」
「鳥府くんじゃ、ね。価値観が常人とは違うから」
「一応投げてみてよ」
「鳥府くんは、付き合っている人がいてもホテル行くでしょ?食事や話レベルじゃなくて、最後までしちゃうでしょ?罪悪感なんかゼロで、誘われればするよね?」
「オレってそこまで節操ないイメージなんだ。付き合ってる人にもよるよ。本命の人がいるときには、最後まではやらないけどな」
「それ、信じられると思う?」
「あ。なるほど、慧梓の浮気とか?」
鳥府くんの言葉に、全身に電気が走った。
浮気と断定されただけで、もう身体にビリビリと痺れが走る。言葉を失ってうなだれる私に、鳥府くんは言いつのった。
「基本ないとは思うけど、あるときはあるよね、慧梓は。彼女いても那々巳が本命だったっていうのは、相手からすれば浮気だったし」
信じがたいことだけれど、鳥府くんの言葉がビシバシと効いてくる。
「もう、やだ」
「じゃあ、那々巳もオレと浮気すればいいじゃん」
「それはもっとイヤ」
「さっきはああいったけど。慧梓が浮気、するかなあ」
「するときは、するって言ったじゃん!鳥府くんのいうことってめちゃくちゃだよ」
「慧梓って結構ピュアだし、満足出来てるなら、那々巳以外としないんじゃないかなあ」
「ま、満足出来てないならするかも?」
「満足させてないと思うんだ?」
「わ、分からないけど。今までは割とノーマルで淡泊な感じだったし」
「ふーん。でも那々巳はそうだっけ?ノーマルかなぁ?」
「う、うるさいな!鳥府くんって、性格悪いよね。昔のこと持ちだしてあげ足とりって」
「結構衝撃的だったからな~女の子にあんな風に積極的に、攻められたことってないし」
「もうやめて~!本当に!」
私は頭を抱えてしまう。相談したつもりが、余計と傷口を広げているような気がした。
相手が悪かったと思う。
「あ、まずいな。那々巳、あんまり顔色が悪いと困るかも。この後サイトに上げる動画撮影あるし」
「早く言ってよ!」
ごめんごめん、といって鳥府くんはコンパクトミラーを渡してくれる。
顔確認しといて、というのだった。すぐにコンパクトミラーが出てくるあたり、鳥府くんだなと感じる。
恋愛に不安を抱えているからって、仕事を適当にするわけにもいかない。メイクを簡単に直して、スタジオに向かう。後で慧ちゃんに聞いてみよう、と思った。
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