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第2章 魔塔編
【25】出発
しおりを挟む「に、かげつ......??」
「ああ、そうだ。」
兄様の僕よりずっと大きい手が頭に乗った。
兄様が倒れてた日から数日後、無事に兄様の魔力暴走は収まり、とうとう明日から魔法覚醒のための儀式で魔塔に行くこととなった。
しかし、驚きの事実が告げられる。
長くても一週間くらいかと思われたその儀式がなんと2ヶ月もかかるらしい。
それを出発前日の夕飯の席で言われた僕は、手に持っていたフォークを床に落とした。
すぐにメイドさんが新しいフォークを持ってきてくれたが、それどころではない。
「...アステル?」
「きいてない、です。」
「すまない。わざわざ言うことでも無いかと思っていたんだ。」
「...たしかに...ぼくにいってもしょうがないかも、しれないけど...。」
「違う。そうじゃない。俺が、...臆病だったせいだ。」
「...え...?」
首を傾げると、隣に座る兄様は困ったように笑った。
「勿論、俺もアステルと離れるのは嫌だ。...でも、アステルも同じように思ってくれる自信が、俺には無かったんだ。だから長く離れる事を伝えた時のお前の反応を見るのが怖かった。」
「そんなの!さびしいに、きまってます。」
「そうだな。お前はいつも俺との時間を得難く思ってくれているのに、俺はそれを疑ってしまった。だから、悪かった。黙っていてすまない、アステル。」
「...ほんとうに、にかげつもいっちゃうんですか?」
「ああ、行く。」
兄様の声ははっきりしていて、その意思は固かった。
それは、兄様が魔法の覚醒を待ち望んでいるからで、その理由は僕を守るためなのだからこれ以上強く止めることは躊躇われた。
「...けがは、しないようにしてください。」
「分かった。無傷で帰ってこよう。」
「ちゃんとごはんをたべてください。」
「それはアステルもな。」
「はい!」
そうして兄様は次の日の早朝、父の腕の中でまだ眠い目を擦る僕を一度抱きしめてから二人の御者を伴って家を出た。
馬車の先に見える朝日が、兄様の道程を明るく照らしていた。
▼
「おかあさま。にいさまいつかえってきますか?」
「そうねえ...家を出たのが3日前だから、まだまだかかるわねぇ。」
「おとーさま。にいさまはいつかえってきますか?」
「一番早くてあと58回寝たら、だな。」
「...ねぇ、しゅな。にいさまいつかえってくる?」
「アステル様が楽しく過ごしていたらあっという間ですよ!」
「...えいんつしゃん、にいさまはいつかえってきましゅか?」
「アステル様...。」
「アステル、昨日も同じことを聞いただろう。あまり皆を困らせてはいけないぞ。」
ひょいと父に抱き上げられる。
兄様に抱っこされるより高い視線で見る見慣れた家の一室は、兄様がいないだけでとても広く感じた。
「...ごめん、なしゃい...。」
父に注意されてしまって、落ち込んでいた気分がさらに下がる。
3日前に兄様がこの家を出た時から、僕は毎日周りの人に「兄様はいつ帰ってくるの」と同じ質問を繰り返していた。
そして昨日までは皆励ますように答えてくれていたのが、こうも連日続くと段々と困った顔になってきてしまっている。
でも、この家のどこにも兄様がいないんだと思うと、不安でたまらなくてつい聞いてしまうのだ。
僕の兄様はいつ帰ってくるの、って。
「...うぅ...。」
「っ!?アステル!す、すまない!怒っているわけではないんだ!ああ、泣かないでくれアステル...。」
目に水の膜を張り始めた僕を見た父は焦って僕の涙を拭った。
おろおろとしている父を見ていると、段々とわがままを言っている自分が申し訳なくなってくる。兄様は頑張っているのにこうして周りに迷惑しかかけられない自分が情けない。
それでも父は涙が止まらない僕を抱きしめる力を強めて「大丈夫だ。絶対に帰ってくるのだから、安心して待てば良い。」と慰めてくれる。
そんな僕たちを微笑ましそうに見ていた母は、僕の目に溜まった涙を拭いながらこう言った。
「アステル、じゃあこういうのはどうかしら。...イーゼルに、手紙を書いてみない?」
「に、しゃまに...?」
「ええ。以前イーゼルの誕生日にも文字を書いたでしょう?アステルの字の練習にもなるし、手紙の返事を待つというのはとってもワクワクする事なのよ。」
「それは良い。アステル、手紙はいいぞ!相手の想いがずっと形に残るんだ。私もフェルアーノから貰った手紙はどんなに些細なものでも全て保管してある。」
「私もですわ。ね、アステル。寂しいのなら寂しいと、イーゼルに直接伝えてみない?」
「おてがみ...。」
「きっとイーゼルなら返事を書いてくれるわ。」
「にぃさまの...おてがみ...!」
兄様から手紙はまだ貰ったことない!
兄様はどんな字でどんな言葉を使って手紙を書くのだろう。きっととても綺麗な字に違いない。だって兄様はとっても頭が良くてかっこいい兄様だからだ。
「かく!ぼく、てがみかく!もじいっぱいかくぅ!」
父の腕の中でじたばたして早く早くと急かす。
かくして、僕と兄様の文通が始まろうとしていた。
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