別れを告げたら、赤い紐で結ばれて・・・ハッピーエンド

KUMANOMORI(くまのもり)

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浮気の誘い

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 スタジオでは他のタレントさんたちと動画撮影を行った。インタビュー動画や談話のような話す機会多い撮影だ。レッスン以外で人前で話すことないので、不安だったけれど、動画撮影に慣れている人たちに助けられて、無事撮影を終えた。
 インタビュー自体は、恋愛や結婚、美容のためにどんなことをしているのか、など有名人が聞かれているような内容だったので、困ってしまう。一般人の恋愛や結婚、美容意識を聞いてどうするんだろう?と思ったけれど、頭をフル回転して答えた。
 大人女性のためのメディアが主体なため、ディープな質問もいくつかあったけれど、嘘をつくのが苦手なので思ったままに答えていく。インタビュアーの反応も良く、安心した。


 仕事を終えて帰宅後間もなく、同僚の女性トレーナーや鳥府くんからメッセージがくる。
「お疲れ様」のあいさつもそこそこに「三河トレーナーの写真です」と写真を送信してきた。
 ホテルのロビーに入っていく、慧ちゃんと女性の写真だ。
 そして鳥府くんもまた、そんなのタイムラインに流れてきてたけど、といって写真を送ってくる。鳥府くんの写真では、慧ちゃんがまた別の女性と個室のあるお店に入っていく姿だった。その女性の顔を私は見たことがあった。私の大学時代の友達だったからだ。

「那々巳が言ってたのって、ひょっとしてコレ?」と鳥府くんはきいてくる。
 私は返事をせずに、既読だけつけた。鳥府くんが知る意外にも写真があるなんて、返信するのもイヤだった。そのままアプリを閉じる。そこでタイミングがいいいのか悪いのか、慧ちゃんからのメッセージが届いた。

「今日はどうだった?」とポップアップに上がってくる。
 どうだった?
 じゃあ慧ちゃんはどうだったの?
 と言いたくなる。鳥府くんからもほかにメッセージが来たと通知が出たけれど、見る気になれなかった。
 明日の予定は分かっているし、急な変更や急用ができれば、電話をしてくるはずだ。

 私はアプリを閉じて、誰のメッセージも見ないことにした。なんでこんな都合よく、写真を撮られているんだろう?と本来なら疑問を持ちそうなものなのに、そのときの私は頭に血がのぼってしまっていて、思考回路が完全に閉じてしまっていた。



 翌日はひきつづき、撮影の日だった。そして空き時間には、情報公開後の広告用のアカウントを運用して欲しいというクライアントの要望から、販促SNSアカウントの作成を行う。SNSアカウントの登録自体は数分で出来てしまう軽作業だったので、他のタレントたちはサクサクと完了させていくのだけれど、私は慣れないプロフィール作りに苦戦してしまった。
 イベントの告知やメイクアップ動画などをからめて、リンクを張るためなので、そんなに必死に運用する必要はない。

 アカウント用に使っていいと言われた写真をもとに簡単なプロフィールを記入して、公開すると、すぐにフォロワーがつき、ビックリしてしまう。情報公開のタイミングや告知のタイミングは担当者が連絡します、と説明をうけて作業は終わった。
 フォロワーを見てみると、ジムの常連さんをはじめ、ポスターで私を知ってくれた人もいるようだった。私自身が身元を知っている人はともかく、知らない人からDMが送られてきて、ギョッとする。あまり口にしたくないような文言を送ってくる人もいた。
 とはいえ、個人のアカウントではないので、とりあえずは気にせずに放置しておく。
「スパムに困ったらミュートにしてもいいし、通知もOFFで構いません。個別に返信をする場合には、内容案のご相談をください」と鳥府くんは全体に説明していた。
「困ったことになったら、社員による運用代行も考えています」
 そうは言われても、直接的な要求を書いてくるDMが多く、普段なら、気にしないささいな言葉にも、ネガティブな要素が紐づけされてしまう。
「なんか玖珠さん不調?」
 とSOCIaさんに声をかけられるまで、自分が暗い顔をしているとは気がつかないでいた。
「不調なのかな?そんな顔してた?DMと、心配事みたいな感じかな」
「顔は黙ってる瞬間はマジ暗いよ。まあ、DMに関してはあるあるなんで無視でいいとして。心配事って、彼氏?」
「うん」
「浮かない感じってことは、喧嘩か浮気かって感じだよね」
「浮気、疑惑かな」
「だとすれば、玖珠さんも浮気しちゃえばOKかも」
「それは、かなりイヤ」
「へぇ、かたいんだ?」
「どうだろう。昔、何股も普通な人といたら、辛すぎて無理だったから。もう、浮気の気配は許せないっていうか」
「じゃ、直談判かな。白黒はっきりさせて、決める。ちなみに別れるの?」
「黒だったら別れる。ずっと浮気はムリって伝えてきているから。分かっててするなら別れしかないよね」
「じゃ、やっぱ。浮気をぶつけてみるかな?あっちが疑惑なら、こっちも疑惑をぶつけてみて、嫉妬させればOKじゃない?」
「そう上手くいくものかな」
「問題があるとするなら、相手が浮気を浮気として考えてくれないと、ドロドロになるってことだよね」
「それ、かなり問題だよ」
 浮気するつもりなんてない。
 でも、慧ちゃんに聞いてみる気持ちが萎えているのも事実だ。しばらくは中々会えない状況で、不安ばかり煽られるのはたまらない。


「SOCIaいいこというじゃん」
 聞き耳を立てていた鳥府くんが話に入ってくる。
「げ、鳥府潤」
 SOCIaさんは露骨に身体を逸らす。
「SOCIaのいうとおり、那々巳も浮気して煽ってみたらいいんだよ」
「なんで鳥府くんが入って来るかな」
 もっとも話に入って欲しくない人だ。それに、元カノと言われているタレントさんたちの視線が痛い。
「あくまでも、煽りだから。本気でやったらダメなんだけどね」
 とSOCIaさん。
「手を抜くのは那々巳相手だと、結構難しいけど。嫉妬心を煽るのはまかせてよ。オレは彼女を持つ男にはかなり嫌がられる相手らしいから」
 なにか自信満々に言っているけれど、話の流れがおかしくないか?
「え、あの」
「カレはこう言ってるけど。ま、玖珠さん次第ってことで」

 その後、休憩が終わり撮影に入る。
 帰りがけに、鳥府くんに声をかけられた。
「送っていくよ」という話だったので固辞する。
 でも「そうやって警戒するのは、下手したらオレによろめくっていう証拠かもよ」と言われて、売られた喧嘩を買うぐらいの勢いで、じゃあ送ってよ!と言うのだった。
 まんまと乗せられているような気もする。
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