love or die～死亡フラグ回避には恋愛があり得ないカレと×××せよ！～

秋津甲斐のゾーンディフェンス

１

　オレが美玖を女として意識したのは早かった。小学校の頃には、もう自分とは違う存在だと思っていたし、普通の友達とは別物だと思っていたと思う。

　幼なじみであることは特権と思っているところもあって、別枠の存在として常にいる。一緒にいれば、どうでもいいからかいも多いから、恋愛なんてないことにしてあしらうけれど、美玖はメインディッシュ的な位置にいて、付き合うとか付き合わないとかの先にいた。
　今付き合わなくても、今手に入れなくても、いずれ手に入るものとして、なぜか常に美玖がそばにいると思っていたのだ。

　ただ最近は、遊び人の先輩といい感じになっていると噂があったから、少し焦った。美玖にいい感じの相手がいるって話は、本人からは聞いたことがない。いつも周りから聞く。

　美玖のいい感じは、男友達レベルが多い。美玖は割とフランクだから男受けが意外によくて危機感を抱くけど、相手側を軽くつついておくとあまり入り込んでは来ない。
　友達以外には、「へぇ、佐久良美玖、狙ってんの？」と言うだけで怖がられる。
　一度、マジの喧嘩を周囲に目撃されてから、周りには警戒されている節があった。
　甲斐を怒らせるのはヤバいかもって。
　友達の中には「佐久良美玖が気になる、機会が欲しい」とオレに言ってくる奴も少なくないので、そんなときはすかさず、「アイツ、オレとは恋バナ拒否だから、無理。他に誰か気になる子いれば、繋いでやるよ」と言っておく。

　他の子へのアプローチをアシストすれば、美玖を気にしていた奴には彼女ができて、一旦リザーブへ戻ってくれる。参戦してこられれば、こっちは分が悪い。

　女の子の方から思いがけずこっちに好意を向けられたときは、割と優しくない方法を取って、フラれるように仕向けた。オレのフツウってこんなだけど、耐えられんの？と半ば脅しのような方法をとるあたり、我ながらヤバい奴だとは思う。
　女の子は人並みに好きだけど、気持ちが入らない。「秋津って、仲良くなると冷たくなる。本音が分かんない」と言われているのを知っている。
　オレのゴールは決まってる。ただ、ルートが見えないのだ。


　だから、まさか、美玖に好きな人がいて、付き合う話があると言われるとは思わなかった。そして、子ども時代にサヨナラ、とまで言われてかなり焦る。
　そう、オレがどんな風であれ、美玖は子どもの頃のまま何も変わることなく、自分のそばにいると思っていたのだ。
「お前だけとはねぇよ」
　と言うためだけに、言葉を重ねる美玖を見ていたら、自分のバカさ加減を知る。
　美玖の発言に言い訳するのは、割りと簡単だ。


「甲斐には佐久良がいるからいいじゃーん。やりたいときに、すぐにできる」
　と篤紀に言われたのに、正直腹が立ったのと、やりたいだけですぐやるような土台にいねぇよ、という気持ちで言った。だとしても、誰も信じない嘘だ。
　美玖がマジでとらえるとか、聞いていたとかは、そもそもが想定外だった。
　それに、美玖からすれば、行動に起こすのが早ければ早いほど、重要視されないのも分かっている。

　彼女が欲しい付き合いたい、やりたい、と嘆くオレの友達に、「結局やりたいだけじゃん、彼女である意味ある？」と美玖が白けた感想を述べていたのを覚えていた。
仲間外れとも言うけど、「佐久良のことないならさ、譲れよ。機会作ってくれよ」と篤紀が言って来たから、一時的に距離を取っただけだ。

　だとしても、最後に美玖を選ぶのは決めている。でも、そんな気持ちを知られたくはない、まだ選ばない。そんな矛盾した言動をとっていたのはたしかだ。
　最後とは？いつくるもん？


　そんなことも、ぼんやりさせたままで、ぬくぬくと子ども時代を引きずっていたのだ。オレのこれまでの言動に習えば、美玖に対して、「何興奮してんだよ、ちょっと落ちつけ」とでも言うんだろう。
美玖との関係を決定づけるような問いや答えは、ずっと避けてきた。
　だって始めたら、終わるかもしんない。今ここで美玖と終わらせるのは、きつい。

　ただ、ここでいつもみたいに、流すような答えをすれば、美玖はガッカリすると思う。
　そしたら、美玖はスッキリさっぱり子ども時代とやらに別れを告げて、好きな人と付き合うんだろう、と思う。
　好奇心でやってみたいとか、経験してみたいとか、それ抜きに好きなんだとしたら、そっちの方が明らかに重い。そこに関しては、オレ自身にも自覚がある。

「じゃあ、アリって言ったらなんか変わる？」
　と聞いてみたら、
「そういう発想自体が、ない」
　と言われて、見事に撃沈する。
　アリって何だよ、好きだ、だろ。
　好きだから、始められなかった。アリってだけならとっくに試してみていたと思う。


　美玖は翌日、好きな人とデートして、死んだ。美玖のお母さんから電話が来て、事実を知った後、ものすごい後悔に襲われた。美玖は遊びに出かけた帰りに、バスに追突されて即死だったようだ。
　前日、オレがもう少し粘ったらどうにかなっていただろうか、と思った。
　どんな方法でもいいから、美玖が好きな人とデートしない方法を導きだせたなら、美玖は死んでいなかったんじゃないか、と。

　色んな思いが交錯する中で、スマホに一通のメッセージが来ていることに気づいた。それがなぜか美玖のアカウントからだったので、驚く。
　メッセージを開いてみると、不思議な内容が書かれていた。


　望みが有効化された

　美玖と結婚したい
　甲斐とずっと一緒にいたい

　同じときにお互いに少し違う望みを結埜神社で願っただろう
　どちらの望みを優先するか会議にかけたところ
　望みの誤作動が起こった


　佐久良美玖は秋津甲斐を通過しなければ死ぬ
　佐久良美玖は秋津甲斐を通過したものだけ経験できる

　秋津甲斐を通過せず死んだ場合には
　佐久良美玖は3日前に戻る
　その後9回までくり返し
　進まない場合には本当に、10回目に佐久良美玖は死ぬ

　秋津甲斐が3日目前に戻るには結埜神社へ
　戻らなければお互いのいない未来に行く

　佐久良美玖は日没までに秋津甲斐が来なければ
　お互いのいない未来が始まる


　この状況を解除するためには自分で望みを達成すること
　結婚したい
　ずっと一緒にいたい
　これを満たすこと


　読んでいくにつれ、絶望的な気持ちになる。これを解除するのは無謀だ。
　結婚？
　ずっと一緒にいる？

　そんなのは、まだ道筋を描くことも出来ない。とりあえずは主要部分のスクリーンショットを撮った。
　こんなものを信用するのは、どうかとも思う。

　でも、結埜神社へ行けば美玖がいるかもしれないと可能性がある時点で、行くのは決まっている。
　それから先何回、美玖に会いに行くのか？そんなのは考えずに走っていた。