別れを告げたら、赤い紐で結ばれて・・・ハッピーエンド

KUMANOMORI(くまのもり)

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出会いとある予兆

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 慧ちゃんから呼び出されてジムに行ってみると、スタッフたちが色めき立っていた。電話で聞いた限りには、まさかとは思っていたけれど、次から次へとかかってくる電話にスタッフたちは大わらわだ。
 入会希望の電話やmousaの新商品が欲しいという電話がかかってくるらしい。ホームページ経由での申し込みも増えているという。
「どうして?」
 慧ちゃんはサッカークラブのスタッフユニフォームのままだった。
「那々が来ていたTシャツがジムのTシャツだったってことと、潤がmousaでは有名な広告塔だったってことかな。潤のSNS見たことないだろ?結構スゴイフォロワーついてる」
「でも、あんな写真でどうして?」
「それは」
「玖珠さんの映りが抜群だからですよ!」
「え?どこが?」
「背後からのスタイルが抜群だし、横顔もめちゃくちゃキレイ。あの美女はダレって言う問いあわせが多いです。三河トレーナーも、mousaの社員さんもメディアの露出経験もあるし、SNSで辿れるんですけど。玖珠さんだけはSNSほとんどやってないし、アカウント作りたての謎の美女なんで。大騒ぎ」
「大げさな……。一般人の写真なのに」
「これで化粧品の販促にも一役買えそうだよな。情報解禁したときが楽しみだよな」と慧ちゃん。
 そういえば、慧ちゃんにはあの写真を撮ったのが兄だとは説明していなかった。
 でもまあ、入会希望者が増えるのはいいことだと思う。

 私も何か手伝えないかと思ったけれど、mousaの仕事を優先させてくれればいい、とジム長に言われて、帰宅することになる。
 慧ちゃんもまた、ジムに立ち寄りついでに状況を知った程度だったので、帰っていいと言われた。一緒に帰ることになるのだけれど、ふと思い出したのは、近くに兄貴を待たせていたということだ。

 私たちがジムを出ると、そばのカフェで待っていた兄が待ち構えたかのようにして、店から出てきた。
「あ、どうも。ご無沙汰してます」
 と慧ちゃんは兄を見て一礼すると、
 兄は「ああ」と喉から声を洩らすだけだ。
「兄貴、帰国してて。あの写真も兄貴のせいなんだよ」
 と私は凝縮した情報説明をする。
「どうりで抜群の写りなわけだ。那々の兄さんは前もなんかに写真を出……」
「三河くん、余計なことをあんまり言わないでくれないか」
「那々のこと、溺愛してますもんね」
「慧ちゃんさっきの話は一体」
「まあ、昔の話だよ。ところで、この後那々に会って欲しい人がいたんだけど。お兄さんも一緒にどうですか?」
「え、兄貴も?やめたほうがいいよ、ロクなことにならないから」
「那々巳、せっかくの好意を!」
「お兄さんが一緒で、ひょっとしたらちょうどいいかも」
「え?どういうこと」
「ま、会えばわかるよ」
 そう慧ちゃんはいい、案内すると言ってシティホテルのロビーに向かうのだった。



 ロビーには写真で見たことのある人が待っていた。
 華やかな美貌で、肩まで伸びたつややかな赤髪が目を引く。
「よお」
 と慧ちゃんが声をかけると、その人物も手をあげて合図をした。
 近づいていくと、なるほど、涙袋のある目もとや口の形など、慧ちゃんとところどころパーツが似ている。
 私が会釈すると、「うっわあ、ほんものじゃーん」と想像以上のハイテンションで勢いよく抱き着いてきた。隣にいた兄貴が、ひぇえと小さく声をもらす。
「おい、蓉梓(ようし)、やりすぎ!」
 慧ちゃんが言えば、
「うるさーい、てかその名前で呼ばないで。芙蓉ちゃんでお願い」と言う。
「芙蓉ちゃん?」
「あ。初めまして、那々ちゃん。弾力ヤバいね!めっちゃ気持ちい~。兄貴やるなあ」
「やめろって!お前、バカか?」
 慧ちゃんが間に入ってきて、引きはがす。
 何のことを言われたのかと思ったけれど、蓉梓くんの視線が胸元に向いていたので、ライトなセクハラ発言をしていたのだと気がついた。慧ちゃんとはキャラクターがまったく違う。

「初めまして、え、と。芙蓉ちゃん?」
「わぁー血は争えない!那々ちゃんの顔やっぱり好きだな~。プロデュースした~い。今度一緒に仕事しよ?」
 再びゼロ距離まで近づいてきて、手を差し出してくる。
「前に話した件で、メイクアップとかスタイルアップとかで那々をプロデュースしたいんだってさ。蓉梓のプロデュースしているアイテムのモデルとして起用するみたいな感じで」
「そうなんだ。私で大丈夫なの?」
「那々ちゃんがいいんだよ~!遺伝子レベルで好きな顔って言うのはあるね~!」
「何それ、芙蓉ちゃんって面白いね」
「でも安心して、セクシャル的に兄貴の競合にはならないから。那々ちゃんは気軽に仕事してね」
 押されるままに、私は蓉梓くんの手を取り握手をする。
 そこですっかり壁の花になっていた兄貴が「なんて美人なんだ」と声を洩らした。
 視線は蓉梓くんに向けられている。

 ヤバい、これは!予兆だと分かった。蓉梓くんは兄の声に気づいて、視線を兄に向ける。

「そちらの美男子さんは?」
「那々のお兄さん」
 と慧ちゃんが紹介するのだけれど、兄の目線は蓉梓くんに一直線だ。
「オレはとても麗しいあなたの、ステディになりたいんだが、どうすればいい?」
 熱い視線で蓉梓くんを見つめながら、彼のそばに近づいていく。
「ステディはいらないんだよね~。でも、メンズ部門のモデルなら欲しいから、ぜひお願い!」
 と蓉梓くんは上手く受け流してくれた。
「この後一緒に食事でもしたいんだけど、予定はどう?」と兄はグイグイと進めていく。
「兄貴……」
「ぜひぜひ~!ここのホテルにする?それとも別のところ?」
「おすすめの場所を聞いてみるよ」と言って兄はあちこちに連絡をしていく。
 こういう行動力はすごい。すぐにいいレストランがある、といって蓉梓くんを連れ立っていってしまった。

「那々ちゃん、兄貴と家族になることも考えてね」と声をかけられる。
 蓉梓くんからすれば、そういう観点もあるのか、と思った。慧ちゃんが「余計な事いうなよ」とまるで私が兄を制するかのような感じで対応しているのも面白い。

 先に去っていった二人に残された私たちも、久しぶりに外食をすることにする。肉食派の私たちは焼肉をたっぷり食べて、腹ごなしがてら遠回りの散歩をして帰ることにした。
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