15 / 21
忍びよる・・・?
しおりを挟む翌日は雑誌のインタビューを予定していたので、mousa本社の取材部屋に向かった。私が行ったとたんに、空気が変わる気配がする。雑談をしていた本社スタッフが話をとめたからだ。
「どうしたんですか?」
と私が聞くと、切り出しにくそうに一人の女性社員が言った。
「玖珠さん、SNSが荒れてて。しつこく画像を張ったツイートがしつこくリプライされてるんです」
スマートフォンの画面を見せてくれる。
見覚えのある男性二人と私がそれぞれ写っている写真だ。どうも様子からすれば昨夜のことだと思う。
「うちの鳥府と、玖珠さんあともう一人は、トレーナーさんですよね?」
「彼氏です」
と私が答える。
「盗撮っぽいから削除申請しているんだけど。住んでいる場所とか特定されそうな写真だから、気を付けた方がいいかもしれない」
私は見せてもらった画像を確認する。
「たしかに、建物とか写ってますね」
昨日の今日で写真をあげるなんて、どんな趣味をしているんだろう?
「こういう盗撮みたいなの、心当たりない?今までに経験ある?」
「私自身はないですけど。そう言えば、一緒に写っている男性トレーナーは、先日も写真を撮られてました。友達同士で出回った程度だったみたいですけど」
「なるほど。だとすれば、彼氏の方が狙われていた可能性もあるってわけか」
とたんに、慧ちゃんのことが気にかかり、
「一応注意するよう連絡入れてもいいですか?」
と断りを入れてから、慧ちゃんにメッセージを送っておく。また写真撮られているかも、気をつけて、と。
「玖珠さんも気を付けたほうがいいよ。マネージャーがつく前のタレント狙いのストーカーって一番たちが悪いから」
「はい」
「とりあえずは、予定通り進行させてもらうけど。何か都合があれば教えてくれていいからね」と言ってくれる。その後出社してきた鳥府くんにも事情がいきわたったらしい。
しかし、鳥府くんはそれほど危険性を感じていないようだった。
「那々巳って意外に細かいこと気にしないから、実は盲点があるかもよ」と言うのだ。
「何か心当たりあるの?」
「あるようなないような。昔もこういうことあった気がするんだよね~」
と鳥府くんは予想外にものどかに言う。写真には本人も写っているのに、ずいぶん警戒心が薄い気もする。
私には全く心当たりがなかったので、鳥府くんの独特な見解という風に位置付けてあまり考えないことにした。
インタビュー内容は恋愛や結婚と美容に関する内容だった。すべて美容や健康的な生活につなげるようなコメントが求められているのが分かったので、美容のためにも自分らしくいられる恋愛がしたい、結婚もしたい、という風にコメントをしていく。
過去の恋愛に聞かれて、ズルズルのドロドロの時代には美容的にも良くありませんでした、ともコメントした。ちなみに「セックスと美容、健康の関連性はどうですか?充実しているとやっぱりいい感じですか?」と聞かれ、関連はあると思います、対等なセックスが出来る相手が理想ですよね、と答える。
インタビューはつつがなく終わり、その日の仕事はおしまいになった。早めに上がっていいということなので、久しぶりに買い物をして帰ろうと思う。
帰り際に「写真のこともあるし、送ろうか?」と鳥府くんに声をかけられる。とはいえ、鳥府くんは別件の用事を抱えているようで、何度も別室に呼ばれていたのを見ていたので、「忙しそうだしいいよ」と断った。鳥府くんもここでごり押しする余裕はなかったようだ。
「くれぐれも気をつけて」と言われながら、私はmousa本社を後にした。
ブラブラと街歩きをして、いくつかのショップでメイク用品や服を買う。休憩中にカフェでカフェラテを飲みながら、慧ちゃんから来ていたメッセージを確認した。
「オレの方は何にも影響ないけど、那々は気をつけて」と言う。
「迎えに行こうか?」
とさらに続けてメッセージが来た。
「今日は早上がりで今カフェなの」と私は返す。
そこで、「玖珠さんですよね?」と片手にコーヒーを持っている女性に声をかけられた。
「はい」と答えると「今度CM出るって告知流れてきてて。今度ジム行ってもいいですか?SNSで見て気になってて」
「ありがとうございます。ぜひ来てください!まだ詳しい情報は解禁してないんですけど、徐々に小出しにする感じですね」
「ぜひ行きます!」
そんな風に何気ないやり取りだったけれど、意外にも見ている人がいることに驚いた。ともすれば、あの画像も拡散される可能性があるってことか。
カフェで休んだので夕食の買い物をして帰ることにした。近所のスーパーの中でカートを滑らせていると、ずっと背後に人の気配を感じる。お店なんだし、そりゃ人の気配を感じるものだけれど、ずっと私についてきている人がいるのだ。
黒のキャップをかぶっていて、黒のマスクをし、大きめの黒のジャージを着ている。容姿はあまりはっきりしない。
私のストーカー?
それとも慧ちゃんにストーカーしていて、私に憎しみを募らせている人?
そんな風に想像していると、恐ろしくなり、今日食べる分だけのものをかごに入れて、ハイスピードにセリフレジを通し、会計を終える。
近所のスーパーにしたのは間違いだったな、と思うけれど、今や遅い、家に早く帰ろうと思い、帰路を急ぐ。ただ、遠のいていた背後の気配が急に近づいてくる。私が急ぐと、後ろの人物も同様に急ぐのだ。追われているのは、間違いなかった。わざと遠回りをしていたせいで、思いがけず時間がかかってしまったけれど、ようやくアパートが見えてくる。
急いで敷地内に入り、ポストを確認する間もなく階段を駆けあがるのだけれど、
「待てよ」
と声がかかり、背筋にぞっと寒いものが走った。嘘、ヤバい、と心の声は言うのだけれど、声を押し込んで私は足を進める。
後ろ手を引かれた。
「やめてよ!」と私は強引に手を振りほどこうとするのだけれど、思いのほか力が強くて、振りほどけない。
こうなったら蹴るしかない、と思い、思い切り足を振り上げたところで、相手がひるんだらしい。
「おい、ちょっと待て。那々巳!何考えてる」と言ってきた。その声には聞き覚えがある。けれど、なんでこんな風な接触方法をしてくるのかは、不明だ。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる