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明かされた真実
しおりを挟む「何考えてるはこっちのセリフ!何してるわけ?」
私はその人物のマスクに手をかけ、マスクを外す。
玖珠加穂留(かおる)、私の兄の顔が、明らかになった。
「兄貴、何してんの」
私は兄の顔を目の前にして、脱力する。なぜ、兄が妹を尾行しているのだろう?
「久しぶりに帰国してみれば、大切な妹が卑猥なポスターに写っているわ。母さんに聞けば男と付き合っていると聞くわ。そりゃ心配するだろう?」
「卑猥?どこが。兄貴の頭の中の方が卑猥だよ。それに、慧ちゃんのことは知ってるでしょ?高校生の頃から知り合いだし」
「那々巳のことをずっと色目で見ていた野郎だろ?その前には、ロクでもない入れ食い男と付き合っていたし。お前はなんでそう、趣味が悪いんだ」
「うるさいな。見た目だけで結婚して、何回も離婚してる兄貴には言われたくない」
「とりあえず、家に入れてくれないか?」道端からこちらをうかがう視線がいくつもあった。
「まあ、そうだね」私は部屋の中に兄を招き入れる。
部屋をじろじろと物色する眼差しを向ける兄に、私は逐一イライラしてしまう。
「まだこんなボロアパートにいるのか?」
「うるさいなあ!」
「なんでここに二人も男が来るんだ?」
とも言ってくる。
この発言はつまり、兄は昨日もここに来ていたということだ。
「鳥府くんは今は仕事で一緒。慧ちゃんは彼氏だし。何か問題ある?」
と言ったものの、昨夜慧ちゃんがとまっていった痕跡がどこかに残っていると、兄がうるさいな、とも思う。適当に座ってといいクッションを床に敷いた。兄貴はなおも部屋の中を見ている。
「あの男は色んな女性と一緒にいるじゃないか。別れたほうがいい」
「その件は、もう解決したから。ていうか、あの写真は全部兄貴ってことだよね?」
私は兄が何か言おうとする前に、核心をついておく。兄は視線を泳がせる。中々端正な顔で、昔から年上女性から人気だった兄だけれど、中身はどうにもヘタレなのだ。
「そして昨日の写真も、全部」
私が言うと、兄は顔をふせる。
「だって、オレは離婚して傷心で帰国したのに、可愛い妹は他の男と付き合ってるなんて!」
「兄貴の傷心は関係ないでしょ!エリーも、リルラも、ジュリアもルイーズも!リンウーもだっけ?まだいたっけ?みーんな一目ぼれで結婚してるんだから、そりゃ色々あるでしょ!」
「みんなキレイだから、仕方ないだろ!今回はアンシェリーンだよ!」
「じゃあ私が好きな人と付き合ってもいいでしょ!」
「す、好きなのか?」
「そうだよ」
「慧ちゃんの写真の件には理由があったし。鳥府くんはまあ、感覚がちょっと変だけど。友達としては悪い人じゃないよ」
「兄ちゃんよりも、好きなのか?」
「そうだね、兄貴は押し付けが激しいから、イヤかも。兄妹じゃなくっても絶対に付き合わないと思う」
兄は私の言葉にガックリとうなだれる。
「何のためにあんなに写真を拡散させたの?」
「那々巳があの男に愛想をつかすためだな」
生き生きと言うけれど、言っている内容が内容なので、どこにも頼もしさの欠片もない。もし、別れていたら兄の目論見通りだったのかと思うと、ぞっとした。
そして、ふと頭に引っかかるものがある。昔鳥府くんと関係があったときに、彼が他にたくさん付き合っている人がいるって、知ったのはどうしてだっただろう?
SNSだったっけ?
誰か友達に聞いたんだっけ?
「あんなに女にモテすぎる奴らは、ロクなもんじゃない」
「モテてるかどうかを何で兄貴が知ってるわけ?ていうか、高校生とか大学生の頃に私が誰と付き合いがあったとか、なんで知ってるの?」
「そ、それは、色々と情報が入ってくるからだ」
「私が高校生の頃も、大学生の頃も兄貴はあんまり家にいなかったよね?彼女と同棲したり、遠くの彼女のところに行ってたりして。なのに、どうやって兄貴のとこに情報を流すわけ?」
「妹のことを案じているっていえば、情報を流してくれる人がいるんだよ」
「そうなんだ~じゃあさ、高校生の頃から大学生の頃まで、鳥府くんが付き合ってた女の子って知ってる?」
「見ていた限りかなりいるからな~。告白されてデートやキスどまりの女の子は山ほどいたよな。オレの女友達もミイラ取りがミイラに、みたいにどんどん惚れてっちゃって。けど意外に潔癖症なのか中々最後までしてくれないって、話はたくさん聞……」
「ミイラ取りがミイラに?」
「え、それはま、言葉の綾で」
「思い出したんだよね。なんで鳥府くんは同時進行でたくさんの女の子と付き合ってるって、知ったのか。兄貴が女友達経由で聞いたって、話してたんだよね」
「そうだったかなあ」
「けど、今の話だと兄貴が女友達を鳥府くんに送り込んだ、みたいに聞こえるのはなんでだろね?」
「き、気のせいだろ?」
鳥府くんは元々モテてはいたし、色々な意味で節操がないのは事実だけれど、さらにあおるようにしていたのは兄貴だとすれば、今更知った最悪の事実ということになる。
「アイツはモテればモテるほど、那々巳からの評価が上がると思っていたみたいだしな。うちの妹がそんな軽い男を好きになるわけがないじゃないか」
「それはたしかにそうだけど。多分、兄貴あおったでしょ?」
「な、何のことだ?」
「もう、過去のことだし良いけど。私の中で兄貴の評価がガクッと下がって、鳥府くんの評価が少し上がるだけだから、別に問題ないけど」
「問題ありだろ、それは!」
もし、同時に付き合っている人が本当はいなかったとして、私と鳥府くんは続いただろうか?
もう過去のことだから、分からない。ただ一つ気になったことがある。
「桜庭先輩はさすがに、兄貴関係ないよね?」
「誰だ、それは」
兄の目が泳ぐのを見て、これは黒だと分かった。
「桜庭リル先輩は鳥府くんと結婚してたんだよ。本当に、桜庭先生のこと知らないの?まあ、嘘ついたとしても、兄貴の評価がさらにダダ下がりするだけですむけど」
「し、知ってるよ。離婚経験がないといけないって必死になってた女だろ」
「な、なにそれ。先輩ってそんな変なキャラだったっけ?」
「離婚歴が出来てからなら付き合う、と言ってきた本命がいたらしい。思いがけずいい奴だったから別れにくくなって、続いたらしいが」
「な、中々ひどいね、先輩も」
「友達経由で桜庭のことは知っていたけど、別にオレが送り込んだわけじゃない。でも、まあ、あわよくばくっついてくれればいい、と思ったから。那々巳は結婚歴・離婚歴があるくらいの、経験値の高い奴が好きって言ったような気もするけど」
「はあ?」
「あいつの方から、オレに聞いたんだし。オレのせいじゃないよ」
「鳥府くんから聞きに来る?なんでまた」
「そ、そんなの奴に聞けばいいだろ。中々しつこい奴だったよ。那々巳の好きなもの、好きなタイプ、色々聞いてくるし。本当のことを話すわけないじゃないか、そんな円満になるようなこと!」
「……慧ちゃんと付き合い始めるとき、兄貴がオランダ行っててくれて本当に良かった」
嘘を吹き込まれた鳥府くんは気の毒な気もするけれど、実際に叩けば埃が出てしまう鳥府くんも悪い。でも、慧ちゃんとのことも、あわよくば……というよりも、積極的に壊しにかかる姿勢は、許せない。
「兄貴、もう絶対に邪魔しないでよ」
「どこがいいんだよ」
「少なくとも、兄貴よりは二人とも私を大切にしてくれたと思うよ。兄貴の投稿のせいで、ここの住所特定される危険あるんだからね」
「じゃあ、オレと一緒に住めば防犯面でも安全だ」
「今、家がないだけでしょ……。絶対にイヤだからね、兄貴と住むのなんて」
兄貴がこうやって、べたべたしてくるのは、彼女を別れた最初の数週間だけなのだ。すぐに新しい恋人を見つけて、そっちとべたべたしていく。兄貴がフリーになっているはざまの時期が、私からすれば、危険な時期と言える。
「家がないんだよ~ホテル代もバカにならなくなってきたし、泊めてくれよ」
「いや。絶対にイヤ!実家に帰ればいいじゃん」
「無理なんだよ。父さんも母さんもアンシェリーンとの折り合いが悪くて、結婚したら縁切るって言われてたから」
「押し切って離婚じゃ、立つ瀬ないね。でも、それとこれとは別だから」
「じゃあ家賃を払えばいいか?」
「え、それはちょっと心が動くけど」
少しゆらぎかけたところで、慧ちゃんから連絡がくる。私はこれは幸い、と電話に出た。
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