別れを告げたら、赤い紐で結ばれて・・・ハッピーエンド

KUMANOMORI(くまのもり)

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釣った魚へのエサは「好き」?

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 車に乗り込むや否や、
「那々巳は昨日のメッセージ、最後まで確認してないでしょ」と鳥府くんは言う。
「だって、写真以外の事実はないよ」
「そうかな。慧梓が一緒にいた相手確認した?慧梓の考えがオレは少し分かる気がしたけどな。それに那々巳って慧梓のこと、意外に知らないんじゃないかなあ。昨日もそう書いたけど、那々巳は既読つけないしね」
「鳥府くんが知っている写真以外にもあったんだよ。前に聞いたときにも、慧ちゃんは説明が難しいって言っただけだし、写真のこと聞いても先が見える気がしない」
「ふぅん。不器用なことしてるよね。それで慧梓とも音信不通って?」
「え」
 なんでそれを知っているんだろう?と思う。
「那々巳に既読つかないけど。何もしてないかって、オレの方に連絡来たよ」
「なんて答えたの?」
「フレンド的な範囲でなんかしたよ、って」
「なにそれ」
「友達ならいいんだよね?那々巳はオレと楽しそうにしてくれるんでしょ?」
 鳥府くんは非常に明るい調子で聞いてくる。
「たしかに、そう言ったけど」
「じゃあ、友達としてオレと浮気をしよう」
「いや、しないから!」
「那々巳にとっての浮気の定義は?」
「身も心も染まっちゃうこと」
「それって本気だよね?」
「じゃあ。一時的に、身も心も染まって、この人と未来を考えるのもありって思っちゃうこと」
「それ、オレに思える?」
 私は首を振る。
「じゃあ那々巳にとって浮気は絶対にない。でも、慧梓にとっての浮気は違うかもしれない。そのミスマッチを利用しない手はないよね」

 慧ちゃんは、相手からの肉体的な接触に私がこたえたら浮気だと言っていた。
 自分が浮気はされたらイヤだと思うのに、相手にはイヤな印象を与えるのがいいとは思えない。
「ムリだよ」
「じゃあ、ブラフでいいじゃん。本当に最後までしなくったって。慧梓が誤解して嫉妬すれば勝ち」
 そう言いながら、鳥府くんは私のアパートの駐車場に車をとめた。助手席に覆いかぶさるように、身体を寄せてくる。
「ムリだってば!」
 といって、逃げようとするのだけれど、そのとき私は中指の紐を見つける。
 鳥府くんを目が合い、口元に笑みを浮かべていた。まさか、鳥府くんはすでに気づいていた?
「キスはダメ、セックスはダメ。でもハグくらいはいいんじゃない?」
 身体を寄せてきて、軽くハグをしてくる。私はし返さない。
 手の位置がどんどん下へずれているのを感じる。プライベートゾーンに入り込む気配があって、
「あ。結構マズいな。那々巳、昔よりエッチな身」
 腰から下に手が動いたときに、思わず蹴飛ばしていた。

 鳥府くんは運転席へと軽く吹っ飛ぶ。
 これは肉体的な接触に応えてしまったということになるんだろうか?
「ダメだって言ったじゃん!」
「そうだね」
 鳥府くんはお腹をさすりながら、窓の外を見ている。でも、効果はあったみたいだよ、と言って。


 窓の外にはスポーツウェア姿の慧ちゃんがいた。
 血相を変えて、こちらを見ている。鳥府くんがドアを開けて車を降りると、殴りかからんばかりの勢いで掴みかかっていた。
 私に蹴られて、慧ちゃんに詰め寄られるとは、鳥府くんも災難だなとは思うけど。
 私も慌てて車から降りた。いつの間にか、青い紐はなくなっている。
「那々に何してんだよ?」
「何もしてないよ。慧梓の目がいかれちゃったんじゃない?フレンド未満なことしかしてないってば。ね、那々巳」
 鳥府くんはこちらに同意を求めてくる。慧ちゃんの目がこちらを見ているので、どう答えていいのかと迷ってしまう。
「送ってくれただけ。最後はちょっと調子に乗ったみたいだけど、何にもしてないよ。慧ちゃんの想像するようなことは、なにも」
 私の言葉には刺があった。
 自覚はあったけど、どうしようもない。

「昨日は既読にならないし、何かあったのかと思って」
「何にもないよ、慧ちゃんとは違って」
「オレ?」
「例えば合意のキスも、セックスもしてないとしても。説明できない密会っていうのは浮気じゃないの?」
 私は同僚や鳥府くんが送って来たスマホの写真を見せる。
 写真を見た慧ちゃんは目を丸くしていた。
「なんだコレ、なんでこんなの写真に撮る必要が?」というのだった。
「何の意味もなさそうだけど。那々巳には意味があったみたいだよ」と鳥府くん。
「なんで二人で理解してるわけ?私の友達と会っていたり、知らない女性と会っていたり明らかに密会してるのに、説明できないのってなんで?」
「密会ってほどのことはなんにも」
「曖昧にしておけばいいと思ってるの?慧ちゃんがそうなら、私だって、密会するからね!」
「え」
 慧ちゃんが声にもならない声をあげたところで、鳥府くんが盛大に大笑いする。

「密会するって。どうする慧梓」
「どうするって言われても。1枚目の写真で一緒なのは弟だし、2枚目の写真は那々のことを聞きたくて話に言っただけだし。密会もなにも」
「弟?すごい綺麗な人だけど」
「美容業界で働いてて、那々のポスターみて、ジム経由で連絡してきたんだよ。ぜひ起用したいとかって。それで最近はよく会ってた。ちなみに潤の件とは別だから、那々には今後他にもジム外の仕事が来ると思う」
「でも、なんでホテル?」
「あいつ、ホテル暮らしだから。アドレスホッパーで、色んなホテルに住んでる」
「でも、私の友達と一緒にいたっていうのは?」
「それは、ちょっと言いにくいけど。那々のこと色々知りたくて。本当の気持ちとか。で色々な友達に会って聞いてみた。那々はオレのことどう思っているのかなって」

「え?意味分かんないし。付き合ってるのに、どう思ってるって?」
「オレが一方的に迫ったようなもんだし。那々はずっと潤の影を追ってたじゃん。だからさ、正直自信なくて。押し切られたから、仕方なく付き合ってたんじゃねーのかなって」
「それ、私の友達に聞いて、何か収獲あった?」
「みんな生ぬるい目で見るだけで、那々の行動がすべてとか言ってたな。意味わかんないけど」
「それが正解だよ」
「見てらんないな~。生ぬるい、ピュアとかいてぬるいと読むって感じ」
 と鳥府くん。

「現に、那々は潤と仲良くしてるし。やっぱり好きなんだなって」
「ぜんぜん仲良くやってないから!それに、好きじゃないし」
「それ、本人を前にして言うことじゃないよね。那々巳」
「あ、ごめん」
「けどまあ、いいや。那々巳はセックスしない限りは、ちゃんと顔を見て話してくれるって分かったし。しちゃったら、またダメなんだろうしね。そういうのは慧梓に譲ってあげるよ」
 鳥府くんは軽快な調子で露骨なことを言う。
「聞き捨てならない単語が出たけどな」
「那々巳は慧梓のことが好きだよ。けど、意外に那々巳は釣った魚には餌をやらないから、ちゃんと好きって言ってないかもね」
「え?餌をやらないって何のこと」
「オレもほとんど言ってもらったことないな~。無理矢理言わせたことはあったけど」
 と鳥府くんが言う。
 慧ちゃんは「え、マジで。あんだけ尽くしてて?」と言うのだけれど、二人で何を盛り上がっているのか不明だ。
「何盛り上がってるの?」
「慧梓が好きなら好きって言っとかないと」
「え。ちょっと、潤に推されるのは違うっていうか」
「え、好きだよ。じゃなきゃ、別れてると思うけど。私最速1時間だったことあるよ」
「1時間?それで何ができる?」
「オレなら30分あればフィニッシュまでいけるけどな~」
「何言ってるの」
「けど、好き?」
 慧ちゃんに真っすぐ見つめられて聞かれる。
 鳥府くんに見られている変な状況だけど、
「好き」と答えた。「身も心もあげるよ。だから、浮気したら別れる」
 そう言うと、二人が静止する。

「熱いなあ~オレ結構ミスっちゃったたなぁ~」
 と鳥府くんは茶化してくるけれど、慧ちゃんは何も言わない。そして、鳥府くんは「それじゃあ那々巳。オレは帰るよ。明日も引き続きよろしくね」と言って車に乗り込んだ。

「うん、また明日」と私は答えるけれど、慧ちゃんは軽く鳥府くんに手を振るだけで何も言わなかった。車が去って行ったあと、おずおずと手を繋いでくる。
「慧ちゃん?」
 と顔を振り仰ぐと、慧ちゃんの耳が赤く染まっているのが分かった。
「浮気してないんで、身も心もちょうだい」と言う。
「え。いや、これからご飯だし、まだ買い物行かないと」
「ダメ」
 つないだ手に指を絡めてくる。赤い紐が絡まっているのが分かった。
 名実ともに動きにくくなってしまう。
「じゃあyuberにする?」
 と私が言うと、慧ちゃんは黙ってうなずいた。
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