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出会い
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視界がぼやけて何も見えない中で虎くんに向かって必死に手を伸ばす。しかし、その距離は全く縮まらない。
「ぁっ...あぁっ...!!」
どうして。
どうして、こんな酷いことをするんだ。
僕には虎くんしか居なかったのに。
なんでも持てる人間とは違って、僕にはこの子しかそばに居てくれる子は居なかったのに。
僕の、全てなのに。
「くそ!暴れんなよ!!」
「ちっ、おい!!黙れ!!!」
ばしん!と顔に衝撃がある。
そこで初めて自分が泣いてる事に気づいた。
「ぁ、ああ、ああぁぁあ...!!」
痛い痛い痛い痛い!!!
虎くんの苦しみが頭に流れ込んでくるようだった。
「だから黙れって!!!」
「ぅぐっ...。」
お腹に強い衝撃が加わり、手も離されて地面に倒れる。ゲホッとなにか液体を吐き出した。
「クソ!!最悪だわマジで!!」
ガンっと衝撃があり、体が地面を転がる。
虎くんが遠くなる。
お腹が痛くて、声も出なかった。
「っ!?おい!あれ貴族の馬車じゃね!?」
「は!?」
「クソ!!逃げるぞ!!!獣人といたら巻き添えくらう!!」
バタバタと足音が遠ざかる。
ずりずりと、激痛を訴える体を引きずって、なんとか虎くんの元まで行き、二つになってしまった体を抱き寄せる。
「ぉ、ぇ、んぇっ...おぇ、んぇ...うぅっ...!」
ごめん、ごめんね。虎くん。ごめんね。痛かったよね。怖かったよね。ごめん、ごめん。ごめん。
僕が、守るって言ったのに。
僕は、君の友達なのに。
「う゛...うぅっ...!」
何もできなくて、ごめんね。
体が指の先から冷えていくのを感じる。
呼吸も浅くなる。
きっと今目を閉じたら、二度と目覚めないだろう。
ああ。
ああ。
結局こんな死に方なのか。
獣人は。
なんで、あんなに必死に生きてたんだろう。
▼
貴族には特殊能力を持つものがいる。いや、能力者だから貴族なのだ。
その中でも最上位の地位である公爵家の当主を務める私は、生まれた頃から優れた能力を持っていた。
それが、卓越した耳の良さだった。
ただ離れた距離の人間の声が聞こえると言う程度では無い。
いくつ壁を隔てようと、台風や大雨など、どれだけ雑音があろうと、特定の音を聞くことができるのだ。人はこれを『神の耳』と呼んだ。
私はこの耳で常に貴族以外が暮らす下町の音を聞いていた。
___ある一人の獣人を求めて。
しかし聞こえるのは、ただの人間の話し声ばかり。獣人は隠れて生活することが多いため、声を出すことがそもそもなく、足音もあまり立てない。
だから頼りになるのが人間の“噂話”だった。
やれどこで獣人を見ただの、やれ獣人が居たぞだの声があがれば秘密裏に出かけ、その周辺を探すのだが、危機察知の早い獣人はすぐにその場からは逃げ出してしまって出会えなかった。そんな日々を何年も続けてきた。絶対に見つけるという揺るがない思いがあったからだ。
しかし、今日はなんと私が長い間探していた、その子本人の「声」がしたのだ。とても痛々しい声だったけれど、やっと本人にたどり着く手掛かりだと思ってすぐにその場へ駆けつけたがやはり一歩遅く、その子は逃げ出した後だった。
その場にいた人間に話を聞けばなんと尻尾を掴み上げたと言うではないか。
...あの子の、尻尾を。
その痛々しい姿を想像し、あの苦痛に歪んだ鳴き声を思い出すと目の前が真っ赤になる。その怒りのまますぐにその人間を牢屋にぶち込んでおくよう命令した。「何故ですか!!」と人間は宣ったが、“私の子”を傷つけたのだから当然だ。
まだ捕まえて私に受け渡していたのなら、傷つけていても許してやったが、傷つけた上に逃したとなれば救いようが無い。
その日は、まだ近くにあの子がいるかもしれないと思い、公爵家の人間を引き連れて捜索にあたった。
今日を逃したらもう次はない、という嫌な予感がしたのだ。
そして、その予感は当たる。
「公爵様!居ました!」
また「あの子」の声がして、その声が聞こえた場所の近くに止めた馬車から降りて辺りを探していると、秘書のウェーゲルが声を上げた。
急いでそちらへ向かうと、そこにはうつ伏せに倒れる獣人が一人居た。片頬は真っ赤に腫れていて、手足は関節が浮き出るほど細かった。
かつて見たことのある、赤い耳と尻尾をした獣人だ。
やっと、見つけた。
すぐに駆け寄ってまずは脈を取る。とくんとくんと、微かにまだ心臓は動いているようだが、ほぼ消えかかって居た。死の瀬戸際である。
「っ医者を呼べ!!」
すぐにその子を抱え上げ、馬車へ向かう。医者を用意するために騎士の一人が先に馬で駆けて行った。私が子供を抱えて馬車に乗り込み、続けてウェーゲルも乗り込んでから馬車は出発した。
「息はあるようだが、あまりに危険だ。」
「血を吐いたようですね。内臓が傷ついているかもしれません。」
「頬も腫れている。...誰かが、殴ったんだ。」
「必ず見つけ、昼間の人間と同じように処分します。」
「ああ。」
昼間の、と言えばこの子の尻尾を掴み上げた人間だ。今はもうすでに牢屋で冷たくなっているだろう。
腕の中でピクリとも動かないその子の頭には獣の耳が、そして腰から細く長い尻尾が伸びて居た。初めてこんなにも至近距離で獣人を見たが、ずっと待ち望んでいた相手だとこんなにも可愛いものなのかと驚く。
友人の貴族にも何人か、獣人を囲ってる奴がいるが、奴らの惚気はいつも話半分に聞いて居た。
しかしこれは...あれほど骨抜きになるのも分かる気がする。
「着きました。医者は寝室に。」
「ああ。」
「ぁっ...あぁっ...!!」
どうして。
どうして、こんな酷いことをするんだ。
僕には虎くんしか居なかったのに。
なんでも持てる人間とは違って、僕にはこの子しかそばに居てくれる子は居なかったのに。
僕の、全てなのに。
「くそ!暴れんなよ!!」
「ちっ、おい!!黙れ!!!」
ばしん!と顔に衝撃がある。
そこで初めて自分が泣いてる事に気づいた。
「ぁ、ああ、ああぁぁあ...!!」
痛い痛い痛い痛い!!!
虎くんの苦しみが頭に流れ込んでくるようだった。
「だから黙れって!!!」
「ぅぐっ...。」
お腹に強い衝撃が加わり、手も離されて地面に倒れる。ゲホッとなにか液体を吐き出した。
「クソ!!最悪だわマジで!!」
ガンっと衝撃があり、体が地面を転がる。
虎くんが遠くなる。
お腹が痛くて、声も出なかった。
「っ!?おい!あれ貴族の馬車じゃね!?」
「は!?」
「クソ!!逃げるぞ!!!獣人といたら巻き添えくらう!!」
バタバタと足音が遠ざかる。
ずりずりと、激痛を訴える体を引きずって、なんとか虎くんの元まで行き、二つになってしまった体を抱き寄せる。
「ぉ、ぇ、んぇっ...おぇ、んぇ...うぅっ...!」
ごめん、ごめんね。虎くん。ごめんね。痛かったよね。怖かったよね。ごめん、ごめん。ごめん。
僕が、守るって言ったのに。
僕は、君の友達なのに。
「う゛...うぅっ...!」
何もできなくて、ごめんね。
体が指の先から冷えていくのを感じる。
呼吸も浅くなる。
きっと今目を閉じたら、二度と目覚めないだろう。
ああ。
ああ。
結局こんな死に方なのか。
獣人は。
なんで、あんなに必死に生きてたんだろう。
▼
貴族には特殊能力を持つものがいる。いや、能力者だから貴族なのだ。
その中でも最上位の地位である公爵家の当主を務める私は、生まれた頃から優れた能力を持っていた。
それが、卓越した耳の良さだった。
ただ離れた距離の人間の声が聞こえると言う程度では無い。
いくつ壁を隔てようと、台風や大雨など、どれだけ雑音があろうと、特定の音を聞くことができるのだ。人はこれを『神の耳』と呼んだ。
私はこの耳で常に貴族以外が暮らす下町の音を聞いていた。
___ある一人の獣人を求めて。
しかし聞こえるのは、ただの人間の話し声ばかり。獣人は隠れて生活することが多いため、声を出すことがそもそもなく、足音もあまり立てない。
だから頼りになるのが人間の“噂話”だった。
やれどこで獣人を見ただの、やれ獣人が居たぞだの声があがれば秘密裏に出かけ、その周辺を探すのだが、危機察知の早い獣人はすぐにその場からは逃げ出してしまって出会えなかった。そんな日々を何年も続けてきた。絶対に見つけるという揺るがない思いがあったからだ。
しかし、今日はなんと私が長い間探していた、その子本人の「声」がしたのだ。とても痛々しい声だったけれど、やっと本人にたどり着く手掛かりだと思ってすぐにその場へ駆けつけたがやはり一歩遅く、その子は逃げ出した後だった。
その場にいた人間に話を聞けばなんと尻尾を掴み上げたと言うではないか。
...あの子の、尻尾を。
その痛々しい姿を想像し、あの苦痛に歪んだ鳴き声を思い出すと目の前が真っ赤になる。その怒りのまますぐにその人間を牢屋にぶち込んでおくよう命令した。「何故ですか!!」と人間は宣ったが、“私の子”を傷つけたのだから当然だ。
まだ捕まえて私に受け渡していたのなら、傷つけていても許してやったが、傷つけた上に逃したとなれば救いようが無い。
その日は、まだ近くにあの子がいるかもしれないと思い、公爵家の人間を引き連れて捜索にあたった。
今日を逃したらもう次はない、という嫌な予感がしたのだ。
そして、その予感は当たる。
「公爵様!居ました!」
また「あの子」の声がして、その声が聞こえた場所の近くに止めた馬車から降りて辺りを探していると、秘書のウェーゲルが声を上げた。
急いでそちらへ向かうと、そこにはうつ伏せに倒れる獣人が一人居た。片頬は真っ赤に腫れていて、手足は関節が浮き出るほど細かった。
かつて見たことのある、赤い耳と尻尾をした獣人だ。
やっと、見つけた。
すぐに駆け寄ってまずは脈を取る。とくんとくんと、微かにまだ心臓は動いているようだが、ほぼ消えかかって居た。死の瀬戸際である。
「っ医者を呼べ!!」
すぐにその子を抱え上げ、馬車へ向かう。医者を用意するために騎士の一人が先に馬で駆けて行った。私が子供を抱えて馬車に乗り込み、続けてウェーゲルも乗り込んでから馬車は出発した。
「息はあるようだが、あまりに危険だ。」
「血を吐いたようですね。内臓が傷ついているかもしれません。」
「頬も腫れている。...誰かが、殴ったんだ。」
「必ず見つけ、昼間の人間と同じように処分します。」
「ああ。」
昼間の、と言えばこの子の尻尾を掴み上げた人間だ。今はもうすでに牢屋で冷たくなっているだろう。
腕の中でピクリとも動かないその子の頭には獣の耳が、そして腰から細く長い尻尾が伸びて居た。初めてこんなにも至近距離で獣人を見たが、ずっと待ち望んでいた相手だとこんなにも可愛いものなのかと驚く。
友人の貴族にも何人か、獣人を囲ってる奴がいるが、奴らの惚気はいつも話半分に聞いて居た。
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「着きました。医者は寝室に。」
「ああ。」
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